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第五十一話 揺らぎ

 フリードはメロンを睨む。

 そのとき、カムイが掠れた声で叫ぶ。

 フリードが彼の方を向くと、カムイは歯を食いしばりながら続けた。

「て、てめぇ……!メロンさんに手出すんじゃねえぞ!……もし手出したら...その時は覚悟しとけよ!」

 くだらない脅しに、フリードは高笑いする。



 一人の部下が外の騒がしさに気づいた。

 窓を開ける。

 二階から見る光景に、彼は唖然とする。

 数十人というハンターたちが、アジトを取り囲んでいる。

「な、なんだあれは!?!?」

 メロンはハッとして、縛られたまま立ち上がり、窓の外に顔を出す。

「みなさん!」

 大声で叫ぶと、地上のハンターたちが顔を上げる。

「お、おい!あれ!」

 メロンの姿を発見する。

 そして、彼女を引っ張るフリードの姿もハッキリと見えた。



 その様子を見たハンターたち。

 メロンを攫った犯人がフリードだと確信する。

 全員が一気に燃え上がる。

「やっぱりお前だったか!」

「ゆるせねぇ!」

 怒りに震える声があたりに響く。

 一人のベテランハンターが、剣を抜いて叫んだ。

「いくぞお前ら!皆殺しだぁぁ!!!」

 アジトの中に怒涛のように入っていく。

 フリード一行は慌てふためくしかなかった。



「だ、団長!どうするんですか!

 あんな数!?」

 フリードは焦りながら叫ぶ。

「う、うるさい!お前らでなんとかしろ!」

 そう言って、メロンを強引に連れて逃げようとする。

 そのとき、カムイが必死に立ち上がり体当たりを放った。

「させるかよ!」

 フリードはバランスを崩し、カムイと共に階段から転げ落ちていく。



 二階に登ろうとしていたハンターたちとちょうど出くわす。

 フリードとカムイはそのまま気絶していた。

 一人のハンターがフリードを見て、激怒する。

「フリード!このやろう!」

 もう一人が、あざだらけのカムイを見て驚く。

 ボコボコにされた彼の姿に、皆が一斉に心配する。

 残りのハンターたちは二階へ駆け上がり、フリードの手下たちを容赦なくこらしめに向かう。

 アジトの中は、怒号と打撃音で騒然となる。

 だが、カムイとメロンは、ようやく救われた。



 目を覚ましたカムイ。

 知らない部屋で、ベッドに寝かされていた。

 包帯でぐるぐる巻きだった。

(ここは……?)

 同時にぼんやりと思う。

(久しぶりだな〜。こうして気絶するのも...)

 今までの人生で、何度も無理をして気絶してはベッドで目を覚ます。

 変わらない自分に、思わず笑ってしまう。



 すると、優しい声が聞こえた。

「カムイ君!」

 メロンさんが駆け寄ってきた。

 どうやらあの一件の後、メロンがカムイを自宅に連れて帰り、看病してくれていたらしい。

 たまたま家が近くて、すぐに手当てができたとのこと。

「よかった〜!」

 彼女は安堵のあまり、彼を優しく抱きしめる。

「本当に無事で良かった……」

 カムイは、その温もりに少し照れながら、素直にお礼を言った。

「ありがとう……メロンさん」

 静かな部屋に、優しい空気が流れる。



 メロンは深く反省していた。

「ごめんなさいカムイ君。あなたを危険な目にあわせてしまって...」

 二年前。カムイにハンターになるように勧めたのは自分だ。

 彼が安全に仕事ができるよう、自分がしっかりしないといけない。そう思っていたのに。

 結果として、危険な目に遭わせてしまうことが多かった。子供に何度も何度も無理をさせてしまっている自分を責める。



 カムイはきょとんとする。

(そうだったな……ハンターとして大人と一緒に働いててすっかり忘れてたけど、俺って本来、ただの子供なんだよな。)

 ルミエルとして、ふと思い返す。

 彼はメロンの手を握りハッキリと言った。

「大丈夫だよ。

 僕は、どんな目にあったって平気だよ!」

「で、でも……」

「それに僕は...メロンさんには感謝してるんだよ。

 お母様とヴァルハートの屋敷を出て途方に暮れていた時、あの家に住むことと、ハンターになることを勧めてくれて。ハンターのみんなと出会えて、おかげで毎日が楽しいんだ!」

