第七十一話 久しい再会
それからしばらく時が経つ。
カムイは今日もハンターの仕事に励んでいる。
毎日、討伐や収集任務に明け暮れる日々。
同業のハンターたちとも、充実した時間を過ごしていた。
そんなある日。
この日の依頼は、フラスタリア王国の城下町からだった。
カムイやハンターたちの活躍のおかげか、世間からの風当たりは徐々に薄まり、町の人々からも少しずつ慕われるようになってきていた。
カムイも身分を隠しながら働き、成果を上げていた。
仕事を終えたカムイと数人のハンターたちが、帰り道を歩いている。
カムイを先頭に、ゾロゾロと町を進む一行。
ハンターのおっさんたちはすでに完全にオフモードで、「飲むぞー!」と騒がしい。
カムイは内心で呆れつつも、毎日のお決まりの光景に苦笑いを浮かべる。
(全く……)
そのとき。
「カムイ!」
突然、名前を呼ばれる。
声のした方向を見ると、そこにいたのはリディアだった。
騎士学校の下校中らしい。
隣には友達のアリルとリザもいる。
「リディア!!」
カムイはフードを取り、嬉しそうに声を上げる。
後ろのハンターのおっさんたちは一斉にニヤリと笑い、彼を茶化し始める。
「おうおう、誰かさん、女と遭遇だぜ」
「お?彼女かぁ?」
カムイは顔を真っ赤にする。
アリルとリザはリディアに小声で確認する。
「あれって……カムイ君!?」
「隣の人たちって……」
ハンターのおっさんたちの粗暴な雰囲気に、少し怯えた様子だ。
カムイは様子に気づいたのか、
「おっさん達!さっさと酒場にでも行きなよ!」
ハンターたちは気前よく手を振る。
「ああ!」
「じゃあな、カムイ!」
騒がしく笑いながら、彼らは酒場の方へと去っていく。
残されたのは、カムイとリディア、そして二人の友達だけだった。
久しぶりの再会の空気が流れる。
リディアは躊躇うことなくカムイに駆け寄る。
「久しぶり!!」
嬉しそうに彼の手を握る。
最後に会ってから数年が経ち、彼女の背も少しだけ伸びていた。
カムイも笑顔で応じる。
リディアは目を細め、少し拗ねたように続ける。
「まったく〜 たまには会おうって言ったのに、何年ぶりだと思ってるのよ」
「ごめんごめん。
ハンターの仕事が忙しくてさ!」
それでも彼女は怒る様子もなく、ただ嬉しそうに微笑む。
アリルとリザも近づいてきて、驚きの声を上げる。
「本当にカムイ君?」
「うそー! だいぶ雰囲気変わったね!」
おぼっちゃまだった頃の面影は薄れ、少し見違えるような雰囲気になっていた彼に、二人は目を丸くする。
四人は夕暮れの街角で、久しぶりに仲良く話し始める。
騎士学校のこと。
ハンターとしての日々のこと。
自然と笑い声が溢れ、時間がゆっくりと流れていく。
帰り道。
アリルとリザと別れたあと、カムイとリディアは二人だけで歩きながら話す。
リディアは騎士学校での日々を、生き生きと語り始める。
「聞いてカムイ!
私ね! 今、下等部で一番強いの!」
彼は目を丸くする。
「えっ!本当に!」
「うん!下等部だけで行われた剣術大会で優勝したの。
魔法もまだ下級魔法だけだけど、全属性使いこなせるようになったんだから!」
「すごいじゃん!!」
素直に驚き、喜ぶカムイの反応に、リディアは嬉しそうに照れる。
彼女は続けて、カムイのことを話題に出す。
「カムイのこと、新聞でよく見たよ。
『大活躍の超若手ハンター』とか、『最年少ゴールドハンターの誕生!?』とか。
これって、カムイのことでしょ?」
「まあね」
彼は少し照れくさそうに答える。
素性を知られないよう、基本的には取材を受け入れていない。
メロンさんがうまく対応してくれているおかげだった。
リディアも理解したように頷く。
「そうだよね。
ご家族のこともあるもんね」
夕暮れの道を、二人は並んで歩き続ける。
久しぶりの会話は、自然と弾んでいく。
リディアの屋敷に近づく頃。
彼女は少し恥ずかしそうに、カムイに声をかける。
「ね、ねぇカムイ?
明後日なんだけど……その……騎士学校お休みなんだけど、暇かな?」
「えっ?まあ、ハンターの仕事はいつでもその日対応だから、休もうと思えば休めるよ」
彼が答えると、リディアの顔が一気に明るくなる。
「ほんと!
じゃ、じゃあさ、明後日どこか遊びに行かない?」
それは、はっきりとしたデートのお誘いだった。
「えっ!?」
カムイが驚いて声を上げると、彼女は少し不安そうに聞き返す。
「いや?」
「いやいや! 嬉しいよ!」
その返事に、リディアは大喜びの表情を浮かべる。
「じゃ、明後日!
