第八十三話 初めて
数日後。
この日はリディアとのデートの日だった。
広場で集合したカムイとリディア。
彼が先に到着し、彼女が少し遅れてやってくる。
「お待たせ」
「ううん。 今来たところだよ」
二人は仲良く歩き出す。
リディアが恥ずかしそうに切り出す。
「あの……この間はごめんね。
お母様が......」
いい感じになっていたところに、母レオナが入ってきてしまったことを謝る。
カムイも少し赤くなりながら答える。
「いやいや全然!
僕もちょっと勢い任せだったし」
彼女はチラッとカムイを見る。
「もしも恋人同士なら……サラッとできたのにね♡」
「えっ!? そ、それは……」
彼女は楽しそうに笑う。
二人は武器屋に寄る。
店内に並ぶたくさんの剣を前に、リディアは目を輝かせる。
カムイはそんな様子を見て、心の中で思う。
(本当に剣が好きなんだな〜)
ちょうど新しい剣が一本欲しかったリディア。
慎重に何本も手に取っては眺め、また戻す。
しかしだんだんとわからなくなったのか、彼の方を向いてお願いする。
「カムイ……選んでくれる?」
(よ〜し!)
こっそり神聖力を使い、目を強化する。
すると、一本だけ素晴らしいオーラを放つ剣が目に入った。
「あれ!」
高いところに飾ってあった剣。
店主も、存在すら忘れていたらしい。
「おお、これか……。
なんであんなところに置いたんだか、自分でもわからんわ」
店主は苦笑いしながら、丁寧に下ろしてくれる。
どうやらなかなかの代物だった。
いい買い物ができた。
剣を持ち、ルンルンで歩くリディア。
「ありがとう♡」
二人は並んで、次の場所へと向かっていく。
カムイはリディアの買った剣を、異次元収納袋に入れる。
初めて見るアイテムに、彼女は目を輝かせる。
「へー。 カムイって珍しいもの持ってるのね」
以前ゼノヴィアからもらったものだ。
二人が歩いていると、突然の大雨が降り出す。
走るカムイとリディア。
適当に店に入ってしまう。
そこは宿だった。
しかも、男女カップル用の妖艶な雰囲気のある宿。
(し、しまったぁ!!!)
カムイは心の中で叫ぶ。
リディアも顔を真っ赤にする。
受付の綺麗なお姉さんが二人を見て、にこやかに声をかける。
「あら♡ お二人様ね」
「あ、あの……」
「わ、私たち別に……」
間違えて入ったと言う隙も与えてくれず、流れるように部屋に案内されてしまう。
「こちらへどうぞ」
二人は慌てて言葉を重ねる。
「あ、あの! ちょっと待ってください!」
「私たち、そういうんじゃなくて……」
案内のお姉さんは全く聞いていない様子で微笑む。
「ふふふ♡ 昼間からお盛んね。
ごゆっくり」
そのまま扉を閉められてしまう。
部屋の中に、気まずい沈黙が落ちる。
カムイは呟く。
「やっちまった……」
「……どうしよう」
リディアも俯いて、小さな声で返す。
リディアが慌てたように提案する。
「ちょ、ちょっとお話ししましょう!
雨も降ったし! ちょうど休みたかったし!」
カムイも同じく動揺しながら頷く。
「そうだね!
