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第五十話 大所帯

 翌日。

 カムイはいつも通りギルドへと向かう。

 中に入ると、妙にざわついていた。

 カウンターの周りで職員たちが不安そうに話している。

 どうやらメロンさんが来ていないらしい。

 いつも一番に来て、掃除や書類の準備をしてくれているのだが。

 ハンターたちも落ち着かない。

 カムイは一人、静かに思う。

(メロンさん……どうしたんだろう?)

 いつも明るい声で迎えてくれる彼女がいない朝。

 ギルドの空気が普段より少し重く感じられた。



 ギルドの外に出るカムイ。

 裏路地へ回ると、何かが落ちているのが目に入った。

 メロンの髪飾りだ。

「これって……」

 近くには、乱雑に置かれたほうきとちりとりもある。

(まさか!)

 彼は急いでギルドに戻った。

「ねぇ!誰か探査系の魔法使える人いない!?」

 ハンター全体に声をかけると、一人の女性ハンターが手を挙げる。

「私……できるけど……」

「ちょっと来て!」

 彼が頼むと、彼女はすぐに従う。

「なんだなんだ?」と数人のハンターもぞろぞろとついてきた。



 裏路地でカムイは説明する。

 女性は魔法を発動し、地面に残る足跡を浮かび上がらせる。

 すると、そこには何度か足踏みしたような形跡があった。

 さらに、足跡が途中で不自然に途切れている。

 彼女の表情が曇る。

 周りのハンターたちが不安そうに詰め寄る。

 女性は重い口を開いた。

「メロンさん……連れ去られたかもしれません」

 驚愕する一同。

「一体、誰に……!?」

 裏路地に、重く冷たい空気が広がる。



 ハンターたちは大急ぎでギルドに戻り受付に知らせる。

 他のハンター達への全体連絡もいれた。

「メロンさんが誘拐された可能性がある!」

 ギルドのアイドル的存在である受付嬢の誘拐疑惑。

 その言葉が広がった瞬間、空気が一変する。

「な、なん……だと?」

「……メロンさんが?」

 荒くれ者のハンターたちが一斉に声を上げて飛び出した。

 朝から酒を飲んでいた者すら、グラスを放り出して駆け出す。



 ギルド周辺で放送を流す。

「全ハンターに告ぐ!ギルドの受付嬢、メロン・セレスティアさんが誘拐された疑いあり!手の空いているものはすぐさま捜索を!」と。

 放送を聞いたハンター達は

「いそげぇぇ!!」

「待てよ、俺も行く!」

「メロンさんを返せぇ!」

 とんでもない大所帯が一気に形成される。

(さすがはメロンさん)とカムイは心の中で思う。



 ギルドの入口から、次々とハンターが溢れ出てくる。

 捜索の準備が異様な熱量で進められていく中、カムイは髪飾りを強く握りしめた。

(メロンさん……絶対に見つける)

 彼の目が、静かに燃える。

 ギルド中が一人の受付嬢を救うために動き始めていた。



 一方その頃。

 メロンはある場所で目を覚ます。

 薄暗い室内。

 手足はしっかりと縛られていた。

「えっ!?」

 驚いて体を起こそうとするが動けない。

 すると、扉が開き部下を率いたフリードが入ってきた。

「おはようございます。メロンさん」

「あ、あなた!どういうつもり!」

 メロンが怒りと恐怖を混ぜた声を上げると、フリードは不気味に笑う。

「まったく……あなたが悪いんですよ。

 俺との結婚を断るから」

 彼女はゾッとする。



 フリードは一歩近づき、優雅に手を広げて見せた。

「でも安心してください。

 無理やりというのは、僕のポリシーに反するんでね。

 あなたの口から言ってもらうんですよ」

「はい!?そんなこと言うわけないじゃないですか!」

 メロンがきっぱりと拒否しても、フリードの自信は揺るがない。

「ふふ……そう言わずに。

 そのうち考えが変わるかもしれませんよ」

 薄暗い部屋に、彼の低く粘っこい声が響く。

 部下たちは無言で立ち、出口を固めていた。



 一方、カムイ。

 必死にメロンを探す。

「どこだ?どこにいるんだ!」

 しばらく探して途方に暮れていると、突然後ろからガンッ!と殴られた。

(だ、誰だ……)

