第五十九話 潜入
上層部の部屋。
二人の男がモニターを見つめている。
「マービアは賊に遭遇したみたいだ。」
「ですが……二人、逃したみたいですね。」
二人が話していると、部下が急いで入ってくる。
「ご報告します!
雇ったハンターが、ヨルンの生き残りの魔法使いを確保してきました!」
中央の男が興味深そうに目を細める。
「まだ生き残りがいましたか」
もう一人の男が静かに立ち上がる。
全身を重厚な武装で固めた金髪の男だ。
「いいだろう。私が迎えに行こう」
中央の男が頷く。
「ダリアン。任せましたよ」
ダリアンと呼ばれた男は、部下に案内されて部屋を出ていく。
部屋には一人の男が残っていた。
長い白髪に眼鏡。
黒い礼装に身を包む。
彼の名はコライスン。
ライデンビッヒ公国の設立者であり、科学と魔法の組み合わせを得意とする男だ。
モニターを見つめながら静かに呟く。
「貴重な里の魔法使いです。丁重に扱わなくては」
彼の目には、冷たい光が宿っている。
何か不穏な計画を企んでいる様子だった。
別室。
ダリアンと二人の部下が向かう。
中に入ると、シュバインとエレーナがいた。
シュバインが彼女の拘束を解く。
目隠しを取られ、やっと目が見えたエレーナ。
周りを見渡す。
もちろん見たことのない場所だ。
隣には知らない男。
しかし、カムイたちの話で、この人がカムイの師匠のシュバインさんだということは、心の中でわかっていた。
目の前には知らない男たち。
シュバインはダリアンに短く告げる。
「依頼されたヨルンの生き残りだ」
ダリアンは鼻を鳴らす。
「ふん。確かにな。
ハンターも役に立つことがあるのだな。ヨルンの里の人間を連れてきたのは貴様が初めてだ。」
少しハンターを見下した口調だった。
シュバインは周囲を見渡し問う。
「おい。依頼主は?」
「コライスン様は指揮官室にいる。
取り引きは私が行う」
「ふむ……」
ダリアンの部下が、シュバインに報奨金の入ったケースを渡す。
エレーナとの交換だ。
しかし、次の瞬間。
シュバインは金の入ったケースを力強く蹴飛ばし、瞬時に部下二人を気絶させた。
そして素早くエレーナを抱き寄せ、距離をとる。
ダリアンが激昂する。
「き、きさま!なんの真似だ!」
シュバインは冷たく言い放つ。
「コライスン……とか言ったな。お前らの主は。
そいつが来ないなら、取り引きはなしだ!」
「なにぃ!? 貴様!裏切ったのか!」
「裏切ったとは言いがかりだ。
はなから、お前らに協力をするつもりはない!」
実はシュバインは、別の依頼でライデンビッヒ公国に来ていた。
その依頼とは、フラスタリア王国の貴族から依頼。
攫われた令嬢の救出と、コライスンの始末だ。
潜入は難しいと判断し、コライスンの依頼を受けることで潜りやすくしていたのだ。
「貴様……!」
怒るダリアンに、シュバインははっきりと言う。
「ヨルンの生き残りは、貴様らなんかには渡さん!
この子は、カムイの大切な仲間だからな!」
別室に緊張した空気が漂う。
シュバインの真の狙いが、今明らかになった。
カムイとルージュが部屋に駆け込んできた。
状況の判断がつかない。
シュバインがエレーナを守るように立ち、重装備の男と対峙している。
「エレーナ!」
カムイが叫ぶ。
彼女も彼に気づき、声を上げる。
「カムイ!」
ルージュは完全に混乱していた。
「えっ!?なんだこれ?どうなってんだ?」
シュバインはチラッと後ろを向き、短く指示する。
「ルージュ!この子を!」
エレーナを軽く投げる。
彼女は慌てながらも、しっかりキャッチした。
「あ!この!シュバイン!てめぇ!
女の子をなげんじゃねえよ!
