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第14話 枢密院と公爵令嬢、フェンリル・ベルクを語る

 ちなみにお兄様を撒くポイントはいくつもあるのよ。ふふふ、小さい頃はビアンカと駆け回った王城だもの。裏道側道その他の類はぜーんぶ頭に入っているわ!


 …もしかしてこういうのが私の令嬢力を大幅に下げているのかしら!? 別にどこかの塔の上で20メートル超の髪を振り回してアクロバットしてるわけじゃ無いし、セーフよねセーフ!


 という事で、裏門から王宮へ入城よ。

 門番さん? 顔馴染みよ、何言ってるの。


 ちなみにアリアには王宮が2つあるの。単純に旧王宮と新王宮なんだけど、旧王宮は空に突き出す立派な尖塔が特徴の天守閣で、新王宮は平屋作りのひろーい建物なの。新王宮は百年くらい前かしら? レオナード皇王時代に造られたのよね。いちいち天守の上まで登るのは効率が悪い、というのと、床面積を増やさないと膨大な行政処理が追いつかなかったから。防衛上の理由もあるみたいね。ほら、天守って大砲からしたらいい的だし。幸いにアリアでは300年ほど大きな戦争がないけれど。


 ビアンカが普段いるのはもちろん新王宮よ。旧王宮は物見台代わりになっているみたい。

 さて。予定を確認しないとだけれど…普通に申請したら結構待たされるのよね。その間にローランお兄様に捕まるし。今頼れそうなのは…。

「女官長ね」

 アレフは王宮にいる時は護衛でつきっきりだから、今日みたいに予定が分からない時はリスクが高いのよ。という事で女官室へ。


「あ、ヒルダ女官長!」

 覚えて頂いているかしら? 以前の学院巡幸で給仕してくれた、『ビアンカが珍しく文句を言わない』女官長よ。

 在室で良かったわ。他に顔馴染みが何人か。


「おや、フランソワ様。ビアンカ様ですか?」

「さっすが、話が早い! 今日って空いてる時間、あるかしら?」

 そうですね、とメモ帳を取り出したわ。

「ただいま軍務会議ですので…そうですね、少し遅めのお茶会などは?」

「最高! あ、あと…」

「構いませんよ」

 ありがとう! と伝えて女官室へ。余っているメイド衣装を借りる。

 え、なんでって…。


「ヒルダ殿! フランソワを見なかったか!?」

 ローランお兄様が探しにくるんだもの。

「おや、ローラン様。いいえ、見かけておりませんわ」

「そ、そうか…。見かけたら伝えておいてくれ! 火急の用でローランが探していたと!」

 でしょ?



 匿ってもらっている間に何もしないのは申し訳ないから、洗い物とお掃除を手伝ったわ。馬子にも衣装(用法が違うけど)、木を隠すなら森の中、という感じで、メイド服に三角巾で顔を隠すだけであら不思議、誰も気づかないのよね。

「フランソワ様」

「はーい」

 新人メイドっぽく、ヒルダの後についていく。ティーワゴンは私が押してるの。こっちの方がバレないでしょ。そのまま、誰にも呼び止められずにビアンカの私室へ。

「なぁに? 面白いネタ?」

「ネタというか、お願いにきたわ」

 三角巾を取る。

 ビアンカにはバレバレだけどね。



「鯨油を?」

「そうなの。ほら、グランド・ディベートで使った蛍石、フェンリル・ベルクの灯台修理と引き換えに手に入れたやつで…」

「ちょっと待って!?」

 ビアンカが、がたんと腰を浮かせたわ。あれ? 不法入国くらい、ビアンカは気にしないと思うのだけど。

「あなた、フェンリルベルクに行ったの!? だ、誰と交渉を!?」

「え、ヨハン辺境伯…」

「ヒルダ!」

「承知しました。ロックバード卿で?」

「今いる人全員!」

 な、なになにどうしたの!?


 ビアンカ自ら別室に案内してくれたわ。私も入室したことがない、数少ない場所よ。ここは確か…枢密院じゃないの!? え、もしかして軍法会議? そんなに不味かった? 


 ビアンカがニッコニコだから、多分違うと思うけど。

 …ところでメイド服のまま入って良いのかしら?

 サービスシーンってことにしといておきましょ。


 入室すると…わ、ホントに枢密院だ。五大閣僚が勢ぞろい。政治は詳しくないのだけれど、流石に一般常識として知ってるレベルの人たちだわ。き、緊張するわね…。


「みんな! 懸案が解決しそうよ!」

 ビアンカに隣を勧められたのだけれど、いいのかしら? ここ上座なんだけど…。相変わらずメイド服だし。なんだか居心地がわるくてお尻がむずむずするわ。ところで懸案って何かしら? 私は何も聞いてないけど。


「なんとフランソワにフェンリル・ベルク辺境伯との伝手があるらしいのよ! なので亡命作戦を変更するわ! 陸路から海路よ!」

 はい? 亡命作戦!? なんのこと!? そもそもこれって私が聞いて良いやつ?


