第18話 公爵令嬢、瓶詰発明! 冷えた体にスープが染みます。
「ですから、申し上げたのに…」
はい、ごめんなさい。食べ物を粗末にしました。はい。
リンダに散々怒られたのだけれど、対処法を教えてくれたわ。
「まず一つは、最初から酢を楽しむ料理にすること」
「お酢を楽しむ?」
「シン帝国にはスアンラータンという、酸味と辛みを楽しむスープがあるそうですわ。作り方はブイヨンとほぼ一緒です。鶏ガラスープにたっぷりの酢と唐辛子を入れるんです。もちろんお野菜も豊富ですわ」
ほうほう。
「10分頂ければ、お作りしますけれど。ブイヨンは作り置きしてますから」
早速作ってもらったわ!
「あ、美味しい」
酸味が心地いいわね。辛みとマリアージュして、いい感じになってる。
「東洋では香草類をあまり使わないようなので、もう少しシンプルな味になるそうですわ。そのままだと味が喧嘩しますので、多めの胡椒で味を整えました」
なるほど。
「もう一つは、調理にひと手間を」
「というと?」
「重曹をひと匙入れればいいんです」
「そういう事でやすか! 酸とアルカリで中和されやすね」
「詳しくは存じませんが…こちらも試しましょうか?」
お願いします。
「食べられる味になったわ!」
「ただ、少し味はボケてしまいますけれど…そもそも、フランソワ様。この瓶詰とやら、どういう調理を想定されています?」
「えっと、軍用で…持ち運びできる感じ…?」
「となると、干し肉などはありますか?」
「どうだろう…?」
このあたりの知識はギリアム先輩の方が詳しいわね。
「もしお肉があるなら、お酢の力で柔らかくなると思いますわ。干し肉と一緒に煮込んで重曹を入れれば、お肉のうま味と混ざってそこそこのスープになると思います」
「それ、いいわね!」
場面代わって、ギリアム先輩。魔導真理学部の三年時は模擬遠征があるみたいで、ここ数日は席を外していたのだけれど、昨日帰ってきたみたいなの。
「や、フランソワ君。実験の結果はどうだい?」
「丁度いいところに、ギリアム先輩! 糧食は余ってらっしゃる?」
「ということは上手く行ったのかな? 折角だし、何人か呼ぼう。皆軍隊食に辟易していたからね」
三人ほど連れだって、学内の野外炊事場へ。てきぱきと炊事の準備をしてくれたわ。魔導真理学部、流石ね…。今からでも遠征に行けちゃいそう。
「それで、どうすればいいかな?」
「まずはこの、酢味ブイヨン真空締めなのですけれど」
「…面白い名前だね?」
はい。
「これと、干し肉と、重曹と、胡椒があればいい感じのスープになるはずですわ」
「では、まずは糧食の説明をしようか」
ギリアム先輩が出したのは
・がちがちの固いパン
・塩の結晶が浮き出してる、ジャーキーと言うには固すぎる干し肉
・乾燥豆類
以上!
「え、これだけ?」
「そ、これだけ。これを…今回の模擬遠征だと三日三晩。長期の遠征でも同じ」
「つ、辛すぎる…」
「私自然哲理学部でよかった~」
「こ、これはワイも辟易やわ」
「へぇ、あたしも遠慮しとくでやす」
「ははは…その通りだね。なのでスープは有難いな。野菜なんてまずお目にかかれないからね」
「略奪が横行するわけですね」
「そうだね。農民が持つ新鮮野菜なんて、兵士らには何よりのご馳走に見えるんじゃないかな。ともかく、水が必要だね。すまないが持ってきてくれないか?」
三人の先輩方がお水を取りに行ってくれたわ。
「ちなみに、お水が無い場合はどうするんですの?」
「水魔導士が重宝される理由だよ。それでも足りない場合は頑張って齧る」
なるほど。
お水が来たから、酢味ブイヨン(野菜とお肉たっぷり!)と混ぜて、干し肉を入れて、重曹を混ぜて(しゅわっ、と泡が立つのよ)、ことこと煮込む。
すると…。
「味うっす」
「塩の塊~。酸味は抜けたけど」
「うーん、改善の余地ありだね」
「姫さま、濃縮したほうがいいでやすね」
「濃縮?」
「せや、前にジャコが言っとったな。煮詰めすぎたスープは水を入れて薄める、とか」
「つまり」
ブイヨンをガンガン煮詰めて、味を濃くして瓶詰めする、ってことね。
「で、戦場でお湯を沸かして、味を整えると」
「干し肉は普段通り、塩落としをした方がいいね。そうすればいい感じのスープになるんじゃないかな? 酸味は疲労に効くというし、これなら豆類とパンも入れて、ふやかして食べられそうだ」
それじゃ、リンダにお願いしましょ!
とまぁ、そんな感じで完成したわけよ。
『野菜たっぷり酢味ブイヨン濃縮スープ』
がね。
…なんだか美味しくなさそうだけど。ちなみにブイヨンからお肉は外したわ。干し肉があるならその分、お野菜を入れたほうが薬効が高そうだからね。
お野菜は下記の通り。
・キャベツ
・ニンジン
・玉ねぎ
・ニンニク
以上よ!
瓶詰の開発者、二コラ・アペールは科学者ではなく食品加工業者だったらしく、瓶詰開発プロセスは史実とは異なります。悪しからず。




