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第百話 処刑

 レオンハルトの処刑執行の時間。

 長い廊下を歩かされるレオンハルト。

 手足を鎖に縛られて、騎士二人に歩かされる。

 彼は絶望していた。




 ふと顔を上げると、廊下にもたれる男がいる。

 レオンハルトは目を見開いた。

 カムイだった。

 カムイは腕を組んで、待っている様子だった。


「お、お前……」


 カムイは騎士二人に声をかける。


「すみません。ちょっと外してくれませんか?」

「しかし...」


 騎士たちは、流石に死刑囚から離れることを拒む。

 カムイは落ち着いた声で続ける。


「大丈夫です。もし暴れたら僕が抑えますから」


 騎士たちは互いに顔を見合わせ納得する。

 話の聞こえない距離を取る。

 廊下に、父子だけが残される。




 カムイとレオンハルトは睨み合う。

 レオンハルトは吐き捨てるように言う。


「なんだ? 父親の最後の無様な姿を、間近に見に来たのか?」

「ああ。 それもあるかな」


 カムイは冷静に答える。

 レオンハルトは思う。


(やはり……こいつ)


 ずっと気になっていた違和感。

 彼は声を落とす。


「カムイ……いや、お前。一体何者なんだ?」


 カムイは眉を顰める。

 レオンハルトは続ける。


「これでも……長い間戦いに身を置いてたんだ。

 それなりに勘は鋭い方ではある。

 今もずっと感じている。

 お前は……俺の息子ではないな!」


 カムイはため息をつく。


(そろそろ……いいか)


 ふっと雰囲気を変える。

 目つき、オーラ、全てが別人のように変わる。

 レオンハルトは目を見開く。


「や、やはり……」


 カムイ、いや、今回はルミエルとして会話をすることを決意する。




 ルミエルは静かに口を開く。

「俺は...貴様の息子のカムイ・ヴァルハートじゃない。」


 緊張するレオンハルト。


「初めまして……俺はルミエル・バーガンディ。

 天界からやってきた美の神だ」

「神……だと!?」


 廊下が、一気に張りつめた空気に包まれる。




 ルミエルはレオンハルトと会話をする。

 レオンハルトは声を荒げる。


「どういうことだ!? なぜ神なんかが……」


 ルミエルは肩をすくめる。


「俺にもそこのところはよくわかってねぇ。

 消滅したと思ったら、このカムイ・ヴァルハートの体に入ってた。」


 レオンハルトは悔しそうに歯を食いしばる。


「くっ!神が相手だったというのか!!

