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第七十五話 訪問

 ナリアが最初に向かったのはギルドだった。

 シュバインというハンターから、ライデンビッヒ公国の事件の概要を聞いていたため、まずはそこから調べようと考えたのだ。

 ギルドに入ると、周囲が一気にざわつく。

 天下のロイヤルフォース騎士団、第六部隊の部隊長が直々にやってきたのだ。


「なんだなんだ?」

「うお〜 めっちゃ美人!」

「小さくてかわいいな」




 ナリアは受付に立つメロンに、丁寧に声をかける。


「突然の訪問失礼します。ロイヤルフォース騎士団第六部隊隊長、ナリア・ブランケットです。」


 受付のメロンは身構える。


「はい。どのようなご用件で?」

「シュバインというハンターはいらっしゃいますか?」

「今は任務に出ていていませんが……」

「そうですか……」




 ナリアは目つきを鋭くし


「では、最近若い男の子のハンターの噂を聞きますが、その子はいますか?」


 メロンは内心でギクリとする。

 ロイヤルフォース騎士団の人が、カムイを探している。

 嫌な予感がした彼女は平静を装って嘘をつく。


「お、男の子ですか?

 そんな子はそもそもいませんけど...」




 ナリアは眉をひそめる。


「おかしいですね。

 最近騎士団ではその子の話で持ちきりですよ。

 炎使い……そんな風に呼ばれてますよね?」


 周囲のハンターのおっさんたちも、すぐにカムイを庇うように声を上げる。


「なあなあ! かわいい騎士の姉ちゃんさ!

 そもそもこのギルドに子供なんかいねぇえんだよ!」

「そうそう!ガキに務まる仕事じゃねぇよ。ハンターは!」


 そのうちの一人が、軽くナリアの肩に手を置く。




 次の瞬間、

 ナリアは目にも止まらぬ速さでそのハンターを薙ぎ倒し、気絶させた。


「失礼。

 気安く触れるのは、やめた方がいいですよ♡」


 ギルド内が一瞬で静まり返る。

 皆が唖然とした表情で、彼女を見つめていた。




 すると、最悪なタイミング。

 カムイが任務を終えてギルドに帰ってきてしまった。

 仲間二人を率いて、入口から入ってくる。


「は〜! 疲れた〜」


 一人のハンターが感嘆の声を上げる。


「あっという間だぜカムイ!」

「ほんとだぜ!さすがは炎使い!」


 メロンの顔が一気に青ざめる。

 ナリアは「カムイ」という名前と「炎使い」という呼び名に反応し、ゆっくりと振り返る。

 メロンが慌てて止めようとする。


「あ、あの!」


 しかし、彼女は構わず静かに歩き出す。

 周囲のハンターたちも、ただ見守るしかない。




 ナリアはカムイの目の前に立つ。

 彼は同じくらいの身長の女性を見て首を傾げる。


「ん? どなたですか?」


 ナリアは静かに彼を見つめ、小さく呟く。


「やっぱり……似てますね」

「はい?」


 彼女は微笑み、ハッキリと告げる。


「ロイヤルフォース騎士団第一部隊隊長。

 レオンハルト・ヴァルハートにです」


 その言葉に、カムイは一気に表情を強張らせ、距離を取って槍を構える。


「なんだあんた!

 あのクソ親父の差金か!」


 ギルドの中に、一触即発の緊張が走る。




 ナリアは軽く手を振り、穏やかに告げる。


「違います。槍をおさめて」


 それでもカムイは警戒を解かない。

 彼女は少し考え込み、「う〜ん」と小さく唸る。

 そして次の瞬間、急に可愛らしい仕草で声のトーンを変える。


「お姉さんはね!

