↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/97

第三十四話 強さを求めて

 ルミエルがカムイに転生して、数年が経った。

 本当にいろいろなことがあった。

 シルバレイン家でのパーティ中に盗賊団が乱入したこと。

 騎士学校ではマールロイドとの一件や、舞踏会での異色のパフォーマンス。

 リディアの家族とのピクニックで、密猟者の確保まで。

 授業中、カムイは窓の外を眺めながら、物思いに耽っていた。

 机に肘をつき、ぼんやりと空を見る。神にとって二年など大した時の流れではない。しかし、人間の人生となると、とても長く感じた。



 彼は心の中で、静かに過去を振り返る。

 天界で美の神として自由奔放に生きていた自分が、今は人間の少年として、家族や友人に囲まれて生きている。

 本来のカムイが託した願いも、まだ胸の奥に残っている。

(みんなを幸せに、か……)

 窓の外では、春の雲がゆっくりと流れていた。

 人間としての生活が、彼を少しずつ変えているのかもしれない。



 午後の授業。

 内容はロイヤルフォース騎士団についてだった。

 ルーナ先生が、いつもの優しい笑顔で説明を始める。


 ロイヤルフォース騎士団。

 フラスタリア王国の中でも最も大きく強い騎士団。

 国からも絶大な信頼を得ていて、正式に王国直属の騎士団として任命されている。



 彼女は黒板に図を描きながら続ける。

 ロイヤルフォース騎士団は六つの部隊に分けられていて、第一から第六まである。


 まずは第一部隊。

 第一部隊は、ロイヤルフォース騎士団の最大戦力。

 選ばれし騎士のみが所属する。規模も人数も多い。

 第一部隊だけは、さらに細かい小隊に分かれており、その全てを束ねるのが部隊長のレオンハルト・ヴァルハート。カムイの父。

 クラスの皆がカムイを見て小さな称賛の声が上がる。



 次に第二部隊。

 第二部隊は、戦略、現場での作戦の対応を主に行う部隊。

 騎士たちの能力ももちろん高い。

 簡単にいうと、騎士団の頭脳と言ったところ。

 部隊長はグリル・シルバレイン。

 リディアの父。

 今度はリディアが称えられる。

 彼女は少し頰を赤らめて俯いた。



 第三部隊は、魔法を得意とする部隊。

 熟練の魔法使いや、魔法を得意とする騎士が所属している。隊長はゴルグル・アドメット。とても有名な賢者の血を引いた老魔術師。



 第四部隊は、情報収集、偵察、潜入を得意とする部隊。

 素早い動きや運動神経のずば抜けた人が多い。

 リディアの母、レオナ・シルバレインが隊長を務める。



 ルーナ先生は生徒たちを見渡し優しく微笑む。

「こうして見ると、カムイ君とリディアちゃんのご両親は騎士団の中心にいるのね」

 教室に、改めて二人の家柄を感じる空気が流れた。



 ルーナ先生はさらに説明を続ける。

 第五部隊は、フラスタリア王国の警備を担当する部隊。

 街で見かける騎士は、第五部隊所属の者が多い。

 彼らのおかげで街の平和が保たれていると言っても過言ではない。



 そして第六部隊。モンスターの扱いに長けた部隊。

 騎士団本拠地には騎乗用のドラゴンやグリフォン、様々な種の魔物が飼育されている施設がある。

 第六部隊はそういったモンスターの躾や飼育をしている。

 第六部隊の部隊長は異種族らしく、どんなモンスターでも手懐けてしまうらしい。



 教室に小さな驚きの声が上がる。

 カムイは授業を聞きながら、心の中で静かに思った。

(へ〜。いろんな部隊があるんだな……)

 初めて、ロイヤルフォース騎士団の全体像を知った。

 父親の第一部隊だけでなく、第二、第四と親しい人たちがいる部隊の役割も、こうして整理されると改めて理解が深まる。



 カムイは授業を受けながら思っていた。

 いずれは自分も、この騎士団に入らなければならないだろう。

 それにはまず、当然ながら強くならなくてはならない。

 しかし、今のカムイの体で神聖力を使うには、まだ負担が大きい。

 それはこの間の密猟者の事件でよくわかった。

 力を使いすぎて意識を失い、死の淵までいったのだ。



 カムイは思った。

 まずは直接的な戦いで強くなる必要がある。

 ルミエルの時は槍が得意で、天界では随一の実力だった。

 だが、カムイの体になったせいか、その技術は十分に発揮できていない。

(こりゃ、一から鍛え直しだな……)

