第八十四話 決心
リディアとのデートが終わり、カムイはリディアを家まで送る。
リディアは優しく微笑む。
「これからもよろしくね♡」
「うん。 こちらこそ」
リディアと別れ、急いで家に帰るカムイ。
夜も遅く連絡もしていない。
「やべぇ〜! お母様怒ってるかな〜」
家に着いたカムイ。あかりはついていない。
庭で寝ていたパラディンはカムイの気配に気づき、目を覚ます。
カムイがパラディンに「しー!」とすると、首を傾げるパラディン。
こそ〜っと家に入るカムイ。
小さな声で「ただいま〜」と告げる。
(よし! みんな寝てるな)
と思い中に入ると、電気がつく。
リビングにアリアがいた。
「お、お母様……」
「カムイ! 何時だと思ってるの!」
アリアは声をあげて怒る。
しかし、もちろん心配もしていた。
カムイを抱きしめて、無事でよかったと安堵するアリア。
「……無事に帰ってきてくれて......よかった」
(悪いことしちゃったな〜)
静かな夜のリビングに、二人の姿があった。
ソファに座って話すカムイとアリア。
カムイはリディアとのデートの話をする。
肝心なところは話さないが、アリアは優しく頷きながら聞いている。
元からリディアのことは気に入っているアリア。
楽しそうに話を聞いてくれる。
すると、アリアがカムイに寄り、少し嫉妬したように唇を尖らせる。
「も〜♡リディアちゃんの話ばっかり〜。もうお母様のこと忘れちゃった〜?」
カムイはニヤリと笑い、すぐにアリアに抱きつく。
「そんなことないよ〜」
カムイはアリアに甘えまくる。
アリアも、こうして息子が甘えてくれるのは何よりも嬉しい。
「ふふ。うれしいわ♡」
アリアは嬉しそうに声を弾ませ、カムイの頭を撫でる。
「お母様も、まだまだ若い子には負けないわよ♡」
カムイはアリアの手の感触を味わいながら、満足げに答える。
「うん。 わかってるよ。
お母様は特別だもん♡」
「ふふ……いい子ね。
じゃあ今夜もいっぱい甘えさせてあげる」
アリアは再度彼の頭を撫でる。
ソファの上で、親子の穏やかで温かい空気が満ちていく。
カムイがアリアに甘えまくっていると、リビングの扉が開く。
エレーナが立っていた。
慌てふためく二人。
アリアに至っては、カムイとの甘々な関係がバレてしまい、より慌てる。
「エ、エレーナ……! これは......その……!」
しかし、エレーナはすでにそんなこと知っていた。
ため息をつく。
「大丈夫です。もう知ってますから。」
アリアは呆気に取られる。
「お邪魔しました〜」と言い残し、そのまま部屋に戻っていく。
カムイはエレーナを追いかける。
「お母様!ちょっと待ってて!」
リビングから出るカムイ。
「エレーナ!まって!」
廊下で立ち止まる二人。
カムイは申し訳なさそうに口を開く。
「エレーナ……その……」
エレーナは振り返りカムイに詰め寄る。
「どうせ!リディアちゃんと二人きりだったんでしょ!」
カムイは黙り込んでしまう。
「まったく......いいご身分ね〜。女性を選びたい放題だなんて」
そして、エレーナは少し恥ずかしそう言う。
「それで?どうだったのよ...」
自分とリディア。どちらとの時間が良かったか気になる様子だ。
カムイは答える。
「その......どっちもよかった...」
「はい?」
どっちつかずの答えに呆れるエレーナ。
「まったく......ほんとどうしようもないわね。」
部屋に戻ろうとするエレーナ。
すると、カムイが止める。
「エレーナ!!」
「な、なによ!?」
カムイは正直に、今の気持ちを伝える。
「僕......リディアのことも、エレーナのことも、みんな幸せにしたいんだ!」
目を見開くエレーナ。突然の発言につい笑ってしまう。
「ふふふ!何それ?浮気宣言?」
「そういうわけじゃ……」
エレーナはたじろぐカムイを見て、少し意地悪く囁く。
「そんなに慌てるなんて、
それだけ、私のことも考えてくれてるの?」
「当たり前だろ!」
エレーナは彼に擦り寄り、甘く微笑む。
「ふ〜ん♡」
「な、なんだよ?」
「あなたがそれでいいなら......いいんじゃない♡」
いい笑顔でそう言い残し、彼女は部屋に戻っていく。
廊下に複雑な空気が残る。
ベッドで眠るエレーナ。
彼女は諦めてはいなかった。
カムイがハーレムを目指すならそれは全く構わない。むしろ彼の女性好きを考えると、一人で受け入れるのには限界がある。
ならば、もっと魅力的な女性になって、たくさんいる中の一番になろうと決意する。
自分でもおかしくなり、小さく笑ってしまう。
(他にも女の人がいてもいいだなんて...変なの。
それだけ私、カムイのことが好きなんだな〜)
昔の自分では考えられない思いを抱く。
カムイはリビングのアリアの元へ戻る。
アリアは心配そうに尋ねる。
「大丈夫?」
「う、うん。エレーナが...どっちがよかった?って...」
アリアは目を丸くする。
「カ、カムイ...それってどういう...」
アリアはカムイがエレーナやリディアと深い関係があることを知らなかった。
口が滑って、慌てるカムイ。
