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第九十五話 決着と別れ

 カムイは勝利した。

 レオンハルトは意識を失ったまま連行される。

 決闘で負けたことにより処刑が決定。

 その前に、違法な鎧の件についての事情聴取が行われるだろう。

 カムイは冷たい目で、レオンハルトが運ばれていくのを見る。

 心の中で、神として思う。


(……哀れだな)




 闘技場を出て、廊下を歩く。

 すると、「カムイ!」と声がする。

 リディアが駆けつけてくる。

 カムイは疲れた声で応じる。


「リディア!」


 疲労困憊で倒れそうな彼に、リディアはすぐに駆け寄り支える。


「もう!いつも無理して!」

「ごめんごめん」


 カムイは疲れていても笑顔は絶やさない。

 リディアは涙を流しながらも微笑む


「お疲れ様。

 ……勝ってくれて、よかった。本当に」


 カムイは彼女の肩に体重を預け、静かに答える。


「ああ。リディアが待っててくれたから、なんとかなったよ」

「バ、バカ……そんなこと言わないで」


 リディアは顔を赤らめ、小さく呟く。

 戦いが終わり、静かな時間が流れ始めていた。




 リディアがカムイを支える姿を、曲がり角で見ていたグリルとレオナ。

 レオナはグリルの腕を軽く叩き、楽しそうに言う。


「ほらほら見てみろって! お似合いだろ?」

「う、うむ……」


 グリルは少し困ったように頷く。

 レオナは続ける。


「まったく!もっと微笑ましく見てやれないのかね〜」


 グリルは正直、仮に二人が交際するとしても、まだ早いと思っていた。

 それでも、言葉を選ぶ。


「……もう少し様子を見たいところだ」




 レオナは茶化すように笑う。


「結婚とかもあり得るかもな!」

「それこそ早いだろ!」


 グリルはすぐに突っ込む。

 レオナは肩をすくめる。


「まあまあ。子供の成長は早いもんだよ」


 グリルは小さくため息をつく。




 グリルは真剣な話をする。

 レオナにレオンハルトのことを頼む。


「レオナ。頼めるか?

 レオンハルトから、鎧の出所をきちんと吐かせてくれ」

「もちろん!あの鎧……ちゃんと吐かせないとな!」


 彼女は走り出す。

 グリルは一人残り、静かに思う。


(カムイ……ご苦労だったな)


 同時に、レオンハルトの本性を見抜けなかった自分が情けなくなる。

 悔いていてもしょうがない。と自分に言い聞かせ、落ち着く。

 グリルは深く息を吐き、次の対応を考え始める。

 戦いが終わっても、まだ片付けるべきことは多かった




 観客席では、騎士たちが興奮冷め止まぬまま退席する。


「あんな戦い、初めて見たぞ」

「第一部隊隊長が負けるとはな……」


 ざわめきがまだ会場に残っている。

 第三部隊が集まる席でも、退席命令が出る。

 隊長のゴルグルは空を見上げ、静かに呟く。


(若いのが出てきたのぉ〜)


 物思いに耽るように、会場の出口へ歩き出す。




 別席の第六部隊。

 隊長のナリアは心の中で思う。


(カムイくんすごい!私が見込んだだけのことはあるわ!)


 感動と同時に、もっと彼のことが好きになっていく。




 決闘が終わり、家へと帰るカムイ。

 家に近づくと、パラディンが戯れあってきた。

 珍しく嬉しそうな様子で、尻尾を振る。


「お、おい! パラディン」


 騒ぎを聞きつけて、エレーナとレーゼも家から出てくる。

 レーゼが元気よく駆け寄る。


「カムイお兄ちゃんおめでとう!!」

「こらレーゼ!」


 エレーナは妹を制するように言う。

 それでも、レーゼは笑っている。




 外に出てきたアリア。

 喜ぶ三人の姿を見て、心の中で思う。


(カムイ……帰ってきてくれてありがとう)


