第九十四話 とっておき
観客席では、レオンハルトへの野次が高まる。
「違法な防具で出世してたのかよ!」
「冒険者時代からの経歴、全部嘘じゃねえか!」
「第一部隊隊長が、こんな汚い手を使ってたとはな!」
彼の築いてきた経歴のすべてが、疑わしきものになっている。
レオンハルトは歯を食いしばる。
赤の塗装で誤魔化していた秘密が、カムイの神聖力によって暴かれた。
彼は低い声で吐き捨てる。
「貴様……やはりこの世の者じゃないな!」
カムイはへっと笑い、槍を構える。
「お前に話す義理はねぇよ!」
激しい戦いが再開する。
神聖力を纏った槍が、黒い鎧に何度も叩きつけられる。
しかし、やはり硬く、ダメージもすぐに回復されてしまう。
カムイこ神聖力をもってしても、どうにもできない。
心の中で焦りが募る。
(くそっ! どうする?)
迷いつつも、攻撃を続ける。
会場の空気は、もはや応援ではなく、レオンハルトへの非難に満ちていた。
黒い鎧が、陽光の下で不気味な虹色の光沢を放ち続ける。
戦いの行方は、まだ見えなかった。
しばらく攻防が続く。
すると観客席から、グリルがレオンハルトを非難する。
「違法な防具を使うとは!そこまで落ちていたのか!レオンハルト!!」
レオンハルトは多くの野次にイラつき、剣を強く握る。
「うるさい! もうこれで終わりだ!」
見たことのない魔法陣を展開する。
地面に複雑な紋様が浮かび上がり、黒い光が渦を巻き始める。
観客席で、ゴルグルが青ざめる。
「あ、あれは!!」
レオンハルトの展開した魔法は、国一つ無くしかねない禁忌魔術。
もうヤケクソだった。
グリルは立ち上がり、叫ぶ。
「や、やめろ!」
「あのやろう!」
レオナも激怒する。
リディアは両手を握りしめ、カムイを心配する。
別席でも、ナリアが眉をひそめて見つめる。
会場全体が、禁忌の魔法に飲み込まれそうな重苦しい空気に包まれる。
黒い光が、徐々に強くなっていく。
レオンハルトによる禁忌魔法が発動する。
広範囲を飲み込む黒い光が、闘技場の中央から爆発するように広がる。
観客たちは恐れ、悲鳴を上げる。
「逃げろ!」
「あんな魔法、国が吹き飛ぶぞ!」
カムイは一か八か、槍に全神聖力を注ぎ込む。
リーラからもらった槍。
心の中で彼女の名を呼ぶ。
(リーラ……力を貸してくれ!)
レオンハルトの魔法が完全に展開した瞬間、カムイは駆け出す。
槍を真っ向から魔法にぶつける。
神聖力の光が、黒い渦と激しくぶつかり合う。
「うおおおおっ!!」
二つの力が衝突し、威力は相殺される。
しかし、爆風はおさまらない。
闘技場全体を白い砂塵と衝撃波が襲う。
観客席では悲鳴が上がる。
グリルは声を上げる。
「カムイ!!」
レオナはリディアを庇う。
ゴルグルは素早く杖を振る。
「ほいっ!」
部下たちにバリアを張り、爆風から守る。
別席のナリアも踏ん張る。
心の中で、静かに彼を心配する。
(カムイ君……)
戦いの行方は、まだ誰にも分からない。
爆風が止み、闘技場に二人姿が。
なんとか無事だった。
しかし、かなり消耗が激しい。
カムイは神聖力も全て使い切り、ギリギリの状態だ。
レオンハルトも膝をつく。
「バ、バカな!?」
信じられない様子で、彼を見つめる。
次の瞬間、レオンハルトは立ち上がり、魔力を発散させる。
「ま、まだだぁ!!」
もう思考も狂ってしまっている。
目の前のカムイを殺すことで、頭がいっぱいになっている。
「お前など……息子など……邪魔なんだよ!!」
カムイは息を整えながら、心の中で焦る。
(くそぉ……神聖力もすっからかんだ……どうすれば)
ふと、懐のものに気づく。
(そ、そうだ!!)
