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第四十話 休学

 翌朝。

 先に目覚めたのはカムイだった。

 外は明るく辺りは森のため鳥の声も聞こえる。

 とてものどかな朝だった。



 彼は体を起こし隣を見る。

 アリアはまだ穏やかに眠っていた。

 思わず心の中で声が漏れる。

(うわっ!)

 服が乱れているのに気づき、慌てて毛布を掛け直す。

 彼は一息つく。

 昨日あんなに辛いことがあったばかり。

 カムイはそのままアリアをそっとしておく。

 少しするとアリアも起きる。可愛さと美しさを兼ね備えた素晴らしい寝起き姿。

「あら...カムイ。おはよう。」

「おはよう。お母様。」



 二人は起きて、リビングへと向かった。

 すると、玄関がノックされる。

 カムイが開けると、そこにはメロンが立っていた。

 彼女は大きな袋に食材を抱えている。

「おはようございます!

 食べ物がなかったでしょうから持ってきました!」

 アリアがすぐに頭を下げる。

「何から何まですみません」

「全然大丈夫ですよ!」

 メロンは明るく手を振り、カムイに向かって続けた。

「じゃ、カムイ君!早速だけど、今日のお昼にギルドに来てね!」

 彼が元気よく返事をすると、メロンは満足そうに頷く。

 メロンは軽く手を振って去っていく。

 玄関に残された食材の袋と朝の新鮮な空気。

 カムイは袋をリビングに運びながら小さく息を吐いた。

 新しい生活の最初の一日が本格的に動き始めようとしていた。



 朝食を食べていると、アリアがふと思い出したように言った。

「そういえば……リディアちゃんに騎士学校の件、伝えた方がいいんじゃない?」

「そうだね!」

 カムイはすぐに同意する。



 朝食を済ませると、彼は机に向かい手紙を書き始めた。

 事情を簡潔に、できるだけ心配をかけないようにまとめる。

 書き終えると、魔法で出現させた鳥に手紙を託し空へ飛ばした。

 鳥が小さくなっていくのを見送りながら、彼は心の中で呟く。

(リディア……ごめんな。

 しばらく会えなくなるけど)



 カムイは着替えて、ギルドへ向かう準備をした。

 玄関でアリアが心配そうに声をかける。

「気をつけてねカムイ!

