↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/97

第七十八話 引退

 数年の時が経った。

 カムイは相変わらずハンターとして大活躍していた。

 ギルドの顔にまで成長し、背丈も伸びて、幼い風貌も薄れていっている。

 しかし、全く変わらないものがあった。

 メロンへのナンパだ。

 ギルドに戻ってくるなり、彼は受付に駆け込む。


「メロンさ〜ん ただいま〜

 今日も綺麗だね ご飯行こうよ〜」

「もう、カムイ君ったら……何年経っても変わらないのね。」


 周囲のハンターたちは、いつもの光景に呆れた声を上げる。


「またやってるよ……」

「ああいうところは変わらねぇな。あいつ」


 それでも彼は、全く気にする様子もなく、メロンにデレデレし続けていた。

 ギルドの空気は、相変わらず賑やかで穏やかだった。




 ふと、メロンが話を変える。


「そういえばカムイ君。

 もうすぐ復学の時期ね」


 長い間ハンターとして働き、ようやく騎士学校の下等部の免除申請ができるほどになった。

 来月からは騎士学校の上等部への復学。

 やっとこの時が来たと思った反面、ここで働くのもあと少しかと、少し寂しさが混じる。

 しかし、一つだけ懸念点があった。

 騎士学校で勉強するための資金だ。

 ハンターとしてこの数年間、頑張って稼いではいたが、正直足りない。

 彼が悩んでいると、メロンがふふっと笑う。

 周囲にいたハンターたちも、一斉にニヤニヤしだす。


「な、何だよ?」


 問いかけるカムイに、ギルド中のハンターたちが立ち上がり、彼に歩み寄る。

 その先頭に立ったのは、同じゴールドランクのアレン・ロイジェルトだった。

 カムイとも親交の深い男だ。


「カムイ君。

 この数年、君には本当に世話になった!」


 別のハンターおじさんも続ける。


「おうよ! お前のおかげでギルドは有名になったし!俺たちの評判も良くなったんだ!」


 実際、カムイのおかげで元々風当たりの強かったハンターのイメージは大きく変わり、今では騎士団に次ぐ組織になっていた。


『あまり名の知れない騎士団に頼むくらいなら、ギルドに依頼しよう』


 となるくらい、国民からの信頼を得たのだ。

 アレンはドサっと巨大な袋を机に置く。

 あまりの大きさに驚くカムイ。


「な、なんだこれ!?」

「これはね。

 ギルドのみんなで協力してお金を貯めたんだ!」


 なんとギルド中の人達が、彼の騎士学校への復学を願っており、お金をコツコツと貯めてくれていたのだ。


「まったく〜! 騎士学校の学費ってのは高いよな〜!」

「本当だぜ! おかげで酒の量が減っちまったよ!」


 ぼやく者がいるも、皆笑顔だった。

 ギルドの空気が温かく満ちていく。




 アレンは続ける。


「何を隠そう、君が騎士学校に復帰できるように、シュバインさんが提案したんだよ。」

「えっ!?」


 カムイはギルドの隅の机を見る。

 相変わらず無口で無愛想なシュバインが、そこに座っていた。

 アレンにバラされて、彼の眉がピクリと動く。

 アレンは楽しそうに笑う。


「自分からみんなに話せばいいのに!

 俺に任せるんだもんな〜、シュバインさん。

 ほんと不器用な人だよ」


 率先して皆に声をかけていたのはアレンだった。

 しかしその裏で、シュバインが気を利かせていたことに、カムイは深く嬉しく思う。




 カムイは静かに思う。

 こんなにいろんな人から親しまれるのは初めてだった。

 ルミエルの時は、女性には好かれていたが、素行の悪さから嫌われている面も多かった。

 しかし、カムイとして生まれ変わり、家族のために日々コツコツと当たり前のように働いていた。

 まさかこんな信頼を得られるなんて、夢にも思っていなかった。

 感極まった彼は、泣きそうになる。

 すかさずハンターのおっさんたちが茶化し始める。


「おいおい、泣いてんのか!?」

「炎使いの涙だぜ!」

「おい誰か写真撮れ!」


 普段強気で自信満々な彼には見られない一面に、ギルド中が大騒ぎになる。


「お、おいお前ら!」


 慌てふためくカムイの声が、賑やかなギルドに溶けていく。




 ギルド内が盛り上がっている中、メロンは一人、静かに思う。


(カムイ君……こんなに多くの人に慕われて。

 ほんと……すごい子)