中央広場の噴水前でね!」
彼女はルンルンとした足取りで、屋敷の方へと帰っていく。
カムイはその嬉しそうな後ろ姿を見送りながら、小さく笑う。
(ルンルンじゃん)
家に帰り、四人(カムイ、アリア、エレーナ、レーゼ)での夕食。
食べている最中、カムイがふと口を開く。
「あ、そういえば今日、リディアに会ったよ」
アリアが目を輝かせる。
「あら! リディアちゃん!
久しぶりね!」
その瞬間、エレーナの眉が、ほんの少しだけピクッと動く。
カムイはそれに気づくことなく話す。
「うん。
それでさ、明後日遊びに行くことになったから」
アリアが楽しそうに乗っかる。
「あら〜♡ デートね!」
「デート……なのかな?」
彼が首を傾げると、エレーナが軽く咳払いをする。
その音に、カムイとアリアが同時に注目する。
二人ともすぐに思い出す。
カムイは内心で青ざめる。
(あ……)
以前、エレーナから遠回しではあるが「好き」と伝えられたことを。
アリアも同様に思い出す。
エレーナと二人きりのときに、彼女がカムイのことを好きだと打ち明けたことを。
食卓の空気が、微妙に張り詰める。
エレーナは真剣な表情で尋ねる。
「リディア……って、誰?」
隣でレーゼが無邪気に首を傾げる。
夕食の席に、小さな緊張が走る。
カムイは慌てて説明を始める。
「い、いや! その……リディアは父親の友達の娘さんで!
昔、ヴァルハートの屋敷にいた時によく遊んだんだ!」
アリアも慌ててフォローに入る。
「そ、そうそう!
騎士学校も一緒に通ってたのよね!
舞踏会とかも一緒に踊ったわね!」
余計なことまで言ってしまう彼女に、カムイは内心で叫ぶ。
(お母様!そこまで言わなくても!)
エレーナは腕を組み二人を見つめる。
「ふ〜ん……」
彼女は聞きたいことだけをしっかり確認すると、特に詰め寄ることなく席を立つ。
「ま! 楽しんでね〜」
あっさりとした調子でそう言い残し、自分の部屋へと戻っていく。
残された食卓で、レーゼは食事をもぐもぐ食べながら純粋に首を傾げる。
「お姉ちゃん、どうしたんだろ?」
リビングに、微妙な余韻が残る。
カムイとアリアは顔を見合わせ、静かに息を吐いた。
自室で本を開くエレーナ。
ページを眺めながらも、少しだけ嫉妬心が芽生えていた。
確かにカムイともなれば、言い寄ってくる女性がいてもおかしくない。
しかし、同じくらいの年齢で、しかも幼馴染の女の子。
最大のライバルになるかもしれない。
彼女は一人、静かに心を燃やす。
そのとき、扉が軽くノックされ、アリアが入ってくる。
アリアは少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「さっきはごめんなさいね。気づかなくて」
「い、いえ! アリアさんが謝ることじゃないですよ!」
エレーナが慌てて否定すると、アリアは複雑な表情を浮かべる。
カムイのことが好きな女の子が二人いるという現実。
自分にも身に覚えのある話だった。
リーラとレオンハルトとの三角関係を経験している。
だからこそ、エレーナにはそんな辛い思いをしてほしくないと思っていた。
しかし、その不安は一気に吹き飛んだ。
エレーナが力強く宣言する。
「アリアさん!
私、頑張りますから!」
「えっ?」
「その……リディアちゃんでしたっけ?
幼馴染でも、私が先にカムイの心を射止めれば関係ありませんから!」
強気な発言に、アリアは目を見開く。
そして、ふっと表情を和らげた。
(この子……)
彼女はカムイと同じく確信する。
エレーナは、強い女の子だと。
アリアは優しく微笑み
「……ええ。頑張ってね。」
部屋の中に、静かな決意の空気が満ちる。
デート前日の夜。カムイとアリアの部屋。
アリアはすでに穏やかな寝息を立てている。
明日はリディアとのデート。
彼は一人、考え込む。
どんなデートにすればいいのか。
昼間、ギルドでメロンさんに相談した。
デートスポットをいくつか教えてもらったが、うまくいくかどうかはまだ不安だった。
ルミエル時代は百戦錬磨だった。
女神や天使を相手に、幾度となく楽しい時を過ごしてきた。
だが、人間の女の子との普通のデートは初めてだ。
(緊張するもんなんだな〜)
彼は小さく苦笑し、再び天井を見つめる。
一方、シルバレイン家。
リディアは明日のデート服を必死に選び、悩みまくっていた。
ベッドの上に何着も服を広げ、何度も着替えては鏡を見つめている。
そんな娘の様子を、扉の隙間からこっそりと眺めていたのは、母のレオナだった。
リディアから明日はカムイとお出かけだと聞いていた。初々しく慌てる娘の姿に、彼女は嬉しそうに目を細める。
(ふ〜ん……)
そこに、たまたま通りかかった父グリル。
こっそり覗き込む妻に、首を傾げて声をかける。
「ん? 何をやってるんだ?」
グリルはリディアの明日の予定を知らない。
レオナは含みのある笑みを浮かべ、軽くはぐらかす。
「べっつに〜」
「?」
レオナは楽しそうに廊下を先に歩いていく。
シルバレイン家の夜に、親子の小さな騒動が起きる。




