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第五十八話 ライデンビッヒ公国

 アジトでの作戦会議。

 ニコフがモニターを操作しながら説明する。



 ライデンビッヒ公国は、周りが深い谷で囲まれている。

 中に入るには、この四方から入る貨物列車しか方法がない。

 モニターに谷を縫うように走る貨物列車の映像が映し出される。

 ゼノヴィアが首を傾げる。

「空からはダメですか?」

 ニコフは首を横に振った。

「空には警備ロボが常に飛んでおり、すぐにバレてしまいます」

 ルージュが腕を組んでニヤリと笑う。

「ならやっぱり!貨物列車を奪い取るだね!」



 しかし、ニコフが続ける。

「貨物列車が乗っ取られたと知らされたら、セキュリティで扉が塞がれます」

 カムイが小さく頷く。

「なら、いかにバレずに乗っ取るか。だね!」

「ん〜」

 一同が腕を組み考え込む。

 アジトの空気が重くなる。



 そのとき。

 ふと、ルージュとカムイが同時に声を上げた。

「あ!」

 二人は顔を見合わせる。

 ルージュが愉快そうに笑う。

「へへ。おいカムイ!

 今、同じこと考えただろ?」

 カムイもニヤリと返す。

「奇遇だね!

 多分、そうだと思うよ!」

 他の一同は、完全に置いてけぼりだった。

 ゼノヴィアがきょとんとする。

 ニコフも困惑した表情だ。

 ルージュは満足そうに腕を組んだまま

「説明してやるよ。聞いて驚けよ?」

 カムイも自信ありげに頷く。

 二人の閃きが、作戦を大きく動かそうとしていた。



 一方、攫われたエレーナ。

 手足をしっかりと縛られ、目隠しをされた状態で列車に乗せられていた。

 揺れる車内で、彼女は静かに考える。

(ここは……列車ね。

 どこに行くんだろ?)

 振動と金属音が、身体に伝わってくる。

 周囲の気配から、何人もの敵がいるのはわかる。

 だが、今は動けない。



 エレーナが攫われて数時間後。ライデンビッヒ公国付近。

 線路の隅を、ルージュの手下たちが慎重に歩いている。

 影に紛れ、できるだけ目立たないように進む。

 崖の上では、ニコフとゼノヴィアが待機していた。

 ニコフが不安そうに呟く。

「……うまくいくでしょうか?」

 ゼノヴィアは苦笑いを浮かべる。

「ここは信じましょう」

 彼は少し皮肉っぽく続ける。

「ゼノヴィアさんも……

 めちゃくちゃな方が仲間にいると大変ですね」

 ルージュとカムイを、同等の厄介さだと感じているらしい。

 ゼノヴィアは小さく笑う。

「でも……とても頼り甲斐があります」

「そうですね」

 ニコフも頷く。

 崖の上から見下ろす線路に、手下たちの小さな影が進んでいく。

 作戦の第一段階が、静かに動き始めていた。



 公国から少し離れた線路。

 ルージュとカムイが、岩影に隠れて待機している。

「来たよ!」

 ルージュが声を上げる。

 貨物列車が近づいてくる。

 二人は同時に最後尾の車両に飛び乗る。

 そして、前へと進んでいく。

 乗務員たちが乗る車両に到着すると、ルージュが合図する。



 一気に突入する。

 中でライデンビッヒ公国の職員や兵士たちが驚く。

「誰だ!?」

 カムイとルージュは息の合った連携で次々に倒していく。

 槍と刀が交差し、兵士達はあっという間に制圧されていく。

 そのとき、一人の乗務員が無線で報告する。

「貨物列車に侵入者!セキュリティの起動を!」

 直後、ライデンビッヒ公国の入り口の巨大な扉が、重い音を立てて閉まってしまう。

 崖の上から見ていたニコフとゼノヴィア。

「始まりましたね」

「はい。セキュリティが作動しましたね」

 作戦は、次の段階へ移ろうとしていた。



 列車の人間を全て倒し、紐で縛り後方車両へ。連結を断ち切り、人を乗せた車両は止まる。

 そして、ルージュとカムイは先頭車両へ向かい、石炭を限界まで詰め込み、列車のスピードを一気に上げる。

「よし。こんなもんだな!」

「終わった?」

「おうよ!よし!しっかり捕まってるんだよ!」

 列車はスピードを下げるどころか、さらに加速していく。



 ライデンビッヒ公国のセキュリティルームでは、職員たちが慌て始める。

「おい!貨物列車!何してる!応答しろ!」

 誰も出ない。

「ま、まさか……!」

 誰もがゾッとする。

 列車が入り口付近に差し掛かる。

 ルージュが叫ぶ。

「よし!行くよ!」

 彼女はカムイを抱き抱える。

(うおっ!? ち、近い!)