 それと同時に、もうすぐ彼がいなくなってしまうことへの悲しさも、胸の奥に広がっていた。

 誘拐された自分を助けてくれたカムイ。

 毎日声をかけてくるあの子がいなくなると思うと、やはり寂しい。




 しかし、彼の成長を心から願っていた。

 数年前からずっと面倒を見ていて、ついに騎士学校に戻れる。

 将来は絶対に有名な騎士になる。そう信じている。


(あの子の旅立ちを……ちゃんと祝福しなきゃ)


 メロンは優しく微笑みながら、賑わうギルドの様子を見守っていた。




 メロンはシュバインに歩み寄る。

 彼が「?」と振り返る。

 彼女はハンター達と盛り上がっているカムイを見ながら、茶化すように言う。


「シュバインさんは一緒に混ざらなくていいんですか?」

「ふん! 行くわけないだろう」


 相変わらずの反応に、メロンはふふっと笑う。

 シュバインは少し真面目な声で続ける。


「これからあいつは、もっと厳しい世界に行く。

 騎士団というのは、俺たちハンターとは自由度が違う」

「そうですね……」


 メロンも静かに頷く。

 しかしすぐに、彼女は明るく断言する。


「でも大丈夫ですよ! カムイ君なら絶対に乗り越えられます!」

「なぜわかる?」


 メロンは笑い、以前と同じ答えを返す。


「女の勘です」

「……またか」


 彼は呆れたように呟く。

 二人の間に、穏やかな沈黙が流れる。

 ギルドの賑わいが、遠くから聞こえていた。




 家に帰るカムイ。

 アリアが出迎える。

 相変わらず、幾つになっても綺麗なままの美しい女性だ。

 親バカなのも、全く変わっていない。


「おかえりなさい、カムイ」


 テーブルではエレーナが本を読んでいた。

 血相を変えて帰ってきた彼に、彼女は顔を上げる。


「なに? どうしたの?」


 レーゼはパラディンの食事を用意しながら、こちらを見る。


「カムイお兄ちゃん?」


 エレーナもレーゼも、背が伸びて雰囲気も変わった。

 カムイはリビングに荷物を置き、すぐに切り出す。

 彼はギルドで渡された大きな袋のことを説明し始める。

 アリアは目を見開いて驚く。


「まあ……!みなさんが集めてくれたの!?」


 彼女はすぐに彼の人望を褒めまくる。


「カムイったら、本当にすごい子ね!

 こんなにたくさんの人に慕われて……お母様、嬉しいわ!」


 エレーナは本を閉じ、静かに彼を見つめる。

 レーゼもパラディンの皿を置き、興味深そうに話を聞いていた。

 温かい家庭の空気が、家の中に満ちていく。

 その後、四人で食事をする。

 もう本当の家族のようになった四人。

 エレーナもレーゼも、すっかり馴染んでいる。




 食後。

 テーブルで槍の手入れをするカムイ。

 すると、エレーナとレーゼがお風呂から出てきた。

 レーゼが元気よく声を上げる。


「は〜! すっきりした!」


 キャミソール一枚で出てきた彼女に、エレーナが呆れた声を飛ばす。


「レーゼ! 風邪ひくわよ。」


 レーゼの内面は、まだまだ昔のままだった。

 しかし、何よりも気になるのは二人の体の成長だった。

 数年前とはずいぶん印象が違う。特に上半身の変化には、カムイも驚かずにはいられなかった。

 彼は頭を抱える。


(は〜。 人間の成長ってこんなに早いものなのか?

 ......それとも魔女だからか?)


