第四十七話 集団任務
翌日の夕方。
カムイは家を出る。
「それじゃ!行ってきます!」
アリアは相変わらず過保護だ。
玄関まで見送りに来て心配そうに声をかける。
「気をつけてねカムイ。無茶したらダメよ。」
「大丈夫だよ!僕はゴールドハンターだよ!」
彼が胸を張ると、アリアは優しく笑う。
「こ〜ら。調子に乗らないの」
カムイはへへっと笑い、軽く手を振った。
夕暮れの丘の道を、彼は一人で歩き出す。
背後でアリアが見送る気配を感じながら、今夜の任務へと向かう。
ゴールドハンターとしての仕事が、静かに始まろうとしていた。
ギルドに集まるハンター達。
今日の任務は、夜行性の大型モンスターの討伐だ。
かなり危険な相手らしく多数の被害が報告されている。
そのため、大人数の招集が行われていた。
メロンが全員の前に立ち、注意事項と説明を始める。
今夜のターゲットは夜行性の大型モンスター。
単独行動は厳禁。必ずチームでの行動。
ゴールドのハンターはカムイを含めて3人いる。
3チームでの捜索。
見つけ次第合図を出して集合し、全員で戦闘を開始する段取りだ。
カムイに歩み寄る一人の男。
「やぁカムイ君!今日は一緒の任務だね!」
彼の名はアレン・ロイジェルト。カムイと同じゴールドハンターだ。とても爽やかな青年で、力も実績もあるハンター。多くの騎士団からスカウトも来ているようだが、自由に動けるハンターの方が性に合っているらしい。
少し会話をして、二人はそれぞれのチームに向かう。
カムイのチームは、顔馴染みのハンターたちだった。
「お! カムイのチームか!」
「頼もしいぜ!」
彼は苦笑しながらも、内心では嬉しく思う。
「またお前らか〜」
なじみのある顔ぶれに囲まれ、緊張よりも安心感の方が先に立つ。
夜の森へ出発する準備が静かに整っていく。
メロンが最後に声を張る。
「くれぐれも無理はしないようにしてください。」
ハンターたちが頷き出発していく。
カムイも仲間たちと一緒に、ギルドを後にした。
夜中。
ギルドから離れた森林エリア。
高い木が大量に立ち並ぶ暗い森の中を、カムイのチームが進んでいく。
一人のハンターが不安そうに呟く。
「だ、大丈夫か……?」
熟練のハンターたちも、流石に緊張した表情を浮かべている。
事前情報によると、今回のモンスターはかなり強いらしい。
捜索に当たっていたハンターが何人も殺されたという。
不安がる一同に、カムイが静かに声をかける。
「大丈夫!
焦らず、いつも通りやればいい!」
彼の落ち着いた声に、少しずつ空気が和らいでいく。
「そうだな!
俺たちなんだかんだで、いつも生き残ってるもんな!」
「ああ!カムイといて負けたことなんてないぜ!」
「まったく!自分が情けねぇぜ!
こんな歳下の小僧に慰められるなんてな!」
ハンターたちは、いつもの威勢を取り戻す。
互いに肩を叩き合い、軽口を叩きながらも、前へ進む足取りがしっかりとしてくる。
カムイはそんな彼らを見て、心の中で思う。
(ほんと……普段は下品だけど、根はいい奴らだな)
最近、ルミエル時代から受け継いだようなカリスマ性が、自然と出ている。カムイはその事には気づいていない。
慕ってくれる仲間たちに、人間という存在の温かさを改めて感じる。
暗い森の中を静かに進んでいく。
すると、先頭を歩いていたカムイが、突然落とし穴に落ちてしまった。
「うわぁぁ!!!」
木の葉が厚く積もっていて、全く気づかなかったのだ。
他の仲間たちは危うく難を逃れ、穴の縁で慌てて覗き込む。
穴は少し深く、壁が滑らかで上がるには苦労しそうだ。
一人のハンターが叫ぶ。
「ロープはないか!?」
「わりぃ!持ってきてねぇ!」
穴の底でカムイは周囲を見回す。
そして、すぐに気づいた。
「待って!なんか洞窟がある!」
上のハンターたちが驚く中、彼は決断する。
「全員その場で待機して!
