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第八十六話 再会

 授業が終わり、帰宅の時間。

 カムイは今日もリディアの馬車に乗り、途中まで一緒に帰る。

 彼のリディアの強さに感動し、興奮がまだ冷め止まない。

 リディアは自分が強くなって、カムイがこんなにも喜んでくれて嬉しく思った。




 話が一段落し、ふと馬車の外に目をやるカムイ。

 街の人たちのざわめきが聞こえる。


(ほんと……平和だな……人間の世界って……)


 そう思っていると、ふと一瞬、見覚えのある人影とすれ違う。

 青い髪をしたメイド姿の女性。


「!!!」


 彼は思わず身を乗り出す。

 しかし、人が多すぎてすぐに見つからない。

 リディアが不思議そうに尋ねる。


「どうしたの?」

「リディアごめん! ちょっと止めて」


 リディアはすぐに馬車の運転手に声をかける。


「止まってください」


 馬車を降りるカムイ。

 走って後戻りをして見渡すが、見つからない。

 リディアも駆け寄ってくる。


「どうしたの?」

「いや……さっき、リーラによく似た人がいて……」


 彼の見かけた人はリーラだった。

 しかし、一瞬だったし顔はよく見えなかったので、見間違いかと思う。

 カムイはしばらくその場に立ち尽くしていた。




 家に帰るカムイ。

 アリアとエレーナ、レーゼと四人で食事をする。

 ふとカムイは考え事をしていた。

 あの時見た人影はリーラだったのか?

 すると、エレーナがぼーっとしているカムイを見て、茶化すように声をかける。


「なによ。またリディアちゃんのこと考えてるの?」

「そ、そんなんじゃないよ!」

「ふーん。」


 アリアは優しく微笑みながら、二人のやり取りを見守る。

 だが、息子の不安そうな顔に一人違和感を感じる。




 食事が終わり、リビングのソファで槍の手入れをしながら考えるカムイ。

 リーラからもらった槍。

 やはり彼女のことが頭から離れない。




 すると、アリアが隣に座ってくる。


「お母様……」

「何かあったのね?」


 流石は母親。

 少なくともリディアのことで考えていたのではないと見抜いていた。


「すごいな〜お母様は。」

「あなたのことならなんでもわかるわよ♡」


 彼女は胸を張り、少し得意げになる。

 笑うカムイ。




 彼は少し間を置いてから、リーラによく似た人を見かけた話をする。

 アリアの表情が真剣になる。

 ヴァルハートの屋敷から出て数年が経つ。

 アリアもたまに心配になることがあった。

 屋敷に残ったリーラや他の侍女達が酷い目にあっていないか。


「……そう。

 私も時々、気になってはいたわ。

 でも……あの家に戻る勇気が......出なくて。」

「お母様……」


 アリアは小さく息を吐き、彼の手に自分の手を重ねる。




 数日後。

 この日はリディアとのデートの日。

 待ち合わせをして、二人は城下町を散策する。

 服屋に入る二人。

 リディアの服を色々と選ぶ。

 さすがはお嬢様なだけあって、どれもよく似合う。


「やっぱりリディアは何を着ても綺麗だね!」

「も〜!お世辞言って!」


 リディアは照れながら返す。




 すると、カムイがとんでもない服を見つける。

 服というよりコスプレ。

 露出MAXな小悪魔系の服だ。


 説明板には

 《これで夜もはかどります!♡》

 と書かれていた。


 カムイはそれを手に取り、にやりと笑う。


「リディア♡ どう?」

「着るわけないでしょ!!