 意識が遠のき、そのまま気絶する。



 目を覚ましたとき、彼は縛られて横になっていた。

 隣を見ると、同じく縛られたメロンがいた。

「カムイ君!」

「メロンさん!」

 二人が顔を合わせた瞬間、男の声がする。

「おっ!起きた起きた!」

 顔を向けると、昨日のフリードが立っていた。

 カムイはすぐに理解する。

 メロンを攫い、自分を気絶させた張本人だ。

「テメェ!」

「まあまあ、怒るなよ。

 ははは!ゴールドハンターもあっけないな〜」



 カムイはすぐに拘束を解こうとするが、力も魔力も全く出ない。

「なにぃ!?」

 フリードが得意げに説明する。

「残念だったな。お前につけた首輪」

 カムイはハッとして、首元に何かつけられていることに気づく。

「そいつは力と魔力を封じる首輪さ。

 ガキとはいえ油断はできないからな。

 一応つけさせてもらったよ」

 悔しがるカムイを見て、フリードは満足そうに笑う。



 カムイの家。

 部屋ではエレーナが迷いながらも水晶を手にしていた。

 実は昨日の夜。

 カムイの部屋に入ったとき、彼のハンター仕事用の服にカメラをこっそりつけていたのだ。

 悪いことをしているのは分かっている。

 でも、メロンさんという人がどんな人なのか、どうしても気になってしまっていた。



 彼女は罪悪感を感じながらもカメラを起動する。

 映像が浮かび上がる。

 すると、思いがけない光景が映し出された。

 薄暗い部屋。

 拘束されたカムイが、痛めつけられている。

「えっ!?」

 エレーナは声を上げて飛び上がる。

 水晶の中で、男がカムイを嘲笑いボコボコにしている。

 隣には、縛られた女性。おそらくこの人がメロンさんなのだろう。

「カ、カムイ……!?」

 彼女の顔から血の気が引く。

 手に持った水晶が小刻みに震える。

「こんな……こんなことになってるなんて……!」



 エレーナはどうしようか考える。

 自分が街に行って通報してもいい。

 だが、ヨルンの魔女が街を歩いて、もしバレたら事が大きくなってしまう。

 迷った挙句、ある方法を思いついた。



 彼女は急いで家を出る。

 アリアがキッチンから顔を出し、「?」と疑問の表情を浮かべる。エレーナは振り返らずに庭へ向かった。

 外ではレーゼがパラディンと無邪気に遊んでいる。

「レーゼ!パラディンにお願いして!」

 突然の大声に、レーゼは目を丸くする。

「えっ?お姉ちゃん、どうしたの?」

 エレーナは息を切らしながら、妹の前にしゃがみ込んだ。

「カムイが……危ないの。

 今すぐ、誰かに知らせないと」



 レーゼは姉の真剣な顔を見て、すぐに状況を察した。

「……わかった!

 パラディン、お願い!」

 パラディンは低く鳴き、レーゼの言葉を理解したように首を縦に振る。

 エレーナはカメラで見た場所の情報を、妹を通じてパラディンに伝えようとしていた。



 フリードのアジト。

 カムイはフリードや仲間たちに、ボコボコにやられていた。

「やめて!」

 メロンが必死に叫ぶ。

 フリードは満足そうに彼女を見る。

「なら!俺に『結婚してください』って言うんだな」

 どうやら彼は、カムイを痛めつけるところをメロンに見せつけることで、無理やり承諾させようとしていたのだ。

 メロンは唇を噛む。

(ど、どうすれば……

 私が言えば……カムイ君が解放される)



 決心を固めようとしたそのとき、掠れた声がした。

「メロンさん!」

 彼女が顔を上げると、あざだらけの顔でカムイがニヤリと笑っていた。

「ダメだよ!そんなこと言っちゃ!

 ……僕なら大丈夫!