僕が急いで洞窟を出て、そっちに向かう!」
「お、おう!」
仲間たちは不安そうに頷く。
カムイは手を振り、暗い洞窟の入口へと足を踏み入れた。
穴の上では残されたハンターたちが顔を見合わせる。
「あいつ、大丈夫か……?」
「待てって言われたしな。
とりあえず待機だ」
暗い森の中で、チームは一時的に分断された。
カムイは一人、未知の洞窟を進み始める。
カムイは洞窟を一人で進んでいく。
どんどん暗くなる中、落ちていた木の棒を拾い炎の魔法で火をつける。
簡易的な松明を手に、慎重に足を進めた。
しばらく進むと、ひらけた場所に出た。
地下水が湧き出る綺麗な池がある。
「お!ちょうどよかった!」
彼は跪いて、手ですくってごくごくと水を飲む。
「ぷはー!!うまい!」
満足して顔を上げ、振り返った瞬間。
目の前に、白い巨大な狼の魔物がいた。
「うわ!!」
思わず飛び上がるように驚き、後ろへ跳んで距離を取る。
即座に槍を構えた。
(こいつが討伐対象のモンスターか!?)
戦闘態勢を整えたそのとき、突然声がした。
「パラディン!待って!」
パラディンと呼ばれた狼は襲うのをやめ距離を取る。
よく見ると、狼の後方に二人の女の子が座っていた。
ピンク色の髪の二人の女の子。どうやら姉妹のよう。
二人とも紫がかったローブを着て、巨大な白い狼に寄り添うようにしている。
狼は二人に懐くように、大人しく座り込んだ。
カムイは目を丸くする。
(な、なんだこの子達は?)
松明の明かりに照らされた洞窟の奥で、巨大な狼と二人の少女が、静かに彼を見つめていた。
妹であろう女の子の方が、優しく狼をなでる。
「パラディン。大丈夫よ」
姉の女の子も静かに寄り添う。
カムイに対して、今のところ敵意はなさそうだ。
姉の女の子が、彼を見つめて尋ねる。
「あなた……誰?」
カムイは少し警戒しながらも、正直に説明する。
「僕はカムイ・ヴァルハート。
ハンターをしてて、モンスターの討伐に来たんだけど、穴に落ちて……」
「ハンター……」
女の子の表情が明らかに険しくなった。
嫌悪を隠さない目で彼を睨む。
妹の女の子は、すぐに狼のパラディンにしがみつく。
パラディンも低く喉を鳴らし、威嚇するように牙を見せた。
カムイは思わず後ずさる。
ハンターが世間から嫌われてるのは承知の上。だとしてもこんな小さい子にまで嫌われるかと驚く。
一方、待機していたハンターたち。
時間が経つにつれ、いても立ってもいられなくなっていた。
「結構経つな。」
「カムイ、大丈夫か?」
一人が提案する。
「洞窟の出口を探そうぜ。
ずっとここで待ってても始まらねぇ」
他の者たちも同意する。
「そうだな!カムイに何かあったら、またメロンさんに怒られるからな!」
「よし、まとまって探すぞ」
彼らは森の中を慎重に進み始める。
木々の間を縫うように歩き、地面の様子や岩の隙間を確認しながら、地下洞窟の出口を探し始めたハンター達。
カムイは姉妹とパラディンに、完全に警戒されていた。
姉の方が鋭く詰め寄る。
「ハンター!
誰かに頼まれて私たちを捕まえにきたの!」
「はぁ!?」
予想外の発言に彼は思わず声を上げる。
「なんで僕が君たちを捕まえるんだよ!
どっちかって言うと、そっちのモンスターだろ!?」
姉が眉をひそめる。
「パラディンを?」
カムイは説明する。
「僕は今日、最近人を襲う大型モンスターの討伐任務でこの森に来たんだよ。
だからそのモンスターが討伐対象なんじゃないかって...」
すると、妹の方が強く首を横に振った。
「違うよ!!
パラディンは人を襲ったりしないもん!」
「え〜?」
カムイは困惑する。
(こいつじゃないのか?)
巨大な白い狼は、姉妹の傍らで大人しく座ったままだ。
威嚇はしているが、積極的に攻撃してくる様子はない。
洞窟の奥で、三人と一頭の視線が絡み合う。
カムイが考えていると、遠くの方から悲鳴が聞こえた。
奥に洞窟が続いており、そこから外に出られそうだ。
悲鳴は仲間のハンターらしき男の声だった。
彼は即座に決断する。
姉妹の二人に声をかけた。
「ここで待ってて!
