第六十七話 極上
眠ったエレーナにそっと毛布をかけ、カムイは小さく笑う。
(まったく……)
彼は優しく彼女の髪を撫でながら思う。
(人間ってやつは……どうしてこう、みんな真面目なんだろうな〜)
神ルミエルとしての思いが静かに胸をよぎる。
彼はテントを出る。
ゼノヴィアとルージュはすでにテントの中に入っているようだった。
一人で水を飲んでいると、テントから顔を出したルージュが声をかける。
「お! カムイ!
まだ起きてたのか!ちょっと来いって!」
彼女が手招きするので彼は向かう。
「全く〜」
テントの入り口を開けながら軽口を叩く。
「こんな夜中に何を……」
言葉の途中で、彼は目の前の光景に完全に凍りつく。
ゼノヴィアとルージュが色々な衣装を着て楽しんでいた。
立派な装備、凛々しい衣装もあれば魅力的なものまで。
「ど、どうしたんだよ!?」
驚きが湧き上がる。
ルージュがニヤリと笑う。
「いや〜! ゼノヴィアが面白い魔法持っててな!
色々作ってくれたんだよ!」
ゼノヴィア楽しそうに見せてくる。
「いかがでしょうか? カムイ様!」
ルージュもグイグイと聞いてくる。
「なぁ!カムイ!どれがいい?これとかいいと思うけど。」
カムイは二人の意外な一面に開いた口が塞がらなかった。
衣装を着替えて楽しんでいると、三人の距離が近くなる。 テントの外の風が、入り口の布を揺らした。 その夜、彼が外に出ることはなかった。
翌朝。 テントの中に、昨夜着ていた衣装が無造作に散らばっていた。 三人は疲れ切ったように眠りについていた。
隣のテントで、エレーナがゆっくりと目を覚ます。
隣にカムイがいないことに気づき首を傾げる。
「あれ……?」
昨日は彼の胸の中で眠りについたところまではハッキリと覚えている。
ふと、女の勘が鋭く働く。
「ハッ……!」
彼女は急いでテントを出る。
外には人の気配はない。
少し離れたもう一つのテントに自然と視線が向く。
「ま、まさか……」
恐る恐る近づき、入り口を開ける。
中を見て彼女は完全に凍りついた。
二度目の目撃。
しかも今度はルージュまで交えている。
真ん中で幸せそうな顔をして眠るカムイを、ゼノヴィアとルージュが両側から抱きしめていた。
エレーナの中で怒りが一気に爆発する。
「カ……カムイィィ!!!」
大声に反応して、カムイがゆっくりと目を覚ます。
目の前にいる怒り狂ったエレーナを見て彼は絶句する。
「エ、エレーナ!?」
次の瞬間、彼女が手を向ける。
「ま、まってー!」
言いかけたところで氷魔法が発動。
カムイは見事に氷漬けにされる。
両端にいたゼノヴィアとルージュも、寒さで起き上がる。
ルージュは「つめたっ!」と叫び、隣で凍りついているカムイに気づく。
「うお!? ど、どうしたんだ!?」
慌てる二人。
テントの入り口では、怒りに満ちた表情で手を向けたままのエレーナが立っていた。
「あちゃ〜……」
ルージュは、「やっちまった...」といった顔をする。
ゼノヴィアも、二度目のこのアクシデントに完全にアワアワしていた。
ヨルンに向けて歩く四人。
先頭を歩くエレーナは、またしてもプンプンしている。
隣を歩くルージュが軽く謝る。
「エレーナ! 悪かったって!
つい、盛り上がっちまってよ〜」
ルージュは苦笑いを浮かべるしかない。
後ろでは解凍されたばかりのカムイがしきりにくしゃみをしている。
「ハクション! ……寒い……」
そばではゼノヴィアが彼の心配をしている。
「カムイ様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ……たぶん」
エレーナは前を向いたまま。
(なんであんな奴を好きになっちゃったんだろ!)
怒りと抑えきれない気持ちが入り混じり、彼女の足取りはいつもより少し速かった。
高原の道を、ぎこちない四人組がヨルンの里へと進んでいく。
先頭を歩くエレーナとルージュ。
ルージュが改めて頭を下げる。
「ホント悪かった!」
「本当に悪いと思ってるんですか?」
エレーナが鋭く問うと、ルージュは正直に答える。
「そりゃもう!お前の好きな男を取るような真似しちまって、本当に申し訳ないと思ってる!」
エレーナは顔を真っ赤にして声を上げる。
「もーー!そんなこと言って恥ずかしくないんですか!それに!誰が好きな男ですか!!」
ルージュは笑いながら答える。
「そう恥ずかしがるなよ!お前もあいつを知れば良さがわかるさ!」
「はい!?」
「今はまだわからないかもしれないけど、大人になればわかるって!」
「私はそんな風にはなりません!」
ルージュはそれを聞いて楽しそうに笑う。
彼女はエレーナに近づき、耳元でささやく。
「知ってると思うけど、カムイは……胸の大きな女が好きだぞ♡」
エレーナの顔がさらに赤くなる。
ルージュは彼女をチラッと見て、茶化すように続ける。
「 今のうちに、カムイを振り向かせる努力でもしとけよ!」
「余計なお世話です!」
エレーナが叫ぶと、ルージュは大笑いしながら後ろのカムイの方へ歩いていく。
「はははっ!可愛いやつだな!」
エレーナは頬を膨らませ先を急ぐ。
一人で歩くエレーナは、ふと自分を胸元を見下ろす。
(……食べるものを......考えた方がいいかな?)
彼女は誰にも言えないまま、密かに決意を固める。
後ろではカムイたちが並んで歩いていた。
ルージュが彼の背中を軽く叩き、元気よく声を上げる。
「さっ! 今日も進むぞ〜!」
「はい...」
カムイが返事をすると、ゼノヴィアも微笑みながら頷く。
「ヨルンの里まで、あと少しですね」
四人は再び步伐を合わせ、高原の道を進んでいく。




