第五十六話 賊
翌朝。
準備を整えて街を出ようとする三人。
ふと、街の人に呼び止められる。
「君たち!どこに行くんだい?」
カムイが「えっと……」と言い淀んでいると、エレーナがはっきりと答える。
「ヨルンの里に行きます」
街の人は目を丸くする。
「えっ!?ヨルン?あそこは危ないし、それにこの前、あそこは壊滅して今じゃ何もないとこだよ?」
カムイはエレーナに小声で
「ごめんな」
と言ってから、大きな声で嘘をつく。
「いや〜!ヨルンって魔女の里ですよね?
なんかいい魔法アイテムでもあればいいかな〜と思って!」
エレーナに対しては失礼になるが、仕方のない嘘だった。
街の人は感心したように頷く。
「なるほど……まだ小さいのにすごいこと考えるね」
苦笑いのカムイ。
街の人は続けて注意してくれる。
「でも気をつけろよ!最近この先で、賊が村を作ったみたいだから」
三人は驚く。
エレーナとゼノヴィアが通った時は、そんな村はなかった。
カムイはお礼を言って先へ進む。
エレーナが呟く。
「賊ね...」
ゼノヴィアは答える。
「はい。色々と変わるものですね」
カムイは胸を張って宣言する。
「なーに!敵なら倒すだけさ!」
その頼もしい言葉に、エレーナとゼノヴィアは静かに微笑む。
ムールマールの街を後にし、三人は再び荒野へと足を踏み入れる。
賊の村という新たな障害が、道の先に待っているようだった。
進んでいくカムイたち。ゼノヴィアも変装を解く。
道中で現れるモンスターを倒しながら、途中休憩も挟んで進んでいく。
すると、話に聞いていた通り、遠くに村のようなものを発見した。
「あれか……」
カムイが静かに呟く。
エレーナが警戒を強める。
「ここからは気をつけた方がいいわね」
ゼノヴィアも真剣な表情で頷く。
三人は村の様子を窺う。
粗末な柵や、見張りらしき人影が見える。
賊の村が確実にそこにあるようだった。
ギラル山脈への道は、この障害をどう乗り越えるかにかかっている。
三人で村に近づく。
すると、カムイが足を止めた。
「あれ?」
「どうしたの?」
エレーナが尋ねると、ゼノヴィアもハッとする。
「……あの見張りさ……見覚えないか?」
見張りの男は、先日ゼノヴィアを襲っていた男たちのうちの一人だった。
まさかここの賊だったとは。
カムイはニヤリと笑う。
「よ〜し!ちょうどいい!」
意気揚々と村へ進む。
見張りが気づいて叫ぶ。
「誰だ!」
カムイの顔を見て、男はたじろぐ。
「お、お前は!!」
「よお!また会ったなおっさん!」
賊のおっさんは慌てて仲間に合図する。
「お、おい!上に報告だ!」
一人が村の中へ駆け込み、すぐに何人もの賊が出てくる。
カムイは槍を構える。
「へへへ!上等だ!」
エレーナも杖を握り、ゼノヴィアも剣を抜く。
三人と賊たちの間に、緊張した空気が走る。
村の入口で、戦闘の火蓋が切られようとしていた。
「オラオラー!!!」
カムイが槍から派手な炎魔法を放ち、敵を一掃する。
エレーナも魔法で、ゼノヴィアも剣術で敵を倒していく。
「こ、こいつら!つえー!」
カムイは余裕の表情で次々となぎ倒す。
すると、高速の魔弾が飛んできた。
「あぶね!」
ギリギリで避ける。
村の入り口から放たれたものだ。
「誰だ!」
そこには仮面を被ったローブを着た男が立っていた。
「あいつか!」
立ち向かうカムイ。
相手は魔法の猛攻を繰り出すが、彼は全て華麗に避ける。
カムイは槍を突き刺すが、魔法の防御で防がれる。
「くっ!」
その間に、エレーナとゼノヴィアは残りの敵を全て倒し終える。
「カムイ様!」
「カムイ!」
二人が彼の戦っている相手を見る。
エレーナは何か見覚えのあるものを感じていた。
「あの人……」
仮面の男とカムイの攻防が、村の入口で激しく続いていく。
カムイと仮面の男の激闘が続く。
男が突然手を上に掲げた。
次の瞬間、カムイは地面にめり込むように動けなくなった。
「ぐはっ!!」
どうやら重力魔法だ。
全く起き上がれない。
「くっそぉ!」
男が魔弾を彼に向ける。
その瞬間、エレーナがカムイの前に壁のように飛び込んだ。
「やめて!」
フードが取れ、彼女の顔が露わになる。
男は大きく驚く。
「!!!」
