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第四十九話 受付嬢

 翌日。

 朝ごはんの準備をご機嫌に行うアリア。

 一方、カムイはというとベッドでクタクタだ。

 重い腰を上げ、まるで年寄りのようにフラフラとリビングに出てくる。

 ほどなくして、エレーナとレーゼも同じ頃に姿を現した。

 二人が揃ってアリアに挨拶する。

 エレーナはふと、ソファで明らかに疲れ切っているカムイを見て不思議そうに尋ねた。

「どうしたの?」

「い、いや! なんでもないよ!」

 彼は慌てて取り繕う。

 エレーナは首を傾げるだけだった。

 アリアはにこやかに料理を運びながら、息子の様子を見て小さく微笑む。

 カムイはぐったりとアリアを見つめる。彼女はわざとらしく目を逸らし、テーブルにパンを並べる。



 食事を終え、カムイはエレーナとレーゼの件をギルドのメロンさんだけには伝えた方がいいと思った。

 二人に事情を話し、

 メロンさんは信頼できる人だと説明して安心させる。

 家を出発した彼はギルドに到着する。

 昨日、共に任務に出たハンターたちがすぐに寄ってきて讃える。

「カムイ!昨日はマジで助かったぜ!」

「炎で灰にしたって話、本当だったのかよ!」

 彼は軽く挨拶をし、メロンさんのところへ向かう。



 メロンは彼を見て、安堵したように声をかける。

「カムイ君!大丈夫だった?」

「うん!大丈夫!」

「本当に?なんか目の下にクマがあるけど...」と。

 カムイはギクっとする。

 夜通しアリアとセックスしていたなど言えるはずがない。苦笑いで誤魔化し話を変える。

「ねぇ、メロンさん。

 ちょっとお話があるんだけど……」

 いつものナンパと思ったメロンだったが、

 カムイの表情がいつもと違い、真剣だとすぐに気づく。

「……わかったわ。こっちに来て」

 彼女は別室へと彼を案内した。



 カムイはメロンに全てを話す。

 昨日の任務中、魔女の里・ヨルンの生き残りの姉妹と出会ったこと。

 家で一緒に住んで、匿うことにしたこと。

 メロンは目を見開いて驚く。

 ヨルンの話は、ギルドにももちろん情報が来ていた。

「呪われている」「悪い魔女がいる」といった噂。

 そして数ヶ月前に、里が壊滅したという話。

「そうだったの...」



 カムイは真剣な表情で続ける。

「あの二人は、悪い子じゃないよ。

 ヨルンの噂もデマだと思う」

 メロンは静かに頷く。

「確かに……私もそう思っていたわ。

 ヨルンの人は不思議な力を持っているみたいだけど、それを悪用した事件なんて聞いた事ないもの。」

 彼女は世間の目を考え決断する。

「わかった。私も協力するわ。

 二人のことも、できるだけ気を遣うようにする」

「ありがとう!メロンさん!」

 カムイが大喜びで頭を下げる。

 そんな彼の様子を見て、メロンは心の中で思う。

(本当に優しい子ね)

 別室の静かな空気の中で、二人の間に信頼の絆がさらに深まっていく。

 ヨルンの姉妹を守るための、小さな同盟が結ばれた。



 メロンさんとの話が終わり個室から出る二人。

 すると、ギルドのカウンターが騒がしい。

 一人の男が声を荒げて騒いでいる。

 メロンはその男を見て、小さく「あっ」と嫌そうな顔をした。

 男はメロンに気づき、大きく手を振る。

「あっ!いたいた!」

 カムイは心の中で思う。

(なんだあいつ?)

 男はズカズカとハンターたちを押しのけて、メロンの元へ近づく。

 そして、偉そうに求婚を始めた。

「メロン!今日こそ俺と結婚してくれ!

 このレッドホーク騎士団の騎士団長であるフリード・ハルトマンが、君を幸せにする!」



 メロンはきっぱりと答える。

「いつもお伝えしてますけど、お断りします!」

 どうやらこの男は、フリード・ハルトマンというらしい。

 レッドホーク騎士団という小さな騎士団の騎士団長だ。



 フラスタリア王国では、申請を行えば騎士団を作ることができる。

 フラスタリア王国には多くの騎士団が存在し、ロイヤルフォース騎士団のような王国の直属として貴族のために働く騎士団もいれば、一般国民のために働く小さな騎士団もある。



 騎士団を作るには条件がある。

 まずは騎士の称号を得る事。

 一般的に騎士学校に通い卒業。見習い兵士として、ある程度の実績を重ねれば騎士の称号を得られる。



 学校に通わなくても騎士になる方法はある。

 国が定期的に行う試験を受け合格すること。

 多くの騎士は、既存の騎士団に所属することが多いが、剣の腕や組織の統括に自信がある者は、騎士団を作る道を選ぶことが多い。

 騎士団は一定数の構成員がいれば設立可能。

 騎士団を作れば、功績に応じて国から支援金がもらえる。その額はハンター業よりもはるかに多い。



 レッドホーク騎士団はロイヤルフォース騎士団に比べて規模も実力も著しく低い。

 フリードはいつもメロンを口説いては、あっさり断られているようだ。

 彼は不満そうに声を張り上げる。

「なぜだ!私は騎士団長だぞ!

