第七十二話 デート
デート当日。
フラスタリア王国の中央広場の噴水前。
カムイは先に到着していた。
普段はハンターの服しか着ない彼が、珍しく私服姿で立っている。
(ちょっと早く来すぎちゃったかな……)
時計を確認しながら待っていると、
「カムイ!」
振り返ると、リディアが走ってきた。
銀髪を左右で高く結んだツインテールに、白い花の髪飾り。
淡い紫のカーディガンに白いフリルのブラウス、紺のスカート。
白いハンドバッグを両手で持ち、少し照れたように微笑んでいる。
思わず見惚れてしまうカムイ。
小さい頃はドレスや学校の制服しか見たことがなかった。
こんなに女の子らしい、可愛い私服姿は初めてだった。
リディアが首を傾げる。
「どうしたの?」
彼はハッとして慌てて視線を逸らす。
「いや! 別に!」
彼女はイタズラっぽく微笑む。
「あ〜! もしかして見惚れてた?」
「そ、そんなこと!」
真っ赤になる彼に、リディアはわざと少しがっかりしたように言う。
「なーんだ」
慌てたカムイが、すぐに本音を吐き出す。
「ごめんごめん!可愛いよ!とっても!」
その言葉に、リディアは嬉しそうに笑う。
「よかった!嬉しい!」
噴水の前で、二人のデートが穏やかに幕を開ける。
二人のデートが始まる。
カムイはリディアをエスコートしながら街を歩く。
まず訪れたのはアクセサリー屋。
リディアが小さなブローチを手に取り彼に見せる。
「どう?」
「うん! かわいいよ!」
素直な感想に、彼女は嬉しそうに微笑む。
次は武器屋へ。
リディアが目を輝かせて剣を指差す。
「ねぇ!見てよこれ!」
二人は武器の話で盛り上がる。
デートを大いに楽しみしばらく歩いていると、リディアが突然足を止める。
「あ!ここ行きたい!」
二人は城下町でも人気のスイーツ店に入る。
リディアは店自慢のパンケーキを注文し、目を細めて味わう。
無邪気で幸せそうな食べ方を見て、カムイは静かに思う。
(リディアって、こんなに美味しそうに食べるんだな)
可愛らしい素顔に、自然と笑みがこぼれる。
ふと、リディアが顔を上げる。
「ねぇ、カムイ!」
「ん?」
「次は......カムイが働いてるギルドに行ってみたいんだけど......」
彼は思わず目を丸くする。
「い、いや! 危ないし、やめておいたほうが……」
「大丈夫! 私、強いんだよ!」
彼女のまっすぐな目線に、彼は抗いきれず折れてしまう。
「……わかったよ」
「やった♡」
リディアは嬉しそうに手を合わせる。
心の中では、静かに思っていた。
(カムイがどんなところで過ごしてるか……知りたかったのよね♡)
スイーツの甘い香りが漂う店内で、二人の時間はさらに温かく続いていく。
スイーツを食べ終えた二人は、ギルドへと向かう。
中に入ると、相変わらずハンターたちで騒がしい。
ふと、一人のおっさんが気づく。
「ん? おお!カムイじゃねえか!」
「どうした? 今日は休みじゃなかったのか?」
「いや……」
カムイが言い淀んでいると、ハンターたちの視線が一斉に後ろの女の子に向く。
皆がニヤリと笑い、口々に茶化し始める。
「なんだよカムイ! 可愛い子連れて!」
「デートかよ!」
「うわ〜! 炎使いもやるねぇ〜」
「い、いや! そんなんじゃ!」
彼があわあわする中、さらに一人が追い打ちをかける。
「メロンさん一筋だと思ってたのによぉ〜!」
その言葉に、リディアが心の中で小さく驚く。
(メロンさん?)
すると、受付からメロンがやってくる。
「皆さんどうしたの?」
カムイを見て、彼女は優しく微笑む。
「あら、カムイ君! どうしたの?
今日は依頼の準備してないけど……」
「いや! その……」
ハンターが説明する。
「メロンさん! カムイのやつ、デートなんですよ!」
「あら!」
カムイは慌ててリディアを紹介する。
「えっと……お、幼馴染のリディアです。」
リディアは礼儀正しく頭を下げる。
「初めまして」
メロンは穏やかな笑顔で応じる。
「初めまして。
ギルドの受付嬢のメロンです。
カムイ君。いつも頑張ってるわよ」
その大人びた色気に、リディアは思わずビクッとする。
そして最も目がいったのは、たわわに実った大きな胸だった。
心の中で、大人の女性の格を思い知らされる。
(……すごい……)
ギルドの喧騒の中で、リディアは静かに息を飲む。
カムイがソワソワしていると、一人のハンターがさらに暴露する。
「おいどうしたカムイ?
いつもならもっとメロンさんにデレデレしてるだろ?」
「うぐっ……!」
彼は言葉を失う。
隣でリディアが静かに目を細め、彼を見つめる。
その視線に、カムイはさらに冷や汗をかく。
メロンが優しく、しかしはっきりとハンターたちに注意する。
「ほら皆さん!
カムイ君のガールフレンドの前で失礼ですよ」
ハンターたちは豪快に笑いながら手を挙げ、ようやく引き上げていく。
ギルドの中に、微妙な沈黙が残る。
カムイはリディアに視線を向ける。リディアは穏やかな笑みを浮かべたまま何も言わなかった。その穏やかな笑顔が逆に怖い。
メロンが二人に優しく声をかける。
「それじゃあ、ゆっくりしていってね」
空気が少しだけ和む。
ギルドでのカムイの暮らしを知ったリディア。
二人は外に出る。
歩きながら、リディアが軽く茶化すように言う。
「相変わらずお姉さん好きだね〜」
「い、いや……そういうわけじゃ」
リディアはくすくす笑いながら続ける。
「ふふ。
昔からアリアさんやリーラさんにベッタリだったじゃない」
その言葉に、カムイはハッとする。
(リーラ……)
ヴァルハートの屋敷から出て数年。
一度も会っていない。
今も無事に生活しているだろうか。
少しだけ不安が胸をよぎる。
それを察したのか、リディアはすぐに話題を変える。
「そ、そういえばカムイ!今のお家って、ここから近いのよね?」
「えっ? ……うん」
彼女は少し照れたように、最後に切り出す。
「アリアさんにもお会いしたいんだけど......いいかな?」
「えっ!?」
彼は時計台を見上げ、心の中で確認する。
(エレーナとレーゼは、今頃パラディンの散歩だよな?)
タイミング的には問題なさそうだ。
「うん! いいよ!」
彼が答えると、リディアは嬉しそうに微笑む。
二人は並んで、丘の上の家へと向かう。
丘の上の家へと向かう二人。
リディアがふと振り返ると、フラスタリア王国の城下町が小さく見下ろせる。
「いい景色ね!」
「うん! なかなかいいところだよ」
家に到着する。
リディアはログハウスを見て目を輝かせる。
「へー! すごくいいお家ね!」
カムイは庭を見渡し、心の中で安堵する。
(よし! パラディンの散歩中だな!)
家に入り声をかける。
「ただいま」
しかし、アリアの姿はない。
「あれ? 出掛けてるのかな?」
リディアは家の中を見回し、感嘆の声を上げる。
「うわ〜。 すごく綺麗!」
とても整った内装に、素直に感動している様子だ。
カムイは彼女をリビングのソファに座らせ、少し申し訳なさそうに言う。
「ごめんね。お母様……出掛けてるみたい。待つ?」
「うん!」
リディアは明るく頷く。
穏やかな午後の光が差し込むリビングで、二人は静かに待つことにした。




