第四十五話 グランフォード家
カムイを助けた女の子。
その子はフラスタリア王国の城下町に入り、城の方へ歩いていく。
貴族たちの住む居住地を進み、最も大きな屋敷の門を通った。
門が開くと、彼女の執事らしき老人が慌てて出迎える。
「スカーレットお嬢様!!
また勝手に外に出られたのですか!?」
スカーレットと呼ばれる女の子は、なんと貴族の令嬢であった。
しかも、フラスタリア王国の貴族の中でも、三大上級貴族に位置する家の娘。
名前はスカーレット・グランフォード。
執事は困ったように続けた。
「お嬢様……グランフォード家のご令嬢として、もっときちんとした振る舞いを……」
令嬢らしい行動をするよう必死に説得する。
だがスカーレットは無言のまま、ただ淡々と屋敷の中へ歩いていく。
執事は頭を抱えた。
「はぁ……お嬢様は本当に……」
広大な屋敷の廊下を、紫の長い髪を揺らしながら進む少女。
無表情のまま、自分の部屋の方へ向かっていく。
自分の部屋に入り、着替えるスカーレット。
動きやすい戦闘服から貴族の女の子らしい、それであってひかえめな服に着替える。
長い紫の髪を整え、鏡の前で無表情のまま身だしなみを整える。
すると、ドアの向こうから声がした。
「お姉様?」
スカーレットは小さく反応する。
「ソフィア……」
入ってきたのは、スカーレットの双子の妹。名前はソフィア・グランフォード。
金色の長い髪に、琥珀色の瞳。
白いドレスに身を包んだ、可憐な少女。
ソフィアは少し困ったような顔をする。
「またお外に行かれてたのですか?」
「ええ。外の方が強い魔物が多いからね。
いい訓練になるわ」
ソフィアはため息をついた。
「も〜、お姉様……
訓練もいいですけど、お父様に怒られますよ」
スカーレットは妹を見つめ静かに言う。
「あなたもそろそろ、実践の戦いを知った方がいいわよ。
いつまでも屋敷の訓練だけだと飽きるでしょ?」
「それは……そうですけど……」
やんちゃで行動的なスカーレットとは違い、ソフィアは真面目だ。
ストイックな姉の姿を少し心配そうに見つめる。
部屋の中に対照的な双子の空気が流れる。
一人は外の世界で刃を磨き、一人は屋敷の中で優雅さを守る。
グランフォード家の姉妹の日常の一コマだった。
スカーレットは服を片付ける。
ふと、机の上に置いたネックレスに目が止まった。
あの時助けた名前も知らない少年からもらったものだ。
彼女はそれを手に取り、静かに首元につけた。
ソフィアが興味深そうに覗き込む。
「お姉様、それは?
えらく安っぽいですね?」
スカーレットは珍しく微笑んだ。
「そう?
私は気に入ってるけど...」
ソフィアは少し戸惑ったように首を傾げる。
「そうですか……」
姉の趣味がまったく理解できなかった。
普段は無表情で、装飾品にほとんど興味を示さない姉が、こんな安物を好むなんて。
スカーレットは窓の外を見つめる。
城下町の夜景が、遠くに広がっていた。
(……また会えるかな...)
心の中で小さくそう思う。
名前も知らない、槍を持った少年のこと。
部屋の中で、双子の姉妹が静かに並ぶ。
メロンが馬車でカムイを家まで送ってくれた。
彼は少し遠慮気味に言う。
「そこまでしてくれなくても大丈夫だよ」
だがメロンは責任感が強く、きっぱりと首を横に振った。
「ダメよ!
いくらカムイ君が丈夫でも、帰りに倒れたりでもしたらどうするの!
それにアリアさんにも謝らなくちゃだし」
彼女の真剣な様子に、カムイは内心で小さく笑う。
(心配性だな〜。
それとも俺に気があるのかな?♡)
くだらない妄想が頭をよぎる。
馬車はゆっくりと丘の上の家へと向かう。
道を走りながらメロンは時折彼の様子を気にするように横目で見てくる。
「本当に大丈夫?痛みは?」
「うん、もう平気。あの時の女の子が治してくれたから。」
「……そう。その子のことは、私も気になるわ」
会話は自然と、助けてくれた少女の話に移っていく。
カムイは窓の外を眺めながら、あの無表情の紫髪の少女のことを思い返していた。
カムイはメロンさんの横に寄り、にこやかに言った。
「ねぇメロンさん♡
今度一緒にご飯でも行こうよ〜♡」
メロンは呆れたように視線を向ける。
「カムイ君、また〜?
ダメよ。お姉さんをデートに誘うなんて、10年早いわよ!」
彼はここ数ヶ月、何度もメロンをデートに誘っていた。
そのたびに同じように軽くあしらわれるのが、お約束になっていた。
メロンは心の中で小さくため息をつく。
(まったくも〜。この子はませてるんだから)
ギルドでもよく見かけるカムイのお姉さん好き。
女性ハンターに積極的に声をかけにいく姿。これもギルドでは名物化していた。
女性ハンターたちも「かわいい♡」と彼を甘やかすばかりで誰も怒らない。
メロンは馬車の手綱を握りながら、親のような気持ちで心配する。
(この子……将来、どんな風になるのかしら?)
ただのギルドの受付嬢が、なぜか一人の少年の行く末を案じてしまう。
真夜中の道を進む馬車の中で、軽いやり取りが続いていた。
丘の上の家に着く。
カムイが家に入ると、アリアがいつものように笑顔で出迎えた。
「おかえり、カムイ〜
夜遅くのお仕事お疲れ様」
カムイと共にメロンがいた事に驚くアリア。
メロンは申し訳なさそうに言う。
「こんばんはアリアさん。遅くなってしまい申し訳ありません。」
「あら、メロンさん?
どうかされたんですか?」
三人でテーブルに座り、メロンが事情を話し始めた。
「うちのハンターたちが勝手な提案をして……
私も許可してしまって、今回の任務に行くことになったんです。それで、カムイ君に危険な目に遭わせてしまいました。本当に申し訳ありません」
アリアは「まあ!」と声を上げ、すぐにカムイの体をわしゃわしゃと触って確認する。
「カムイ!?怪我はなかったの!?」
「大丈夫だよ、お母様。
大きな怪我はしなかった」
彼はあの謎の女の子に助けてもらったおかげで無事だったことを話す。
アリアはそれを聞いて、ようやくほっと息を吐いた。
「誰なのかしらね……?
その助けてくれた子」
メロンも真剣な顔で頷く。
「ギルドでも探してみます。
お礼も言いたいですしね」
そう言ってカムイを見る。
「うん!」
彼も素直に頷いた。
リビングに、母と受付嬢と少年の、穏やかでありがたい空気が流れる。
アリアはメロンの手を握り、優しく言った。
「メロンさん、気にしないで。
カムイが無事なら、それでいいのよ」
メロンは深く頭を下げる。
「ありがとうございます……」
夕暮れの家の中で、事件の報告と感謝が静かに交わされていた。
メロンは馬車で帰って行った。
カムイは食事と風呂を済ませ、いつものようにアリアと二人でベッドに入る。
アリアは彼の頭を優しく撫でながら、幸せそうに微笑む。
「ふふ。カムイ。
無事でよかった。」
「大丈夫だよ、お母様!
僕、強いからさ!」
彼が胸を張って言うと、アリアは少しだけ眉を下げた。
「でも、無理はしちゃダメよ。
お母様心配なんだから」
和やかな会話が続く。
ベッドの上で、母が息子を抱きしめ息子が母の胸に顔を預ける。




