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第五十五話 本心

 道を進む三人。

 エレーナがプンプンしながら先頭を歩いている。

 後ろにゼノヴィアが、そして一番後ろにカムイが続く。

 彼の頬には真っ赤なビンタの跡がくっきりと残っていた。

 ゼノヴィアは、前後の二人を交互に見ながら、そわそわしている。



 やがてゼノヴィアがエレーナに近づき、申し訳なさそうに声をかける。

「あ、あの……エレーナさん……」

 エレーナは彼女には優しかった。

「ゼノヴィアさんはいいんです!

 全部、あそこの男が悪いので!」

 普段のカムイのお姉さんへのデレデレ態度を見て、どうせ彼から提案したのはお見通しだったのだ。

 最後尾でカムイは頬を押さえながらぼやく。

「いてぇ〜……」

 荒野の道に、気まずい空気が流れ続ける。



 しばらく進んで岩陰で休む三人。

 お昼の時間帯なのでお腹が空いてくる。

 しかし、食料は昨日で底をついてしまっていた。

 気まずい空気もあり、カムイが立ち上がる。

「……ちょっと、なにかとってくる」

 そう言って離れていく。

 エレーナは無視し、ゼノヴィアは小さく頭を下げる。



 二人きりになったエレーナとゼノヴィア。

 ふと、ゼノヴィアが尋ねる。

「カムイ様とエレーナ様は、どのようにしてお会いしたのですか?」

「えっ!?」

 純粋に知りたかっただけの質問に、エレーナは少し動揺する。

「べ、別に大した出会いじゃないです」

 そう言いながらも彼女は説明する。

 たまたま洞窟で出会って、一緒にモンスターを倒して、行き場のない自分たち姉妹を家に住まわせてくれたと。



 ゼノヴィアは微笑む。

「お優しいじゃないですか!」

 エレーナは俯く。

 確かにとてもありがたかった。

 途方に暮れていた自分たち姉妹。

 しかも、世間から嫌われたヨルンの里の生き残りだ。

 捕まって奴隷とかにされてもおかしくない状況だった。

 しかし、あの女たらしぶりはどうも看過できない。

 まさかとは思っていたが、あそこまで踏み込む人だとは思っていなかった。



 エレーナが声を上げる。

「も〜!信じられないですよ!」

 ゼノヴィアは静かに微笑む。

「お好きなんですね。カムイ様のことが」

「えっ!?」

「す、すみません」

 彼女は続ける。

「……あの方は、困っている人を助けずにはいられない、優しい方なのだと思います。

 エレーナさんは……そこに惹かれたのではありませんか?」



 確かにそうだった。

 カムイの優しさに触れ、この旅の序盤では常に自分を引っ張ってくれた。

 好きになりかけていた。

 あんな姿を見て普通は軽蔑するはずなのに、なぜか嫌いになりきれない。

 ゼノヴィアは優しく説得するように言う。

「……どんな時でも、カムイ様は心の優しい人ですよ」

 エレーナはしばらく黙った後、折れるように頷いた。

「わ、分かりました!」

 そして、彼女を見て、少し赤くなりながら宣言する。

「私!ゼノヴィアさんに負けない女になりますから!」

 ゼノヴィアはふふっと笑った。



 そんな会話をしていると、遠くからカムイの声がする。

「おーい!」

 走ってやってくる彼の肩には、巨大なトカゲのような、ドラゴンのようなモンスターが担がれていた。

「えっ!?」

 エレーナとゼノヴィアが同時に驚愕する。

 彼はドサリと獲物を地面に置く。

「すげぇすげぇ!なんかデカいやつがいたからさぁ!

 倒しちゃったよ!これって食べられる?」



 ゼノヴィアが目を見開いて説明する。

「こ、これはサンドドラゴンですよ」

 彼女の説明によると、サンドドラゴンは鱗や爪が高額で取引されるモンスター。しかも肉は超絶品だという。

「よっしゃ!」

 喜ぶカムイにゼノヴィアが続ける。

 食べられる部分には猛毒があり、うまく解毒しなければならない。その解毒魔法をゼノヴィアは習得していないらしい。



 カムイが困った顔をしていると、エレーナがそっと近づいてくる。

 まだ怒っていると思い、彼は無言になる。

 だが、彼女は少し照れながらもハッキリと言った。

「……私がやるから!」

「えっ?」

「私が解毒やるから!さっさと捌いてよね!」

「あ、ああ!」

 彼は慌ててナイフで捌き始める。

 ゼノヴィアは二人の様子を見て心の中で微笑む。

(やっぱり仲がいいですね)

「私も手伝います!」

 彼女も剣を抜き、細かく肉を切り分けていく。

 岩陰に三人の息の合った作業が始まる。



 満腹になった三人。

 サンドドラゴンの残った肉は、エレーナが氷魔法でうまく冷凍する。

 それをゼノヴィアの所持する異次元収納袋に入れていく。

「便利ですね」

「はい。魔界のアイテムです!