 こんな半端な奴らの攻撃なんて……効かねぇんだからな!」

 フリードの手下たちが怒りに燃える。

「何を!」

「生意気なガキが!」

 さらに激しく殴りかかる。

 だが、カムイは歯を食いしばりながらも、決して弱音を吐かなかった。

 それでも彼の目は、まだ諦めていなかった。



 その頃。

 パラディンは一匹で街に向かっていた。

 もちろん、こんな巨大な狼のモンスターが街に現れれば大騒ぎになる。

 だが、パラディンはあえて姿を晒し騒ぎを起こす。

 すぐにギルドに連絡が入った。

「えっ!?」

 受付の人が驚く。



 メロンさんを見つけられずに戻ってきたハンターたちが、疲れた様子で椅子に座る。

「は〜。メロンさん、どこにもいねぇな……」

 そのとき、受付の人が叫ぶ。

「み、みなさん!街にモンスターが現れました!

 巨大な狼のモンスターです!」

 ハンターたちは一斉に飛び上がる。

「な、なに!?」

 急いで飛び出す一同。



 現場に着くと、パラディンが街の広場に佇んでいた。

 街の人たちは怯える。

 到着したハンター達は驚く。

「で、でけえな!」

「なんでこんなところに!?」

 パラディンはハンターたちをじっと見つめ、エレーナからの言葉を思い返す。



 数分前。

 パラディンはレーゼを通じてエレーナの指示を認識していた。

「いい、パラディン。

 街で騒ぎを起こして、ハンターさんたちが来るのを待って。

 小さい街なら、騎士団じゃなくてギルドに通報が行くと思うから。

 そしたら、この位置に向かって走って!

 怪我だけはしないでね!」

 エレーナは仕込んだカメラで、カムイのおおよその位置を把握できていた。

 パラディンは静かに頷き走り出す。



 現在。

 ハンターたちと睨み合ったパラディンは、わざと逃げるようにして彼らを引きつける。

「まて!」

 ハンターたちは一斉に追いかける。

 パラディンの背中を追いながら、ハンターたちはまだ気づいていない。

 この狼が、メロンとカムイを救うための導き手だということを。



 パラディンは、教えられた場所までハンターたちを導く。

 そうとは知らず、ハンターたちは必死に追いかける。

 途中で騒ぎが大きくなり、次々に人が増えていく。

 やがて、数十人に及ぶ大所帯がパラディンを追う形になった。

 目的地に着くと、パラディンは高くジャンプして屋根に登り、あっという間に姿を消した。

 疲れ果てたハンターたちが、息を切らしながら立ち止まる。

 見慣れない建物が並ぶ一角。

 パラディンの姿はどこにもない。



 フリードのアジト。

 カムイはもう気絶寸前だった。

 部下たちも、彼のタフさに驚きを隠せないでいる。

 メロンは涙を流しながら、やめてと言い続ける。

 その様子を、かすかな意識の中でカムイは見ていた。

 フリードが倒れ込む彼に近づく。

「まったく〜、しつこい奴だな!」

「しつこいのは……お前だろ……!」

 掠れた声で返すと、フリードは容赦なく拳を食らわせた。

「うるせぇ!

 昨日も言ったが、なんでお前なんかがゴールドランクなんだよ!」

 さらに、嫌味を続ける。

「それに聞いてるぞ〜。

 お前、ガキのくせに毎日メロンを口説いてるみたいだな!」



 フリードは嘲笑う。

「へっ!お前みたいなガキに、メロンが振り向くわけないだろ!なんの魅力もないイカサマハンターが!」

 その言葉に、メロンが声を上げた。

「そんなことないわ!」

 涙を流しながらハッキリと言い切る。

「カムイ君は...とっても優しい子よ!人間としてとっても魅力的で、あなたなんかとは、天と地ほどの差があるわ!」

 フリードの顔が歪む。

「なに……!」

 自分のプライドを深く傷つけられた表情だ。

 カムイは、朦朧とする意識の中で、メロンの声を聞いていた。

 その言葉が、かすかに彼の心を支えていた。

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