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第19話 公爵令嬢、10万本の製造計画と豚骨スープを立案する

第1部&第2部はこちら https://ncode.syosetu.com/s0215k/

11月中旬、アリア王宮


 久しぶりに復活したわね、モノローグが。一旦状況を整理しましょう。

 私たちが瓶詰を開発したのは先週、11月の上旬よ。今日はそれをビアンカに持ってきたの。ついでに試食もしてもらう予定。

 で、あとは輸送手段なのだけれど…。

「僕の姉なら、シルバにもフィヨルドにも顔が効くはずだよ」

 とはアルフォンスの弁。王都アリアを拠点に、大陸中を回る女傑らしいわ。ベアトリスという方で、実家から独立されて『リデル商会』という卸売業を営んでいるらしいの。

 並行して、例のカシオペア作戦に合わせた海上輸送も実施予定よ。


 ただ、最大の問題はそこではなくて。


「生産が間に合わない?」

 率直にビアンカに申し上げたわ。

「そうなの。王立学院の厨房と、ニコラスの蒸気真空締めで対応しているのだけれど、一日に数本しか作れなくて」

 空き瓶も調理工程も足りないの。

 そもそもリンダの厚意で作ってもらっているけれど、彼女の本職って学食のメイドですから。


「そうね…」

 ビアンカが思考。

「一旦、時系列を整理しましょうか。グルンクルスの会戦は来週か再来週で…その後ヨハン辺境伯との接触…これは王都クルスクになるわね。今からだと陸路しか間に合わないのだけれど」

「私も陸路で考えているわ。人づてで『リデル商会』に依頼できそうなの」

「リデル商会…聞いたことがあるわ。確かに、シルバでもフィヨルドでも、大きく商売をしているはずよね。と、なると…」

 再び沈思。

 こういう時のビアンカは邪魔したらダメなのよ。

「うん、いけそうね。枢密院を招集するわ!」


「手順を考えたわ。検討してくれるかしら?」

 枢密院よ。

 今度はちゃんと令嬢っぽい恰好で参加できたわ。前回はメイド服だったからね。

 ビアンカの発表は以下の通り。


・11月下旬 グルンクルス会戦(予定)

      リデル商会、王都アリア出発

      第三艦隊、エヴェイユ出航


・12月下旬 フィヨルド王国軍、王都クルスクへ撤退

      リデル商会、王都クルスクへ瓶詰を納品

      & アルプミティ外務卿より亡命作戦説明


・1月中旬 フィヨルド王家、フェンリル・ベルク移動


・1月下旬 第三艦隊、フェンリル・ベルク沖到達。


・2月頭  カシオペア作戦決行


 どうかしら、と閣僚を見渡す。悪くないですな、とロックバード軍務卿。


「第三艦隊の移動がタイトですが、どうにか」

「ただ、最大の懸念があるの。フランソワから説明してもらうわ」

「改めまして、フランソワです。瓶詰は完成しましたので、お持ちしましたわ。後程ご試食頂きたく。ちなみに、こちらは二週間前に詰めたものになります」

「ほっほ、魔法の瓶じゃの。これは楽しみじゃ」

「ただ、問題がありまして。現状の設備だと、増産が間に合いません」

「フランソワ嬢、どのくらいを想定されてまして?」

 カールスルー財務卿よ。

「まずは瓶詰の説明ですが、こちらは濃縮したブイヨンスープが入っています。水で溶かして、軍用の干し肉と固いパン、それから豆類と煮込んで食べてもらうことを想定していますわ。ひと瓶でそうですわね、5~6人前くらいになるかと。壊血病予防にもなるはずですから、第三艦隊にも支給させて頂きたいわ」

「あら、大変ね。10万瓶くらい必要だわ」

 とんでもない数ね!?

「ほっほ…困ったのお、瓶の生産が間に合わんわ」

 アキテーヌ内務卿、目が笑ってないわ。本気で困ってるわね。

「それだけの糧食もね。んー、アレ、試してみる?」

「アレ、と申しますと?」

「東洋だと、豚骨をスープにするらしいのよね」

「と、豚骨…ですか?」

 カタルーニャ法務卿が絶句したわ。そうよね、スープと言えばブイヨン、ブイヨンと言えば鶏ガラだもの。

「ほっほ、おもしろいのぉ。豚骨なら確かに、そこら中に余っとるわ」

 お、美味しいのかしら…? 鳥が美味しいなら、豚でも大丈夫な気はするけれど。

「ともかく、作ってみましょ。まずは…そうね、フランソワのブイヨンの試食から!」



 ブイヨンの試食は高評価だったわ。ブイヨンは。

 問題の豚骨だけれど…。


「厨房から悲鳴が上がったわ」

 どうして。

「なんか…臭いって」

 ビアンカに連れられて厨房へ。うげ、なにこれ。確かにめちゃくちゃ臭いわね! 野性味というのか、なんというのか…独特の…とにかく臭いわ!


「あ、あの…ビアンカ皇王…完全に白濁したスープになりましたが…」

 料理長が困惑してる。ちょっと同情するわ…。

「とりあえず、飲んでみましょうか」

「お、お勧めはしませんぞ!」

 と、料理長は止めたのだけれど。

 ここはアレね。いつもの名言よね。

「科学に犠牲はつきもの!」

 …別に私、ゲテモノ食いじゃないからね?

 なのだけれど。

「おいしい! すごい、コクとうま味が最高よ、ビアンカ、食べてみて!」

 ちょっと…いいえ、かなり臭いけど!

「頂くわ! …あら、ホントに美味しい」

 そんな馬鹿な、と料理長も一口。

「な、なんと…」

 どうして膝から崩れ落ちるのよ。

「わ、私はまだ未熟だった…」

 あ、そういう事。


 ちなみに、料理長の提案で生姜とセージ、それからローリエが追加されたの。

 臭み消し用よ。

 ちなみに、ダバァとお酢を入れたら匂いが若干マシになったわ。

 それ以上に酢味が勝っていたけど。


「ともかく、ベースは手に入ったわ! あとは野菜と、瓶なのだけれど」

「アレがあるでしょ、アレが」

「アレ?」

 ビアンカの提案は単純明快だったわ。

 そうよね、私ってば『食事を入れるのはジャム瓶』と言う固定概念があったのだけれど。


「ワイン瓶なら確かに、そこら中に余ってるわ!」

 お野菜をくったくたに、溶けるくらいまで煮込んじゃえばワイン瓶でも充分、ってこと。

 これでロジスティクスが完成したわ!

 あとはお野菜は…ごめんなさい、少し高騰したの、多分私のせい! 軍用の保存庫とくず野菜もかき集めたのだけれど、ちょーっと足りなかったの!


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