それにお前!奴らの犬になったんじゃないのか!」
彼は冷静に答える。
「話はあとだ!まずはコイツだ!」
即座にダリアンとの戦いを始める。
シュバインは俊敏な動きで蹴りを繰り出し、背中に背負った大型の銃を放つ。
だが、ダリアンの装甲は厚く、うまくダメージが通らない。
ダリアンは両手の大剣と大槍で激しく反撃する。
シュバインはそれを華麗にかわす。
ダリアンは部屋が狭くてうまく戦えない。
「くっ!ここは引く!」
そう言い残し、部屋を出ていく。
残された部屋に四人が残る。
ルージュはすぐにシュバインに詰め寄る。
「おいこら!さっさと説明しな!」
彼は短くため息をつく。
「お前は相変わらずだな。
ハンターを辞めても、そういうところは変わらんのか?」
「なにぃ!」
二人の言い合いを、エレーナが静かに見つめる。
そのとき、カムイが彼女に駆け寄り強く抱きしめた。
「エレーナ!」
驚くエレーナ。
カムイは本気で安堵していた。
守ってやれなかったことを必死に謝る。
「ごめん……守ってやれなくて、本当にごめん」
エレーナは意外に思う。
こんなに心配してくれるカムイに。
嬉しく思い、静かに答える。
「ううん。大丈夫だよ」
彼の腕の中で、彼女は小さく微笑む。
ルージュが手を叩いて二人に声をかける。
「お二人さん!いちゃついてるとこ悪いけど、早くあいつを追いかけにいくぞ!」
カムイとエレーナは顔を真っ赤にして、急いで離れる。
ルージュは愉快そうに笑う。
「いいね〜!青春だ!」
シュバインはカムイに近づき謝罪する。
「すまなかったなカムイ。奴らを油断させるために、お前の大切な仲間を攫ってしまった。」と。
カムイは首を横に振り、「ううん。シュバインがあいつらの仲間になってなくてよかったよ!」と。
シュバインが裏切り者ではなかったと確信した瞬間だった。
そのとき、ルージュの通信機が鳴る。
ニコフからの連絡だ。
「ルージュ様!空中の敵は始末しました!」
ニコフは今、ライデンビッヒ公国の上空にいる。
上空から魔法で地形を把握し、室内のマップも掴んでいた。
「エレーナ様!地形を映し出す魔法は使えますね?」
「はい!」
彼女はすぐに魔法を発動し、ニコフから送られてきた地図を空中に映し出す。
ニコフが続ける。
「今の部屋を出ると、二手に分かれます。
片方はおそらく……上層部の人間がいます。
反対は...おそらく牢屋でしょう。地形からそう判断します!」
ルージュは満足そうに頷く。
「よし!ニコフ!よくやった!」
地図を見つめる一同。
次の行動を決める時が来ていた。
部屋を出て進む四人。
分かれ道に差し掛かったその瞬間。
司令室のコライスンが、モニターを見ながら低く笑う。
「ふふ。そうはいきませんよ」
ボタンを押す。
分かれ道が激しく爆発する。
四人は間一髪で飛び越えたが、衝撃で二手に分かれてしまった。
シュバインとルージュ。
カムイとエレーナ。
ルージュが煙の向こうに向かって叫ぶ。
「おい!二人とも!大丈夫か!」
「うん!大丈夫!」
カムイがすぐに返す。
「よかった!仕方ない!ここは分かれて進むぞ!」
後戻りはできない。
二人組ずつ、別々の道を進むことになった。
シュバインとルージュは走る。
やがて、広い部屋に入る。
中には、先ほどのダリアンが立っていた。
「ここまできたか……」
ルージュは刀を構えニヤリと笑う。
「へっ!どうやらこの先に親玉がいるみたいだね!」
シュバインも銃を構える。
ダリアンの大剣と大槍が、鈍い光を放つ。
全身を覆う鎧のようなパワードスーツも、一斉に起動する。
「ふん!ここで始末してやる!」
広い部屋に、三つの殺気がぶつかる。
上層部への道は、この男を倒さなければ進めない。
ルージュが低く囁く。
「シュバイン。手加減なしだぞ」
「……わかっている」
二人とダリアンの戦いが、今始まろうとしていた。
一方、カムイとエレーナ。
道はどんどん下っていく。
やがて、牢屋のような場所に着く。
「ここは...」
カムイが呟いたそのとき、エレーナがハッとする。
懐かしい雰囲気を感じた。
ヨルンの里の人の気配。
彼女は突然走り出す。
「エレーナ!」
彼が慌てて追いかける。
エレーナが足を止める。
そして、とんでもないものを発見する。
そこにあったのは、大量の白骨死体だった。
血の気が引くエレーナ。
カムイも追いつき、完全に唖然とする。
「な、なんなんだよ……これ……」
エレーナは膝をつき泣き崩れる。
彼はすぐにしゃがみ込み、彼女を慰めるように抱き寄せる。
悲しむエレーナに怒りが込み上げてくるカムイ。
「許せねぇ……!」
地下牢獄に広がる白骨の山。
ヨルンの里の人々が、ここでどんな扱いを受けたのか。
すると、少し離れたところから声が聞こえる。
何やら女の子の声だ。
「だから言ってるでしょ!私の好みではないの!」
わがままを言うような、きつい口調。
カムイとエレーナがそちらへ向かう。
鍵を壊し扉を開けて入る。
そこは、牢屋とは思えないほど豪華な部屋だった。
テーブルに座っていた女の子が、ロボに文句をつけている。
「もー!」
彼女は何かを作動させ、ロボを爆発させる。
「へっ!?」
あまりの光景に、カムイとエレーナは完全に絶句する。
女の子はまだ二人に気づいていない。
「まったく!!」
怒ったままテーブルを叩く。
豪華な部屋の中に爆発の煙と、わがままな少女の声が響いていた。