「ビアンカ皇王、お言葉ですが」

 ロックバード卿は流石よね。アレフの義父だから何度かお話ししたことがあるわ。ビアンカのスピードに冷静でいられるだけで相当よ。

「真冬の北大洋は自ら死にに行くようなもの。とても越えられませんぞ」

「だからこそのフランソワよ」

 私? これ、発言は許可されるのかしら。とりあえず指名があるまで黙っていた方がいいわよね。今の私、どう見ても新人メイドだもの。


「フランソワ、フェンリル・ベルクにはどう行ったの?」

「ビアンカ皇王様のご指名に預かり、僭越ながら発言の許可を賜りましたこと、深く感謝申し上げますわ。ご紹介に預かりました、シャルロイド公爵家は…」

「フランソワ、ここでは普通に話していいのよ」

「え、そうなの? それでは…我が兄、セシル率いるノイエ・エーテル号ですわ」


 ロックバード軍務卿が頭を抱えたわ。カタルーニャ法務卿も天を仰いだわね。ちなみにローランお兄様の上司よ。名前だけは知ってるわ。

「フランソワ嬢の噂は耳にしていたが、これはこれは。流石シャルロイド公爵家…」

 アルプミティ外務卿、それはどういう意味かしら?


「ほっほ、若いもんは威勢がええのう。で、フランソワ嬢はなぜフェンリル・ベルクへ?」

 アキテーヌ内務卿に聞かれたので、事のいきさつを話したわ。グランド・ディベートで使う顕微鏡のレンズの素材を取りにフェンリル・ベルクへ向かったってね。ついでに灯台修理をしたことも。


「うふ。まるで皇王様の海賊退治みたいな大冒険じゃありませんの。将来が楽しみですわ」

 カールスルー財務卿、それはお褒めに預かった、という事でいいのかしら?

「ところでフランソワ、ノイエ・エーテル号には他に乗組員はいなかった? バルトロメとその手下ども以外に」

「二人いたわ。バルタザールさんと、ヨネスさん…これは言ってもいいのかしら?」

「むしろその件よ。バルタザール、測量はしていたかしら?」

「フェンリル・ベルクに到着した後は一週間ほど、お兄様と別行動だったの。おそらく…測量はしていたと思うけれど」

「海流の調査は?」

「ヨネスさん? ごめん、そこは分からないわ」

「でも、一週間は別行動だったのね?」

「ええ。沿岸調査だと思ったから、特に聞いていないわ。軍事機密だろうし」

「素晴らしい判断だわ、フランソワ。ロックバード卿、セシルはいつ戻るのかしら? 前回の定時報告はグランド・ディベートで延期しちゃったのよね」

「三日後の予定ですな。週明けになります」

「丁度いいわ。そこで有益な情報があると良いのだけれど…。ところでフランソワ、フェンリル・ベルクはどんな土地だったの?」

「まずは聞いている通り、断崖絶壁の『魔の海域』よ。難破船がそこら中に打ち上がっていたわ。普通の船舶じゃまず近寄れないわね。私たちはセシルお兄様の無抵抗航行で難なく上陸はできたけれど、それでも接岸できる場所がなくて、ボートで上陸したわ。そこからはガレ場を登って、途中の崖をよじ登ってようやく上陸。上陸さえしてしまえば、比較的平坦なのだけれど、少なくとも真夏の上陸はお勧めしないわ。霧だらけで100メートル先が見えないんだもの。軍の展開には不向きね」


「…ビアンカ皇王」

 ロックバード卿だわ。

「皇王は、なにかその…今回の作戦についてフランソワ嬢にご説明を?」

「いいえ。でも、何も驚くことは無いわ。フランソワはそういう子だもの」

 へへん!

「いやはや…これは末恐ろしい…」

 続けていいかしら?


「ただ、土地は痩せて、日光も少ない場所よ。主要産物は蕎麦と大麦。漁業は盛んじゃないわ。あの断崖絶壁から漁船を出すのは一苦労だろうし…。それに、白夜、というのを耳にしたことがあるけれど、体感すると違和感の塊ね。21時を越えてもまだ明るいんだもの。恐らく冬場は昼間でも真っ暗なんじゃないかしら。それに、夏場でもとっても寒いの。真冬の防寒着を着てどうにか、という感じで。あの場所で冬場の決戦となれば、まず第一に兵の士気、常に夜襲状態、そして栄養価が心配ね」


「…ところでフランソワ?」

 ビアンカが首を傾げたわ。

「もしかして、フィヨルド内乱について知ってる?」

「ええ、知ってるわ。そもそも私たちが訪れた時点でどの工房も大増産していたもの。バルトロメの見立て通り、戦争が始まったのよね。あと、折角だから個人的なお願いをもう一つ、したいんだけど…」

 ビアンカの顔を真っすぐに見たわ。


「私の友人、ハンス・ベルクを助けたいの」

久しぶりに真面目回。久しぶりとは。

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