 ……そんなの、勝てるわけないではないか!」




 ルミエルは話題を変える。


「そんなことより、お前。

 あのレアメタルユニコーンの鎧は、どこで手に入れたんだ?」


 いまだ不明な事実。

 決して吐かなかったレオンハルト。

 彼は黙り込む。

 ルミエルは静かに続ける。


「天界でも……問題になったんだよ。

 下界の希少なレアメタルユニコーンが一匹いなくなって...」


 廊下に、重い沈黙が落ちる。

 レオンハルトの表情が、さらに硬くなっていく。




 数十年前。

 レオンハルトもまだ若く、冒険者をしていた時代。

 リーラや仲間達と共に、魔王の僕の一角、魔炎竜の討伐に向かった。

 当時は、それなりに活躍していたレオンハルト達。

 特に調子に乗っていたレオンハルトは、魔炎竜の恐ろしさなど全くわかっていなかった。無計画に魔界の魔炎竜の根城に突っ込んだ。

 もちろん結果は惨敗。

 なんとか森まで逃げて敵を撒くことができたが、人間世界には帰れずにいた。




 森の中で隠れるように過ごすレオンハルトたち。

 すると、仲間達と激しく喧嘩をする。


「レオンハルト! お前のせいだぞ!」

「そうだ! 無計画に突っ込みやがって!」

「ほんとそうよ! 私たち、いつもあなたに巻き込まれてばっか!」


 レオンハルトは声を荒げる。


「なに!? お前らだって賛成してたじゃないか!」


 喧嘩は激しさを増す。

 リーラはその喧嘩を震えながら見ていることしかできなかった。

 仲間達が限界を迎える。


「もうたくさんだ! お前となんてやっていけない!」

「俺たちは俺たちで帰る道を探す!」


 レオンハルトは吐き返す。


「ふん! どこへでも行け!」


 去っていく仲間たち。

 リーラは小さな声で呼ぶ。


「み、みんな……」


 仲間は振り返り、彼女に声をかける。


「リーラ! お前もこんなやつとは離れた方がいいぞ!」


 しかし、リーラは動かなかった。

 彼女はレオンハルトと残った。

 森の中に、二人だけが残される。




 残ったレオンハルトとリーラは、魔界の森の中で野宿をすることに。


「レオン……」


 心配するリーラ。

 しかし、黙ったままの彼を見つめることしかできず、リーラは先に眠った。




 レオンハルトは怒りが込み上げていた。


(くそっ! なんでだ! なんでなんだ!

 もっと……もっと俺に力があれば!)


 すると、後ろの森から物音がする。

 剣を構えるレオンハルト。


「誰だ!?」


 顔を見せないローブの男が現れた。


「おや? こんなところに人間なんて……珍しいですね」


 レオンハルトは警戒を強める。


「誰だ貴様!!」


 男は彼をじっと見て、静かに続ける。


「あなた……なるほど。やはり……いいですね。」

「な、なに?」




 男はドスッと鎧を置く。


「これをあなたにプレゼントしましょう」


 レオンハルトは鎧にしゃがみ込む。


「こ、これは!!」


 男は説明する。


「この鎧は、世にも珍しいレアメタルユニコーンから作られています」


 レオンハルトは驚愕する。噂では聞いたことのあるレアメタルユニコーン。


「ほ、本当に存在したのか!!!

 し、しかし、確か捕獲禁止種のはず……まさか貴様!魔族か!」


 男は淡々と否定する。


「魔族……あんなチンケな奴らと一緒にしないでください。」


 森の中に、緊張が走る。




 ローブの男はレオンハルトを揺さぶる。


「あなた……強くなりたいんでしょ?勝ちたいですよね?

 これを着れば……あなたは向かう所敵なしです」


 揺れるレオンハルト。

 すると男が気づく。


「おっと。そうですね...このままではすぐにバレてしまいますね」


 そういうと、男は謎の力で鎧を塗装する。

 真っ赤に輝く騎士の鎧に。

 レオンハルトは目を見開く。


「!」


 男は静かに続ける。


「さあ。 これでいいでしょう。貴方にピッタリだ。

 これを着て強くなるんです。あなたの未来のために」


 レオンハルトは誘惑に負けた。

 レアメタルユニコーンの鎧を着て、力を得てしまった。

 彼の運命が、静かに歪み始めていた。




 翌朝。

 リーラは目覚める。

 テントの外で佇むレオンハルト。


「レオン? ど。どうしたの……その鎧」

「リーラ。 ここで待ってろ」


 レオンハルトは振り返らずに答える。


 そして彼は、一人で魔炎竜に立ち向かった。

 もちろん勝利した。鎧による絶対的な防御力と回復能力。魔炎竜はあっけなくやられた。




 その後も鎧のおかげで、レオンハルトは完全無欠の力を得た。

 どんな攻撃をも防ぐ絶対的な力。

 それは結果として、彼をより調子づかせることにしかならなかった。




 現在。

 レオンハルトは沈黙を貫いた。

 ルミエルは呆れたように鼻を鳴らす。


「もういい!

