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第八十五話 才能

 数日後。

 この日は学校は休み。

 カムイはエレーナに買い物を手伝わされた。

 街の裏路地で開かれている魔道具の出店に二人は来ていた。

 城下町付近だが、人通りも少ない場所なので、エレーナも安心して買い物ができる。

 凄まじい量の荷物を持たされるカムイ。


「エレーナ。 まだ買うの?」

「当たり前じゃない! 次はこっち!」


 完全に買い物要員に連れてこられた彼氏のようだった。

 エレーナは次の店を指差し、楽しそうに続ける。


「あの店!珍しい道具を扱ってるって聞いたの。

 絶対見ていかないと! カムイ、しっかり持っててね」

「はいはい。 わかったよ」


 裏路地の空気の中で、二人の軽い会話が続いている。




 買い物を終えてご満悦のエレーナ。

 カムイは必死に荷物を持っている。

 すると、突然声をかけられる。


「カムイ?」


 振り向くと、リディアだった。

 彼女も噂を聞いて、この出店地まで来ていた。


(リディア!? こんなところで!? マ、マズイ!)


 リディアが穏やかに尋ねる。


「こんなところで買い物?」


 その瞬間、エレーナが後で声を上げる。


「カムイ〜! 次こっち……」


 リディアの姿に気づく。

 二人は顔を合わせ、お互いを睨み合う。

 言葉は発しないが、一触即発の雰囲気が漂う。

 かつての家での争いを思い出すカムイ。

 リディアは静かに唇を引き結ぶ。


「……偶然ですね。」

「ええ、そうね。」

(……なんでこんな日に限って)


 荷物を抱えたカムイは、冷や汗をかきながら小さく呟く。

 裏路地の空気が、急に張り詰めていく。




 エレーナが先制攻撃をかける。


「いいところのお嬢様が、一人でこんなところでお買い物?」

「ええ!今度カムイと一緒にデートしようと思ってね。

 下見よ!」


 デートを猛アピールする。

 エレーナは一歩も引かず、強気の姿勢を崩さない。


「へー!今日は私とデートしてるけどね!」


 リディアは心の中で怒りを募らせる。


(エレーナさん......やっぱりカムイのこと)


 エレーナがカムイに好意があることを改めて確信する。

 そしてさらに思う。


(カムイもカムイよ!この間あんなに愛してくれたのに!なんでこの子とデートしてるのよ!)




 その後も二人は言葉を交わす。

 リディアが静かに続ける。


「ふん!買い物に付き合ってもらうだけでデートだなんて。ずいぶんと慎ましいのね」

「 少なくとも、あなたみたいに『下見』なんて言い訳しながら、一人でうろつくよりはマシよ

 それとも……誘ってもらえなかったから一人で下見してるの?」


 荷物を抱えたカムイは、二人の間で小さく息を飲む。


「……あの、二人とも……」


 しかし、彼女たちの視線はもうカムイに向いていない。

 鋭い空気が漂い続けている。




 しばらくいがみ合う二人。

 やがて「ふん!」と、お互い顔を逸らす。

 エレーナが先に宣言する。


「行くよ! カムイ!」

「お、おい待てよ!」


 その隙にリディアがカムイの隣に寄り、静かに、しかしはっきりと告げる。


「カムイ……今度じっくりお話ししましょう」

「は、はい……」


 申し訳なさもありつつ、彼はエレーナを追いかける。

 後ろからリディアの視線を感じながら、心の中で強く思う。


(ど、どうすればいいんだ〜)


 神の時も含め、これほど修羅場に困ったのは初めてだった。

 荷物を抱えたまま、彼はエレーナの後を急ぎ足で追う。




 その日の夜。

 ベッドでアリアと横になるカムイ。

 彼は少し疲れた様子で天井を見つめながら切り出す。


「今日……リディアとエレーナが街で顔を合わせちゃって。

 また険悪な空気になっちゃったよ...」

「あらあら♡ リディアちゃんもエレーナも、本当にカムイが好きなのね♡」

「笑い事じゃないですよお母様〜」

「大丈夫よ。 喧嘩するほど仲がいいって言うでしょ?」

「ほんとかな〜?」




 アリアは小さく笑い、続ける。


「ふふ……でもね、カムイ。

 二人ともあなたを大切に思ってるからこそ、ああなるのよ。

 だからお母様は心配してないわ。

 あなたがちゃんと向き合えば、きっといい方向に行くから」

「……そうだといいんですけど」

「大丈夫よ。

 お母様がついてるもの♡」


 アリアは彼の額に軽くキスをする。

 ベッドの上で、穏やかな会話が続いていく。




 彼女はふと思いついたように、カムイに顔を寄せる。


「そうだわーリディアちゃんとエレーナ。同時に愛してあげたらどうかしら?」


 凄まじい提案をしてきた。

 カムイは驚愕する。


「えっ……お母様、それ……」


 しかし、いざ想像してみると、悪くないと思った。

 リディアとエレーナと三人で仲良く過ごす。


 エレーナが腕に抱きついてくる。


「カムイ♡」


 リディアが負けじと


「違うわよ♡ こっち見て♡」


 だが、すぐに妄想を現実が掻き消す。

 おそらく現実は、ケンカしながら取り合うだろう。

 ため息をつくカムイ。


「……絶対そうなる」

「なかなか大変ね」


 そして心の中で、静かに独占欲を抱くアリア。


(まあ私は母親として、カムイを独り占めできるけど♡)