すぐに魔法を解き、仮面を外した。
「エレーナ様!」
エレーナも目を見開く。
「ニコフ先生!!!」
なんと、仮面の男とエレーナは知り合いのようだった。
重力から解放されて起き上がるカムイ。
ゼノヴィアが駆け寄る。
「カムイ様!」
彼は呆然と呟く。
「せ、先生!?」
村の入口で、四人の視線が交錯する。
予想外の再会が戦闘を一気に止めていた。
村の入り口で話す。
ニコフが嬉しそうに声を上げる。
「エレーナ様!よくご無事で!」
「先生こそ!」
エレーナも安堵の表情を浮かべる。
彼女はカムイとゼノヴィアにニコフに紹介する。
ニコフは、エレーナと同じヨルンの里出身の男性魔法使い。そして、エレーナの魔法の先生だった。
カムイは挨拶をして、そもそもの事の発端は賊がゼノヴィアを襲っていたことを説明する。
すると、ニコフは周りの手下たちに怒る。
「お前達!そんなことしたのか!」
「す、すまねぇ...ニコフの旦那」
「いや〜 めっちゃ美人なダークエルフだったので……つい」
腕を組むニコフ。
そのとき、村の奥から大声が響く。
「オラァァ!!」
ニコフは驚いて部下に問う。
「お、おい!まさか、あの方にも伝えたのか!」
「はい。このガキ、すごく強かったので……」
ニコフは慌てふためく。
村から何者かが飛び出してきた。
宙に浮く人影。
刀を持った女性だ。
長い赤みがかった髪をポニーテールにまとめ、紫の羽織を羽織っている。
彼女は入り口を見下ろし、すぐにカムイをロックオンする。
「あのガキか!強そうだね!」
「へっ!?」
落下しながら、刀を突きつけて突進してくる。
「おいおい!」
カムイは急いで距離を取る。
女性は少し離れたところで着地し、刀を構えたまま彼を睨む。
新しい強敵が、村に現れていた。
カムイと女性は睨み合う。
彼女は刀を肩に担ぎ、余裕の笑みを浮かべる。
「さ〜て!お前が1番強いみたいだね!ガキのくせに大したもんだ!」
「な、なんだよ急に!」
彼も槍を構える。
二人の激闘が始まる。
カムイの槍と、女性の刀が激しくぶつかり合う。
火花が散り、衝撃波が周囲を揺らす。
その様子を眺める他の一同。
エレーナが尋ねる。
「あ、あの人は?」
ニコフが説明する。
「あの方は、この村を作ってくださったルージュ・ヴァイエントさんだ。
元ハンターで、今はこの村でレジスタンス活動をしています。」
「レジスタンス?」
ニコフが説明しようとしたとき、カムイとルージュの戦いが激化する。
凄まじい爆風が起き、みんな踏ん張る。
カムイは明らかに苦戦していた。
(こ、このお姉さん、めっちゃつえー!
そ、それに……)
ルージュが魅力的すぎて集中できない。視線が奪われる。
(やべぇ...超美人だな...)
女好きな性格が戦いの障害に。
「おいおい、目が泳いでるぜ!ガキ!」
ルージュが笑ってさらに攻めてくる。
村の入口で、二人の戦いはますます白熱していく。
カムイが叫ぶ。
「誰がガキだ!僕はカムイ・ヴァルハートだ!」
ルージュは刀を振りながら笑う。
「へー!いい名だ!私はルージュ・ヴァイエントだ!」
戦いの最中に自己紹介を交わす。
彼女が刀の連撃を繰り出す。
彼は巧みな動きで華麗に回避する。
その動きを見て、ルージュの目つきが変わる。
「おまえ……その動き!」
何やら怒っている。
怒りの表情でさらに激しく向かってくる。
槍で刀を防ぐカムイ。
「おい!その動き!誰に習った!」
「は、はぁ!?ハンターのシュバインだよ!」
「シュバインだと!!」
なぜかシュバインに対して、過剰な怒りを露わにする。
ニコフが二人の戦いを止めに入る。
「ルージュ様!落ち着いてください!」
ルージュはニコフに怒る。
「なんだいニコフ!!止めるんじゃないよ!」
ニコフはルージュを説得する。
「あれは奴の単独任務なはずです。
この子は関係ないと思います」
「ふん!そんなこと知らないね!
あいつの動きをしてるんなら、全員仲間だ!」
あまり聞く耳を持たないルージュ。
カムイも負けじと叫ぶ。
「おい!なんだよ!シュバインのこと悪く言うなよ!
僕のたった1人の師匠なんだぞ!」
村の入口で、シュバインの名を巡る新たな対立が生まれていた。
エレーナとゼノヴィアも、ただ見守るしかない。




