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第八話 盗賊団

 すると突然、会場の入り口から悲鳴が上がった。

「きゃあっ!!」

 人々がざわめく中、黒ずくめの男たちがゾロゾロと入り込んでくる。

 先頭の男が銃を天井に放ち大声で叫んだ。

「全員、動くな!!」

「金を出せ!」「持ってるものを渡せ!」と乱暴な声が飛び交う。

 グリルは、ワイングラスを置いて静かに息を吐いた。

「まったく……いつのまに侵入したんだ、あの賊は」

 冷静な声でそう呟くと、隣のレオンハルトを見る。

「レオンハルト!行くか!」

「ああ。騎士団として、黙って見過ごせないな。」

 二人は揃って盗賊たちの前へ進み出た。

「なんだお前ら!」

 先頭の盗賊が警戒する。

 グリルはゆっくりと口を開いた。

「この家の家主だ。

 悪いことは言わん。帰ることをおすすめするぞ。」

 レオンハルトも低く続ける。

「そうだな。何も取らないなら、見逃してやる。」

 だが盗賊団は笑った。

「へっ!舐めやがって!

 これでも、そう言えるかな?」

 合図と共に、仲間の一人が後ろから三人の子供を引きずり出してきた。

 刃を喉元に突きつけられた子供たち。

 先ほどパーティ会場で騒いでいた、あの三人だった。

「あの子達は!さっきの!」

 レオンハルトの顔が強張る。

 人質を取られてしまっては、迂闊に動けない。



 会場がどよめく中、賊のリーダーが銃を天井に向けて一発撃った。

「騒ぐな!」

 銃声が広間に響き、人々の動きが止まる。

 レオンハルトは歯を食いしばる。

(くっ……隙を見て子供たちを救出しようかと思ったが、銃を持っているとなると難しいな。)

 グリルも冷静に状況を測っていた。

(まずは人質の救出が先か...。」

 その頃、カムイとリディアは盗賊団から少し離れた位置で見ていた。

 リディアは青ざめた顔で状況を把握し、小さく声を震わせる。

「ど、どうしよう……お父様達が。」

 一方、カムイはというと、

 デザートのアイスをスプーンですくいながら、盗賊団の様子を眺めていた。

 あまり緊張感がない。

(まったく……せっかくリディアと仲良く話してたのに……)

 チラチラと会場を見渡し、敵の数と配置を確認する。

(十人ちょっとってとこかな。

 レオンハルトとリディアの父さんなら十分に倒せる数だ。

 でも問題は……はぁ〜。あのバカ息子たちが人質か……)

 状況をすぐに把握し、小さく息を吐く。

 隣でリディアが小さな声で呼びかけた。

「ね、ねぇ、カムイ……」

 カムイはアイスの皿を近くのテーブルに置き、彼女に向かってニヤリと笑った。

「待っててね、リディア。ちょっと行ってくる」

 その表情には、子供じみた悪戯心と、余裕が混じっていた。



 カムイは近くのテーブルからワインの瓶を一本取り上げると、盗賊団の方へ歩み寄ろうとした。

「ちょっとカムイ!何する気!?」

 リディアが慌てて尋ねる。

 カムイは振り返る。

「えっとね……まあまあ!

 あとでグリルさんに謝っておくから!」

「えっ!?」

 一方、アリアは話していた婦人たちと共に、心配そうに人質の子供たちを見つめていた。

 同時に、自分の息子の安否も気になる。

(カムイは……どこにいるのかしら?)

 辺りを見渡した彼女の視線が、こそこそと盗賊団に近づく小さな影を捉える。

(カ、カムイ!?)

 アリアは息を呑んだ。

 盗賊たちに気づかれないよう、物陰を利用して近づいたカムイは、心の中で笑った。



(へへっ!ここで使うことになるなんてな!)