 まったくもー! スケベなんだから!」


 リディアは一瞬で顔を真っ赤にする。

 怒った声で彼を睨む。


「冗談だよ。 でも……似合うと思うけどな〜♡」


 カムイは苦笑いを浮かべる。

 リディアは服を彼の手から取り上げ、棚に戻す。


「も〜〜!!!」




 レストランでの食事。

 リディアは先ほどの服屋の一件で、まだプンプンしている。


「ほんとあなたって人は!」

「だって〜、リディアはスタイルいいし、何を着ても似合うから……」


 カムイは彼女のスタイルを褒めつつ、誤魔化そうとする。

 だがリディアは騙されない。


「お世辞で誤魔化そうとしても無駄よ。

 ああいう服を勧めるセンスが問題なんだから」

「えへへ」


 笑うカムイ。

 何だかんだで、こういう時間が一番幸せに感じるリディア。

 カムイがハンターになり、会うことが極端に減り、本当に寂しかった。

 しかし、今こうして同じ時間を過ごせているのが本当に嬉しい。


(ちょっと変態なところはあるけど...)


 とは思いつつ。

 彼女は小さく息を吐き、穏やかに続ける。


「……まあ、いいわ。

 今日はデートなんだから、これ以上は責めないであげる。」

「ありがとう。 助かるよ」


 テーブルの上で、温かい食事と軽い会話が続いていく。




 食事を終える二人。

 日も沈みかけてきた。

 明日もまた騎士学校での実践授業。

 今日は帰ることにする。

 カムイは歩きながらぼやく。


「は〜。授業っていっても、他の生徒じゃあんまり相手にならないもんな〜」


 実際、クラスの中ではカムイとリディアが圧倒的に強い。

 少し退屈はしていた。

 リディアはふふっと笑い、提案する。


「だったらみんなを強くしてあげなよ!」

「それいいな!」


 カムイは目を輝かせる。




 仲良く話していると、カムイが足を止め唖然とする。


「……えっ」


 城下町の賑やかな市場。

 買い物をしている女性の姿。

 今度は間違いない。

 あの横顔。

 髪の色。

 少し容姿が変わってはいるが、間違えるはずがない。


(リーラだ!)


 すかさず駆け出すカムイ。

 リディアも追いかける。

 買い物を済ませた女性は歩きだし、背を向ける。

 カムイが声を上げる。


「リーラ!」


 肩に手を置く。

 驚いた女性は振り返る。

 顔を見合わせる二人。

 女性はみるみる顔が驚きに変わり、小さく呟く。


「……カムイ……おぼっちゃま……!」


 成長した彼にすぐに気づいたリーラ。

 カムイは久しぶりに会えて嬉しく思う。


「久しぶりリーラ! 元気にしてた!?」


 慌て気味に聞く。

 しかし、リーラは俯き、震える声で答える。


「も、申し訳ありません。 失礼します!」


 そう言って、逃げるように去ってしまう。

 人混みの中に消えていく彼女の背中を、カムイはただ見つめるしかなかった。

 リディアが息を切らしながら追いつき、心配そうに尋ねる。


「カムイ……今の人......」


 リディアもリーラのことは覚えていた。

 カムイは小さく頷く。


「うん。 リーラだ……」

「やっぱり! ……でも、だいぶやつれてたよね?」

「うん……何があったんだろ」


 カムイは視線を落としたまま答える。

 声をかける前のリーラは、まるで心を失ったかのようだった。

 二人はしばらくその場に立ち尽くし、不安を共有する。




 帰宅するカムイ。

 アリアが出迎えてくれた。

「おかえりなさい。 カムイ」

 エレーナとレーゼはお風呂に入っていた。

 ちょうどよかったと思うカムイ。

 彼は静かに切り出す。


「お母様。少しお話が。」


 二人はテーブルに座り、話をする。

 今日、リーラを街で見かけたこと。

 話しかけたらやっぱり本人で、別人のようにやつれてしまっていたこと。

 アリアは震える声で確認する。


「本当に……リーラだった?」

「うん。 だって、僕の名前を言ったんだ。」


 アリアは俯き、静かに息を吐く。


「……何かあったに違いないわ。」


 カムイが提案する。


「明日……グリルさん達に相談しよう。

 グリルさんやレオナさんなら、何とかしてくれるかも!」

「そうね。 それがいいわ。」


 テーブルの上で、母と息子の深刻な会話が続く。

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