 ハンターごときの男達より、ずっとマシだろう!」

 周囲のハンターたちが、露骨に嫌な顔をする中、カムイは静かにその様子を眺めていた。



 辺りのハンターたちが、コソコソと噂話を始める。

「またあいつか……」

「まったく……元ハンターのくせに、騎士になった途端これか……」

 あまり評判が良くないらしい。

 さらに話を聞いていると、フリードの騎士団はこれといった功績がない。実力も中途半端であることがわかる。

 しかも、ハンター時代は不正な手を使っていたらしい。任務先の村の村長を脅して、達成していない任務を達成したように報告させたり、他のハンターの手柄を奪ったりと、やりたい放題だったらしい。

 騎士になれたのも何かしらの不正をしたのではと疑われている。



 フリードは悪口が聞こえたのか怒鳴る。

「おいこらそこ!うるさいぞ!」

 メロンの隣にいたカムイは心の中で呆れる。

(まったく……めんどくさいやつだな〜)

 フリードは再びメロンに向き直り、粘り強く求婚を続ける。

「メロン!考え直してくれ!

 私と一緒になれば、もっと楽な生活ができるはずだ!」

 メロンは冷たく首を横に振る。

「結構です。何度言われても同じです」

 ギルド内に、気まずい空気が広がる。



 フリードは一歩も引かずにメロンに言い寄る。

 そのとき、彼はカムイの頭に肘を乗せてふんぞり返るように話し始めた。

「メロン。君みたいな綺麗な女性は、俺みたいな相応しい男と……」

 頭に体重をかけられて、カムイは思わず声を漏らす。

 すぐに肘を薙ぎ払った。

「おい!オッサン!」

 フリードは驚いたように目を見開く。

「おやおや、失敬。

 小さいから机だと思ったよ」

 カムイが睨みつけると、彼は胸を張って訂正する。

「あと私はオッサンではない!

 まだまだ花ざかりの30代だ!」

 カムイは心の中で容赦なく突っ込む。

(オッサンじゃねぇか!)

 周囲のハンターたちが、小さく吹き出す。

 メロンは額に手を当てて、深くため息をついた。



 フリードはカムイと会うのは初めてだった。

 見下すように口を開く。

「そもそも、なんで君みたいな子供がこのギルドに……」

 そこで、彼の視線がカムイの胸元にあるハンターランクのバッジに止まった。

 ゴールド。

 フリードは目を疑う。

「な、な、な、なんだと!?」

 ありえない。と繰り返し否定する。

「こんな子供がゴールド?おかしい!絶対に何か裏がある!」

 すると、メロンがハッキリと否定。

「おかしくなんてありません。

 カムイ君は毎日毎日、一生懸命に働いてくれているんです。

 大きい仕事も小さい仕事も、分け隔てなくしてくれます」

 周りのハンターたちも一斉に声を上げる。

「そうだそうだ!」

「カムイはなぁ!強えんだぞ!」

「テメェみたいな半端者とは違うんだよ!」



 フリードは完全に居づらくなった。

 顔を赤くして最後に吐き捨てるように言う。

「くっ!全くここは居心地が悪い!俺のような高貴な男には似合わん!」

 ハンターたちのせいにして、逃げるようにギルドを出ていく。

 扉が閉まった後、ギルド内に安堵の空気が広がる。

 カムイはメロンに小さく礼を言う。

「ありがとう、メロンさん」

「いいのよ。

 当然のことを言っただけだから」

 彼女は優しく微笑む。



 ギルド内では へっぽこ騎士団長がカムイのゴールドランクに恐れをなして逃げた。とハンターたちが盛り上がっている。

 メロンはカムイに小さく微笑む。

「カムイ君もありがとね」

「いいや!僕は何にも!」

 彼が謙遜すると、彼女は少しだけ優しい目になる。



 一方、外に出たフリードは怒りながら街を歩いていた。

「なんであんなガキが……!」

 明らかな嫉妬が声に滲む。

 ゴールドランクの少年に、完全に面目を潰された形だ。

 それに加え、メロンに何度も求婚を断られ続けていることへの苛立ちもある。

「くそ……あの女め……」

 ふと、彼は足を止め何かを思いついたように目を細めた。

「そうだ……」

 暗い笑みを浮かべ、何かを企むような表情になる。



 家に帰るカムイ。

 アリアとエレーナ、レーゼの四人で、食卓を囲む。

 彼はすぐに報告した。

「メロンさんが、二人の滞在を了承してくれたよ。

 バレないように、物資も増やしてくれるって」

 エレーナは深く頭を下げる。

「本当にごめんなさい……何から何まで。」

「いやいや!全然大丈夫だよ!」



 すると、アリアがふふっと笑って茶化した。

「カムイはメロンさんが大好きなのよね♡」

 エレーナが少しだけムッとした表情になる。

「へ〜〜」

 彼があたふたすると、レーゼが無邪気に笑う。

「カムイお兄ちゃん。顔赤いよ?」

「ち、違うから!」

 食卓に明るい空気が広がる。

 アリアは楽しそうに料理をよそい、エレーナは少しだけ複雑な顔をする。



 風呂上がり。

 部屋で髪を拭きながら、エレーナはカムイが大好きだというメロンさんのことが気になっていた。

(どんな人なんだろう?

 ギルドの受付嬢ってことは、大人の人……よね?)



 気になって、彼女はカムイの部屋へ向かう。

 軽くノックをしても返事がない。

 扉を開けると、中にカムイはいなかった。

「いないか……」

 彼は風呂に入っているらしい。

 部屋を出ようとしたそのとき、ふと目に入ったものがある。

 壁にかけられた、カムイのハンター仕事用の服。

「……」

 エレーナは無言でそれを見つめ、何かを考え込む。

 彼女はそっと服に手を伸ばす。

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