 テーブルに戻ったエレーナが彼を見る。


「どうしたの? 顔が赤いけど?」

「い、いや……なんでもない」




 その日の夜。

 カムイは相変わらずアリアと同じ寝室で寝ていた。

 カムイも年頃の男の子。

 一度、別々の部屋で寝る提案をしたことがある。

 しかし、アリアが母親とは思えないほど泣きまくったため、今もそのまま続いていた。


 アリアは彼に寄り添い、笑顔で頭を撫でる。


「カムイ♡」


 完全にメロメロの声だった。

 彼も全く嫌ではない。

 むしろ毎日、アリアのような優しい女性に愛されて幸せだと感じている。




 しかし、たまに思うことがあった。


(子離れできるのだろうか?)


 以前、ナリアに「好きな人はいるのか?」と聞かれた時にも、同じことを考えた。

 人間だって結婚して子を作る。

 神から人間に転生した自分も例外ではない。

 もし好きな人ができたとして、アリアはどう思うのだろうか。

 そのために、あえて子離れできるよう提案することもあったが、やっぱり無理そうだった。

 ルミエル時代では考えられない成長を遂げている自分。

 しかし、今は目の前のアリアとの時間を楽しもうと思う。

 もし可能であれば、アリアとも一緒に幸せになりたい。そう心の底から願っていた。

 彼は彼女を優しく抱き返す。




 結局、カムイは変わらずアリアに甘えまくる。


「お母様」

「ふふ」


 しかしアリアは、少し膨れた声を出す。


「も〜。 カムイったら、こんな幸せそうな顔をしてるくせに、私と寝室を別にだなんて〜」

「ごめんよ、お母様 でも……」


 アリア自身も自覚はしていた。

 いつまでもこんな関係を続けてていいのか?

 しかし今は、カムイ以外の誰かを大切に思う自分が、どうしても想像できなかった。


(もう……やめられない)


 彼女は素直に打ち明ける。


「ごめんなさい、カムイ

 お母様……あなたが生きていてくれればそれでいいの。」


 その言葉を聞いた彼は、静かに決心する。


「わかったよ!

 僕……お母様のことも幸せにするよ!」


 アリアは嬉しくなって、口に手を当てて喜ぶ。


「……本当に?」

「うん。本当だよ」

「嬉しい…… カムイ……」


 寝室の灯りが、二人を優しく包み込んでいた。





 お互い抱き合っている状態で、彼女は彼の体の成長を改めて感じる。

 とても筋肉質で、男らしく逞しくなっていた。


(この子……いつの間にか成長してるのね)


 すると、そんな二人の親子愛をこっそりと見る者がいた。

 エレーナだった。


(……また……あんなに仲良くして......)


 去年くらいに、彼女はついにカムイとアリアの関係を知ってしまった。

 行き過ぎた親子愛。

 初めこそ驚愕した。

 寝室で毎日のように甘えるカムイと、それに優しく答えるアリア。

 話をこっそりと聞いていて、自分とレーゼとこの家に住む前からだとわかった。

 カムイのお姉さん好きや貞操のなさは知っていたが、まさかアリアさんとまでと、当時は驚いた。

 それから会うのが気まずかったが、最近は落ち着き、むしろ覗くことが日課となってしまった。

 アリアと触れ合うカムイ。彼女は静かに思う。

(あんなにカムイ君とくっつけて、羨ましいな……)


 扉の隙間から、彼女はそっとその光景を見つめていた。




 エレーナは廊下で一人、その様子をじっと見入ってしまう。

 部屋の中ではカムイがアリアに甘えまくっている。

 彼のデレデレ顔を見て、エレーナは振り返る。


 昔、一緒に旅をした時、カムイのゼノヴィアやルージュへのデレデレを見てきた。

 当時は呆れ返っていた。

 しかし、改めて間近で現場を見ると、胸に込み上げてくるものがある。


(……わたしも……いつか……)


 彼女は期待するように、つい妄想してしまう。

 あのアリアの位置が、自分だったら——と。

 あんなふうに愛されたいと思う。

 ここ数年で、エレーナは女磨きを頑張った。

 食べ物や運動を考えて、カムイ好みになってきている。

 今の自分なら、カムイをメロメロにさせられるかもしれない。

 そんな自信を少しずつ持てるようになってきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。