 しかし彼女は、念には念を入れて、カムイにお願いする。


「でも……お母様のことも大切にしてね♡」

「大丈夫だよ。お母様。」


 カムイは笑顔で返し、アリアを安心させる。






 翌日。

 騎士学校。昼食の時間。

 カムイとリディアはいつもの中庭のベンチで食事をする。

 しかし、昨日の気まずさがあってか、無言のまま食事をする。

 カムイは心の中で不安を抱く)


(まずいな……怒ってるのかな?)


 すると、リディアが静かに口を開く。


「ねぇカムイ」

「どうした!?」


 少し聞きづらそうなリディア。


(どうしたんだろう?)


 カムイは様子を窺う。

 リディアは勇気を出して、顔を赤くしながら尋ねる。


「その……エレーナさんより、わたしの方が愛せてた?」


 一瞬、意味がわからないカムイ。


「ん? なにが?」


 聞いてしまう。

 リディアはさらに真っ赤になって、声を低くする。


「言わせないでよ! ……その、昨日のこと……」


 カムイは自分の鈍感さに後悔し、すぐに謝る。


「ああ、それか……! ごめん、鈍くて。

 ……うん。 リディアの方が……嬉しかったよ。」


 エレーナには申し訳ないとは思いつつ、リディアに気を使うカムイ。

 リディアは少し安堵したように息を吐く。


「……そう」


 ベンチの上で、少しだけ空気が和らいでいく。




 リディアは静かに尋ねる。


「カムイはさ。 エレーナさんのことをどう思ってるの?」


 カムイは答えにくい。

 家族のような存在と言いたいが、実際は赤の他人。女性としてもとても素敵な存在のため、なんとも言えない。

 彼は言葉を濁す。


「……それは、その……大事な家族っていうか......


 すると、リディアはため息をつく。


「仕方ないわよね。 あなた女の人が大好きだから」


 少し嫌味を込めた声。

 カムイは俯く。


「ごめん……」

「べ、別に...まだ彼女でもない私に、カムイの女性関係をどうこう言う権利はないけど...その...もし将来...お、お付き合いとか...したとしたら...」


 たどたどしくなるリディア。

 黙って聞くカムイ。

 リディアははっきりと告げる。


「あなたは...どうせ他の女性にも手を出すでしょうね!そんな時に、こんなことでいちいち怒ってたら、もたないから!」


 カムイは驚き「リ、リディア...」と。

 リディアは真っ赤になり慌てふためく。


「私が浮気に寛容ってわけじゃないわよ!……この国じゃ、そういう人もいるし、本当は嫌だけど......特別な人ならって話で!」


 カムイは笑う。


「何笑ってるのよ!」

「ごめん!!」


 フラスタリア王国で、一夫多妻は決して珍しいものではない。

 リディアはカムイの性格を考えて、そのことを含め、将来を見据えてる感じだった。

 ベンチで、二人の間に少しだけ穏やかな空気が戻る。




 話は終わり、食事も食べ終わる二人。

 リディアは大きく息を吐き、満足げに声を上げる。


「あーあ! スッキリした!」


 言いたいことが言え、聞きたいことも聞けた様子だった。

 そして彼女は改めて切り出す。


「ねぇカムイ。 今日なんだけどさ。

 授業で模擬戦があるから戦ってくれない?」

「えっ!? なんで!?」


 リディアは少し得意げに胸を張る。


「あなたとは、一度も戦ったことないでしょ?

