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第13話 この作品は公爵令嬢()モノです。はい。

「ど、どうしたんですの、いきなり来るなんて」

「いやなに、ちょっと…ふー、失敬…聞きたいことがあってな」


 よ、余程急いだのかしら…ローランお兄様が呼吸を整える所なんて、滅多に見ないわ。

 …嫌な予感がするわね?


「フランソワ、怒らないから正直に言ってごらん。…フィヨルドに不法入国したか?」

「あー、えっと…」


 やっぱり! あれ、確かに不法入国なのよね…。本来国外に出向くときは旅券が必要なのよ。あの時はノリと勢いで…セシルお兄様に連れられた勢いで行ってしまったから。

 そもそも、関門や入管もなかったし(フェンリル・ベルクからの上陸なんて想定してないでしょ)、特に気にしないで行ったんだけど…。いいえ、フェンリル・ベルク辺境伯からは確かに不法入国扱いされたけれどね? 不問にしてくれた、という認識なのだけれど!


「や、やだわお兄様。何のことやら…」

「なに言ってるんだ、一緒にミルク粥食べたじゃん」

 ししししシオン君!? 何を言い出すのかしら!?

「や、やだわシオン、それは別の…」

「フランソワ」

 はい。

「セシルもか?」

 こ、これはセシルお兄様の危機だわ!


「そ、その、違いますわ! ちょっと…ちょっと修学の為、フィヨルド北海岸を見学に行っただけで…不法入国の意図などありませんわ! た、ただ、少し…その、補給が足りなくて! ちょーっと、陸に上がった…かもしれませんわ! ほ、ほほほ…」

 また慣れない言葉遣いをしたわ! 苦手なのよローランお兄様!

「わかった、それは後で聞く。それより」

 今聞いて頂きたいんですけれど!?


「この件、何か知ってるか?」

 手渡されたのは訴状だったわ。ええと…ええと!?

 き、北大洋で…8月の末に…鯨油と赤身(希少部位)を海賊に奪われたし…。

 あ、相手は…信じられないほどの…高速船…まるで飛ぶような…。

「フランソワ…これって」

「な、何かしら、エラリーさん? わ、わたくしはとんと記憶が…」

「あの、レア オブ レア だよね?」

 つづいてひょい、とシオンが首を伸ばしたわ。

「ああ、あの旨かったクジラ?」

 もおおおおおおお!!!! シオンってバカっぽく見えるけど、学院に通えるだけあって読み書きは普通にできるのよね! 田舎出身のおバカっぽく見えるけど!

「こんな高速船、セシルしか無理だと思うんだが」

「さ、さて…わ、私は加担していませんわ!」

 してなくもないけど! クジラお願いしたの私だし! ってかやっぱり鯨油を譲っていただけた、心優しい漁師様はいなかったのね! いる訳ないのは分かってたけど!

「わかった、フランソワ。悪くはしないから王都に来い! 俺が何とかしてやる」

「い、いえ、その…ローランお兄様、今ちょうど、研究が良いところで!」

「研究?」

「研究ですわ!」

「真・顕微鏡とやらか?」

「なんでご存じですの!?」

「噂で聞いた。ともかく、来週にはセシルが戻ってくる。それまで王都に来るんだ。行くぞ、フランソワ」

「ち、ちょっとお兄様…!」

「早くしろ、今なら大事にしなくて済む!」

「ふ、フランソワはん、どうすればええんや!?」

「じ、実験…実験進めといて~!!! 多分結果まで一週間はかかるでしょ~!」


 ということで、私は見事に王都に連行される羽目になった訳よ!

 どうして良いところでいつも邪魔が入るのかしら!?




「幸いにな、漁師からはセシルの仕業とはバレていない。一応金子の提供があったらしいからな。むしろ北大洋に恐ろしい海賊船がいるから、警備を増やして欲しいという要望だ。あそこはいい漁場らしい。海賊が跋扈するのは我々法制局のみに在らず、水産局にしても好ましくはないという事だ」


 あの…今私、アリア王都の法制局事務室(の脇にある、応接間というより取調室)にいるのだけど…。第三部が始まってから付いていた、ちょっと格好いい感じの『法制局事務室ーーーー』みたいなプロットがきえてません!? なんなの、もしかして今ってコメディターン!? 


 ち、ちょっと待ちなさい、普通こういう『令嬢モノ』の公爵令嬢ってもっと清楚で知的で完璧な美人じゃ無いかしら!? あと、お兄様といえば社交会でも有名な、その辺の貴族令嬢が声をかけられただけで失神するような美男子か、どこか影のある無口な…でも心を開いた女性だけにはふっ、と笑みを見せるタイプというか、ついでに次男としたら快活で、ちょっとヤンチャで、令嬢を困らせるタイプ、のはずなんだけど…セシルお兄様についてはテンプレート通りね!


 …私ってば社交会もお作法も全部星の彼方に置いてきたわね。今になってはアシュレイが懐かしいわね! あの食堂の事件(第1部第1話参照)が一番『令嬢モノ』っぽかったわ! なんなら最近はエラリーの方が令嬢っぽいじゃんか! 

 令嬢はレアオブレアを食べて「鮮血の香りとコクが口の中に広がりますわ、オホホ」とか言わないのよ! なんかホラーっぽいし!


「であるからして…云々カンヌン」

 誤解が無いように言っておくけど、私が聞いてないわけじゃ無いのよ。著者のレイジとかいうのが考えるのを面倒くさがっただけだから。


 で、たっぷり2時間。


「つまり、漁師が海賊船を怖がると、新春祭の新巻鮭の調達と鯨油の安定供給に懸念が出る、という事ですの?」

 そろそろ紅茶でも出してくれないかしら?


「その通りだ」

「それなら、それこそノイエ・エーテル号か、所属の第三艦隊に警備させればいいんじゃ無いですの? フェンリル・ベルクは寄港できる港がありませんけど、少し離れたシルバの北海岸にカレルという港が…」


 ん? 港? 漁業? クジラ? 鯨油?


「…妙に詳しく無いか?」

「ち、ちょっとお待ちを、ローランお兄様」

 私、フェンリル・ベルク辺境伯と何か約束したわね!


「あー!!!」

「ど、どうした、フランソワ! やっぱり不法入国を…?」

「不法入国というか不法取引ですわ! 今ビアンカ皇王は王都にいらっしゃいまして!? 詳しいお話はセシルお兄様が戻られる来週にでも! 火急の要件を思い出しましたの、少し席を外しますわ!」

「お、おい待てフランソワ!」


 忘れてたわ!

 フェニ灯台の鯨油の補充、ビアンカにお願いするってこと!

フランソワの令嬢力はどこに行ってしまったのか…。

ちゃんとした異世界令嬢モノの予定だったのに…。

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