第七十七話 実力
カムイはナリアに抱きつく。
「ナリアさん♡
もっと甘えてもいいですか?」
ナリアは小さく息を吐き、呆れと優しさが混じった微笑みを浮かべる。
「も〜♡ しょうがない子♡」
歳上のお姉さんとして、この子にたっぷり甘えさせて満あげよう。彼女は心を決める。
カムイが甘えまくっていると、ナリアは彼を心配する。
「カムイ君。
私……この見た目だけど、人間で換算したら結構歳だよ?
こんなおばさんでもいいの?」
確かに異種族ハーフのナリアは、見た目が全く老けない。
カムイより少しだけ歳上に見える程度だ。
彼は明るく笑う。
「年齢なんて関係ありませんよ!
ナリアさん。こんなに可愛いんですから!!」
ナリアは彼の真っ直ぐな言葉に、心の中で小さく呟く。
(カムイくん......ほんと優しい子♡)
その後、二人は穏やかな時間を過ごした。
ナリアは先ほどにも増して、カムイに惹かれていった。
年上のお姉さんとしての自覚も少しずつ薄れ、今度は彼女から甘えるようになる。
二人の距離は、いつの間にかすっかり近くなっていた。
「ナリアさん♡ 本当に可愛いです♡」
彼女は頬を膨らませ、少し拗ねた声を出す。
「も〜。お姉さんを揶揄うんじゃありません!」
そんな反応さえ、カムイにはたまらなく愛おしかった。
歳上のお姉さんとこうして笑い合えることが、彼には何より嬉しかった。
ただ彼としては、騎士団の部隊長とこんなにイチャイチャしていていいのかと、少し気が引ける。
しかし、彼女の可愛い顔を見ていると、そんなことどうでもよくなる。
カムイが夢中になっていると、ナリアが少しイタズラっぽく微笑み、彼を見る。
「私とカムイ君の子供が産まれたら......どんな子になるだろうね♡」
カムイはビクッと肩を震わせる。
ナリアは楽しそうに笑う。
「大丈夫♡
異種族間って難しいって言うし!」
「……それは、よかったのか悪かったのか……
てかナリアさんがそれ言いますか!?」
「ふふ♡」
彼女はベッドに体を預け、楽しそうに微笑んでいた。
ナリアはカムイに擦り寄る。
「ねぇ、カムイ君。
わたし……あなたのことが気に入っちゃった♡」
彼女は少し照れながらも、はっきりと続ける。
「これからも遊びに来てね♡」
彼は一瞬、言葉に詰まる。
何故だかわからないが、ナリアに甘えるのに少し緊張感を覚えていた。
(なかなか掴みにくい人だな……)
そう思いながらも、彼はすぐに別の結論に至る。
(でも、定期的にこんなに魅力的で可愛い女性に甘えられるんだから、結果的にはいいよな♡)
カムイは彼女に向き直り、穏やかに微笑む。
「はい。
いつでも呼んでください、ナリアさん」
「ふふ。 約束よ?」
「約束です」
彼女は満足そうに頷き、彼の隣に体を寄せる。
幸せな時間はあっという間に過ぎ、気づけば窓の外が明るくなっていた。
二人はベッドで寄り添う。
ナリアは彼の胸に顔を預け、穏やかに笑う。
「何だか恋人同士みたいね♡」
カムイは苦笑いを浮かべる。
「そ、そうですね……」
ふと、ナリアは彼に尋ねる。
「ねぇ、カムイ君は好きな子とかいるの?」
一瞬、彼は悩む。
ルミエルの時は許嫁がいた。
けれど、この体になってからは本気で決めた相手がまだいなかった。
色々な女性に甘えてるだけで、相手もそれに応じてくれた。
そんなふんわりとした時を過ごすだけ過ごしていた。
「えっと……いないですかね」
「あら」
ナリアは面白そうに彼を見つめる。
「本当はカムイ君みたいな子タイプだけど、
君って周りに女性が多そうだよね〜」
あまりの的中具合に、カムイはギクッとする。
「……ナリアさん、鋭いですね」
彼女は満足そうに微笑む。
朝日が差し込む寝室で、二人は静かに寄り添っていた。
ふと、カムイが昨日の話の続きを思い出す。
「あ……ナリアさん。
昨日の話ですけど......」
彼女はパッと顔を上げる。
「あ! そうだったね!」
すぐに思い出した様子で、少し照れたように笑う。
