第17話 公爵令嬢、瓶詰を開発す…開発できたけど、新たな問題(重要)
実験結果を発表するわ!
10月の末、予測されているグルンクルスの会戦とやらまであと一月あるかどうか、というところね。この成否が運命を分けるのだけれど。
一応、実験の項目を整理するわ。ちなみに用意したのはリンダ特製のブイヨンスープよ。
確認だけれど、項目は以下の通り。
1何もせず放置
2炭酸を入れて放置
3煮沸して放置
4蓋を閉めて放置
5炭酸+蓋を閉めて放置
6煮沸+蓋を閉めて放置
7炭酸+煮沸して放置
8全部
とりあえず、上から1から3と7は無視して良いかしら。というか。
「…早く捨てましょ、それ」
見事に腐ったわ。わかってたけど! 食べ物で遊んでいるわけじゃないから、勘弁して!
で、蓋をしめたやつだけど…。
「4はアウトやな」
そうね。蓋を閉めるだけで瓶詰め成功してるならとっくに実現してるわ。ポイっと。
「5と6は…」
「捨てれば?」
シオンが食べないくらいだからダメね! なんか匂うし! でも、4よりはマシかしら。見た目は6の方がマシね。炭酸では効果が薄いのかしら?
では、本命の8だけど…。
「見た目は…大丈夫かしら?」
「匂いも…大丈夫そうでやす?」
「わからへんけど…なんかツンとくる感じはあるで」
「科学に犠牲はつきもの!」
「えー」
エラリー、止めないで! これは必要な犠牲なの! …ぐぇっふ!
吐き出したわ! 公爵令嬢が出しちゃいけない声が出たわね!
「だめ、これ絶対ダメなやつ!」
「…全滅やんか」
「へぇ」
「なんでなんで! レモンソーダはうまく行ったのに!」
「たまたまじゃなーい?」
最近エラリーさんが冷たい気がします。はい。
「そういう時は、一度情報を整理するのよ、フランソワさん。はい、ニガヨモギ」
セドリック先生が胃腸薬をくれたわ。たっぷりのお水で飲み下す。ふぇー。
「まずは仮説を立てましょうね。まず密封したものとしなかったもので比較しましょう。明らかに効果が出ているわ。その…ドロドロになってない分」
先生、微妙にフォローになってないです。
「つまり、空気の瘴気をシャットアウトする方法は有効という事です。それでも、悪くなってしまったのはなにか原因があるはずよ。どうしてレモンソーダは大丈夫で、ブイヨンはダメだったのか。さ、みんなで違いをあげていきましょう!」
「にく?」
「うん、シオン君、そういう着眼点も大事よ。水分と固形物で違うのかしら? それとも、果物とお肉? お野菜とは違うのかしら?」
「セドリック先生、酸でねぇです?」
「マルタさん、はなまる!」
ま、マルタに先生のはなまるを取られたわ!
「酸性のもの、例えばお酢には腐りづらくする効果があるようです。古代ロスタルシアの時代から知られた保存法よ。酢漬けはその典型ね」
「シメサバやな」
「梅干しね」
「コメ食べたい」
とっても健康的な食事ね。
「つまり、レモンソーダはレモンの力で酸性になっていた、という事ですね?」
「可能性は高いと思うわ。炭酸よりも酸性の方が効果があるのかも」
「ほんなら先生、砂糖はどないやろ? 塩はあかんって聞いたけど」
「同じででやすね。薬効は消えるでやす」
「そりゃ、砂糖漬けが効くなら誰も壊血病にならないってば」
船に積み込みやすいし、昔からあるわけだし。
「やっぱ瓶詰めか」
「そうね。でも、次の実験が決まったわ」
「まさか、フランソワはん…?」
「酢味ブイヨンよ!」
「…あたし食べないよ?」
「あらあら、お口が酸っぱくなっちゃうそう。でも、そうね、もう一つ試しても良いんじゃないかしら」
「先生、というと?」
「真空瓶詰めよ。何もない、なら瘴気も無いんじゃないかって思って」
「でも、どうやって?」
「それではみなさんに質問です。蒸気機関はどうやって動いているの?」
「それはもちろん、蒸気に水をかけて、体積を減らして一時的な真空を…」
「わかったで! つまり、瓶詰めしてから沸騰させて、軽くコルクを置いて、水で冷やしてピストンみたいに蓋をきゅいっ、と吸い込ませれば良いんやな!」
「ニコラス君にもはなまる!」
えーん、今日に私は絶不調だわ! はなまるを2回も逃すなんて!
ともかく、次の実験よ!
・酢味ブイヨン通常締め
・酢味ブイヨン真空締め
・美味しいブイヨン真空締め
…大丈夫かしらこの小説?
と、いう事で結果発表よ!(2回目)
何もしてないのに一週間が過ぎ去ったわ…暇つぶしに前回の失敗作を真・顕微鏡で見たけど物凄いの、もの凄いのよ! なんか菌というかなんか! 気になったから、作りたてのものとも比較したのだけれど、微小のレベルだったわ。これ、もしかしてこの微小生物が悪さをするんじゃないかしら?
「確かにそういう説はあるわ。まだ立証されていないけれど」
セドリック先生が言うなら間違いないわ。であれば、やることは確定ね。
「食べる前に、顕微鏡チェックをします!」
また公爵令嬢にあるまじき声を上げる訳にはいかないの。公爵令嬢だから!
なのだけれど。
「これ、どうやって開けるの?」
通常締めはコークスクリューで簡単に開栓できたわ。そりゃ開かない訳ないけど。ちなみに密封度を高めるために、全品蜜蠟でコーティングしてます。蜜蝋はナイフで削れば割れるから良いのだけれど、問題は真空締めね。
「くっそ固いやんけ!」
「へぇ…大気圧が邪魔しやすから」
ですよね!?
「それなら、大気を入れてあげればいいのよ」
セドリック先生が細めの針を用意してくれたわ。なるほど。
「少し穴を開けて、大気の通り道を作るんですね?」
「その通り。さ、やってみましょう」
穴を開けたら、ぷしゅ、と小気味のいい音がしたわ。今度はオープナーで無事に開栓できたの。
という事で、真・顕微鏡で観察観察…。うわお!?
「美味しいブイヨンが小生物のコロニーになってるわ!?」
なにこれ、ギザギザのこん棒みたいなやつ! なんだか分からないけれど、ともかく嫌な予感がするわね!
ちなみに酢味ブイヨン通常締めでも、違う種類だけど小生物が大繁殖していたわ!
という事で、正解です。
「酢味ブイヨン真空締めよ!」
こっちは本当に綺麗なままだったわ! まるで出来立てみたい!
「うん、大丈夫そうね。でも、念のため加熱してから食べてみましょう」
はーい。
セドリック先生の言う通りに、お鍋で加熱…いい香りが…するわね…とてもお酢臭い…。
では、試食タイム。
「酸っぱ! 酸っぱい!!!」
「アタシ無理~」
「フランソワはん、ブイヨンがシメサバ味になっとるで」
「へぇ…薬効はありそうでやすが」
「でも食べられるわ!」
「生理学的に食べられるのと、美味しく食べられるのは違うけど?」
エラリーさん、だから最近冷たいってば!
「ど、どうにかする方法はないかしら…?」
「ほな、リンダさんに聞いてみましょか?」
そうね、ここは食の専門家を頼ることにするわ!
現代の瓶詰・缶詰に感謝したい。
史実ではナポレオン時代に二コラ・アペールという人が発明してます。