 強くなった私を見てほしいの!」

「お、おう……」


 カムイは戸惑いながらも答える。

 リディアはさらに続け、少し意地悪く笑う。


「それに! 今のこのイライラをぶつけるにはちょうどいいからね!」

「おいおい……」


 笑うリディア。

 彼女の表情は、さっきまでの重さを少しだけ溶かしていた。




 実戦授業。

 ガルド先生が模擬戦の話をする。

 リディアがすぐに手を挙げ、はっきりと告げる。


「わたし……カムイと戦いたいです!」


 辺りは騒然とする。

 部隊長の子供同士の戦い。

 先生も生徒も、見たくなる内容だった。




 武器の準備をする二人。

 カムイは槍の素振りをし、リディアは愛剣の確認をする。

 カムイは心の中で思う。


(リディアのやつ……なんだろう? 急に戦いたいだなんて……)


 リディアが静かに提案する。


「魔法は無しで。

 本気の戦いにしましょう」

「わかった。」


 構える二人。

 ガルド先生の合図が響く。


「始め!」


 次の瞬間、二人は同時に動き、ぶつかり合う。

 槍と剣が激しく交錯し、乾いた音が訓練場に広がっていく。




 カムイの槍とリディアの剣が激しくぶつかる。

 乾いた金属音が訓練場に響き渡る。

 カムイはリディアの剣の破壊力に、思わず目を見開く。


(こ、こいつ……いつの間にこんな力を!?

 ハンターのおっさん達よりも強い!)


 リディアはさらに流れるような剣技を披露する。

 洗練された動きに、カムイは槍での防戦一方になる。

 生徒たちも盛り上がる。


「さすがリディアちゃん!」

「うん! 下等部の時も圧倒的だったもんね!」


 カムイは反撃の一瞬を見逃さない。

 似ている剣技を思い出す。

 天界の許嫁のフロリスの剣技だ。

 剣の神にも匹敵するリディアの戦い。

 ルミエル時代に何度もフロリスと戦わされていた。

 彼女の剣技は嫌というほどわかっている。

 動きのパターンも似ていたため、うまく隙をついた。




 槍が一瞬、リディアの剣を弾く。

 生徒たちの声がさらに大きくなる。


「すごーい!」

「さすがカムイ君!」

「ハンターしてたってのも伊達じゃないな!」


 距離をとる二人。

 リディアは息を整えながら、素直に感心した声を上げる。


「すごいねカムイ! 私の動きについてこれるなんて!」

「まあな!」


 カムイは槍を構え直しながら、軽く笑う。

 訓練場に、熱のこもった空気が広がっていく。




 リディアは笑い、腰にあるもう一本の剣を抜く。

 以前デートした時に買った剣だ。


「じゃこれでどう?」

「えっ?」


 なんとリディアは二刀流だったのだ。


「いくよ!」


 向かってくるリディア。

 先ほどよりも早い。

 二刀による猛攻。

 カムイも内心で慌てる。


(こりゃやべぇぞ!)


 彼は小さく呟く。


(……リディア。 悪い!)


 そう思って神聖力を解放する。

 リディアは一瞬、違和感を覚える。


(ん? 何? なんか雰囲気が……)


 カムイの反撃。

 神聖力で体を強化した槍による攻撃が放たれる。

 しかし驚くことに、リディアは全く臆していない。


(う、嘘だろ!?)


 余計な感情の隙をつくリディア。

 二刀でカムイを薙ぎ払う。

 訓練所の壁に激突するカムイ。

 ガルド先生が大声で叫ぶ。


「カムイ!!」


 リディアも青ざめて声を上げる。


「いけない!」


 訓練場に、重い沈黙が落ちる。




 カムイが激突した壁は崩れる。

 埋もれるカムイ。

 しかし彼は無事だった。


「いててて……またこのパターンかよ...」


 と出てきて、地面に座り込む。

 すぐにリディアが駆け寄る。


「カムイ!」


 心配した声で呼びかける。

 リディアのことを見上げるカムイ。

 ふと思う。


(リディア……この子はすごい!

 もしかしたら……神だって超えられるかも!)


 リディアに凄まじい可能性を感じた。

 嬉しくなったカムイは、すぐに立ち上がり、リディアに抱きつく。

 大喜びの声を上げる。


「すごい! すごいよリディア!

 君は天才だ!!」


 無邪気に子供のように喜ぶカムイ。

 リディアは顔を真っ赤にして驚く。


「ちょ!? ちょっとカムイ!?」


 それでも彼の腕の中で、照れつつも小さく呟く。


「もう……いきなり抱きつかないでよ……」


 心の中ではしっかりと喜んでいる。

 壁の崩れた跡の前で、甘い空気が少しだけ広がる。




 無邪気に抱き合っていると、ガルド先生が咳払いをする。

 カムイとリディアはハッとして、すぐに離れる。

 イチャイチャしているところを、クラス全員に見られていた。

 すぐに皆から茶化される。


「おお〜、熱いね〜」

「模擬戦の後に抱擁かよ」


 ガルド先生も真面目な顔で告げる。


「以後気をつけるように。

 訓練場はそういう場所ではないからな」


「……すみません」

「はい……気をつけます」


 カムイは頭を掻きながら反省する。

 リディアも顔を赤くしたまま、小さく頷く。

 訓練場に笑い声が広がる中、二人は少し気まずい空気を共有する。

 それでも、さっきの抱きつきの余韻は、まだ完全には消えていなかった。

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