別にどう過ごしたっていいもんね!」
二人は明らかに動揺している。
なぜかベッドで隣り合わせに座ってしまう。
「なんでベッドに座ってるんだろ!?」
「さぁ?」
少し沈黙が流れた後、リディアが再びこの間の話を切り出す。
「あの……この間のことだけど。
あのままお母様が来なかったら……キスしてくれた?」
「えっ!? そ、それは……」
リディアはさらに踏み込んで質問を変える。
「カムイはさ......私のことどう思ってる?」
「えっ……」
リディアは微笑み、静かに続ける。
「私はね……大好きだよ♡」
本気でカムイのことを異性として好きだと、勇気を持って伝えてくれる。
彼女が初めてカムイを意識するようになったのは、盗賊団から助けてくれた時。
初めは無茶をする子だなと思っていた。
しかし、あの日から頼り甲斐を感じて、意識し始めた。
騎士学校にも誘って、舞踏会でペアを組んだ。
カムイは途中で学校を休学してしまったが、手紙のやり取りができて、毎日が楽しかったらしい。
部屋に彼女の真剣な声が響く。
カムイはその言葉を受け止める。
リディアはカムイの手を握る。
「私! これからも……あなたとずっと一緒に……いたい。
ずっとそばに……隣にいたい」
カムイはリディアの気持ちに思う。
(リディア……やっぱり俺は、君にとって一番の男なんだな。)
カムイはリディアの手を握り返す。
「リディア。僕も好きだよ」
「カムイ……♡」
リディアは目を見開き、声を震わせる。
部屋に甘い空気が満ちていく。
二人はシャワーを済ませる。
バスローブを着て、先に待っていたカムイ。
リディアが戻ってくる。
「お待たせ」
シャワー上がりのリディアに、カムイは見惚れてしまう。
普段のツインテールをほどいて、綺麗になびく銀髪。
「どうしたの?」
「いや……リディアのその髪型、初めて見るなって思って」
彼女は顔を赤くして、嬉しそうに微笑む。
バスローブ姿の二人は、ベッドで隣り合わせに座り、そっと身を寄せ合う。
カムイはゆっくりとキスをする。
リディアも目を閉じ、幸せそうに微笑んだ。
(やっと……カムイとキスできた……)
長い間、ずっと想い続けてきた人。
その人が今、すぐ隣にいて、自分を優しく抱きしめてくれている。
リディアにとって、それは夢のような時間だった。
カムイは彼女の顔を覗き込み、いたずらっぽく微笑む。
「もっと可愛いリディアをみたいな」
「もー! 意地悪なんだから♡」
そう言いながらも、リディアの表情は幸せそうだった。
二人はとても楽しく穏やかな時を過ごせた。
驚くこともいろいろあったが、彼が優しく接してくれて、気まずくなることはなかった。
カムイも、リディアとお互いの気持ちを確認し合えて嬉しかった。同い年の女の子。幼い頃から共に過ごしていただけあって息も合う。
さらには、リディアはきちんとした性格であるため、カムイのいい加減な性格を上手くフォローしてくれた。
「こういうのはちゃんとしないとね。」
「あ、ああ......」
普段のカムイなら全く気にしない出来事を
正反対な性格ではあるが、お互いの良いところと悪いところを分かり合えてる気がして嬉しかった。
気づけば夜になっていた。
ベッドの上でリディアはカムイにくっつく。
カムイは横になったまま、リディアを抱き寄せる。
ふと、リディアが静かに尋ねる。
「カムイ……ひょっとしてあなたって……」
ギクっとするカムイ。
リディアは怪しむ目になり、詰め寄ってくる。
「ねぇ! 誰なの? カムイの......その......
「え〜っと〜」
カムイは言葉を濁す。
「誰!ねぇ!誰なの!」
そしてリディアはハッとしたように目を見開く。
「も、もしかして! エレーナじゃないでしょうね!」
エレーナではないが、リディアより先に愛を語り合った。バレたらやばいかもしれない。
誤魔化そうとするも、すぐにバレてしまった。
しかし、リディアは怒るわけではなく、悔しそうに声を上げる。
「悔しい! よりにもよってあの子に先を越されるなんて!」
「あ、あの……リディア……」
彼女は彼の胸に顔を埋めながら思う。
(くっ......エレーナの方が一歩リードって感じね。
大丈夫!ここからでも十分間に合う!)
いいハンデを与えてやったと思うリディア。
カムイへの思いは誰にも負けない自信を再確認する。




