第九十三話 強固
カムイはハンター仕込みのスピードでレオンハルトを翻弄する。
レオンハルトは苛立ちを隠せず、剣を振るう。
「くっ!ちょこまかと!」
まるで魔物のような野生的な動きに戸惑う。
しかし、すぐに冷静になる。
広範囲に及ぶ魔法を発動する。
地面が揺れ、光の刃が四方に広がる。
彼も、冒険者時代からたくさんの魔物を相手にしてきた。
異様な動きだろうと対応する。
カムイも心の中で認める。
(やっぱり一筋縄にはいかないか!)
距離を置く二人。
カムイは静かに息を整え、決意する。
(……仕方ねぇ。潮時だな……)
目つきが変わる。
レオンハルトも何かを察し、身構える。
(くるっ!)
カムイは神聖力を最大限に解放する。
闘技場は神々しいオーラに満たされる。
白い光が彼の体から溢れ、会場全体を包み込む。
観客席のグリルは目を見開き、声を上げる。
「や、やはりこれは!!」
「これって!!」
レオナも驚愕する。
二人も御伽話程度に聞いていた神の力、神聖力。
数千年に一人生まれる逸材。
それがカムイだということにようやく確信を得た。
リディアも小さく彼の名前を呼ぶ。
「カムイ……」
第三部隊の面々も騒然とする。
「なんだ!?」
「これは……魔力なのですか!?」
「見たことありません!こんなの!」
その中で、一人だけカムイの神聖力を知っていたゴルグルが静かに呟く。
(ほ〜。随分成長しとるのぉ〜)
会場全体が、カムイの放つ光に包まれ、時が止まったかのように静まり返る。
戦いの空気が、完全に変わった。
カムイはレオンハルトに突っ込む。
神聖力を纏った槍が、激しい猛攻を繰り出す。
一突きごとに空気が割れ、砂が舞い上がる。
レオンハルトは防戦一方だ。
しかし、彼の圧倒的な防御力は揺るがない。
カムイは心の中で歯噛みする。
(くっ! これでもダメなのか!?)
昨日。
カムイはリディアの家に来ていた。
理由は、グリルからレオンハルトについて聞くためだった。
彼の過去の戦闘。
冒険者時代からの経歴。
少しでも情報を得ようとしていた。
グリルは静かに語った。
「レオンハルトの強みは、なんといっても防御力だ。
俺は初めて出会ってときから、奴が傷を負ったところを見たことがない。
もちろん。剣技も魔法も一級品だ」
レオンハルトは確かに強い。
特にその防御力。
魔法の強化によるものだろう。
巨大モンスターだろうと無傷で戦い切ることが多い。
カムイは神ながら感心していた。
(こんなやつ……なかなかいないぞ!)
今、その言葉が現実として目の前にある。
槍の一撃が、再びレオンハルトの剣に阻まれる。
火花が飛び、二人の力が拮抗する。
会場は息を飲み、次の展開を待っていた。
会場は唖然としていた。
こんな戦いは見たことがない。誰もがそう思う。
ヴァルハート親子の激闘は、激しさを増す。
神聖力を纏ったカムイの槍と、レオンハルトの剣が何度もぶつかり合う。
会場全体が熱気に包まれる。
ふと、カムイの槍がレオンハルトの鎧に当たる。
「カンッ!」
カムイは一瞬、動きを止める。
(ん?なんだ……この感覚……)
何かがおかしい。
さらに戦いが進み、彼は意図的に槍を鎧に当てる。
「カンッ!」
同じ音が再び鳴る。
カムイは目を見開く。
(こ、これは……まさか!)
あることに気づく。
距離を置き、彼は静かに息を整える。
(……確かめるしかない!)