 カムイ君とちょっとお話がしたかったの。だから……来ちゃった♡」


 完全に呆気に取られるカムイ。

 周囲のハンターたちも、先ほどの部隊長としての凄まじい雰囲気を纏っていたナリアの変貌に驚きを隠せない。




 カムイは警戒を崩さない。


「ほんとに……レオンハルトの野郎に頼まれて来たんじゃないの?」

「うん。 そうだよ」


 カムイはしばらく考えた末、ようやく槍を下ろす。


「メロンさん。

 ちょっと奥の部屋借りるね?」


 メロンは慌てながらも頷く。


「う、うん! いいわよ!」


 ハンターたちに心配される中、カムイとナリアは個室へと通される。

 扉が閉まり、ギルドに緊張感が走る。




 個室で二人きりになったカムイとナリア。

 彼は警戒を残したまま尋ねる。


「なんで僕がここにいるってわかったの?」


 ナリアは穏やかに微笑む。


「ふふ。カムイ君、やっぱり可愛い顔してるね♡

 あの時は、フードをかぶってて一瞬しかわからなかったけど。」


 彼はすぐに理解する。

 ライデンビッヒ公国でのことだ。

 あの一瞬。カレンにキスをされたときに見えた顔だけで、ここまで辿り着いたのか。


「すごいや。

 さすがは部隊長さんだ」


 ナリアは満足そうに目を細める。

 個室の中に、静かな緊張と興味が入り混じった空気が流れる。




 カムイは単刀直入に尋ねる。


「要件はなんですか?」


 ナリアは少し真剣な表情になり、静かに告げる。

 フラスタリア王国の貴族令嬢を救った件だ。

 なぜあんなところにいたのか。なぜハンターをしているのか。

 そして、父親のレオンハルトについて。

 彼が言葉に詰まる中、彼女は優しく、しかし真っ直ぐに問う。


「まずは聞かせて。

 あなたたち家族に、何が起こってるの?」


 個室の空気がわずかに重くなる。

 カムイは彼女の瞳を見つめ、しばらく沈黙した。




 カムイは、ナリアがレオンハルトの手先ではないことを理解したため、正直に話し始める。

 父の愚行。

 それが原因で家庭が崩壊したこと。

 今はハンターとして働き、母親を支えていること。

 その話を聞いたナリアは——突然、号泣する。


「なんていい子なのぉぉ〜!!」

「えっ!?」


 カムイがハンターとして働く理由が健気なものだとわかったナリアは、すべてがレオンハルトのせいだと認識してくれた。

 個室の中で、ナリアの泣き声が響き渡る。

 カムイはただ呆然と、彼女の様子を見つめていた。




 しばらく泣き続けたナリア。

 カムイは困惑しながらも、そっとハンカチを差し出す。


「ど、どうぞ」


 彼女はそれを受け取り、ようやく泣き止む。

 スッキリしたのか、明るく声を上げる。


「君がいい子で良かった!」


 彼は呆気に取られる。


(変な人だけど、悪い人じゃないな)


 ナリアは勢いよく立ち上がる。


「よーし!

 迷惑かけたお礼に、ご飯食べに行こうか!」

「えっ!? いいですよそんな!」

「いいからいいから!」


 彼女は彼の手を引き、個室を出ていこうとする。




 ギルド内は緊張感で満ちていた。

 個室でカムイがロイヤルフォース騎士団の部隊長と話している。

 彼はハンターを辞めさせられるのか?

 連れ戻されるのか?

