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第15話 公爵令嬢、王都での休日を堪能する

 そこから、いくつか補足説明。

 ハンスのためにセドリック特別研究室で『魔法の食料』の研究を進めていること、取引条件の鯨油を手配したいこと、閣僚からの質疑応答、なんかをしていたらすっかり夜になっていたわ。この時間だし、とビアンカの厚意で王宮に泊めてもらって、久しぶりに王宮の大浴場を堪能して! 翌日。


 一度学院に戻ろうかとも思ったけれど、今日は土曜日、明日は日曜日でお休み、という事で、久しぶりに実家に戻ったわ。


 実家というか、シャルロイド公爵家のアリア王都拠点なのだけれど。大抵の貴族が王都と領地、それぞれに邸宅を構えているのよね。政務があるから、普段はどの貴族も王都にいることが多いわ。

 シャルロイド公爵家だけは例外で、公爵であるお父様は基本的にシャルルに常駐しているの。王都の邸宅、俗にいう『ロレッツオ宮』を預かっているのはローランお兄様なのだけれど。


「そういえば、例の件はどうなりまして?」

 カルターニャ法務卿がうまい事言っておく、との事だったのだけれど。

「ああ…よく知らないが、大丈夫になった…らしい?」

 ごめんね、お兄様。流石に可哀そうだから、お兄様孝行しておいたわ。セシルお兄様がぶん投げたらしい仕事のお手伝いとかね。

 その日は法務局でファイリングを手伝っていたら終了。


 次の日、日曜日なのだけれど。

「お嬢様、皇王陛下よりご招待にございます」

 手紙を持ってきたわ。えっと。

『トラットリア・マルコ集合!』

 はーい。



 ロレッツオ宮から徒歩だと二十分ほどかしら。船便もあるけれど、お天気も良いし歩いていくことにするわ。その辺の町娘っぽい恰好でね。護衛? 少なくとも王都でその必要性は感じないわね…慣れすぎたかしら。


 トラットリア・マルコはトラステ地区にあるの。王宮とロレッツオ宮の中間地点にあって、物流の集約地点、王都の繁華街、庶民生活の中心地…と言えばイメージがつくかしら。

 ロレッツオ宮は運河沿いにあるの。『ハイネス運河』と言うのだけれど、セダンテ川から引き込んだ運河で、終着はアリア本島北海岸のエヴェイユ港になるわ。


 つまり、エヴェイユ港で陸揚げされた積み荷は川船に積みかえられて、セダンテ川経由でハイネス運河のロレッツオで降ろされるの。その内、王宮行きのものは全件ロレッツオ宮で検品が入るのよ。その後、馬車に積みかえて王宮へ、というのが基本的な物流の流れ。ここでも『海の管理者』シャルロイド公爵家のお役目、って訳。(そしてお兄様が多忙な理由でもあるわ)


 という事でトラステ地区。日曜日だけあって活気が素晴らしいわ! シャルルの港町、あるいはギルテニアの中央街を凌駕する規模よ。もう私なんかは顔なじみになっちゃっているのだけど…。


「あら、フランちゃん、久しぶりじゃないの! 元気にしてた?」

「わ、お久しぶり! 今からアンとマルコで待ち合わせなの!」

「たまにはウチにも寄りなさいな、おばちゃんサービスしちゃう!」

「そういえば香料を切らしていたの! 後で絶対、寄るからね~」

 え、フランって誰、って? 私の偽名よ。流石にフランソワ・アリエル・ド・シャルロイドなんて名乗れないでしょ、ここじゃ。ちなみにアンはビアンカの偽名ね。この街の人はみんな、二人とも貧乏貴族の長女と次女、って設定を信じているわ。…実は皇王と公爵令嬢、って知ったら泡を吹くんじゃないかしら?


 大通りを一つ挟んだ路地裏、レンガ造りのお洒落なお店。実はデートスポットとしてもちょっと有名なトラットリア(大衆食堂)、これが『トラットリア・マルコ』よ!

