第六十四話 ヨルンの里
ライデンビッヒ公国に残されたカムイたち。
助け出した人達から次々とお礼を言われる。
シュバインが、ムールマールの市民を送り届けることに決める。
「俺はこっちの市民を送り届ける。お前たちは村へ戻れ」
ルージュたちが頷く。
「わかった。私たちはラスカ村に戻るぜ」
カムイとエレーナとゼノヴィアは、引き続きヨルンの里へ旅を続ける。
とりあえずは、ルージュたちと共にラスカ村へ戻ることにした。
カムイはローブを脱ぎ、シュバインのもとへ歩み寄る。
「シュバイン。
久しぶりに会えて、本当によかった」
彼は少し照れくさそうに続ける。
「最初は……敵になったんじゃないかって、ヒヤヒヤしたけど。
やっぱり、僕の知ってるシュバインでよかったよ」
シュバインは短く、フッと笑う。
「……強くなれよ」
「うん!」
カムイが力強く頷く。
エレーナが静かに立つ。
「シュバインさん。
ありがとうございました」
「礼には及ばん。
お前たちも、気をつけていけ」
ゼノヴィアも丁寧に頭を下げる。
シュバインはムールマールの市民たちを連れて、反対方向へと歩き出す。
カムイは彼の背中を見送りながら、小さく手を振る。
ルージュが大きな声で呼びかける。
「そろそろ行くぞ!
ラスカ村まで、少し距離があるからな!」
「うん!今行く!」
三人はルージュの一行に合流し、ラスカ村へと向かう道を歩き始める。
戦いを終え、次の目的地へ——ヨルンの里への旅が、再び動き出す。
ラスカ村についたカムイたち。
ルージュの残っていた部下たちが出迎える。
部下たちは無事にやり遂げてきたことに大喜び。
彼女の部下の一人が、カムイたちの方を向いて声を上げる。
「みんなお前達のおかげだぜ!」
カムイは慌てて手を振る。
「僕たちだけじゃできなかったよ。
おっさん達もいたからできたんだ!」
部下たちが大笑いする。
「言ってくれるぜ!」
「まっ! 確かに俺様がいなければ無理だったな!」
「いや! お前、警備ロボからひたすら逃げてただろ!」
「うぐっ……! 細けえこと言うなよ!」
笑い声が絶えない。
会話の中心に、自然とカムイがいる。
ルージュはその様子を眺めながら静かに思う。
(やっぱり……この小僧、只者じゃない。
将来……とんでもない男になりそうだな)
エレーナがカムイの隣で、穏やかに微笑む。
ゼノヴィアが静かに告げる。
「今日はここで休んで、明日ヨルンの里へ向かいましょう」
「うん!」
村の再会の喜びに包まれながら、三人は次の旅の準備を静かに進める。
その日はラスカ村で一日過ごすことになった。
夜になると、村の中央で大宴会が開かれる。
ルージュたちはひたすら酒を飲み、賑やかに騒いでいた。
部下の一人が大きな樽を抱えてやってくる。
「姉御! 酒持ってきやした!」
ルージュが大声で叫ぶ。
「そんなんで足りるか!! もっと持ってこい!」
カムイもルージュの部下たちに囲まれ、大騒ぎに加わっていた。
「おいカムイ!もっと飲め!」
笑い声が飛び交う。
ゼノヴィアも、楽しそうな表情を浮かべて座っていた。
途中、ルージュの部下の一人が、少し酔った勢いで彼女に近づく。
「ねえダークエルフのお姉さん♡ちょっと隣、いいっすか?」
次の瞬間、カムイがパッと現れる。
「コラァ〜! 僕の女に手出すなよ〜!」
大げさに腕を広げて、ゼノヴィアの前に立つ。
部下たちが一斉に大爆笑する。
「はははは! こいつ!酔ってんのか!?」
「独占欲強すぎだろ!」
ゼノヴィアは耳まで赤くなり、視線を泳がせる。
「カ、カムイ様……そういう言い方は……」
