第八十二話 招待
学校が終わり、帰ろうとするカムイとリディア。
すると、後ろから声がかかる。
「おーい! リディア!」
レオナが駆け寄ってくる。
どうやら彼女もちょうど仕事が終わったようで、一緒に帰ることになる。
三人で馬車に乗る。
レオナがふと思いついたように提案する。
「カムイ!屋敷に来て、一緒に食事でもどうだ!」
「いいんですか!」
「ああ! グリルも久しぶりにお前に会いたがってるはずだ!」
お言葉に甘えて、彼は了承する。
「よし! アリアさんには私から連絡しておこう!」
こうして、彼はシルバレイン家に招待されることになった。
馬車は屋敷へ向かって走り出す。
シルバレイン家に到着する。
相変わらずとても大きく豪華な屋敷だった。
屋敷に入ると、多くの侍女が出迎えてくれる。
「レオナ様、リディア様。 おかえりなさいませ」
侍女の一人が彼を見て、丁寧に頭を下げる。
彼は心の中で思う。
(相変わらずシルバレイン家の侍女さんは綺麗な人が多いな♡)
リビングに案内されると、グリルが待っていた。
彼はすぐに声を上げる。
「おお、カムイ! 久しぶりだな!」
「お久しぶりです」
「聞いてるぞ! ハンターとして大活躍だったみたいだな!」
久しぶりの再会に、一同は笑顔になる。
リビングに、穏やかな空気が広がっていく。
夕食をご馳走になるカムイ。
久しぶりのかしこまった場に、少し緊張している。
レオナはそれを見て笑い、声をかける。
「カムイ! そんなにかしこまるな!」
「お、お母様!」
豪快に食事をする彼女に、リディアが恥ずかしそうに止める。
賑やかな食卓の中、グリルがカムイに話しかける。
「どうだった? ハンターとしての人生は?」
「はい。 とても素晴らしい時間でした!
最初は不安がありましたけど、ハンターのみんなは優しくて、きちんとした芯がありました!」
「そうか……」
グリルは心の中で思う。
ハンターとは忌み嫌う存在だと思っていた。
しかし、最近耳にする噂や彼からの話を聞いて、考えを改めなければならないと感じた。
グリルが少し真剣な顔になり、口を開く。
「カムイ。すまなかったな……家族を割くようなことをしてしまって。」
彼はヴァルハート家の事情を知っている。
妻のレオナがレオンハルトの素行調査をしなければ、こんなことにはならなかったと、反省していた。
レオナはすぐに否定する。
「何言ってんだい! 悪いのは全部あいつだろ!」
「それもそうだが……」
カムイはグリルの方を見て穏やかに微笑む。
「グリルさん。 ありがとうございます。
でも...僕もお母様も、後悔はしてません!
むしろ知れてよかったとまで思えます」
彼の大人びた対応に、グリルは少し驚く。
彼はさらに続ける。
「お父様の……いや!レオンハルトの愚行は、聞くに耐えませんでした。
あのまま知らなかったら、お母様がどんな辛い目にあっていたか。
だから! ありがとうございます!」
お礼を言う彼に、グリルはさらに驚く。
レオナは満足げに声を上げる。
「よく言った! とてもあいつの息子とは思えない!」
(まあ実際、中身は息子じゃないけど)
ルミエルとして、静かにそう呟く。
カムイが話題を変えるように尋ねる。
「ところで……騎士団は大丈夫そうですか?」
グリルもレオナも、表情が暗くなる。
グリルが静かに答える。
「実際……あまりいいとは言えんな。」
第一部隊の弱体化はさらにひどくなっている様子。
細かなミスや連携の悪さから始まったのだが、ここ最近は隊員の数の減少が問題視されている。
カムイは首を傾げる。
「隊員の数?」
第一部隊の騎士の数が著しく減っているらしい。
退団する者もいれば、別の部隊に異動する者もいる。
部下への当たりが強いことも原因だと考えられるが、中でも女性騎士の異動や退団が多い。
彼はゾッとする。
(ま、まさか……)
レオナが続ける。
「ハッキリとは断定できないけど……おそらく...」
彼は真っ青になる。
すると、カムイを気にかけてリディアがすかさず声を上げる。
「お父様! お母様! その話はやめましょう!」
グリルとレオナもハッとして謝る。
「すまなかった」
「悪かったな」
「い、いいえ! 全然大丈夫です!」
リディアが心配そうに彼を見る。
「カムイ。 大丈夫?」
「うん。大丈夫。ありがとうリディア。」
グリルがすぐに話を変える。
「ま、まあ今日は楽しい食事だ!
