↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/97

第六十五・六十六話 賊長ルージュ/出発

 すると、薄暗い部屋から物音が聞こえてきた。

 カムイは興味を惹かれ、そっと隙間から中を覗く。

 部屋の中では、ルージュが一人でベッドにいた。

 どうやらこの部屋はルージュの寝室らしい。



 彼女は着替えや武器の手入れを終え、まさに寝る前だった。

 しかし、彼女はなぜか当たりをキョロキョロ見渡した。

(どうしたんだ?)と思うカムイ。

 そして、カムイは廊下で固まったまま立ち尽くした。

 


 カムイが思わず物音を立ててしまう。

 ルージュはビクッとして、すぐに刀を手に取る。

「だ、誰だ!」

「ごめんなさい!」

 姿を現すカムイ。

 彼は観念したように部屋に入ってくる。

「カムイ!」

 ルージュは少し怒り気味に声を上げる。

「まったく! 女性の寝室を覗くなんて……あまり趣味がいいとは言えないな!」

 彼が素直に頭を下げると、ルージュは「ったく!」と舌打ちする。



 ルージュは少し動揺しつつも、「一人か?」と聞く。

 カムイは「う、うん...」と。

 ルージュはため息をついて「一緒に寝るか?」と提案。

 ちょうど話し相手かつ、甘える相手が欲しかったカムイ。ルージュの提案を受け入れる。

 ベッドの上で少し話す二人。

 カムイはルージュを褒める。

「ルージュさんって...ほんと強くて綺麗ですよね。」

 ルージュは笑う。

「そんなに褒めても、何も出ないぞ。」



 カムイはルージュに甘えるように、ギュッと抱きついた。

「お、おい! お前……どうしたんだよ!?」

 突然のことに、ルージュは目を丸くする。

「ちょっと……こうしててもいいかな?」

 いつになく素直な声に、ルージュは一瞬、言葉を詰まらせた。

「……ったく。今日だけだからな」

 そう言いながらも、彼女はカムイを引き離そうとはしなかった。

 むしろ、少し迷ったあと、彼の背中にそっと手を添える。

「……これで落ち着いたか?」

「うん。ルージュさん、あったか〜い」

「っ……! そういうこと、さらっと言うんじゃねぇよ!」

 ルージュは顔を背けた。けれど、その手はしばらく彼の背中に残っていた。



 その後。二人だけの温かい時間を過ごした。

 ルージュはカムイのあまりの変貌に驚いたが受け入れた。



 二人は並んで天井を見つめていた。

 ルージュが小さく息を吐き、満足そうに笑う。

「はぁ〜、初めてだな〜こんな清々しい気分は!」

 彼女はカムイの方へ顔を向け、ニヤリと笑った。

「お前といると、退屈しなくていいな!また来いよ!」

 カムイは嬉しそうに顔を向ける。

「本当ですか!」

「ああ。ただし、調子に乗りすぎるなよ?」

「はい!」

 彼が元気よく答えると、ルージュは小さく笑った。

 やがて窓の向こうが少しずつ明るくなり、長い夜が静かに明けていった。



 翌朝。

 エレーナがゆっくりと目を覚ます。

 アジトのベッドで寝ていたことに気づき、首を傾げる。

「あれ? いつの間に……」

 隣ではゼノヴィアが静かに眠っていた。ゼノヴィアも同じく目を覚ます。

「.....エレーナ様。おはようございます」

「おはようございます。ゼノヴィアさん」



 二人は昨夜の宴会の途中で眠ってしまったことを思い出す。

「きっと……カムイが、ここに運んでくれたんですね」

 ゼノヴィアが柔らかく微笑む。

「カムイ様……本当にお優しいですね」

「え、ええ……」

 エレーナも小さく頷く。

 二人が身支度を整えてアジトのホールへ向かうと、そこではすでに活気が戻っていた。



 ルージュが酔っ払って眠る部下たちを、次々と叩き起こしている。

「おい!起きろお前ら!朝だぞ!

 いつまで寝てんだ!」

「ううっ……姉御、勘弁してくれ……」

「うるさい! ほら動け!」

「頭いてぇ〜」

 一方、カムイはテーブルに座って、すでに食事を始めていた。

 エレーナとゼノヴィアに気づくと、笑顔で手を振る。

「おはよう、二人とも。

 よく眠れた?」

 エレーナは恥ずかしそうにカムイにお礼を言う。

「ありがとうカムイ......その......運んでくれて。」

「まあ、あのままにしとくわけにはいかないからね。」

 彼はごく自然に答える。

 ルージュも部下を起こしながら、一瞬だけカムイと視線を交わすが、すぐに普段の調子に戻る。

「おいカムイ! 飯食ったら手伝えっ!