レオンハルトは魔法で攻撃を放つ。
黒い光がカムイを襲い、再び爆風が起こる。
「やったか!!」
レオンハルトはそう思った。
しかし、砂塵の向こうで、何かが動いていた。
レオンハルトはカムイを倒したと思い、一瞬油断した。
それが命取りだった。
真下にはカムイがいた。
手には、見たことのない短剣。
「なっ!」
レオンハルトは目を見開く。
すぐに防御体制を取る。
(大丈夫だ!俺にはこの鎧がある!)
魔力を鎧に込め、虹色のオーラを纏う。
しかし、カムイは止まらない。
レオンハルトは叫ぶ。
「バカか貴様は!!」
カムイは手に持った短剣を、レオンハルトに突き刺す。
剣は鎧をすり抜けるようにして刺さる。
「なに!?」
驚くレオンハルト。
しかし、血は流れず、ダメージはない。
カムイは心の中で、静かに謝る。
(レアメタルユニコーンの魂よ……許してくれ。
これしか方法がなかったんだ)
次の瞬間、レオンハルトの鎧は突然暴走し、砕け始める。
黒い金属がひび割れ、虹色の光が暴走する。
「う、うわあああっ!!」
驚愕するレオンハルト。
観客席も唖然とする。
「鎧が……壊れていく!?」
「なんだ、あれは!?」
会場全体が、信じられない光景に言葉を失っていた。
観客席の隅にいたシュバイン。
静かに呟く。
(あれを……使ったか)
カムイが使った短剣。
それは数年前、シュバインとの最後の修行でもらった短剣だった。
数年前。
最後の修行が終わり、シュバインから短剣をもらう。
カムイは不思議そうにそれを見つめる。
「これは?」
シュバインは短く答える。
「これはな。とっておきだ」
「とっておき?」
カムイは首を傾げる。
シュバインは短剣の説明をしてくれる。
「これはマジカルブレイカー。
人を刺すことはできないが、代わりに魔力を刺す」
「魔力を……刺す?」
カムイはさらに首を傾げる。
シュバインは続ける。
「刺された魔力は暴走し、それに携わったものも破壊する。魔力を糧に生きている魔族なら一撃必殺の剣だ」
カムイは目を輝かせる。
「すごーい!最強じゃん!」
しかし、シュバインは冷静に釘を刺す。
「だが、使えるのは一回だけだ。
ここぞという時に使え」
「いいの? そんなものを僕に」
シュバインは相変わらず無表情で答える。
「お前の方が......正しいことに使えそうだ」
「ありがとうシュバイン!」
カムイは短剣を両手で受け取り、深く頭を下げる。
マジカルブレイカーに刺された鎧は完全に砕ける。
呆然とするレオンハルト。
「バ、バカな……」
すかさずカムイは槍の柄で、レオンハルトの腹部を打つ。
「ぐはっ!」
レオンハルトは苦悶の声を上げ、体を折る。
カムイは静かに告げる。
「終わりだよ……」
レオンハルトは力なく倒れ、地面に沈む。
勝者はカムイ。
会場が大盛り上がりになる。
「カムイ!カムイ!」
コールが会場全体に響き渡る。
グリルは唖然とし、呟く。
「な、なんてやつだ……」
「すごいぞカムイ!!」
レオナは立ち上がり、声を上げる。
大喜びで手を叩く。
リディアは涙を流し、感動する。
両手で顔を覆いながら、彼の名前を小さく呼ぶ。
「カムイ……」
闘技場の中央で、カムイは静かに槍を下ろす。
陽光が彼の姿を照らし、長い戦いが終わったことを告げていた。
カムイの家でも、エレーナとレーゼがカムイの勝利に大喜びする。
「勝った! 勝ったよお姉ちゃん!」
レーゼが飛び跳ね、エレーナも安堵の笑みを浮かべる。
「よかった...」
アリアは画面に映る彼の姿を見つめ、涙を流す。
小さく、しかしはっきりとお礼を言う。
「……ありがとう、カムイ」
ラスカ村のルージュとその一味も、モニターの前で盛り上がる。
ルージュは腕を組み、満足そうに笑う。
「よくやったぞ!カムイ!!」
ゼノヴィアも隣で喜ぶ。
心の中で、静かに思う。
(カムイ様……やっぱりあなたは素晴らしい方です!)