 突然のことに驚きながらも、カムイは必死に彼女にしがみつく。



 ルージュは勢いよく列車から飛び上がり、安全な場所へ着地する。

 列車はそのまま入り口に突っ込む。

 爆音が響き、セキュリティによる扉をぶち破る。

 着地したルージュは高笑いを上げる。

「ははは!完璧だね!」

 下ろされたカムイも、満足そうに呟く。

(すげぇ〜。我ながら、すごいことを思いついてしまったな〜)

 煙が立ち上る入り口の向こうに、公国の内部が露わになっていた。

 二人の無茶な作戦は、見事に成功した。



 ライデンビッヒ公国の入り口は、完全に開かれた。

 ルージュとカムイの元に、彼女の部下たちが次々と到着する。

 ルージュは満足そうに笑う。

「よぉし!野郎ども!行くよ!」

 カムイは静かに拳を握る。

(エレーナ……待ってろよ!)



 一方、崖の上。

 ニコフとゼノヴィアが成功を確認する。

「やった!やりましたよ!」

 ゼノヴィアが喜ぶと、ニコフも安堵の息を吐く。

「本当にうまくいくとは……」

 彼はすぐに決断する。

「我々も行きましょう!」

 二人は空を飛んで公国へと進む。

 煙が立ち込める入り口から、ルージュ一行とカムイが突入していく。

 空からはニコフとゼノヴィアが接近。

 作戦は、本格的な侵入段階に入った。



 ライデンビッヒ公国の上層部の部屋。

 一人の男が眉をひそめて問う。

「何事だ?」

 部下が慌てて報告する。

「は、はい!賊が貨物列車を乗っ取り、セキュリティで閉じた扉に列車ごと衝突させました」

 一人の女が呆れたようにため息をつく。

「なんてやつらだい……」

 中央に座る男が、冷静に話す。

「問題ありません。

 賊と言っても、我が領土のセキュリティを突破するのは無理でしょう。ですが……念のためです。

 マービア。向かってください」

 マービアと呼ばれた女が、静かに立ち上がる。

 長い紫髪に青い瞳。

 純白の軍服にマントを羽織り、腰に剣を下げた、凛とした佇まいの女性だ。

 ライデンビッヒ公国の戦闘員幹部である。

 彼女は少し皮肉を込めて呟く。

「全く……人使いが荒いね」

 そう言い残し、部屋を出て向かっていく。

 上層部の部屋に、緊張した空気が残る。



 部下たちを率いて進んでいくルージュとカムイ。

 すると、大量の警備ロボが現れる。

 空を飛んでいたロボも、形態を変えて地上に降下し、一斉に向かってくる。

「来るぞ!」

 ルージュが刀を構え、カムイも槍を構える。

「今度はさっきみたいにいかねぇぞ!」とやる気十分のカムイ。



 全員での戦いが始まる。

 火花と衝撃音が、公国の通路に響き渡る。

 一方、空ではニコフとゼノヴィアが、警備ロボを倒し続けていた。

 一部のロボが地上に向かったため、空の敵は少なくなっていた。

 ある程度片付けたところで、ニコフが声をかける。

「ゼノヴィアさん。あとはお任せください」

 彼女は短く頷く。

 すぐに方向を変え、カムイたちの元へと飛んでいく。

 地上では、ルージュ一行がロボの群れに囲まれながらも、必死に前進を続ける。

 空から援軍が近づきつつあった。



 カムイ達はロボと戦闘。硬いボディとは裏腹に、関節部は柔らかかった。作戦会議でロボの弱点を突き止めた一同は次々に倒していく。

 カムイたちがロボを倒し終えたとき、空から声がした。

「カムイ様!」

 ゼノヴィアが到着する。

「ゼノヴィア!よかった!」

 彼が安堵の声を上げたその瞬間。

「そこまでだ!」

 冷たい声とともに、戦闘員幹部のマービアが現れた。



 ルージュが刀を肩に担ぎ、ニヤリと笑う。

「また強そうなのが来たね〜」

 ゼノヴィアも警戒を強める。

 カムイはマービアの全身を見て、内心で呟く。

(うおお。これまた美人でスタイルのいい女性が)

 マービアは静かに自己紹介をする。

「私はマービア・ガラマース。

 ライデンビッヒ公国の幹部だ」

 部下のロボを率いた彼女は剣を抜き放つ。

 ゼノヴィアが前に出る。

「カムイ様!ここは私に任せてください!」

 ルージュの部下たちも声を揃える。

「姉御!俺たちも残ります!」

「おうよ!ダークエルフの姉さんを一人おいていけねぇぜ!」

「お前ら……」

 ルージュが少し困ったように言うと、カムイが頷く。

「ゼノヴィア!頼むね!」

「はい!」

 カムイとルージュは、すぐに先へと向かう。

 残されたゼノヴィアと部下たちが、マービアと対峙する。

 通路に新たな戦いの気配が満ちる。

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