 危ないモンスターと遭遇したらすぐ逃げるのよ!」

 相変わらずの過保護ぶりだった。

 彼は苦笑しながら答える。

「大丈夫だよお母様」

 アリアはまだ不安そうに彼を見つめる。

 彼は明るく手を振った。

「行ってきまーす!」

 元気に飛び出すように家を出る。



 ギルドに着くカムイ。

 中に入ると、メロンさんがすぐに手を振った。

「カムイ君!こっちこっち!」

 カウンターに近づくと、ハンターのおっさん数人がいた。

「あれ?お前、シュバインの弟子の坊主じゃねぇか!」

「何しに来たんだ?シュバインは長期任務でいないぞ。」

「お!もしかして本格的にハンターになるのか?(茶化し)」



 メロンがカムイの現状を詳しく説明してくれる。

 家を出ることになった事情、新しい家のこと、そしてこれからハンターとしてギルドで働くこと。

 おっさんたちは無言で聞き入り、話が終わるとみな過剰に同情してくれた。

「よし!任せとけ!俺たちが一人前のハンターに育ててやるぜ!」

 しかし、すぐに別の者から突っ込みが入る。

「おいおい!お前ができるのかぁ?」

「てか、シュバインがもう十分に育てただろ?」

 騒がしいが、面倒見のいいハンターたちだった。

 悪い噂が立っていたことが嘘のように思える。

 メロンが微笑みながらカムイに言う。

「この人たち、口は悪いけど根はいい人たちばかりよ。

 安心して」

 ギルドの喧騒の中で、少年の新しい居場所が少しずつ形作られ始めていた。



 さっそくカムイに仕事が与えられた。

 内容は簡単なものだ。

 近くの村の荷物運びや掃除、素材集めに近くの森に入る。

 同じ任務のハンターが同伴してくれる。



 現場に着くと、カムイは素晴らしいほど働いた。

 荷物を運び、掃除も手際良くこなし、森では必要な素材を的確に集めていく。

 魔法も駆使して無駄のない動きを見せる。

 一緒にいたハンターたちが次第に唖然とした表情になる。

「おい……本当に子供か?」

「手際良すぎんだろ」

 一人のハンターが先ほどの発言を思い出して突っ込む。

「おい?誰を一人前にするだって?」



 カムイは汗を拭いながら明るく声をかける。

「次はどの素材を集めますか?」

 森の中で少年の働きぶりがベテランのハンターたちを静かに圧倒していた。



 初任務を終えて家に帰ってくるカムイ。

 玄関を開けるとアリアがすぐに出迎えた。

「お帰りなさい!」

 彼女は息子の体を上下に見て、心配そうに尋ねる。

「怪我はない!?大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。全然平気」

 カムイが明るく答えると、アリアは安堵の息を吐く。



 晩御飯の時間。

 アリアが「カムイの初任務記念」ということでご馳走を作ってくれていた。

 彼女も今日一日中家の中を掃除したり、使えるものを仕分けしたりと忙しく過ごしていたらしい。

 食卓には温かい料理が並ぶ。

 二人は向かい合って座り美味しく食べ進めた。

 丘の上の家に母子の新しい日常が少しずつ根を下ろし始めていた。



 その日の夜。シルバレイン家の屋敷。

 カムイからの手紙をリディアがリビングで読んでいた。

 そばで父のグリルと母のレオナもいる。

 リディアは手紙を握りしめ落ち込んだ声を漏らす。

「そんな……カムイ……騎士学校やめちゃうなんて」

 レオナがすぐにフォローする。

「やめはしないさ!

 ほら!ギルドの制度を利用してまた帰ってくるって書いてあるだろ?」

 グリルも腕を組んで頷いた。

「なるほど……あの制度か。

 すっかり忘れ去られた制度だな」

 リディアが顔を上げる。

「じゃ!カムイは帰ってくる?」

「ああ!あいつは戻ってくるさ!」

 レオナが力強く断言すると、リディアは安心して笑顔になる。

「よーし!私もカムイに負けないように勉強して強くならなくちゃ!」

 彼女は手紙を大切に抱えて自分の部屋へと戻っていった。

 リビングに残されたグリルとレオナは顔を見合わせる。



 リディアがいなくなりグリルとレオナの顔が真剣になる。

 二人が心配しているのはレオンハルトのことだった。

 グリルが低く尋ねる。

「本当なのか?あいつの行いは?」

 レオナは腕を組んだまま重い声で答える。

「ああ。アリアさんに頼まれて調べてみたけど、本当に酷い有様だったよ。

 元々私も気にはなってたけど、いざ調べると次から次へと出てきてさ...

 ほんと……アリアさんに伝えた時は辛かったよ」



 グリルは俯く。

 信じていた友人の過去がとんでもなく汚れていること。

 そして今、家庭が崩壊したこと。

 二人は顔を見合わせ、同じことを考えていた。

『今後の第一部隊が心配だ。』

 このままだとロイヤルフォース騎士団全体に影響が出かねない。

 夜のリビングに、重い沈黙が落ちる。

 娘の明るさとは対照的に、両親は友人の堕落と、組織の未来を案じていた。

 レオナが小さく息を吐く。

「……様子を見るしかないな。今は」

 グリルも無言で頷くしかなかった。



 翌日。

 カムイとアリアは騎士学校へと向かった。

 休学の手続きと、下等部の単位をギルドの制度を利用して取ることを伝えるためだ。

 担任のルーナ先生は話を聞いて心配そうに眉を寄せたが、カムイは明るく返して彼女を安心させた。



 ふと、ルーナ先生は気になることを尋ねた。

「みんなに、しばらくお別れになること言わなくていいの?」

 カムイは少し考えてから

「うん。辛くなるしいいや!」

「……そう。わかったわ」

 ルーナ先生はそれ以上深く追及せず、手続きの書類を整えてくれた。



 アリアが頭を下げる。

「先生、息子がお世話になりました。また戻ってきた時はよろしくお願いします」

「こちらこそ。カムイ君、気をつけてね」

 二人は校舎を後にする。

 騎士学校での日常に、一旦の区切りがついた瞬間だった。



 校門を出ると、後ろから大きな声が飛んできた。

「カムイ!!」

 振り返ると、リディアが走ってきた。

 彼は慌てて足を止める。

「リ、リディア!」

 彼女は一目散に近づき、少し怒った声音で詰る。

「もーー!!なんで会いに来てくれなかったの!」

「だ、だって……」

 アリアが後ろでふふッと小さく笑っている。



 リディアは少し涙目になって続けた。

「わたし……寂しいんだからね!カムイに……会えなくなるから!」

「リディア……」

 カムイは彼女の目を見て優しく提案する。

「たまには街にも来るから、その時は絶対に会おう!」

 リディアはすぐに顔を明るくする。

「うん!約束だよ!」



 そして彼女はハッキリと宣言した。

「私、カムイが学校に帰ってきた時、剣でも魔法でも強くなって見せるから!」

「うん!」

 二人は自然と手を繋いだ。

 春の校門前で、少年と少女が次の再会を約束する。

 そんな様子を見たアリアは、心の中で優しく思う。

(この二人……本当にお似合いね♡)

 校門の外で温かい別れと未来への約束が残されていた。

 カムイは母親と並び、リディアに手を振って歩き出す。

 彼女も大きく手を振り返してくれた。

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