第25話 ハンス生還、そして国王陛下より賞賛される
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それでも、二週間の行軍で大きなトラブルもなく、乗り越えられたのはレニエ大尉の指導力に依る所が大きい。それに、マクシミリアンの蛮行も、村人達には申し訳ないが、ある意味で役には立っていた。最初は尊大だった魔導士らも、蛮行を聞き及ぶや眉をひそめ、いつしかレニエに敬意を示すようになっていたのだから…。
そして。
「最後のワインだ、チーズとパンを溶かして、盛大に食おうぜ」
アイゼンガルト砦まであと半日。
残り少なくなった糧食の全てを全員で分け合った。あとは、本当に賭けだった。
全員が覚悟を決めていた。もし、誰もいなければ…。
だが、レニエと、そしてハンスらは賭けに勝ったのだ。
まさに昨日、威風堂々とフィヨルド王国軍がアイゼンガルト砦に入城したばかりであったのだから。
「ふぃ、どうにか生き延びれそうだぜ!」
「ああ…とはいえだ。ハンス、伝手はないか?」
「だったら…」
「ハンス上等兵、いや違う、ハンス伍長か! て、てっきり俺はもうくたばっちまったかと…」
フィヨルド軍第三輜重隊のサラトガ軍曹である。
ハンスの元上司であった。
「ど、どうにか…。レニエ大尉のおかげで…」
「感謝するぜ、大尉! うちのひょっこを守ってくれてよ」
サラトガ軍曹が頭を下げた。珍しいな、とは言わない。
「いや、こっちこそ助かったぜ。軍曹、優秀な奴を派遣してくれて感謝する」
「そうですかい…? ならいいんだが…。あ、そうだ。触れが出てましてね。シルバのやつを見たら声をかけろと」
「触れ…が?」
「ええ、なんでも『看板一つで敵を撹乱したシルバの智者を見つけたら報告しろ』ってぇことで」
そこでレニエとハンスが顔を見合わせた。
「それなら、まさしくこのハンスだぜ。シルバじゃねぇ、貴国の智者だ」
「ええ!?」
そこでサラトガ軍曹、口をぱくぱくとさせたのだった。
ど、どうしてこんなことに…?
ハンスはかなり混乱していた。咄嗟にレニエ大尉に同行を求めるほどに。
なんと、国王自ら、ハンスに会いたいと言ってきたのである。レニエも最初は嫌がったが、ハンスが余りにもせがむのでやむなく謁見に同席したのであった。
砦のホールに入った瞬間、将校が勢揃いしているのを見てますます血の気が引く。ど、どうしよう…。隣を見ると、レニエ大尉が(あの豪胆で冷静な!)脂汗を額に浮かべる始末。ふ、フランソワなら、きっと堂々とできるのだろうけれど…。も、もしくはアルフォンスでもいてくれれば…。今は離れた友を思う。
「ハンス・ベルクではないか」
聞き慣れた、威厳のある声。顔を上げると、ヨハン辺境伯であった。
「お、お久しぶり…です」
そう言うのが精一杯。ふっ、とヨハンが笑みを浮かべた。
「陛下、この者は我がフェンリル・ベルクの郷紳家、ハンス・ベルクと申します。智者が我が国の者であった事は歓喜に耐えませぬが、ハンス・ベルクであれば納得にございます。彼はアリア国は王立学院に進学し、優れた学業を収めておる故」
い、言い過ぎ…、とも言えず、ただ首を垂れる他ない。
「なんと! まさか智者とは我が民であったのか! これほど喜ばしい事はあるまい、ハンスとやら、表をあげい」
「は、はい…!」
「貴殿の策、心より感謝するぞ! 貴殿のおかげで失わずに済んだ命は多い。こうして、敗軍にも関わらず軍を維持できているのも貴殿の一助があったからこそ。ハンス、何か褒美を授けよう。朕の名において、できうることはしよう」
「ほ、褒美…」
ど、どうしよう…何も思いつかないけれど…。そ、そうだ…!
「お、恐れながら申し上げます、陛下。わ、私たちは撤退の中で幾つかの村を訪ねましたが、ど、どうもマクシミリアンなる者が略奪を行ったようで…ど、どうかその村々へ、冬を越す食糧をお恵み頂きたく…!」
「なんだと! それは誠か!?」
「お、恐れながら、発言の許可を頂戴したく!」
上擦った声で叫んだのはレニエであった。
「良いぞ、述べるが良い」
「せ、拙者…わ、私はシルバ第一輜重隊のレニエと申します、只今ハンスの述べたことは事実にございます。わ、我らシルバの恥、貴国の民の平穏を損なったこと、誠に申し訳ございませぬ! いちシルバ国民としてお詫び申し上げる次第にて!」
「むう、マクシミリアンめ、そこまで堕ちるとは…許すまじ。クリストフ!」
「こちらに」
「お主の騎兵であれば、村々を回っても予定通りクルスクへ戻れるであろう?」
「御意にございます。早速出立の許可を」
「うむ、許可する! 国王の名代として、くれぐれも民を安撫するのだ」
「はっ!」
「ハンスとやら」
「は、はい!」
「よくぞ申してくれた! 貴殿のような忠義の若者がいること、これこそ我が誇りよ。褒美は別に取らせよう。ご苦労であった、ハンス!」
「は、ははー!」
レニエと平伏して、謁見の間を出る。
レニエは大きく息を吐いて、こう言った。
「今回の遠征で、一番しんどい戦いだったぜ」
そして、その二週間後。
12月下旬のクルスク城にて、王らを迎え入れるものがいた。
「お初にお目にかかり、光栄に存じますわ」
リデル商会のベアトリスであった。