「久しぶり!」

 からんからん、とベルを鳴らして店内に入ると…。

「まー、もー、フランちゃんじゃないの! まぁまぁ、見ないうちに美人さんになって! もうおばちゃん感激やわぁ!」

 怒涛の勢いで出てきた小太りの威勢のいい叔母様。ジーナさんよ。

「うちのバカ息子は迷惑かけてないかい?」

「安心して、ジーナおばさま。アレフはいつも頼りになるわ」


 そうなの。この人、アレフの実の母なのよね。つまり、ここはアレフのご実家でもある訳。流石にジーナおばさまと、厨房にかかりきりで無口な職人気質のマルコおじさまは私たちの身分も知っている訳だけれど、気にせず付き合ってくれる、とってもいい人たちなの。

 …そして私とビアンカの令嬢力()を大幅にロストさせた張本人でもあるわ。


「かあさん、いつもそれを聞くのはやめてくれ…」

「アタシはもうちょい頑張ってほしいけど? それよりフラン、こっちよ!」

 あら。お二人はもう来てたみたい。

「ごめん、遅くなって!」

「いいのよ、それより何にする? お腹すいたでしょ?」

「もちろん、ボンゴレビアンコ!」


 もう知ってると思うけれど、私の海鮮好きは遺伝子のなせる業よ。ボロネーゼを心から愛しているビアンカとは対照的よね。ちなみにアレフは伝統的ミートソース派。合わせておつまみをいくつか。ビアンカとアレフは成人済みだからワインも追加。私はオレンジジュース。

「いいのかい、フランちゃん。おばちゃん、黙っておくよ?」

「そうよ、フラン。ちょっと飲んだって大丈夫だって」

「えー、わたしそういうの、キチンとするタイプだし~」

 なんか話し方がエラリーっぽいのは気にしないで頂戴。やめとけよ…って、アレフだけ常識的な反応ね。


「そういえば! あなた結構人気らしいわよ?」

「なんのこと?」

 ボンゴレビアンコを一口。アサリとムール貝のお出汁が相変わらず最高だわ。ちなみに貝の身はちゃんと食べる派よ、私。

「アレフ、持ってる?」

「ああ」

 取り出した紙面を見て、それは驚いたわ! 私がでかでかとイラストになっているんだもの! 『オーロール・クロニクル』誌…。かわら版よね。版元は…シャルルだわ。


「こ、これ何?」

「とりあえず読んでみなさいよ」

 言われて読んでみる。えっと…この前のグランド・ディベートの記事ね。あら。

「あのハンチング帽の人、記者さんだったんだ」

「そうみたいね。アタシも鼻が高いわ! なにしろフランが大活躍だったからね!」

 ちなみにビアンカは「アン」の時の一人称がアタシになるわ。多分こっちが素のビアンカなんだと思う。

「類似の記事をちょこちょこ見かけるようになったから、どの出版社も必死で謎の公爵令嬢を追ってるみたいね。それで、天才科学者フランソワ、とやらは次は何を考えているのかしら?」

「そうね、あくまで噂だけれど…」

 ここは演技に乗ったほうがいいわね。気づいたら満席になってたし。


「食料の長期保存が可能な、魔法の食事を考えているみたいよ」

「干し肉や乾燥野菜とは違うの?」

「それだと薬効が抜けてしまうらしいの。わた…フランソワってのが考えているのは、薬効を保持したまま保存する、という点なのよ。だから…そっか、そうすればいいんだわ!」

「ふふ…どうしたの、フラン。何か気付いたようだけれど?」

「違うわ、アン、あはは…ボンゴレビアンコ、相変わらず最高ね! 早くお酒が飲める年になりたいわ!」


 そうだわ、別に食物を丸ごと瓶詰にする必要なんてなくて。

 野菜と果物類だけ瓶詰めできれば、十分に効果を発揮するんじゃないかしら?


 たとえば、干し肉とお野菜たっぷりのブイヨンスープの瓶詰を掛け合わせて、現地でスープにする、とか。そもそも、成功しているレモンソーダの時点で壊血病対策には十分な訳よね。なんならジャムだっていいじゃない。保存用の固いパンでも、ジャムを付ければ多少は食べれるものになるはずよ。


「やっぱりトラットリア・マルコは最高ね!」

 はやく明日の用事を済ませて、学院に戻らないと!

 ニコラスたち、うまく行っているかしら…?



 その日はお化粧品を眺めて、香料屋を眺めて、と久しぶりのお買い物を堪能したわ! 

 最近はちょこちょこ、東洋の化粧品が入ってきているんだけど、また人気なのよね…。ヘチマ水の化粧液、丁度切れてたから買い足したの。ビアンカは椿油。髪に塗ると艶やかになるのよ。シン帝国よりさらに東の島国、アキツ国では一般的らしいのだけれど。ヘチマなんかは本場の苗をものを輸入して、アリアでも栽培が始まっているわ。流石に化粧水だけを直輸入するのは保存の問題から難しくて。でも、瓶詰が完成したら気楽に本場のものを輸入できるようになるのかしら? 夢が広がるわね!


 なんて具合に散々に堪能して、翌日の午後。

 ロックバード軍務卿に呼ばれたから、王宮へ登城することにしたわ。

アリア皇国ですが、なんとなくイタリアのイメージで書いてます。

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