 売れる素材も、この中に入れておきますね!」

 二人は自然と会話し、作業を進める。



 その様子を眺めるカムイは、ただ混乱していた。

 エレーナの機嫌が少し良くなった理由が全くわからない。

 さっきまでプンプンして話もしてくれなかったのに。

 岩陰に穏やかな時間が流れる。

 サンドドラゴンの肉のおかげで、三人の体力はしっかりと回復していた。

「……そろそろ、行こうか」

 彼が立ち上がると、二人も頷く。

 北を目指す旅はまた再開される。



 しばらく進んでいると、崖の下に街を発見した。

 ゼノヴィアが説明する。

 ムールマールという小さな街。物資の調達にはちょうどいい。

 すると、エレーナがローブを取り出し素早く羽織る。

「?」

 カムイが首を傾げると、彼女は顔を隠しながら答える。

「ヨルンの里の魔女ってバレたら騒ぎになるでしょ?

 街に入るなら、警戒しないと」

「あ、そうか」



 エレーナはゼノヴィアにも気をつかう。

 ダークエルフの彼女も、あまり身バレは良くないと思い提案する。

 だが、ゼノヴィアは首を横に振った。

「いえ!大丈夫です!」

 彼女は魔法を発動する。

 すると、尖った耳が消え、普通の人間の女性の姿に変わった。

 驚くカムイとエレーナ。

 彼女は変装の魔法が使えるらしい。

 ヨルンの生き残りを探すために情報収集していた時も、この魔法を使っていた。

 三人は坂を下っていき、ムールマールの街へと入っていく。



 ムールマールの街。商人の街でも有名。小さいながらも活気に満ちている。

 あちこちで商売が行われ、人々が行き交う。

 三人は買取の店に入る。



 ゼノヴィアが、異次元収納袋からサンドドラゴンの素材を全て出す。

 店員は慌てふためく。

「こ、こ、これって!サンドドラゴンの!?」

 店員はすぐに大勢の人を呼び、鑑定を始める。

 もちろん全て本物。

 かなりの大金になった。

 全店員に深々と頭を下げられて店を出る。

 カムイは目を丸くする。

「す、すごいな……」

 エレーナも小さく頷く。

 ゼノヴィアは誇らしげに微笑む。

「そうですよ!カムイ様が倒したサンドドラゴンは、超高級素材なんですから!」

 改めて、自分が倒した獲物の価値を知った彼は、少し照れくさそうに頭を掻いた。



 三人は食べ物や飲み物、必要なものを買っていく。

 途中、カムイが一人のおじさんに呼び止められる。

 おじさんはニヤリと笑う。

「なんだい坊主。女の子2人も連れちゃって〜。そんなあなたにはこれ!」

 彼が差し出したのは、あるモンスターの肝から作ったという超強力の薬だった。

「飲めば向かう所敵なしだよ!」

 カムイは一瞬想像する。

 だが、後ろからギロッと睨まれる感覚がした。

 エレーナの視線だ。

 彼はすぐに手を振り、断って去る。

「い、いいです!結構です!」

 歩きながら、エレーナが呆れたように呟く。

「まったく!油断も隙もないわね!」

 ゼノヴィアは苦笑いを浮かべるだけだった。

 街の通りを、三人は再び物資を抱えて進んでいく。



 この日は宿に泊まることにした三人。

 店員に「お部屋は何部屋になさいますか?」と聞かれ、チラッとゼノヴィアを見たカムイは「2部屋……」と言いかけた。

 だが、背中にゾッとする気配を感じてすぐに言い直す。

「1部屋で大丈夫です!」

 エレーナが深くため息をつく。

 部屋は広めの三人部屋で、ベッドが三つ並んでいた。

 荷物を置き終えると、ゼノヴィアが地図を広げここからヨルンの里までの道のりを説明する。

「ルートは二つあります」

 ① そのまま荒野を突っ切るルート。

 ② 谷を通るルート。

 エレーナとゼノヴィアは、かつて①のルートを通ってきた。

 ②は凶暴なモンスターが大量にいるとのことだったからだ。

 カムイはすぐに決断する。

「なら明日は、安全な①のルートで行こうか!」

 二人も頷く。

 部屋の明かりの下で、三人は明日の準備を整える。

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