危ないから動いたらダメだよ!」
そう言い残し急いで走り出す。
姉妹は走り去っていくカムイの背中を見つめる。姉の方が「なんなの?あの子。」と。
洞窟を出ると、目の前に広がっていたのは惨劇だった。
とんでもなく凶暴そうで大きなウェアウルフが、ハンターたちを襲っている。
合図のおかげで全ハンターが集まってはいたが、それでも劣勢。
何人かが怪我をして血を流し、防御に回るのが精一杯だ。
カムイの仲間の一人が、まさにトドメを刺されそうになっていた。
「た、助けてくれぇ!!」
その瞬間、カムイは超スピードで飛び出した。
槍を一閃し、ウェアウルフの爪を弾き飛ばす。
ハンターたちは彼の姿を見て目を見開く。
「カ、カムイ!!」
周囲のハンターたちを鼓舞するように叫ぶ。
ウェアウルフは低く唸り、改めて全員を睨みつけた。
夜の森に、再び緊迫した空気が満ちる。
カムイは槍を構え、静かに息を整える。
カムイはウェアウルフを見て不思議に思う。
装備がおかしい。
妙に人工じみている。
それに、知性を全く感じられない。
(あの装備……まるで無理やり着せられてる感じがするな……)
だが、今は考える余裕はない。
彼は一気に距離を詰め、槍の猛攻を叩き込む。
強化した力で、防具を少しずつ砕いていく。
野生の勘が強く、敏捷性に長けているウェアウルフでも、カムイのスピードには追いつけない。
華麗にステップを踏み、急所を正確に突く。
やがて、ウェアウルフの動きが鈍った。
カムイは目の前に手をかざした。
炎魔法を最大出力で発動する。
激しい獄炎がウェアウルフを包み込み、夜の森を真っ赤に照らした。
装備はガタンガタンと音を立てて剥がれ落ちていく。
熱に耐えきれず、壊れていく人工の防具。
あまりの火力に、ハンターたちがどよめく。
カムイの勝利に大盛り上がり。
カムイは終わったと思い、振り返って皆に声をかける。
「よし!みんな!帰還の準備をしよう。
怪我をしている人も多い。
手伝える人は、負傷者の移動を手伝って!」
ハンターたちが慌ただしく動き出す中、
アレンがカムイに話しかける。
「さすがだねカムイ君!ほんと頭が下がるよ」
このとんでもない若さで、ここまでの冷静な判断ができることに驚いている様子だ。
カムイが謙遜していると、背後で何かが動く気配がした。
二人が振り返ると、倒したはずのウェアウルフがゆっくりと立ち上がろうとしている。
カムイはすぐに気づいた。
今日は満月だ。
ウェアウルフは満月の日、凶暴性が増すだけではなく、全ての能力が著しく上がる。学校で聞いた知識が蘇る。
もちろん再生能力も例外ではない。
少しずつ、じわじわと傷が塞がっていくのがわかる。
再び槍を構え、警戒を強める。
周りで安堵していたハンターたちも、一気に緊張した表情に戻った。
戦闘はまだ終わっていなかった。
ウェアウルフがカムイの隣にいたアレンに向かって突進する。
アレンはすぐに剣を構えたが、あまりの速さに受け止めるのが精一杯だった。
衝撃で横の木に激しく飛ばされてしまう。
木に激突したアレン。
意識はあるようだが、かなり痛がっている。
なんとか手を上げて無事であることを示した。
だが、とても動ける状態じゃない。
ウェアウルフは次にカムイを見据える。
彼は即座に戦闘を再開する。
満月の光を直に浴びたウェアウルフは、どんどん強くなっていく。
再生だけでなく、速度も力も、明らかに上がっている。
カムイも、だんだんとキツくなってきた。
背後を取られ、背中に鋭い爪の攻撃を食らってしまう。
他のハンターたちがアレンを連れて退避を始める。
「アレンさん!立てますか!」
「だ、大丈夫だ。それよりカムイ君が……!」
アレンはカムイを心配する。
「大丈夫です!カムイを信じましょう!」
「負傷者を運んだら、俺たちまた戻ってきますから!」
カムイは任務の前に全体に話していた。もしも敵の強さが予想以上で、負傷者が多い場合、自分が時間稼ぎをするから全員退避するようにと。
彼らはカムイの言葉を守り負傷者を運んでいく。




