第四十三話 討伐任務
翌日。
ギルドでの仕事をするカムイ。
薬草集めの仕事中、ハンターのおっさんが彼の戦いに興味を持った。
確かにここ数日は素材の収集ばかりで、戦闘を全くしていなかった。
他のハンターたちも当然興味津々だ。
休憩時間。
開けた場所で、ハンターのおっさんと手合わせをすることになる。
カムイはリーラからもらった伸縮自在の槍を「シュパッ」と伸ばした。
ハンターたちが感嘆の声を上げる。
「珍しい武器だな!」
彼は小さく息を整え、バレない程度の神聖力で体を強化する。
次の瞬間。
ハンターのおっさんの反応が遅れた。
持っていた斧が鮮やかに弾き飛ばされる。
カムイも自分で驚いた。
少し神聖力を使っただけなのに、これほどまで強化されていたのだ。
一瞬で勝負がついてしまった。
周りにいたハンターたちが、一気に盛り上がる。
「マジかよ……!」
「今の速さ、何だ!?」
「こりゃとんでもない逸材だ!」
おっさんは斧を拾いながら呆れたように、しかし感心した顔で言う。
「坊主……お前、マジで何者なんだ?」
カムイは槍を戻しながら、少し照れたように答える。
「えへへ……ちょっと調子良かっただけだよ」
森の開けた場所で、少年の実力が改めてハンターたちに知られることになった。
帰り道。
カムイは考えながら歩いていた。
(神聖力が……とんでもないほど強くなってる……
アリアと共に過ごしているおかげか?
それにしても、ここまでなんて……)
単純計算でも、もしこのままの勢いで伸びていけば、下手したらルミエル時代の力を超える可能性がある。
まあ、そんな簡単にはいかないだろうと、彼は考える。
いつも通り家に帰宅すると、アリアが優しく出迎えてくれた。
「お帰りなさい、カムイ。
今日もお疲れさま」
「ただいま、お母様」
彼女の笑顔を見て、彼は心の中で思う。
(ああ、幸せだこの家庭)
丘の上の家に、母子の穏やかな時間が戻ってくる。
仕事での成長と夜の穏やかさと昼間の温かい日常。
すべてが彼の中で、静かに混ざり合っていた。
アリアが彼の服の汚れを気にしながら、優しく手を引く。
「さあ、手を洗って。ご飯にするわよ」
「うん」
新しい生活が、確実に彼を変え始めている。
そんなある日。
いつも通りギルドへと向かうカムイ。
中に入ると、数人のハンターたちがメロンさんを説得しているのが見えた。
(どうしたんだ?)
彼が近づくと、ハンターの一人が必死に訴えている。
「なぁ、頼むよメロンさん」
「ダメです!」
メロンがきっぱりと否定する。
カムイが声をかける。
ハンターたちが彼を見て顔を明るくする。
「お!きたか坊主!いや、カムイ!」
どうやら彼らは、カムイに討伐任務を手伝ってほしいとメロンに頼み込んでいたらしい。
メロンは年齢的に危険だと判断。さらに討伐任務はさせない約束をアリアとしたからと拒んでいる。
ハンターたちがごねる中、カムイは考える。
(この力を試すなら、やっぱり戦闘の任務をやったほうがいいよな)
彼はメロンに向かって、はっきりと言った。
「メロンさん!僕、やってみるよ!」
「ダ、ダメよ!
どんなモンスターが出るかわからないことだってあるのよ!」
ハンターたちがすぐに援護する。
「大丈夫ですよ!俺たちも一緒ですし、弱いモンスターの任務からやりますから!」
カムイも一緒になって頼むと、メロンは観念したように息を吐く。
「仕方ないわね……でも!任務は私が選びますからね!」
ハンターたちが盛り上がる。
カムイも心の中で小さく拳を握った。
(よし!)
ギルドの喧騒の中で、少年の初めての討伐任務が静かに決まりつつあった。
メロンが選んだ任務は簡単なものだった。
村の作物に被害を及ぼす小型モンスターの討伐。
カムイを含む六人のハンターで、街から少し離れた村へと向かう。
村に到着すると、村長が迎えてくれた。
被害状況の説明を受けていると、ふと村長がカムイに気づき、目を丸くする。
「おや?こんな小さい子までいるのかい?」
すぐに一人のハンターが誇らしげに答える。
「ええ!こいつはねぇ!天才なんですよ!」
他のハンターたちも口を揃えて持ち上げる。
村長は感心したように頷く。
「ほう……それは頼もしい。
じゃあ、よろしく頼むよ。最近夜な夜な畑を荒らされて困っていてね」
カムイはきちんと返事をする。
「はい!頑張ります!」
簡単な任務とはいえ、初めての討伐。
彼の実力が、実際の現場で試されようとしていた。
その日の夜。
村人たちが寝静まった頃、外で焚き火をして待機していたハンターたち。
すると、森の方からガサゴソと物音が聞こえてきた。
一人のハンターが素早く身構える。
「きたぞ!」
小型の猪のモンスターが次々と姿を現す。
すぐさま戦闘体勢に入る。
ハンターたちが次々にモンスターを倒していく。
カムイも槍を振るい、軽々と敵を仕留めていく。
「お!カムイ!やっぱつえぇな!」
彼の槍が閃くたびに、モンスターが地面に転がる。
神聖力をわずかに使った強化が、十分に効果を発揮していた。
焚き火の明かりの下で、戦闘が続く。
小型とはいえ数は多かったが、六人の連携とカムイの活躍で、あっという間に収束していく。
一人のハンターが息を整えながら叫ぶ。
「よし!残り少ないぞ!」
カムイも槍を構え直し、明るく答える。
「はい!」
夜の村の外れで、初めての討伐任務が、順調に進んでいた。
討伐が終わり、後処理をする一同。
ハンターたちが大喜びで、次々に丁寧に剥ぎ取り、素材を獲得していく。
「よし!これはいい値が付きそうだ!」
「肉も最高だぜ!」
カムイも一つ手に取り、心の中で思う。
(いい肉だな!