 メロンも祈るようにして待っていた。




 やがて個室の扉が開く。

 皆が息を呑む。

 しかし、想像とは全く違う状況が待っていた。

 ルンルンとした足取りで歩くナリア。

 その後ろを、気まずそうな表情のカムイがついていく。

 訳がわからないハンターたち。

 メロンも唖然としている。

 ナリアはギルドを見渡し、明るく声を上げる。


「みなさん! ご迷惑をおかけしました!」


 そう言い残し、彼女は出口へ向かう。




 カムイは慌ててメロンに駆け寄る。


「ごめんメロンさん。

 お母様に、遅くなるって連絡してもらってもいい?」

「えっ?ええ……」


 彼女はただ頷くしかない。

 ナリアと一緒に出ていくカムイの背中を、ハンターたちはパニック状態で見送る。


「まさかカムイ......あの部隊長を口説き堕としたのか?」

「ありえんだろう......それは。」


 めちゃくちゃな想像が、ギルド中に飛び交う。




 ナリアの行きつけの店に連れて行かれるカムイ。

 そこは、あらゆる種類の肉料理が楽しめる店だった。

 中に入ると、料理長が嬉しそうに出迎える。


「ナリア部隊長!」


 彼女は明るく手を振る。


「こんばんは〜!」


 さすがは部隊長。

 店内の料理人たちの目つきが、一気に引き締まる。

 料理長が丁寧に案内する。


「いつもの席、空いております」

「ありがとうございます!」


 席に通されると、カムイは思わず声を上げる。


「広っ!」


 とても二人で使うには広すぎる大きな机だった。

 すると、次々に肉料理が運ばれてくる。

 驚く彼を見て、ナリアは満面の笑みで促す。


「さ! 食べよ!」


 湯気を立てる肉の香りが、テーブルに広がっていく。




 二人は食事を楽しむ。

 ナリアは小柄な体とは裏腹に、とてつもない食事量を誇っていた。

 カムイも育ち盛りなので、それについていくように食べる。


「すごいね、カムイ君!」

「いえいえ!」




 食事が一段落し、二人は少し話をする。

 ナリアが静かに切り出す。


「カムイ君。

 実はもう一つ。君に聞きたかったことがあるんだよね。」

「えっ?」


 彼が首を傾げると、彼女は続ける。

 ナリアは、ライデンビッヒ公国の事件で捕らえたコライスンたちの取り調べを聞いた際、気になることがあったのだ。


「カムイ君。

 ダリアン・マテリアル。知ってるよね?」


 ライデンビッヒ公国でカムイが戦った重装備の大剣・大槍使いの大男。


「はい。知ってます。」

「彼は取り調べ中、ずっと君のことを話してたの。

『とんでもない力のガキにやられた! あれは人間なんかじゃない!』って!」


 カムイは苦笑いをする。


(神聖力全開で戦ったもんな〜。そりゃバケモンに感じるさ)




 ナリアは肩をすくめる。


「結局、子供がそんな強いなんてありえないってことで、ダリアンの発言は何にもならずに終わっちゃったんだよね〜」


 それから彼女はニヤリと笑い、真っ直ぐに彼を見る。


「でもね、私は信じてるんだ。」


 カムイに緊張が走る。


「カムイ君さ、すんごく強いよね?何かこう......人智を超えたような力があるとか?」

「いやいや、そんな...」


 ナリアは意味深に微笑んだまま、彼を観察するように見つめていた。


(この子なら......もしかしたら。)


 何かを確信した様子。

 店内で、二人の間に静かな緊張が流れる。




 ナリアは表情を引き締め、真っ直ぐに彼を見る。


「カムイ君さ。

 レオンハルト隊長を倒して、第一部隊隊長になる気はない?」

「はい!?」


 彼は驚愕する。


「最近、騎士団の第一部隊の様子がおかしいの。

 かつての力や統制は全くなくて、ほんと見てられないの」


 カムイは苦々しげに頷く。


「確かに……よくない噂は耳に入ります。

 聞きたくないけど...」

「うん!そこで!

 君が彼を倒して部隊長になってくれれば、面白いことになると思うんだよね!」


 彼女はレオンハルトへの仕返しのつもりでもあった。

 しかし、騎士団のために、この提案を受け入れてほしいとも思っている。




 しかしカムイは、現実的な問題を指摘する。


「でも、倒すって......仮に僕が倒せても、国の反逆者として捕まっちゃいますよ。」

「それは安心して!

 実は……」


 ナリアが説明を始めようとした瞬間。

 彼女にとてつもないめまいと頭痛が襲いかかる。


「うっ……! こ、こんな時に……」


 うずくまる彼女に、カムイが慌てて駆け寄る。


「ど、どうしたんですか!?」


 ナリアの体が、小さく震え始めていた。

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