第七十六話 体質
フラフラする彼女を、カムイが支えながら外へ出る。
ナリアが勢いよく指笛を鳴らす。
「ピィーーー!!」
すると、空から彼女の飛竜が飛んでくる。
彼女は飛竜に跨り、カムイも同乗する。
飛竜はすぐに飛び立ち、ナリアの屋敷へと向かう。
屋敷に到着すると、すでにメイドたちが彼女を介抱する準備をしていた。
ナリアはすぐさま中へと運ばれていく。
一人のメイドがカムイに近づき、丁寧に頭を下げる。
「カムイ・ヴァルハート様ですね?
どうぞ屋敷の中へ」
彼は屋敷に招き入れられ、静かに中へと足を踏み入れる。
さすがは部隊長の屋敷だ。
ヴァルハートの屋敷よりも大きく、内装も豪華だった。
リビングのソファに座って待つ。
(ナリアさん……一体どうしたっていうんだ?)
すると、一人のメイドがやってくる。
「カムイ様。ナリア様がお呼びです。こちらにどうぞ」
彼は案内されるまま、ナリアの寝室へと通される。
部屋に入ると、彼女はベッドに腰を下ろしていた。
「ごめんね、カムイ君。」
少し元気そうな声に、彼は安堵して駆け寄る。
「一体どうしたんですか?」
ナリアは自身の体質について静かに話し始める。
ナリアには定期的に激しい頭痛とめまいが起こる。
これはどうやら、人間とドワーフといった、異種族のハーフとして産まれた者によく見られる特異的な体質らしい。
他の異種族では、頭痛やめまいだけではなく、食事や睡眠、体の強さなど、さまざまな珍しい体質を引き起こすという。
カムイは素直に驚く。
ナリアは少し苦笑いを浮かべる。
「私はすぐに慣れるんだけど、どうしても発症直後は辛くてね」
カムイは心の中で思う。
(大変だな……)
すると突然、ナリアが小さく声を漏らす。
「あっ……」
彼女の顔が一気に火照り、落ち着かなげに視線を泳がせた。
「ん? どうしたんですか?」
「う、ううん。なんでも……」
そう答えながらも、ナリアは内心で焦っていた。
(うそ!? こっちまで……)
カムイが首を傾げると、彼女は意を決したように口を開く。
「あのね……実は私の特異体質はこれだけじゃなくて……
実は……その......」
ナリアは衝撃的な事実を告白する。
ナリアの告白を聞き、カムイは唖然とする。
ナリアは申し訳なさそうに続ける。
「ごめんね。まさかこっちも症状が出るなんて思わなかったの」
そして彼女は、カムイに今日は帰ってもらうように話す。
しかしカムイは、頭の中で別のことを考え始めていた。
(まてよ……これって……もしかしたら)
彼は自然とナリアを見つめる。
ドワーフならではの小柄で可愛らしい姿。
おっとりとした美人の顔立ち。
思わず見惚れてしまう。
カムイはナリアのベッドに近づき、そっと彼女の手を握る。
驚くナリアに、彼は穏やかに、しかしはっきりと告げる。
「ナリアさん。
もしよろしければ、僕が今日一日、あなたのそばにいましょうか?」
彼女は驚く。
(えっ!?それってつまり……)
カムイは彼女の動揺を察して補足する。
「あ! でもナリアさんが嫌なら別です。一人でいたい時もあるでしょうし。無理にとは言いませんので。」
突然の提案に、ナリアは驚きを隠せなかった。
ナリア自身も、最近は困っていた。
症状が出た時に、屋敷の寝室に一人。
メイド達が様子を見に来てはくれるが、みなナリアのためを思ってか、必死すぎて逆に落ち着かない。
心の支えとなる恋人もおらず、寂しさがあった。
彼女は静かにカムイに向かって言う。
「……お願い、してもいいかしら」
彼は無邪気に目を輝かせて喜ぶ。
ナリアはフッと笑い、心の中で思う。