 彼はワインのコルクに、静かに魔力を込める。

 それは、人間が使えるはずのない力。

 神が扱う神聖力だった。

 数日前、この身体でもわずかに使えることが発覚していた。

 ルミエルの頃のような大きな力は出せない。

 だが、小さな物を強化する程度の力なら扱える。

 力を込めたコルクを天井に向け、カムイは瓶を軽く振った。

「ポンッ!!!」

 コルクが弾丸のように飛び出し、盗賊団の頭上にあったシャンデリアの吊り紐を、正確に引きちぎる。

 巨大なシャンデリアが落下を始めた。

「お、おい!!」

「落ちるぞ!!!」

 盗賊団たちは慌てふためき、左右に逃げ散る。

 その混乱の中で、人質にしていた三人の子供が放り出すように解放された。

 次の瞬間、カムイが驚異的なスピードで駆け出す。

 三人を次々と抱きかかえるようにして安全な場所へ引きずり出した。

 シャンデリアが床に落ちる。水晶が砕け散り、広間に粉塵が舞った。

 人質は、無事に救出されていた。



「な、なんだってんだ!?」

 盗賊団はシャンデリアが突然落ちた理由がわからず、腰を落としたり立ち尽くす者もいる。

 その隙を、グリルが見逃さなかった。

「レオン!」

「おう!」

 二人は同時に動く。

 グリルの拳が一人の顔面を捉え、レオンハルトも別の男の急所を正確に打つ。

 パーティに参加していた他の騎士たちも続き、次々と盗賊を取り押さえていく。

 逃げ場を失った賊たちは、捕獲されていった。

 しかし、リーダーの一人が混乱に乗じて会場の人混みの中へ飛び込む。

 次の瞬間、彼の腕に捉えられたのは、銀色の髪の少女だった。

「きゃあああっ!!」

 リディアの悲鳴が響く。

「リ、リディア!!」

 グリルの顔から血の気が引いた。

 レオンハルトも足を止める。

 娘を人質に取られてしまっては、迂闊に動けない。

 盗賊はナイフをリディアの首筋に当て、余裕の笑みを浮かべた。

「へへへ!こりゃいい!

 あんたの娘か!形勢逆転だな!」

 リディアは不安そうに父を見つめ、小さく呟く。

「お父様……」

 遠くからその光景を見ていたカムイは、小さく舌打ちした。

(くそ……!)

 せっかく人質を解放したというのに、今度はリディアが捕らわれてしまった。



 盗賊はリディアを抱え直すと、後退りしながら叫んだ。

「こうなっちまったら分が悪い!

 今回は逃げさせてもらうぜ!」

「待て!」

 グリルが踏み出そうとした、その瞬間だった。

 カムイが低い姿勢から一気に加速し、盗賊の足に体当たりを仕掛ける。

 だが、子供の体ではまるで効果がなかった。

 盗賊はわずかにバランスを崩した程度で、すぐに踏みとどまる。



「カムイ!!」

 レオンハルトが叫ぶ。

 盗賊は足元の少年を見下ろし、呆気にとられた。

「なんだこいつ!?」

 しかしすぐにニヤリと笑い、空いていた手でカムイの服を掴む。

「ちょうどいい! お前もだ!」

 カムイは抵抗する間もなく持ち上げられ、男は逃げていく。

「待て!!!」

 グリルが即座に指示を飛ばす。

「参加者の無事を確認するんだ!それと騎士団本部に連絡を!」

 命令は的確だった。

 一方、レオンハルトはただ立ち尽くしていた。

 自分の息子まで連れて行かれてしまった現実が、すぐには飲み込めない。

「カ、カムイ……なんでお前は……」

 呆然とした声が、ざわめく広間に小さく落ちた。



 屋敷を飛び出した盗賊は、あらかじめ用意していた馬車へと走り込んだ。

 荷台にカムイとリディアを放り込み、縄で手足を固定される。

「本当は金目のものをたんまり載せる予定だったんだがな!人質を載せる羽目になるなんてよ!」

 馬車は勢いよく走り出す。

 道の凹凸で荷台が揺れ、木の枠が軋む音が響く。

 リディアは不安そうに体を縮めていた。

 カムイは彼女のそばで、できるだけ落ち着いた声を出した。

「大丈夫だよ。僕がいるから。」

 短く、しかし確かな言葉。

 リディアはそっと顔を上げ、彼の横顔を見た。

 暗い荷台の中でも、カムイの目には妙な余裕が宿っているように見えた。



 パーティ会場はまだざわめいていた。

 シルバレイン家の侍女たちによって、参加者の無事が次々と確認されていく。

 怪我人はおらず、盗賊たちも大半が捕獲されていた。

 だが、最も重要な二人。リディアとカムイは、すでに連れ去られた後だった。

 グリルは腕を組み、窓の外の闇を黙って見つめていた。

 娘の安否が、胸の奥で重くのしかかる。

 レオンハルトが隣に立つ。

「……心配だな」

「ああ。今、うちの二番隊に緊急出動をかけた。」

「うちも一番隊が、今準備している。」

 二人の隊長は短く情報を交わす。

 しかしグリルの表情は、どこか別のことを考えているようだった。

「なあ、レオンハルト……

 カムイは、もしかしてわざと捕まったんじゃないのか?」

「なに!?」

 レオンハルトが目を見開いた、そのときだった。

「レオン!」

 アリアが人混みを分けて駆け寄ってくる。

「カムイは!?どこにいるの!?」

 レオンハルトは苦い顔で答える。

「……グリルの娘さんと一緒に、誘拐されてしまった」

 アリアの顔から、見る見る血の気が失われる。

 その様子を見て、グリルが静かに口を開いた。

「ですがアリアさん……カムイは、その……

 なんと言いますか、自分から捕まりに行ったような気がするんです。ね

「えっ?」

 アリアが驚きに目を見開く。

 レオンハルトはグリルの方を向き、

「しかし、なぜだ!?」と問う。

 グリルは腕を組んだまま、窓の外を見据えていた。

 そして、心の中で静かに思う。

(もしかしたら……リディアを助けるためなのか?いや...子供がそんな機転を利かせるか?)

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