「カムイ君に夢中で忘れちゃってた♡」
その反応が、彼にはやはり可愛く見えた。
ナリアは表情を引き締め、本題に戻る。
彼女は静かに、レオンハルトから第一部隊の隊長の座を奪う方法を彼に説明する。
話を聞いたカムイは、目を見開いて驚く。
「……そんな方法があったんですか」
彼は心の中で思う。
(まさかそんな手があったとは……)
しかし同時に、冷静に自分の実力を測る。
今の段階で神聖力をフルで使ったとしても、レオンハルトには敵わない。
彼はそれほどに強いのだ。
落ち目とはいえ、そこのところはまだはっきりとわかる。
「僕がなるには、まだ実力不足ですね」
ナリアは彼の正直な言葉に、静かに頷く。
「そうね。焦らなくていいわ。
考える時間もあったほうがいいし。」
彼女は彼の頭を優しく撫でる。
朝の光が差し込む寝室で、二人は再び静かな時間を共有していた。
ナリアと朝食を済ませ、カムイは屋敷を出る。
帰り際、彼女は彼の頬に軽くキスをし、耳元で甘く囁く。
「また来てね♡」
どうやら彼は、完全にナリアに気に入られた。
カムイはニヤリと笑い、頼もしく返す。
「はい。いつでも来ますね。
「うん♡」
彼女に見送られ、屋敷を後にするカムイ。
帰り道。
カムイは一人考え込んでいた。
レオンハルトを倒すためにも、対人戦の訓練をしたほうがいい。
ハンターの討伐は、ほとんどがモンスター相手だ。
過去に戦った強い人間といえば、ライデンビッヒ公国で戦ったダリアン・マテリアルくらい。
何とか機転を利かせて勝てたが、同じようにはいかない。
(もっと実力をつけないと……)
彼は空を見上げながら、静かに決意する。
家に帰るカムイ。
「ただいま〜」
すると、すごい勢いでアリアとエレーナがやってきて、彼に詰め寄る。
メロンさんから連絡があったとはいえ、どこで何をしていたかまでは聞いていない二人。
アリアが過保護全開で責め立てる。
「カムイ! 一体どこで何をしてたの!
朝帰りなんて! お母様はそんな子に育てた覚えはないわよ!」
エレーナも負けじと続く。
「まさか女の人の家にお泊まりでもしてたの!?
まさかリディアの家!それともメロンさん!」
外れてはいるが、なかなかの推理力だ。
アリアは目を見開く。
「まあ! そうなの!?」
カムイは慌てて二人を宥める。
「待って待って! 違うから!」
彼は、ある程度正直に説明する。
ロイヤルフォース騎士団の第六部隊隊長のナリア・ブランケットさんに食事に誘われて、騎士団にスカウトされて、話し込んだら遅くなったと。
さらに少し嘘も交えて、朝帰りの件を濁した。
アリアは驚いてしまう。
「この歳でスカウトされるなんて……」
彼女はすっかり詰めるのを忘れ、彼に抱きつく。
「カムイ! すごいじゃない!」
褒めまくる母親に、彼は苦笑いを浮かべる。
一方、エレーナは腕を組んだまま、冷めた目で彼を見ていた。
(絶対嘘ね!)
どうせその人と朝まで過ごしていたのだろう。
と確信していた。
ロイヤルフォース騎士団の第六部隊本拠地。
ナリアはご機嫌で出勤する。
今までずっと隠していたツノを露わにしている。かわいいリボンまでつけていた。
部下の女騎士たちが、すぐに気づいて声を上げる。
「ナリア隊長、おはようございます!」
「あれ! そのリボンどうしたんですか! かわいいです!」
「そっか! ナリア隊長、ドワーフの血を引いてるから!」
なかなかの絶賛だった。
ナリアは照れくさそうに、しかし嬉しそうにお礼を言う。
「みんな、ありがとう」
彼女は心の中で、静かに思う。
(カムイ君のおかげで……少し自信が持てるようになったな)
本拠地の朝の空気が、いつもより少し明るく感じられた。
第一部隊本拠地。
仮眠室から出てきたレオンハルト。
中のベッドでは、女性の騎士が疲れた様子で横になっていた。
彼は何事もなかったかのように表情を整え、その場を後にする。
廊下を歩く足音だけが、静かに響いていた。