(変な子♡)
ナリアはベッドにカムイを招き入れる。
カムイは座り、横になるナリアと何気ない会話をする。
そして、気づけば二人は身を寄せ合うようにしていた。
「ナリアさ〜ん♡」
カムイはナリアに甘えまくる。本来癒してあげるはずの彼が、逆に癒されてしまってる。
ナリアは甘えてくるカムイを可愛く思い、優しく頭を撫でる。
「も〜。甘えん坊さん。」
カムイの愛情に不思議な気持ちになるナリア。
数百年を生きてきた彼女は、それなりの恋愛経験がある。
付き合った相手と愛を育むことももちろんあった。
しかし、カムイだけは何かが違った。ただ甘えてるだけなのに、なぜか温かい安らぎを感じる。
(す、すごい……)
だんだんと二人は惹かれ合い、穏やかな時間を過ごす。
ナリアは心が満たされていく。
すると、カムイはあることに気づく。
ナリアの頭に、小さくて可愛らしいドワーフのツノが生えていたのだ。
「ナリアさん……それ」
彼が指を指すと、彼女は驚いて声を上げる。
「キャッ!」
とっさに両手で頭を隠す。
「ダメ! 見ないで!」
完全に慌てた様子のナリアに、カムイは首を傾げる。
(何でそんなに恥ずかしがるんだろう?)
彼は不思議そうに、彼女の隠した頭を見つめていた。
ナリアは必死にツノを隠そうとする。
両手で頭を覆ったまま、少し後ろにさがる。
不思議に思ったカムイは彼女に近づき、優しく尋ねる。
「どうしたんですか? ナリアさん」
彼女は顔を真っ赤にして、うつむいたまま答える。
「ダメなの……これ……見ないで……」
「どうしてそんなに隠すんですか? かわいいと思いますけど」
「かわいくないわよ……!」
ナリアは声を震わせる。
「私...ツノが小さくて、変なの。
普段はちゃんと隠してるのに……気を抜くと出てきちゃうの……」
彼女はさらに、このツノによる悲しい思い出を語る。
部下たちからの信頼は厚いナリア。皆、いつだって彼女を団長として、一人の人間として慕ってくれる。おかげで、異種族という引け目はなくなっていった。
それでも、恋人にだけは違った。
心を許し、初めてツノを見せたとき。相手の目に浮かんだ、ほんのわずかな戸惑い。
あの表情を、ナリアは今でも忘れられない。
とっくに克服したと思っていた気持ち。
それが恋愛のこととなると、どうしても怖くなってしまう。
「だから私……このツノを見せたくないの」
必死になってツノを隠すナリアに、カムイは静かに思う。
(かなりのコンプレックスなんだな……)
彼は彼女の手にそっと触れ、優しく声をかける。
「ナリアさん。僕は、全然気になりませんよ」
「えっ......」
「うん。むしろ、ナリアさんらしいなって思います」
彼女は少しだけ顔を上げ、彼の目を伺うように見つめる。
寝室の空気が柔らかなものに変わっていく。
ベッドの上。
カムイはナリアに擦り寄り、彼女が両手で隠したツノをじっと見つめる。
「ちょ、ちょっとカムイくん……!」
拒む彼女に、彼は優しく、しかしはっきりと告げる。
「とても綺麗ですよ♡可愛くて素敵です♡」
ナリアは胸の奥がキュンとするのを感じて、慌てて目を逸らす。
「う、嘘よ……そんなこと……」
「嘘じゃありません」
カムイはまっすぐに彼女の目を見つめ直す。
「ナリアさんはとっても素敵な女性ですよ♡」
何の躊躇もなく、真っ直ぐに言われる。
こんな男性を、ナリアは初めて見た。
初めての感覚に、彼女は素直に嬉しく思う。
「……ありがとう、カムイくん」
彼女の声は、少しだけ震えていた。
ベッドの上で、二人の間に穏やかな沈黙が流れる。




