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第九十九話 小隊長

 カムイは冷静に隊長としての威厳を保ちながら、自己紹介をする。


「初めまして。 カムイ・ヴァルハートです。

 この度、第一部隊の隊長に就任しました。

 よろしくお願いします」


 小隊長たちも一人ずつ自己紹介を始める。

 最初に立ち上がったのは、金髪の青年だった。


「初めまして!カムイ隊長! 自分はノアル・クアリウスです!

 隊長のことはもう、心から尊敬しております!

 あの決闘を見て、震えました! 本当に素晴らしかったです!!」


 早速、カムイに尊敬の猛アピールを始める。

 サンドが静かに制止する。


「ノアル……やめなさい。 隊長が困ってます」

「あはは!これは失礼!」


 ノアルは慌てて頭を下げる。

 それでも目は輝いたままだ。

 仲間想いの、頼り甲斐のある騎士。

 しかし、仲間思いの度が過ぎる。

 他の四人は、彼のフレンドリーな性格についていけていないらしい。

 カムイは少し苦笑いを浮かべながら、軽く頷く。


「……ああ。 これからよろしく」


 部屋の空気が、少しだけ和む。

 次の小隊長の順番が、静かに回ってきていた。




 次に立ち上がったのは、茶髪の青年だった。


「ハック・ヴォルカです!

 カムイ隊長! これからよろしくお願いします!

 俺も炎魔法を得意としております! 隊長と同じ属性で嬉しい限りです!」


 熱血感のある騎士。

 カムイと同じ炎魔法を得意とする。

 とても熱血で、部下の指導も凄まじいスパルタらしい。

 本人は全く悪気はない。

 ただ部下に強くなってほしい一心。

 ハックが自己紹介をしていると、突然足の防具が壊れる。


『ガキンッ!』


「ハハハ! 失礼!

 今日もさっきまで、国中を部下たちと走り回っていましたので!」


 走りすぎで防具が壊れるという異常さ。

 カムイは少し引く。


(こいつ……やばいな)


 サンドはため息をつき、静かに注意する。


「ハック……騎士団の防具もタダではないのです」

「はい!以後気をつけます!」


 ハックはすぐに大きな返事。

 大きすぎるくらい。




 次に立ち上がったのは、長い黒髪の男だった。


「アンデルセン・ノーゼンだ」


 ちょっと目つきの悪い騎士。

 ガラは悪いが、小隊長の中でも剣技は一番らしい。

 サンドが静かに補足する。


「彼の剣は、第一部隊でも屈指の実力です」


 アンデルセンはカムイをじーっと見て、口を開く。


「へ〜。 テメェが噂の神聖力を持ったガキか!」


 さっそくなぜか交戦的な態度。

 サンドがすぐに注意する。


「こら! アンデルセン!」

「へいへい! すみませんよ!」


 アンデルセンは手を上げて答える。

 それでもニヤリと笑い、続ける。


「カムイ隊長さんよ〜。

 いつか手合わせお願いするぜぇ!」


 カムイは心の中で思う。


(うわ〜。 すげぇ戦闘狂みたいなやつだな……)


 表面上は冷静に答える。


「……機会があれば……」


 執務室に、少し張りつめた空気が流れる。




 次に紹介されたのは銀髪の青年だった。

 彼は手に持った小さな鏡を眺めながら、独り言を呟く。


「美しい……」


 自分に見惚れている。

 少しナルシスト気味の騎士。

 カムイは呆然とする。


(美の神だった俺でさえ、ここまでやばくはなかったな……)


 サンドが声を上げる。


「ブラン!」


 ブランと呼ばれた男は、ようやく鏡から顔を上げる。


「ん? あっ、失礼しました隊長」


 軽く会釈をして自己紹介をする。


「ブラン・ティンパニーです。

 美しく力強い剣を振るう者として、この第一部隊を支えています!」


 カムイは戸惑いながらも返事をする。


「よ、よろしく」


 執務室に、妙な空気が流れる。

 次で最後の小隊長だった。




 最後に立ち上がったのは、小隊長唯一の女性騎士。

 ピンク寄りの淡い茶色の髪をまとめ、白い鎧にピンクの装飾をあしらった姿。

 胸元が大きく開き、豊かな胸のラインがはっきりと浮かび上がっている。

 腰のくびれも綺麗で、全体的に華やかな印象の女性だった。


「初めましてカムイ君♡ セレナ・フロストレアです♡」


 とても可愛らしい声で自己紹介をする。

 カムイは釘付けになる。

 セレナの素晴らしいスタイルに。

 心の中で驚く。


(うおお……♡♡これは……♡♡)


 表面上は平静を保ち、答える。


「よろしくお願いします」


 サンドがすぐに注意する。


「こらセレナ! カムイ殿に馴れ馴れしいのはやめないか」


 セレナは構わずカムイに抱きつき、甘えるように続ける。


「え〜♡ だって可愛いじゃないですか!