 メロンの目が潤む。



 カムイはニヤリと笑い、いつもの調子で続ける。

「それに...メロンさんに毎日会えるの、楽しみなんだよね〜」

 彼女はクスッと笑い、相変わらずの彼に柔らかく微笑む。

「もう……カムイ君ったら」

 静かな部屋に、温かい空気が流れていた。



 カムイはさらにメロンに身を寄せる。

「ところでメロンさん。

 さっきフリードのアジトで言ってたこと...ほんと?」

「えっ?」

「僕のこと、魅力的って言ってたよね?

 それって、男として?」

 メロンは驚いて顔を赤らめる。

「何言ってるの!?」

 彼は彼女に抱きつき、甘えるように詰める。

「ねぇねぇ〜メロンさ〜ん」

「そ、それは……人としてよ!」

「え〜!」

 メロンはホッと息を吐く。



 カムイはすぐに続ける。

「じゃあじゃあ!デートしてよ〜」

 相変わらず、ギルドと同じノリだ。

 彼女はフフッと笑う。

 いつもなら即答で断るところだが、今日は助けてもらった礼もあるので珍しく提案した。

「なら……カムイ君が騎士団の団長にでもなったら……

 デートしてあげようかな〜」

 メロン自身、あまり期待はしていなかった。

 確かに強い子だけど、騎士団のトップになるのは何十年も先だろう。

 その頃には自分もいい歳だし、彼も諦めるはずだと。



 すると、カムイは目を輝かせた。

「ほんと!!

 よーし!約束だよ!

 すぐにでもなってやるぞ!」

 メロンは心底驚く。

 こんなあっさりと、本気でやる気になるなんて。

 彼女は小さくため息をつきつつも、彼の無邪気な勢いに、思わず微笑んでしまった。



 夕方になり、カムイはだいぶ元気になっていった。

 まだ頭に包帯は巻かれたままだが、帰れる程度には回復している。さすがはカムイの回復力と言ったところ。

 メロンさんが家まで送ろうとすると彼はごねた。

「ねぇ、今日泊まっちゃだめ??」

「ダメよ!」

「いいじゃ〜ん」

 メロンはきっぱりと首を横に振る。

「女性の家に泊まり込むのはよくないわよ!

 ちゃんとしなきゃ」

「ちぇ!」

 彼が不満そうに唇を尖らせると、彼女は優しく笑う。

「ほら、行きましょう。

 アリアさんも心配してるはずよ」

 カムイは仕方なく立ち上がる。

 メロンに手を引かれて玄関へ向かう。



 部屋を出る瞬間。

 カムイはふと、台の上に飾られた写真に目が留まった。

 おそらくメロンさんだ。

 その隣に男性が写っている。

(ん?誰だろう...恋人...とかか?)

 彼が不思議そうに眺めている。メロンは気づかない。

「カムイ君!いくわよ」

「はーい!」

 彼は答えながらも、写真のことが頭に残ったまま家を出る。

 夕暮れの道を歩きながら、疑問が胸に引っかかっていた。

(……メロンさんに、そんな人いたんだ...)

 帰宅する足取りは軽やかだが、心のどこかで小さな引っかかりを残したまま、丘の上の家へと向かう。



 カムイは家に帰宅する。

 アリアが出迎える。

「あら、カムイ。今日は早かった……」

 と言いかけたところで、彼女の言葉が止まった。

 包帯だらけの息子。

 そして後ろには申し訳なさそうな顔のメロン。

 似たような光景に、アリアはすぐに理解する。

 またしてもカムイが無理をしたのだと。

 次の瞬間、彼女はその場で気絶した。



「なんの音?」

 出てきたエレーナが、倒れたアリアを見て叫ぶ。

「アリアさん!!!」

 慌てて駆けつける。

 カムイは肩をすくめて呟く。

「あらら〜」

 メロンは深く頭を下げる。

「ほんと、ごめんなさい……」

 リビングに、またしても騒動の気配が広がる。



 レーゼとパラディンは散歩に行っており不在だった。

 ソファで横になるアリア。

 テーブルでは、エレーナがカムイとメロンから事情を聞いている。

 エレーナはずっとカメラを通じて見ていたので、事情はほとんど把握している。

 だが、カムイとメロンはそんなこと知らない。

 エレーナは二人を静かに見つめる。

 メロンの家で、カムイがデレデレしていた光景も見ていた。

(この二人……別にそういう関係じゃないわよね。

 ……それにしてもカムイ、あんなにデレデレして...)