 そんなに言いたくねぇなら、言わずにこの世を去るんだな」


 彼が去ろうとすると、レオンハルトが低い声で呼び止めた。


「あんたは……これからどうするつもりなんだ……」


 ルミエルは足を止め、振り返る。


「神に対してその言葉遣いは気に食わないが、答えてやる」


 少し間を置いて、はっきりと言った。


「俺は決めたんだ。

 カムイ・ヴァルハートとして、この世界のために戦う。そして、地位も名誉も女も、全て手に入れて気ままに生きる。

 元々天界でもそうやって女性達と自由奔放に生きてきたからな。」


 レオンハルトはフッと笑った。


「女……か。

 ……結局あんたも同じじゃないか。俺と」


 その瞬間、ルミエルの目つきが変わった。

 レオンハルトは怒りを込めて続ける。


「あんたと俺の何が違う!?

 神だからか! 神がそんなに特別か!」


 ルミエルは一気に距離を詰め、レオンハルトの胸ぐらを掴み壁に押しつける。子供とは思えない力。


「全然違うね!!俺とお前は!

 それは神だからとか人間だからとかじゃない!」


 力を込めたまま、顔を近づけて睨みつける。


「俺は……お前みたいに女に手をあげたりしない!

 絶対にな!」


 アリアに手を上げたことを思い出すレオンハルト。

 ルミエルは言い放つと、手を離した。

 レオンハルトは力なくその場に崩れ落ちる。

 ルミエルは彼を見下ろしたまま、何も言わなかった。




 物音を聞いて、騎士たちが駆けつけてくる。


「カムイ様!大丈夫ですか!?」

「はい。 大丈夫です。

 もういいですよ。連れて行ってください。」


 カムイは落ち着いた声で答える。

 騎士たちは頷き、崩れ落ちていたレオンハルトを立たせる。

 鎖の音が再び廊下に響き、彼は連れて行かれる。

 カムイも反対側へと歩き出す。

 足音を一つずつ踏みしめながら、ルミエルは心で、本来のカムイの言葉を思い出す。


『お父様やお母様、みんなを幸せにしてあげて!』


(......カムイ。すまなかったな。

 お前の父親は......救えなかった......

 俺の不甲斐なさを、許してくれ)


 ルミエルは心の中で謝罪する。

 長い廊下が、静かに二人を引き離していく。




 処刑台の階段を、一歩一歩上がっていくレオンハルト。

 大勢の騎士たちの前での公開処刑。

 第一部隊隊長という誉ある歴史の名に傷をつけた。

 それだけこの処刑は注目されるものだった。

 大勢の騎士から罵声が浴びせられる。


「この外道!」

「第一部隊の名を汚しやがって!」


 隊長席から眺める他の部隊長たち。

 グリル、レオナ、ゴルグル、ナリア。

 グリルは悔しそうに拳を握る。

 レオナが隣で低く言う。


「ちゃんと見とくんだよ」

「ああ……」


 グリルは短く答える。




 カムイも別のところで眺めていた。

 サンド達が彼を見つけ声をかける。


「カムイ殿! こちらにいましたか!それで、お話は?」

「うん。 してきた」


 処刑台のレオンハルトを見つめる一同

 小隊長たちも各々が口を開く。


 ノアルが沈んだ声で呟く。

「本当に信じられないよ。

 隊長だった人が処刑されるなんて……」


 ハックが冷静に続ける。

「だが、過ちを犯したのなら、その報いは受けないといけない」


 アンデルセンは吐き捨てるように言う。

「けっ! 史上最低の部隊長だったな!」


 ブランが腕を組む。

「ああ。 俺もたくさんの女性達から相談を受けたな」


 セレナも静かに呟く。

「私も……あまり好きなタイプじゃなかったわ」


 処刑台の上で、レオンハルトが立ち止まる。




 ひざまずくレオンハルト。


(俺は一体……どこで間違えたんだ……)


 そして、ふと思い当たる。


(やはり……あの時だ)


 あのよくわからない男からもらった鎧を使い始めてから。


(あの時点で、俺の運命は決まっていたのか……)


 処刑人が剣を振り上げる。




 斬首刑により、レオンハルトは命を落とした。

 全騎士がその光景を見届けた。

 歴史上初の出来事。

 その光景は、誰も忘れることはない。

 カムイは静かに目を細め、心の中で呟いた。


(……あばよ)

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