 彼は教科書に目を落としながら、心の中で決意する。

 天界で培った感覚を、この人間の身体に合わせて再構築する必要がある。



 屋敷に帰ったカムイ。

 この日はレオンハルトとの訓練の予定だった。

 騎士学校に通ってから頻度は減ったが、こうしてたまに稽古をつけてくれる。

 庭の訓練場で、二人は向かい合った。

 だが、正直なところ、これと言って進歩はない。

 アリアとの事件があってから、互いに気まずくて集中できない。

 両親の仲は、ピクニック以降少しはマシになっている程度。まだぎこちない空気が残っていた。



「構えろ」

 レオンハルトが短く言う。

 カムイは槍を構え、静かに息を整える。

「はい!」

 2人は手合わせをしていくが、

 父親の指導も、息子の反応も、完全には噛み合っていない。

 少し離れた場所で、アリアが心配そうに見守っている。

 リーラも静かに控えている。



 訓練が一段落したあと、レオンハルトは剣を下ろして言った。

「……今日はここまでだ」

「はい。ありがとうございました」

 カムイが頭を下げると、父親は短く頷き、背を向けて去っていく。

 残された彼は、槍を見つめて小さく息を吐いた。

(やっぱり、このままじゃダメだな……)

 家族の関係は少しずつ動き始めているが、彼自身の強さへの道は、まだ始まったばかりだった。



 部屋の中で、カムイは深く考えていた。

 誰か師匠となる人はいないだろうか。

 はじめはリーラを考えた。

 彼女は元槍使いの冒険者だ。

 だが、屋敷で習うとレオンハルトに見つかって怒られてしまう。

 リーラに迷惑はかけられない。

 学校でも何かしらの伝手で騎士団に伝わり、詰む可能性がある。



 彼はベッドに寝転がり、天井を見つめる。

 正直、槍の扱いに関してはルミエル時代の経験がある。

 しかし、慣れない人間の体では、その技術を十分に発揮できない。

 体の使い方や速さが、技能に追いついていないのだ。

(体力作り……いや、それよりももっとこう……実戦の動きができる練習……か)

 頭の中で、必要なものを整理する。

 ただ筋力をつけるだけでは足りない。

 実際の戦闘で、体が自然に反応するような動きの練習が必要だ。



 すると、あることを思い出す。

 素早い動き、実戦に長けた人物。

「あっ!!!!」

 以前、ピクニックの時に出会ったハンターのシュバインだ。

 彼と別れたとき、目にも止まらぬ速さで去っていったのを思い出す。

 ハンターだから、実戦経験も十分なはず。

「あの人だ!!!」

 大きくひらめく。



 ギルドは街からも離れている。

 騎士の数もそう多くはないだろう。

 まさに打ってつけの師匠と修行場所だ。

 彼はベッドから起き上がり拳を握った。

「明日行ってみよう!」

 決意が固まる。

 レオンハルトに見つかりにくい場所で、実戦的な動きを学べる可能性が高い。

 神聖力に頼らず、この体で槍を極めるための第一歩になるかもしれない。



 翌日。

 カムイは「遊びに行ってくる」という名目で屋敷を出ることにした。

 玄関でアリアが心配そうに声をかける。

「大丈夫?一人で遠くまで行っちゃだめよ。」

「大丈夫だよお母様!」

 彼が明るく答えると、アリアは眉をひそめる。

「も〜。カムイったら……」

 過保護な母親らしい心配だった。

 そこへリーラが近づき、優しく諭すように言った。

「アリア様。カムイおぼっちゃまも、色々と遊びに行きたいお年頃です。

 たまには自由にさせてあげてはいかがでしょう」

「でも〜……」

 アリアはまだ不安そうだ。



 リーラがさらに穏やかに続ける。

「あまり遅くならないようにと、私からもお伝えしてあります。何かあればすぐに戻りますよ」

 最終的に、アリアは彼を優しく見守ることにした。

 アリアは少し名残惜しそうに

「わかったわ。気をつけてね、カムイ」

「うん!行ってくる!」

 彼は明るく返事をして、屋敷を出ていく。

 母親と侍女長の視線を背中に感じながら、ギルドのある方向へと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。