 メロンの家での出来事を、少し不満に思う。



 エレーナはチラッとメロンを見て、心の中で認める。

(確かに……綺麗な人ね)

「ん?どうした、エレーナ?」

 カムイが気づいて尋ねると、彼女は慌てて否定する。

「べ、別に!なんでもないわよ!」

 すぐに話を変え、改めてメロンにお礼を言った。

「あの...この家に住まわせてくれて……ありがとうございます」

 メロンは優しく首を横に振る。

「いえいえ。

 正直、ヨルンの魔法使いに生き残りがいたなんて驚いたわ。あなた達も色々と大変だったわよね。」

 テーブルを囲む三人に穏やかな空気が流れる。



 話を終えて、メロンさんは馬車で帰る。

 カムイとエレーナが見送る。

 彼は元気に手を振っている。

 横で、エレーナは少し膨れていた。

 突然、彼女が口を開く。

「カムイって……メロンさんみたいな人がタイプなの?」

 彼は驚いて振り返る。

「ど、どうしたんだよ急に!?」

 エレーナは慌てて話を逸らし、さっさと家の中に入っていく。

 残されたカムイは、首を傾げる。

「なんだったんだ……?」

 彼女のよくわからない質問に、ただ驚くばかりだった。



 ソファで気絶しているアリアのそばに、カムイとエレーナが座る。

 突然、アリアが目を覚ました。

「カムイ!!!」

「あ、起きた」

 彼がぼそっと言うと、エレーナはホッと息を吐く。

 アリアはすぐに息子の包帯だらけの姿を見て、声を上げる。

「も〜!カムイ!またこんなに怪我して!」

「だ、大丈夫だって!」

「あなたはも〜!」

 エレーナはくすくすと笑った。

 リビングに、親子のいつものやり取りが戻ってくる。



 アリアは息子の顔を両手で挟み、真剣な目で見つめる。

「今度こそ、無理は禁止よ。

 いいわね?」

「はーい……」

 彼がしぶしぶ頷くと、彼女はようやく少しだけ表情を和らげる。

 エレーナはそんな二人を、温かく見守っていた。



 アリアに今回の事件を一通り話す。

 メロンさんを救ったことは褒められたが、ボコボコにされたことには悲しむ。

 彼女が俯くと、カムイはそっと寄り添って慰める。

「大丈夫だよ、お母様。

 もう平気だから」



 夕食の時間になり、レーゼとパラディンも帰ってきた。

 四人で食卓を囲む。

 アリアはカムイに「あーん」をする。

「ほら、カムイ。あーん」

「お母様!1人で食べられるよ!」

「ダメ!怪我してるんだから!」

 流石にエレーナとレーゼの前では恥ずかしいカムイ。

 レーゼが目を輝かせて茶化する。

「カムイお兄ちゃん。赤ちゃんみたい!」

「ち、違うから!」

 彼が顔を赤くして否定すると、エレーナも小さく笑う。

 食卓に明るい声が響く。



 数日後。

 事件の調査が終わり、レッドホーク騎士団は解散となった。

 フリードたちにも厳しい罰が下された。

 騎士による罪は、責任も処罰も重い。

 必ずしもきらびやかな世界ではない。

 ギルドではハンターたちが「ざまあみろ!」と騒いでいる。

「メロンさんを攫うなんて、許されねぇよな!」

 カムイもカウンターでメロンに声をかける。

「これでもう、嫌な求婚はされないね」

 彼女はふふっと小さく笑う。

「そうね」

 カウンター越しに、二人の間に穏やかな空気が流れる。

 事件は終わり、ギルドに日常が戻りつつあった。

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