「そ、それは……その……」
アリアに正直に話すカムイ。
彼女は怒ることもなく、むしろ楽しそうに笑う。
「ほ〜んとませた子ね〜♡」
「だって……」
アリアは優しく彼の頭を撫でる。
「ふふ。 いいわよ。
お母様は怒らないから。
ただ……ちゃんと責任は取りなさいね?」
「……はい」
静かな夜のリビングに、甘い空気と少し複雑な思いが混ざっていた。
アリアはカムイの頬をつつき、優しく笑う。
「まったくも〜♡ どうしてこの子には、いろんな女の子が惚れちゃうのかしらね♡」
「お、お母様……」
彼は考える。
リディアもエレーナも傷つけたくはない。
彼女達の気持ちに応えてあげたい。
「う〜ん」と、小さく唸る。
そんな様子を見るアリア。
(この子……やっぱり)
静かに名前を呼ぶ。
「カムイ」
「なんですか?」
アリアは優しく続ける。
「あなたは本当に優しい子ね」
驚くカムイ。
アリアはさらに言葉を重ねる。
「私は......あなたが、みんなを幸せに愛せると信じてるわ。
だって……そんなに悩めるんですもの」
ハッとするカムイ。
ルミエル時代では考えもしなかった。
皆を愛するために必死に考えるなど。
いつも欲任せだった。
カムイは答える。
「ありがとう。お母様。」
アリアは心の中で強く思う。
(大丈夫……この子はあの人のようにはならない)
ソファの上で、母と息子の静かな時間が流れていく。
すると、アリアが早速カムイに抱きつく。
「それじゃカムイ。まずは私を愛して♡」
「お、お母様...」
アリアは妖艶に微笑む。
「リディアちゃんとエレーナ。二人だけじゃなくてお母様もお願いね♡」
エンジン全開だった。
「いや……その、今日はもう......リディアと過ごしたからさ……」
「大丈夫よ♡ カムイはいつでもみんなを愛せるんだから。」
アリアは彼を抱きしめる。
彼は心の中で不安を抱く。
(俺……明日生きてるかな?)
翌朝。
気絶するように眠っていたカムイ。
目を覚ますと、すでに朝だった。
(……あ。 朝か……そうか、俺……)
昨日の夜を思い出す。
アリアとの穏やかな夜。甘えまくっているうちに眠ってしまったようだ。
寝室。
ベッドの上。
アリアはカムイを抱きしめて頭を撫でる。
「お母様♡」
「ふふ♡かわいい♡」
朝の光の中で、カムイは天井を見つめる。
(ほんと……アリアの親バカってすごいよな……)
気が抜けているのか、体はなぜか重い。
仰向けでふと顔を上げるカムイ。
少し寝ぼけてはいるが、なぜか布団が妙に膨らんでいる。
(ま、まさか……)
アリアの寝相が悪かったのかと思ったが、やけに布団の膨らみが大きい。
(えっ?)
恐る恐る布団を取ると衝撃の光景が。
「あら。おはようカムイ。」
アリアがカムイに抱きついていた。
驚きだったのはもう一人。
なんとエレーナも、アリアと共に抱きついていた。
驚愕するカムイ。
「エ、エレーナ!? なんで!?」
エレーナは恥ずかしそうに顔を赤くし、少し怒ったように答える。
「二人がなかなか起きてこないから、部屋まで見に来たのよ。
そしたらあんた!また失神してるじゃない!」
これで三度目。
先に起きたアリアが、エレーナに事情を説明してくれていた。
「ふふ♡ エレーナが心配して来てくれたのよ。
それで……カムイと一緒に寝ましょうって誘っちゃった♡」
エレーナは視線を逸らしながらも話を続ける。
「……アリアさんが誘ってくれたから...断るわけにもいかないでしょ?それに...カムイと一緒にいたかったし......」
アリアは満足げに微笑み、二人を見渡す。
三人で穏やかに過ごしていると、少し遠慮がちにアリアに尋ねるエレーナ。
「アリアさんは……その……どのくらいカムイと?」
「ん〜。ここに引っ越してからほぼ毎日甘えてくれるかしらね♡」
「ほぼ毎日!!」
衝撃的な頻度に、エレーナは目を丸くする。
アリアはさらに続ける。
「本当可愛いわよ。甘えてくれるカムイ♡」
「ちょ!お母様!」
カムイは恥ずかしそうにする。
彼がたじたじな様子を見て驚くエレーナ。
息を整えながら、素直に感動する。
そして彼女は、アリアに真剣に頼む。
「アリアさん……いろいろと教えて欲しいです!
カムイにもっと......愛されたいんです!!!」
アリアは少し悩むように目を細めるが、すぐに優しく答える。
「ええ。いいわよ」
「ありがとうございます!」
一方、カムイは天井を見つめたまま、小さく思う。
(俺の意思は?)
ベッドの上で奇妙な空気が漂っていた。
二人から引っ張りだこで、カムイはより一層疲れた。
白目になりそうな彼を見て、アリアは優しく微笑む。
「あらあら♡」
「うわ〜」
彼は力なく呟く。
「……もう無理……」
アリアは満足げに立ち上がり、エレーナを誘う。
「さあ、エレーナ。
朝ごはんの準備をしましょうか。
カムイも少し休ませてあげないとね」
「わかりました。」
二人は服を着て部屋を出る。
ベッドに残されたカムイは、天井を見つめたまま小さく息を吐く。
「……今日は安静にしよう……」
朝の光が、静かに部屋を照らしていた。