 こ〜んな可愛くて若い子が、第一部隊の新しい隊長だなんて♡」


 小隊長たちはカムイよりも一回り近く歳上。

 しかし、皆歓迎はしてくれている。

 五人の自己紹介が、ようやく終わった。




 サンドは咳払いをして、声を上げる。


「ではみんな、新しい隊長の紹介も済んだことだ。

 もうすぐカムイ殿の任命式が行われる。

 皆、怠らないように!」


 五人の小隊長は退出しようとする。

 しかし、どうも覇気を感じられない。

 おそらくレオンハルト時代の悪い空気が残ったままなのだろう。

 カムイは心の中で思う。


(これじゃダメだ……)


 彼は五人を止める。


「待ってくれ」


 不思議に思う小隊長たち。

 ノアルが声を出す。


「どうしたんですか?隊長?」


 カムイは五人に頭を下げる。


「みんな。 申し訳ない」

「ど、どうしたんですか!?」


 突然の謝罪に、五人が驚く。

 彼は続ける。


「僕の父が、みんなに迷惑をかけた。

 取り返しのつかないことをたくさんしただろう。

 僕が奴の息子だから、信じてもらえるかわからないけど、これからは第一部隊隊長として、一から作り上げていくつもりだ!」


 唖然とする五人。

 カムイはさらに声を張る。


「みんな頼む!僕について来てくれ!」


 とても歳下とは思えない謝罪。

 そして決意。

 その雰囲気に呑まれた五人。


 ノアルは心の中で呟く。

(隊長が……頭を……)


 ハックも息を飲む。

(カムイ隊長……)


 アンデルセンは目を細める。

(マジかよ……)


 ブランは小さく笑う。

(ほ〜)


 セレナは目を輝かせる。

(へ〜♡ 素敵♡)


 五人は何かが吹っ切れたようになる。皆顔を合わせる。

 頭を下げるカムイに敬意を表し、膝をつき、カムイへの忠誠を誓った。


「「「第一部隊隊長。カムイ・ヴァルハート様!

 我々、第一部隊小隊長。命をかけて、貴方様の支えになります!!」」」


 カムイは安堵の表情を浮かべる。


「みんな......ありがとう!」


 そんな様子を見たサンドは驚愕した。

 まだ少年である彼が、厄介者揃いの小隊長を一瞬でまとめた。

 信じられない光景だった。

 執務室に、新しい第一部隊の空気が、静かに生まれ始めていた。




 昼過ぎ。

 第一部隊の部隊長の任命式。

 本拠地の大広間では、第一部隊以外の全ての部隊の騎士が集まる。

 式が始まる前、騎士たちはザワザワしていた。

 レオンハルトの評判が地に落ち、その後継がまさかの息子。しかもとんでもない若さ。

 決闘の戦いを見ていたものも、見ていなかった者も疑念の声を漏らす。


「新しい第一部隊の隊長……まだ学生だったんだろ?」

「てかそもそもレオンハルトの息子の時点で怪しいな」

「あの戦い……確かにすごかったけど、なにか裏があるんじゃないのか?」


 など、いろいろな声が聞こえる。




 ファンファーレが鳴る。

 第二部隊隊長のグリルが、第一部隊を入場させる。


「第一部隊、入場!」


 見守る各部隊。

 レオナ、ゴルグル、ナリアも、それぞれの部隊の先頭で様子を見る。

 大広間に、緊張した空気が広がっていく。




 本拠地の門の前。

 カムイは皆に振り返り、声を上げる。


「よし! 行くぞ!」

「おーー!」


 本拠地の門が開き、大量に整列して入ってくる第一部隊。

 子供の入場にくすくす笑っていた騎士たちが絶句する。

 先頭を歩くカムイは、神聖力のオーラを発しながら歩く。

 後ろをついてくる部下たち。

 彼の凄まじいオーラに呑まれる。




 騎士達の前を堂々と歩くカムイ。

 ついこの間まで学生だったとは思えない風格。

 神のように神々しく歩くその姿。

 数千年に一人産まれる神童と呼ばれるにふさわしかった。

 レオナは心の中で思う。


(すごいなカムイ……あんな短期間で第一部隊の連中をここまで手懐けるなんて!)


 ゴルグルは目を細める。


(ほほほ! あの小僧。 やりおる。)


 ナリアは微笑む。


(すごいカムイ君♡ すごいわ!)


 大広間全体が、彼のオーラに包まれていく。

 任命式の空気が、一気に変わっていた。




 無事に任命式を終えたカムイ。

 執務室の椅子に座る。


「は〜。 疲れた〜」


 サンドが穏やかに笑う。


「ははは。 カムイ殿も年相応の態度を取られるのですね」

「まあね」


 カムイは笑いを浮かべる。




 サンドが真剣な顔になり、静かに話す。


「一時間後。 レオンハルトの処刑が行われます。

 カムイ殿……大丈夫ですか?」


 気にかけてくれる声だった。

 カムイは少し間を置いてから、はっきりと答える。


「サンド、ありがとう。

 大丈夫。ちゃんと出席するさ!」


 執務室に、静かな緊張が戻ってくる。

 これから始まる処刑が、二人の間に重くのしかかっていた。

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