 カムイはアリアの方を向く。


「ただいま!お母様。……勝ってきたよ」


 アリアは小さく頷き、彼を迎える。


「おかえりなさい」


 家の前で、静かな再会が始まっていた。




 夕食。

 お腹が空いたと、食べまくるカムイ。

 エレーナは心配そうに声をかける。


「そんな早く食べると危ないわよ」


 アリアはそれを見て、静かに微笑む。

 エレーナは続けて言う。


「にしても、あんなに戦ったのに...元気ね〜」

「おう! 疲れてるのは確かなんだけど、とにかくお腹が減っちゃってさ!」


 エレーナは呆れつつも、微笑む。


「……まったく。 仕方ないわね」


 テーブルの上に、温かい料理が並ぶ。

 戦いが終わった夜の、穏やかな時間が流れていた。




 エレーナはカムイに尋ねる。


「カムイ……騎士団の隊長になるのね」

「すごーい! カムイお兄ちゃん隊長になるの!?」


 レーゼが目を輝かせて続く。


「ああ」


 アリアが静かに問う。


「騎士学校はどうするの?」


 カムイは少し考えてから答える。


「うん。多分辞めることになると思う。

 なんせ騎士学校在学中に、騎士団の部隊長になるなんて前例がないからね。

 リディアやギルドの人たちには申し訳ないけど」


 アリアは優しく頷く。


「そう……でも、リディアちゃんならわかってくれるわ。ギルドの人たちにも、出来る限りのお詫びをしましょう。」


 新しい立場が、すでに彼の肩にのしかかり始めていた。




 カムイが真剣な顔でアリアに話す。


「ところで……お母様」

「なに?」

「レオンハルトは……おそらく処刑になる。

 そうなると、あの屋敷の所有者はお母様になると思うんだ。」


 少し間を置き、彼は続ける。


「お母様……お屋敷に……帰る?」


 アリアは少し考えてから答える。


「そうね。リーラや他の侍女のみんなのためにも、働き口はなくさない方がいいわね」


 カムイは頷く。


「リーラはグリルさんの家で治療中だから、よくなったら屋敷に戻って来てもらおう!」

「ええ。それがいいわ」


 テーブルの上で、四人の会話が静かに続く。

 新しい生活の形が、少しずつ見え始めていた。




 カムイがエレーナとレーゼに提案する。


「なあエレーナ! レーゼ! 二人も一緒に来なよ!一緒に……屋敷で暮らそう!!」


 レーゼは驚きの表情で、エレーナを見つめる。

 エレーナは少し考えて静かに答える。


「私たちは……遠慮するわ」

「えっ……」


 エレーナは訳を話す。


「カムイのおかげで、ヨルンの魔女の悪いイメージは無くなってきた。

 でも、まだ偏見を持つ人もいる。特に貴族はね。

 貴族がうろつくような城下町付近で暮らしていると、攫われたりとか、何をされるかわからないから。

 カムイ達にも迷惑がかかるし、私とレーゼはここに残る」


 カムイは食い下がる。


「そ、そんな……でも……」


 アリアがカムイの手に触れ、静かに首を横に振る。

 どうやらアリアは、この話をすでにエレーナとしていたらしい。




 エレーナはカムイの手を握り、静かに言う。

「カムイ。 ありがとう。

 あなたと出会えて本当によかった。

 一緒にヨルンの里にも行けたし、たくさんの思い出をこの家で作れた」

「エレーナ……」


 エレーナは優しく続ける。


「大丈夫よ! 一生の別れになる訳じゃないし、あなたがいつでもこの家に来てくれればいいだけじゃない!」


 カムイはすぐに答える。


「ああ! たくさん遊びにくるよ!」


 レーゼが元気よく続く。


「カムイお兄ちゃん! いつでも来てね!」


 エレーナは念を押す。


「でも! きちんと仕事するのよ!」

「は、はい……」


 カムイは少し困ったように答える。

 新しい生活が始まっても、この家との繋がりは切れないことを、皆が感じていた。




 その日の夜。

 カムイは風呂上がりにエレーナとすれ違う。

 エレーナは少し声を潜めて言う。


「ねぇカムイ……今日……あっちの寝室に来て」

「うん」


 アリアが風呂に入っている間、カムイはエレーナの待つ空き部屋の寝室に向かう。

 ベッドに座っているエレーナ。

 カムイが隣に座る。

 エレーナは静かに切り出す。


「さっきはね……レーゼの前だったからああ言ったけど、本当は、あなたとずっと一緒にいたかったの」


 カムイも正直に答える。


「僕もそうだよ……ずっと一緒に暮らしてて、これからもずっと一緒だと思ってたから……」


 エレーナは微笑み、話を続ける。


「でも、あなたには他にも大切な人がいるでしょ?」


 カムイは彼女に詰め寄る。


「エレーナも大切な人だよ!」

「ば、ばか……そんなはっきり言わないでよ」


 エレーナは顔を赤くして、視線を逸らす。

 二人は自然とベッドで横になり、抱き合う。

 エレーナは彼の胸に顔を埋め、小さな声で続ける。


「……今日の戦い、すごく心配したの。

 あなたが負けたらどうしようって」


 カムイは彼女の髪に手を置き、優しく答える。


「心配かけてごめんな。

 でも、勝って帰ってこれたよ」

「うん。 帰ってきてくれて、よかった」


 静かな夜の寝室で、二人の体温だけが伝わってくる。


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