第19話 公爵令嬢、10万本の製造計画と豚骨スープを立案する
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11月中旬、アリア王宮
久しぶりに復活したわね、モノローグが。一旦状況を整理しましょう。
私たちが瓶詰を開発したのは先週、11月の上旬よ。今日はそれをビアンカに持ってきたの。ついでに試食もしてもらう予定。
で、あとは輸送手段なのだけれど…。
「僕の姉なら、シルバにもフィヨルドにも顔が効くはずだよ」
とはアルフォンスの弁。王都アリアを拠点に、大陸中を回る女傑らしいわ。ベアトリスという方で、実家から独立されて『リデル商会』という卸売業を営んでいるらしいの。
並行して、例のカシオペア作戦に合わせた海上輸送も実施予定よ。
ただ、最大の問題はそこではなくて。
「生産が間に合わない?」
率直にビアンカに申し上げたわ。
「そうなの。王立学院の厨房と、ニコラスの蒸気真空締めで対応しているのだけれど、一日に数本しか作れなくて」
空き瓶も調理工程も足りないの。
そもそもリンダの厚意で作ってもらっているけれど、彼女の本職って学食のメイドですから。
「そうね…」
ビアンカが思考。
「一旦、時系列を整理しましょうか。グルンクルスの会戦は来週か再来週で…その後ヨハン辺境伯との接触…これは王都クルスクになるわね。今からだと陸路しか間に合わないのだけれど」
「私も陸路で考えているわ。人づてで『リデル商会』に依頼できそうなの」
「リデル商会…聞いたことがあるわ。確かに、シルバでもフィヨルドでも、大きく商売をしているはずよね。と、なると…」
再び沈思。
こういう時のビアンカは邪魔したらダメなのよ。
「うん、いけそうね。枢密院を招集するわ!」
「手順を考えたわ。検討してくれるかしら?」
枢密院よ。
今度はちゃんと令嬢っぽい恰好で参加できたわ。前回はメイド服だったからね。
ビアンカの発表は以下の通り。
・11月下旬 グルンクルス会戦(予定)
リデル商会、王都アリア出発
第三艦隊、エヴェイユ出航
・12月下旬 フィヨルド王国軍、王都クルスクへ撤退
リデル商会、王都クルスクへ瓶詰を納品
& アルプミティ外務卿より亡命作戦説明
・1月中旬 フィヨルド王家、フェンリル・ベルク移動
・1月下旬 第三艦隊、フェンリル・ベルク沖到達。
・2月頭 カシオペア作戦決行
どうかしら、と閣僚を見渡す。悪くないですな、とロックバード軍務卿。
「第三艦隊の移動がタイトですが、どうにか」
「ただ、最大の懸念があるの。フランソワから説明してもらうわ」
「改めまして、フランソワです。瓶詰は完成しましたので、お持ちしましたわ。後程ご試食頂きたく。ちなみに、こちらは二週間前に詰めたものになります」
「ほっほ、魔法の瓶じゃの。これは楽しみじゃ」
「ただ、問題がありまして。現状の設備だと、増産が間に合いません」
「フランソワ嬢、どのくらいを想定されてまして?」
カールスルー財務卿よ。
「まずは瓶詰の説明ですが、こちらは濃縮したブイヨンスープが入っています。水で溶かして、軍用の干し肉と固いパン、それから豆類と煮込んで食べてもらうことを想定していますわ。ひと瓶でそうですわね、5~6人前くらいになるかと。壊血病予防にもなるはずですから、第三艦隊にも支給させて頂きたいわ」
「あら、大変ね。10万瓶くらい必要だわ」
とんでもない数ね!?
「ほっほ…困ったのお、瓶の生産が間に合わんわ」
アキテーヌ内務卿、目が笑ってないわ。本気で困ってるわね。
「それだけの糧食もね。んー、アレ、試してみる?」
「アレ、と申しますと?」
「東洋だと、豚骨をスープにするらしいのよね」
「と、豚骨…ですか?」
カタルーニャ法務卿が絶句したわ。そうよね、スープと言えばブイヨン、ブイヨンと言えば鶏ガラだもの。
「ほっほ、おもしろいのぉ。豚骨なら確かに、そこら中に余っとるわ」
お、美味しいのかしら…? 鳥が美味しいなら、豚でも大丈夫な気はするけれど。
「ともかく、作ってみましょ。まずは…そうね、フランソワのブイヨンの試食から!」
ブイヨンの試食は高評価だったわ。ブイヨンは。
問題の豚骨だけれど…。
「厨房から悲鳴が上がったわ」
どうして。
「なんか…臭いって」
ビアンカに連れられて厨房へ。うげ、なにこれ。確かにめちゃくちゃ臭いわね! 野性味というのか、なんというのか…独特の…とにかく臭いわ!
「あ、あの…ビアンカ皇王…完全に白濁したスープになりましたが…」
料理長が困惑してる。ちょっと同情するわ…。
「とりあえず、飲んでみましょうか」
「お、お勧めはしませんぞ!」
と、料理長は止めたのだけれど。
ここはアレね。いつもの名言よね。
「科学に犠牲はつきもの!」
…別に私、ゲテモノ食いじゃないからね?
なのだけれど。
「おいしい! すごい、コクとうま味が最高よ、ビアンカ、食べてみて!」
ちょっと…いいえ、かなり臭いけど!
「頂くわ! …あら、ホントに美味しい」
そんな馬鹿な、と料理長も一口。
「な、なんと…」
どうして膝から崩れ落ちるのよ。
「わ、私はまだ未熟だった…」
あ、そういう事。
ちなみに、料理長の提案で生姜とセージ、それからローリエが追加されたの。
臭み消し用よ。
ちなみに、ダバァとお酢を入れたら匂いが若干マシになったわ。
それ以上に酢味が勝っていたけど。
「ともかく、ベースは手に入ったわ! あとは野菜と、瓶なのだけれど」
「アレがあるでしょ、アレが」
「アレ?」
ビアンカの提案は単純明快だったわ。
そうよね、私ってば『食事を入れるのはジャム瓶』と言う固定概念があったのだけれど。
「ワイン瓶なら確かに、そこら中に余ってるわ!」
お野菜をくったくたに、溶けるくらいまで煮込んじゃえばワイン瓶でも充分、ってこと。
これでロジスティクスが完成したわ!
あとはお野菜は…ごめんなさい、少し高騰したの、多分私のせい! 軍用の保存庫とくず野菜もかき集めたのだけれど、ちょーっと足りなかったの!