お母様に料理してもらおう!)
彼も処理を手伝っていた。
すると、近くの森から「ガサッ」と音がした。
「ん?」
それに気づいたカムイは、ふらっと森の中へ足を向けてしまう。
仲間のハンターたちは素材の処理に夢中で、彼が離れたことに気づかない。
森を進みながら、彼は警戒する。
(何かいるのか?
モンスターの残りか?)
木々の間を抜け、音のした方向へ慎重に進んでいく。
夜の森に、焚き火の明かりが遠ざかり、静かで少し不気味な空気が広がっていた。
槍を構えたまま、少年は一人で森の奥へと足を踏み入れていた。
森を進むカムイ。
これ以上進むのはよそうと思い、引き返そうとした。
そのとき、低い獣の唸り声が聞こえる。
「えっ?」
振り返ると、先ほどの猪モンスターの大型種が。
おそらく親玉だろう。
あまりの大きさに、彼は思わず声を上げる。
「うわ! でっか!」
親玉は明らかに怒り、唸り声を上げながら突進してきた。
カムイは間一髪で体を横に飛ばし避けた。
大型の体が勢いのまま木に激突する。
「ドォン!」
凄まじい音が森に響く。
遠くで後処理をしていたハンターたちがその音に気づく。
「な、なんだ!?」
慌てて周囲を見渡すと、一人のハンターが青ざめた声を上げた。
「お、おい!カムイがいねぇぞ!」
一同が凍りつく。
「やべぇ!メロンさんに怒られるぞ!」
「探せ探せ!」
すぐに彼らは辺りを探しまくる。
「も、もしかして森に入ったのか!」
「そうかもしれねぇな!急げ!」
夜の森に、焦った足音と呼び声が広がり始める。
「カムイ! どこだ!」
「返事しろ!」
大型モンスターの咆哮と、ハンターたちの叫び声が、森の夜を揺らし始めていた。
カムイと親玉モンスターの戦いが始まった。
親玉は図体の割に驚くほど素早い。
巨大な体を軽々と躍らせ、地面を蹴るたびに土煙が舞う。
カムイは槍を構えて応戦する。
リーラからもらった伸縮自在の槍を伸ばし、鋭く突き込む。
だが...
「通らねぇ……!」
先端が皮膚に当たる感触はあるのに、まったく刺さらない。
分厚い皮と筋肉が槍を弾き返してくる。
次に魔法を放つ。
火球を生成して叩きつけたが同じだ。
炎が皮膚を焦がすことなく、ただ弾かれて消える。
「皮膚が……厚すぎる!」
親玉は唸り声を上げ再び突進してきた。
カムイはとっさに体を横に飛ばして避ける。
「しかたねぇ!」
彼は覚悟を決めた。
周りに誰もいないことを確認し、大きな神聖力を込めた攻撃を放つ。
槍の先端に出現させた炎に光を纏わせ一気に発射。
だが親玉は野生の勘が働いたのか、その瞬間に体をひねって避けた。
「マ、マジかよ!?!?」
神聖力の気配を察知されたのか。
次の瞬間、巨大な体が真正面から突っ込んでくる。
「うわっ——!」
突進を正面から喰らう。
衝撃が全身を貫き、そのまま後ろの大木に叩きつけられた。
背中が木にめり込み、激しい痛みが走る。
息が詰まり、槍が手から滑り落ちる。
「……っ、いてぇ……」
親玉はすぐに体勢を立て直し、赤い目で彼を睨みつけた。
カムイは歯を食いしばり、ゆっくりと体を起こした。
このままではただでは済まない。
あたりどころが悪かったのか、カムイの視界がぼやける。
ふらふらと軽い脳震盪の状態だ。
頭の中で鐘が鳴っているような感覚がして足元が定まらない。
(くっそ〜!ついてねぇ!)
今日に限っては、本当に運が悪かった。
突進された際に軽く噛まれもしており、肩のあたりから血が流れている。
痛みが徐々に広がっていく。
親玉は再び体を低くし、突進の構えを取った。
地面を蹴る音が近づいてくる。
カムイはなんとか体を横に飛ばして避ける。
だが、着地に失敗した。
足がもつれ、そのまま地面に転がってしまう。
「くっ……!」
立ち上がろうとするが体が思うように動かない。
頭が重い。腕に力が入らない。
(う、嘘だろ……こんなところで……)
親玉がゆっくりと近づいてくる気配がする。
唸り声が低く、威圧的に響く。
カムイは歯を食いしばり、震える手で槍を探った。
指先に柄が触れる。
だがそれを握りしめる力が今はほとんど残っていない。
森の奥で、少年の苦しい吐息と、獣の低い唸りだけが交錯していた。