「こら〜!おさわりは厳禁だ!」
彼がニヤリと笑うと、ゼノヴィアはさらに顔を赤くする。
少し離れたテーブルで食事をしていたエレーナが、その様子を見て明らかに膨れる。
「もーー!」
エレーナが膨れていると、ルージュが目の前に座る。
「エレーナ! お疲れだったね!」
「ありがとうございます。」
ルージュは少し声を低くして続ける。
「ニコフのこと……残念だったね」
彼女は静かに俯く。
ルージュは、ヨルンの里から命懸けで逃げてきたニコフや里の住人と出会い、このラスカ村を作った。
ニコフに関してはそれなりの情があったし、何より優秀な男だった。
今のルージュの賊がここまでやれているのも、ニコフのおかげと言っても過言ではなかった。
エレーナも静かに語る。
「ニコフ先生は……とっても優しくて、とても優秀な魔法使いでした。
女性が強い魔力を持つヨルンの里の中で、数少ない男の人でした。」
「そうか……」
ルージュがふっと笑う。
「これからは、あいつの分まで頑張らないとな」
エレーナは顔を上げ、力強く頷く。
「はい……!
先生の分まで、私が……!」
二人の間に、静かな沈黙が流れる。
ルージュとエレーナが、少し離れたテーブルで女子トークを始める。
宴会の中央では、ゼノヴィアに膝枕をしてもらっているカムイが、すっかりデレデレした顔で目を細めている。
「……ゼノヴィアの膝枕、いいな〜。」
「も〜、カムイ様ったら。」
その光景を見たエレーナがまた膨れる。
ルージュがニヤリと微笑む。
「お前……カムイのことが好きなんだね」
「そ、そんなこと……!」
慌てふためくエレーナ。
だが、すぐに嘘だとバレる。
ルージュは笑いながら続ける。
「見ればわかるさ!顔に書いてあるよ」
ルージュはさらに身を乗り出し、食い気味に聞く。
「で! で! どこまでいったの?」
エレーナの顔が一気に赤くなる。
「べ、別に何もしてません!
カムイは……ゼノヴィアさんに……いっつもべったりしてて......それに......その......」
声がどんどん小さくなっていく。
続きの話を聞いて、ルージュが口に含んでいた酒を勢いよく吹く。
「は、はあ!?」
「い、いえ! 現場を見たのではなくて……その……」
エレーナが視線を泳がせながら弁解する。
あまりのカムイの進み具合に、ルージュは驚きを隠せない。
「マジかよ……あの小僧、すげぇな!!」
彼女は興味津々でエレーナに近づく。
「詳しく聞かせてくれよ〜
何がきっかけだったんだ?」
「も、もう……ルージュさんたら……!」
エレーナがさらに顔を赤くして俯く。
宴会が終わりに差し掛かる。
村人は家に帰り、ルージュの部下たちが次々と眠りにつき、あちこちでイビキが聞こえ始める。
エレーナも疲れからか、机に突っ伏したまま寝てしまっていた。
カムイがそれに気づき、苦笑いを浮かべる。
「ったく! しょうがないなあー」
彼はそっと彼女を抱き上げ、アジトの寝室へと運んでいく。
部屋に入ると、ゼノヴィアがすでにベッドで横たわっていた。彼女もかなり疲れたらしく、宴会途中で抜け出して眠っていた。
カムイはエレーナを、その隣に優しく横たえる。
「おやすみ、二人とも」
カムイは部屋を出て一人になる。
意外にもまだ眠くはなかった。
本当はゼノヴィアにいっぱい甘えて話をしようと思っていたのだが、彼女はすでに深く眠ってしまっている。
(どうしようかな〜)
彼は廊下で腕を組み少し悩む。
今夜は我慢するか。
それとも、何か他の手段を考えるか。
静かな夜のアジトで、カムイは一人、次の行動を模索していた。