 この酔っ払いどもを起こすぞ!」

 朝のアジトは平常運転で動き始めていた。



 アジトでは全員が食事をとる。

 カムイとエレーナとゼノヴィアのテーブルでは、次の行程について話が進んでいた。

「食事が終わったら、早速ヨルンの里へ向かいましょう。

 その先のギラル山脈まで、できるだけ早く」

 エレーナが地図を広げながら提案する。

「はい。準備は整っています」

 ゼノヴィアも静かに頷く。



 すると、ルージュがやってくる。

「おいカムイ! 私も一緒に行ってやるぞ!」

「えっ!? いいんですか!」

 彼が驚いて顔を上げると、ルージュは肩をすくめる。

「ああ! ヨルンまではかなり歩くからな!

 それにギラル山脈には強いモンスターが多い!

 私がいても損はないと思うぜ!」

 確かに、戦力が増えるのは嬉しい話だ。

 エレーナが即座に賛成する。

「助かります。ルージュさんのような強い方がいてくれれば安心です」

「決まりだな!」



 ルージュは満足そうに笑うと、カムイに笑みを浮かべる。

 彼はは内心で慌てる。

(エレーナにはバレないように……)

 彼は何食わぬ顔で頷く。

 食事を終えた一行は、ラスカの村から出発する準備を始める。

 ヨルンの里、そしてギラル山脈への旅に、新たにルージュが加わることになった。



 ラスカ村を出発する四人。

 村の入口では、ルージュの部下たちが集まって見送っていた。

「姉御! 行ってらっしゃいませ!」

「留守は任せてください!」

 中にはまだ二日酔いでふらついている者もいるが、ライデンビッヒ公国が滅びた今、襲われる心配はないだろう。

 ルージュは大きく手を振る。

「じゃ! ちょっと行ってくるわ!

 お前ら、しっかり留守番しとけよ!」

「へい!」

 カムイも軽く手を上げる。

「じゃあな〜」



 四人は並んで歩き出す。

 ヨルンの里へと向かう。

 エレーナが静かに確認する。

「ヨルンまでは、順調に行けば数日の予定です。

 ギラル山脈はその先になります」

「よし!道中、気を引き締めようぜ」

 ルージュが先頭に立ち、軽く肩を回す。

 ゼノヴィアがカムイの隣を歩きながら、小さく微笑む。

「新しい仲間が増えて、心強いですね」

「ああ。そうだね」



 荒野を抜け、高原をひたすら歩く。

 途中で現れたモンスターを倒しながら道を進む。

 気づけば、空が赤く染まり日没を迎えていた。

「今日はここで野宿だな」

 ルージュが周囲を見渡し、宣言する。

 テントを二つたて、簡単な食事を済ませる。



 食事が終わり夜も更けてきた頃、ルージュが突然立ち上がる。

「よーし! カムイ! 一緒に寝るぞ!」

 彼女は彼の腕を掴み、テントの方へ引っ張ろうとする。

 エレーナは内心で動揺する。

(えっ!?なんでルージュさんが!!)

 疑念が頭をよぎる。

 そのとき、ゼノヴィアが慌てて声を上げる。

「ダメです〜!」

 彼女がカムイのもう片方の腕を掴む。

「私もカムイ様と寝たいです!」

「はあ? いいじゃんかよ〜。」

 ルージュが渋い顔をする。

「今夜は私です!」

「ちょ、ちょっと2人とも......」

 カムイが苦笑いを浮かべるが、二人は彼の腕を離さない。



 すると、エレーナが突然声を上げる。

「ダメです!」

 三人はビクッと肩を震わせる。

 エレーナは真剣な表情で続ける。

「カムイが二人みたいな綺麗なお姉さんと一緒にいたら、また調子に乗って甘えちゃいます!」

 カムイの前科から学んだ彼女は、迷わず割って入る。

 そのままカムイの腕を掴み、強引にテントへと引っ張り込む。

「お、おい! エレーナ……」

 たじたじになりながらも、抵抗できないカムイ。

 テントの入り口が閉じられると、外に残されたゼノヴィアとルージュはきょとんとした顔で見つめ合う。



 ルージュがニヤリと笑う。

「やっぱりな!」

「えっ? 何がですか?」

 ゼノヴィアが首を傾げる。

 ルージュは彼女の肩を軽く叩く。

「まったく〜、ダークエルフは疎いな〜!エレーナはな、カムイのことが好きなんだよ。前聞いた時は誤魔化されたけど、今の反応で確信したよ」

 ゼノヴィアは目を丸くする。

「で、でも! エレーナさん、別にお付き合いはされてないって……」

 ルージュは大きくため息をつく。

「ほんっと!鈍感だな〜。

 付き合ってないと好きじゃないは違うんだよ!」

「は、はぁ......」

 ルージュはさらに呆れたように笑う。

「お前な……これだから純粋すぎるやつは……」



 ルージュから恋愛というものを学ぶゼノヴィア。

 話を聞いて彼女は顔を真っ赤にして、慌てふためく。

「わ、私......どうしましょう!!