ギルドでは、ハンターのおっさんたちが大喜びする。
「よっしゃあ! カムイの勝ちだぞ!」
「あの隊長を倒したんだ!!」
メロンもカウンターの奥から画面を見つめ、安堵の息を漏らす。
(カムイくん……よかった!)
騎士学校では、教員たちが驚愕していた。
担任のルーナは画面を見て声を上げる。
「えっ!? えっ!? カムイくん勝っちゃった!!」
他の先生たちが、彼女を称える。
「ルーナ先生の教え子ですよ!」
「私は何もしてませんよ〜」
ルーナは大慌てで手を振る。
ガルドも腕を組み、静かに思う。
(あのレオンハルトに勝つとは……やはりとんでもない逸材だ)
校長室では、一人の教員が飛び込んでくる。
「ギ、ギルバート校長!!!」
ギルバートも映像を見ていた。
教員は興奮して続ける。
「校長!!! うちの生徒が!!!」
「わかっておる!」
自身の学校の生徒が、在学中に部隊長に勝つという偉業。
かつてない出来事に校長も驚いていた。
カムイのクラスメイトのマールロイド。
屋敷で戦いを見ていた。
画面に映る彼の姿を見て、父親に向かって声を上げる。
「やりましたよ!! カムイ様が勝ちました!」
第一部隊の隊員であるマールロイドの父は、信じられない様子で呟く。
「ま、まさか……レオンハルト隊長が負けるなんて……」
マールロイドは目を輝かせ、続ける。
「これはすごいことになりますよ!!」
感動した様子で、画面から目を離せない。
リディアの友達のアリルとリザは、カフェで映像を見ていた。
アリルが画面を指さし、驚く。
「これって本当にカムイくんだよね!?」
「そうよ!カムイよ!」
リザも頷き、答える。
二人は互いに顔を見合わせ、言葉を失っていた。
国が管理する準騎士の訓練所。
騎士学校を卒業した者が最初に所属する場所。
カムイの騎士学校の先輩、シリア・キャメロット。
同僚たちと映像を見て、目を見開く。
見覚えのある後輩。カムイ・ヴァルハート。
大勢の観客の前で強く腕を上げる姿。
(あれはカムイ!? ま、まさか……父親を下したのか!?)
驚く彼女の顔に、すぐに笑みが溢れる。
小さく、しかしはっきりと呟く。
「さすがだ……私も負けてはいられないな!」
そして、再び鍛錬を続ける。
騎士になるために、彼女は剣を握り直す。
訓練場に彼女の決意が静かに響いていた。
シルバレインの屋敷。
グリルとレオナの指示で、騎士団の医療班がリーラの治療をしていた。
慌ただしくしていると、ふとリーラの瞼が開く。
意識は朦朧としているが、小さな声が漏れる。
「カ、カムイおぼっちゃま……」
医師たちは、リーラが意識を取り戻したことに驚く。
「急げ!」
「グリル様とレオナ様に報告だ!」
一人がすぐに部屋を出て、報告に向かう。
リーラは再び目を閉じるが、その唇はわずかに動いていた。
部屋の空気が少しだけ明るくなる。
彼女の意識が戻ったことは、静かに、しかし確実に希望を運んでいた。




