第五十三話 ダークエルフ
まずは一つ目の関門の山を超えた。
まだまだ長い道のりだが、二人は互いに励まし合う。
坂の下の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
見下ろしてみると、一人の女性が多数の男たちに追いかけられている。
よく見ると、その女性はダークエルフの剣士だった。
長い青髪に赤い瞳、銀色の鎧に身を包んだ、非常に魅力的な女性だ。
カムイは内心で大興奮する。
(うお!なんて美人!)
エレーナが静かに言う。
「あれ……ダークエルフよね?」
「ああ!多分ね!」
すかさず彼は駆け出す。
「あれは危ないね!助けに行こう!」
「ちょ、ちょっとカムイ!もー!」
エレーナは呆れつつも、すぐに後を追う。
坂を駆け下りる二人の前で、青髪のダークエルフ女性が、男たちに囲まれようとしていた。
ダークエルフの女性が追い込まれて、鋭く息を吐く。
男たちは下品な声を上げる。
「なあ、いいじゃん! ダークエルフの姉ちゃんさ〜」
「俺たちと遊ぼうよ!」
彼女ははっきりと拒絶する。
「嫌です!やめてください!」
男達が襲い掛かろうとした瞬間、目の前を巨大なファイアボールが通った。
「あっぶね!」
慌てて避ける男たち。
カムイが現れる。
「おいおい!おっさんがキモい顔してんじゃねぇよ!」
「なんだテメェ!」
怒りの声が上がる中、彼はニヤリと笑う。
「綺麗なお姉さんを救いにきただけだよ!」
横にいたエレーナは、呆れたように小さくため息をつく。
「あんたね...」
青髪のダークエルフ女性は、突然現れた少年とその隣の少女を警戒しながらも見つめていた。
男たちの視線が一斉にカムイに向く。
男達がカムイとエレーナに向かってくる。
カムイは巧みな槍使いで、次々と男達を圧倒していく。
エレーナも水魔法を発動し、一人を水の球体の中に閉じ込めた。
男はもがき苦しんだ末に気絶する。
彼女はすぐに魔法を解く。
あっという間に男達は全滅した。
「くっそー!覚えてろよ!」
残った者が捨て台詞を吐いて逃げていく。
カムイはダークエルフの女性の方を向き、明るく声をかける。
「お姉さん!大丈夫?」
彼女は少し驚いたように、しかし丁寧に頷く。
「は、はい……」
まだ警戒は残っているものの、敵意はないようだ。
エレーナが隣に立つ。
新しい出会いが、ようやく言葉を交わす段階に入ろうとしていた。
ダークエルフのお姉さんはとても礼儀正しかった。
「ありがとうございます。
なんとお礼を言っていいか……」
カムイはデレデレ気味に答える。
「いいえ!困ってる人がいたら助けるのが当然ですから!」
エレーナは横で小さくため息をつく。
ダークエルフの女性が丁寧に自己紹介をする。
「私はゼノヴィア・ガーデンローズ。
ダークエルフの戦士として、人間界で旅をしています」
エレーナが疑問を口にする。
「本来...魔界にいるはずのダークエルフさんが、なんで人間界に?」
ゼノヴィアは少し言いにくそうに、事情を話し始めた。
ダークエルフ族は、かつてヨルンの里の人たちと親交があった。
しかし魔界にとっては、いくら魔女でも人間は人間という考え。
人間と仲良くするダークエルフ族を敵とみなし、魔界から追放した。
さらに他の魔族の策略で、ヨルンとダークエルフの関係を悪化させられ、結果としてヨルンの人たちはダークエルフを敵視するようになってしまった。
エレーナはその話を聞いて目を見開く。
「そういえばお婆様が言ってた!
昔はよくヨルンの人とダークエルフは仲良くしてたって!
でも...突然仲が悪くなって……それからダークエルフたちとの交流はなくなったって!」
ゼノヴィアはエレーナを見て、大きく驚く。
「あなた!ヨルンの出身なんですか!?」
「はい。」
その言葉に、ゼノヴィアは深く感動した様子を見せる。
ゼノヴィアは、数ヶ月前にヨルンの里が何者かに襲われて壊滅したことを知った。
いてもたってもいられずに里に向かったのだが、着いた頃には壊滅していた。
一人でも生存者はいないかと、今まで探し続けていたらしい。
青髪のダークエルフは、エレーナの前に跪くようにして、目を潤ませる。
「……本当によかった。
生き残っていてくれて……」
ゼノヴィアが尋ねる。
「お二人はどうしてこんなところに?」
エレーナは妹の病を治すために、ギラル山脈にある薬草を取りに向かっていることを話す。
ゼノヴィアは目を見開いて驚く。
「ギラル山脈……!
そんな遠くまで……」
少し考えてから、彼女ははっきりと頷いた。
「わかりました。
もしよろしければ、私も同行させてください」
エレーナは深く頭を下げる。
「本当に!ありがとうございます!」
カムイも素直にお礼を言う。
「助かります!ありがとう、ゼノヴィアさん!」
同時に、内心では大興奮していた。
(美人のダークエルフさんと旅ができるなんて……!
最高だ……♡)
青髪の戦士が荷物を軽くまとめ二人の隣に立つ。
これで三人の旅が始まる。
ギラル山脈を目指す道のりに、新しい仲間が加わった。
道中。
カムイはゼノヴィアさんに、デレデレでグイグイと話しかけていた。
「ゼノヴィアさんって、剣の腕すごいですね!
それに綺麗だし♡」
彼女は人間と話すことが久しぶりらしく、嬉しそうに応じてくれる。
その様子を見ていたエレーナは、少し膨れていた。
メロンさんのことを思い出し、心の中で確信する。
(やっぱり!ああいうお姉さんが好きなんだ...カムイは!)
カムイがチラチラとゼノヴィアの胸を見ている。メロンさんの時もそうだが、カムイのタイプの女性は、歳上の胸の大きい女性だと確信した瞬間だった。
しばらく進んだ三人は、大きな木の下で野宿することにした。
二つのテントを立てる。
カムイがすぐに提案する。
「ゼノヴィアさ〜ん♡
よければ僕と一緒に……」
その言葉を遮るように、エレーナが彼の腕を引っ張る。
「あんたはこっち!」
「お、おい!エレーナ!」
強引に連れていかれる彼を見て、ゼノヴィアはくすくすと笑った。
「私は見張りをしておきます。
しばらくしたらこっちのテントで寝ますよ」
「そんな〜」
不満そうな声を上げながらも、カムイはエレーナのテントに連れ込まれていく。
同じテントで横になるカムイとエレーナ。
彼が不満そうに言う。
「なんで止めたんだよ〜」
エレーナはきっぱりと答える。
「あんたが変なことしないためよ!」
「なんだよ〜、変なことって!」
彼女は「ふん!」と鼻を鳴らし、少し寂しそうにボソッと呟く。
「せっかく2人きりだったのに...」
カムイには、よく聞こえなかった。
「えっ? なんて?」
「別に!」
エレーナはそう言い捨てて、毛布を頭までかぶってしまう。
「……おやすみ」
彼が小さく声をかけると、毛布の中から短い返事が返ってくる。
「……おやすみ」
焚き火のそばでゼノヴィアは静かに座っていた。
テントの中から聞こえてくる、カムイとエレーナの仲睦まじい声。
「仲がいいですね」
小さく呟く。
久しぶりに、こんなほんわかとした夜を迎えた気がする。
やっぱり、誰かと一緒にいるのは楽しいものだと心から思う。