神聖力を槍に集中させ、次の一撃の準備をする。
レオンハルトも異変を察し、身構える。
何かが、今まさに明らかになろうとしていた。
カムイは槍の先端をレオンハルトに向ける。
レオンハルトは首を傾げる。
「?」
槍の先に魔法を集中させる。
レーザー弾のように、連続してレオンハルトを襲う。
レオンハルトは剣で弾き余裕を見せる。
「ふん! 多く撃てば倒せるとでも思ったか!」
易々と弾き返す。
しかし、弾の一つが彼の鎧に当たる。
当たった箇所の塗装が、静かに剥がれていく。
真っ赤で立派なレオンハルトの鎧。
塗装の剥がれは、徐々に広がっていく。
すると、レオンハルトが異常なほどに慌てふためく。
「なっ!!!」
彼の鎧は、見る見るうちに黒色に変わっていく。
赤い塗装の下から、禍々しい黒い金属が露わになる。
会場がどよめく。
カムイは目を細め、確信する。
(やっぱり……)
レオンハルトは、マントで鎧を隠そうとするが、もう遅い。
黒い鎧が、陽光の下で不気味な光を放ち始める。
彼の顔に、明らかな動揺が浮かぶ。
カムイはレオンハルトを睨む。
「お前……その鎧、どこで手に入れた!!!」
会場が一気にざわつく。
観客席のゴルグルは目を丸くする。
「あ、あれは……!」
グリルも低い声で呟く。
「あの鎧……」
「なんだい?あの異様な鎧...」
レオナも首を傾げ、鎧の違和感を感じる。
第三部隊の隊員がゴルグルに尋ねる。
「ゴルグル様。 あれは一体……」
ゴルグルは静かに、しかしはっきりと説明する。
「やつの……レオンハルトの鎧……あれは特殊な素材でできておる」
「特殊な素材?」
隊員が首を傾げる。
ゴルグルは続ける。
『レアメタルユニコーン』
この世に二匹しかいないとされている超希少モンスター。
生息地も定まっておらず、姿を見た者さえ少ないとされている。
下界では、神が創りし生き物と言われており、もちろん捕獲は禁止とされている。
彼は遠くを見るように続ける。
「わしも長い人生で、一度だけ見たことがある。
そんな神話級のモンスターの素材でできていた鎧を、今まで身につけておったとは...」
ゴルグルは表情を変え
「化けの皮が剥がれたのぉ〜。
まさかあんな手段で上り詰めておったとは……」
レアメタルユニコーンの話が観客席内に広がる。
観客席の第六部隊隊長のナリア。
部下が不安そうに尋ねる。
「ナリア様。 レアメタルユニコーンって……」
ナリアは静かに答える。
「ええ。一度だけ、お姉ちゃんと見たことがあるわ。
とても珍しい黒色のユニコーン。
体の光沢も美しくて、とても綺麗だったわ。
まさか...あの鎧のために狩られていたなんて……」
彼女の声には、わずかな寂しさが混じっていた。
会場のざわめきが、さらに大きくなる中、ナリアは静かに目を伏せる。
美しい生き物が、こんな形で使われていた事実が、胸に重くのしかかっていた。
レオンハルトの防具に、観客たちはざわつく。
グリルとレオナも唖然としている。
グリルはレアメタルユニコーンについての特徴を聞いたことがある。
魔力が込められることによって、圧倒的な硬度になり防御力が高まる。
さらには持続的な回復能力も得る。
そして、最も特徴的な点として、効果発動中はわずかな虹色の光沢を放つ。
レオナは信じられない様子で声を上げる。
「嘘でしょ!? そんなモンスターを素材にした防具を……レオンハルトが!?」
会場全体が、黒い鎧の意味を理解し始める。
違法な神話級素材。
それを長年身につけていた第一部隊隊長。
ざわめきは、徐々に怒りと失望の色を帯びていく。
真実が、陽光の下で晒されていた。
闘技場のレオンハルトはカムイを睨む。
「き、貴様……」
カムイは嘲笑うように笑う。
「まさかとは思ったが……そんなもんを身につけていやがったとはな! いつからだ!」
レオンハルトは黙って答えない。
カムイは槍を構え直す。
「まあいい。あとでみっちり問い詰めてやる!」
実はカムイは、神のルミエル時代に、許嫁のアミリアルとの話で気になることがあった。
アミリアルは獣の神。
天界の獣はもちろん、下界の希少な種の管理も行なっていた。
数年前、二匹いるはずのレアメタルユニコーンが一匹いなくなった。
アミリアルは普段から完璧な管理を行っていた。それもあって、この件はかなりの問題になった。
天界の会議で、アミリアルが問い詰められる。
会議室は重苦しい空気に包まれていた。
複数の神々が席に着き、資料を見つめる。
一人の神が厳しい声で切り出す。
「アミリアル。 説明してもらおうか。
なぜ、二匹しかいないレアメタルユニコーンが一匹消えた」
アミリアルは静かに答える。
「……申し訳ありません。
下界での管理を強化していたつもりでしたが、抜けがありました」
別の神が続ける。
「抜け? あれは超希少種だぞ。
管理を任されていたお前の責任は重い」
会議室がざわつく。
そんな中、ルミエルが席から立ち上がる。
「それは違うだろ!」
アミリアルはルミエルを見つめる。
ルミエルは抗議する。
「そもそも!天界と下界の管理を、全てアミリアルに任せること自体どうかしてる!」
周囲も彼を見る。
ルミエルは続ける。
「アミリアルの部下は、下界の管理を一切行っていなかった!
それを、責任感の強いアミリアルが、全部一人で担っていたんだぞ!
それを責めるのはおかしいだろ」
アミリアルは彼を見つめる。
「ルミエル……」
別の神が口を挟む。
「ならなぜいなくなった?単体でも強力なレアメタルユニコーンが、人間に殺された可能性はあるのか?」
議論は続いたが、結論は出なかった。
しかし、ルミエルの発言でアミリアルの責任問題は無くなった。
会議が終わった後、アミリアルは彼に小さく礼を言う。
「……助けてくれて、ありがとう」
ルミエルは軽く笑う。
「当然だろ。 お前が責任を一人で全部背負う必要なんてない」
その記憶が、今のカムイの頭に蘇る。
闘技場に戻る。
彼は黒い鎧を纏ったレオンハルトを、改めて睨む。
真実はまだ完全には明らかになっていない。
しかし、戦いの行方は、すでに変わり始めていた。