 エレーナさんはカムイ様のことが好きなのに...」

 ルージュが興味津々で身を乗り出す。

「お! なんだよ! 何したんだよ!」

「い、いえ……その……」

 完全に口を滑らせたゼノヴィア。

 ルージュは大笑いする。

「安心しろ! 私も同じだ!」

「えっ!?」

 ゼノヴィアが目を見開く。

「そうか〜やっぱりゼノヴィアもあいつに甘えられたか〜」

「は、はい……その……」

「ははっ! 本当あいつ手広いわ!」



 二人は顔を見合わせ、次第に盛り上がり始める。

 つい楽しすぎて時間を忘れて、気絶するように眠ってしまっていたこと。

 高原の夜風の中、二人の女は声を潜めながらも、熱のこもった会話を続けていた。



 テントの中。

 エレーナは黙々と寝る準備を進める。

 カムイが恐る恐る声をかける。

「あ、あの〜 エレーナ……さん?

 僕……まだ眠くないんですけど……」

 彼女がギロッと睨む。

 ビクッとするカムイ。

 エレーナは小さくため息をつくと、声を落とす。

「……少し、話し相手になって」

 彼が驚くと、彼女は自分の寝床に横になる。

「ほら!」

 カムイも従い、隣に仰向けになる。



 二人は天井を向きながら、静かに話し始める。

「……レーゼのこと、心配で」

 エレーナがぽつりと漏らす。

 妹の安否がずっと心に引っかかっていたのだ。

 カムイは優しく答える。

「大丈夫だよ。

 お母様が見てるし、それに......そのために今日まで旅をしてきたんだろ?」

 彼女は少し顔を赤くして小さく頷く。

「う、うん...」



 エレーナは彼の優しさを欲していた。

 昨日。攫われた自分を本気で心配してくれたこと。

 ギュッと抱き締められたとき、彼女は嬉しかった。

 そんな彼の優しさに、もっと触れたい。

 だが、歳上である自分が、素直に甘えるわけにはいかない。

 だから、このさりげない会話で、少しずつ心を満たそうとしていた。

「……カムイは、怖くないの?」

「怖くないよ!だって、僕強いから!」

「まったく...」

 彼女は暗がりの中で呆れ返る。

「それに...」とカムイが言う。

「?」エレーナはカムイの方を向く。

「エレーナがそばにいてくれるから、大丈夫だって思ってるよ。」

 笑顔で嬉しいことを言うカムイ。

 エレーナは顔が赤くなり、「何言ってるのよ!バカっ!」

 テントの中ではエレーナと照れと、カムイの笑い声がする。



 しばらく話していると、さすがのカムイも気づく。

 彼はニヤリと笑いエレーナに擦り寄る。

「エレーナ〜。

 もしかして、甘えたいの?」

「な、な、何言ってるのよ!

 お姉さんの私がそんなこと思ってるわけないでしょ!」

 慌てて否定するエレーナ。

 カムイは笑う。

「お姉さんって言っても、そんな歳変わんないでしょ!」

「う、うるさいわね!」

 彼女が顔を赤くして抗議すると、彼の表情が少し真剣になる。

(まったく……可愛いやつだな)



 カムイは声のトーンを落とす。

「エレーナは、よく頑張ってるよ。

 レーゼを守るためにヨルンから逃げて、危険な旅をして。すごいと思う」

「……そんなの、当たり前でしょ」

「当たり前じゃないよ。

 だから、たまには甘えなよ。僕にでもいいからさ」

 その言葉に、エレーナは不思議な感覚に包まれる。

 暖かく、優しく、すべてを受け止めてくれるような感覚。

 今までレーゼの姉として、誰にも甘えずに過ごしてきた。

 カムイやアリアと出会って、安心できる生活にはなったけれど、「甘える」という行為だけは、どうしてもできずにいた。



 気づけば、彼女は彼の胸の中にいた。

(……ちょっとだけ、なら)

 カムイは何も言わず、ただ優しく抱きしめる。

 暖かな体温に包まれながら、エレーナはゆっくりとまぶたを閉じる。

 幸せを感じたまま、彼女はその夜、深く眠った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。