お前達は騎士学校を頑張るんだぞ!」
食卓に、再び穏やかな空気が戻っていく。
食事は終わり、リディアに「少しお話ししよう」と部屋に案内される。
リディアの部屋に入ったカムイ。
とても綺麗に整っている。
子供の頃の写真や、剣が飾ってあった。
リディアは少し申し訳なさそうに切り出す。
「さっきはごめんね。
お父様もお母様も、気が遣えなくて」
「大丈夫だよ!
そもそも僕から聞いたのが間違いで」
「ありがとう」
部屋に、静かな空気が流れる。
カムイとリディアは見つめ合う。
(やっぱり...)と思うカムイ。
リディアは赤くなる。
「な、なあに、そんなに見つめて......恥ずかしいよ。」
「ごめん!」
慌てて謝るカムイ。
(ほんと......綺麗になったな。)
カムイはリディアの美しさに見惚れていた。
二人が緊張して黙り込んでいると、リディアが話題を変えるように声を上げる。
「あ! そうそう!」
そわそわして立ち上がり、近くの棚を開く。
中から写真を取り出し、ベッドの上に広げる。
騎士学校の下等部のイベントの写真だった。
彼女は少し恥ずかしそうに、思い出を話し始める。
「これ、下等部のときの……」
「このとき、みんなで……」
二人が盛り上がっていると、つい手が触れてしまう。
リディアが「ごめん!」と慌てふためく。
リディアが慌てて立ち上がる。
「そ、そうだ! 飲み物もらってこようかな!」
すると、彼女はバランスを崩してこけそうになる。
カムイは反射的に手を伸ばす。
彼女を支えるが、彼自身もバランスを崩してしまう。
そのままベッドに倒れ込み、彼女に覆い被さる形になってしまった。
とんでもない体勢だ。
キス寸前なくらいに、顔が至近距離になる。
二人とも激しくドキドキする。
カムイが離れようとすると、リディアが彼の腕を握る。
「……しないの?」
「えっ?」
彼女は目を逸らしながら、静かに続ける。
「わ、私が……カムイのこと好きなの……知ってるでしょ?」
「いいの?」
「うん♡」
部屋に、甘い緊張が満ちていく。
押し倒した状態で、彼は唇を近づける。
すると、扉が『ドン!』と開く。
レオナが入ってくる。
「リディア〜。 そろそろカムイを家に……」
言いかけて言葉が止まる。
とんでもない現場を目撃してしまう。
カムイもリディアも、そして目撃したレオナも、硬直する。
レオナは頭をフル回転させる。
流石の彼女も、この状況には気まずくなり、慌てて声を上げる。
「す、すまん!!!」
すぐに部屋を閉じる。
二人は真っ赤になり、リディアは恥ずかしさのあまり叫ぶ。
「お母様ぁぁぁ!!!!」
部屋から逃げるように去っていくレオナ。
廊下でグリルとすれ違う。
「ど、どうした!?」
「なんでもない!!」
彼女は走り去っていく。
部屋の中は、気まずい沈黙に包まれる。
しばらくして、二人は落ち着く。
カムイが静かに切り出す。
「そろそろ……帰ろうかな」
「う、うん」
彼女は小さく頷く。
玄関では、グリルが見送ってくれた。
「カムイ! 今日はすまなかったな! また来い!」
事情は知らなさそうだった。
「いえいえ!」
リディアはもじもじとしている。
ふと遠くを見ると、レオナが手を合わせて謝っている。
彼は苦笑いを浮かべる。
シルバレイン家の馬車に乗せてもらい、家に帰るカムイ。
夜の道を、馬車は静かに進んでいく。




