第三十一話 炎魔法
ピクニックをしていた木の下に戻る途中、カムイはリディアに小声で提案した。
「このことは、お父様たちには黙ってよう」
「えっ?」
リディアが目を丸くする。
カムイは続けて理由を説明する。
「お父様たちは、ハンターっていう職種をよく思ってないよね。
でも、あのシュバインって人は……いい人だよ!」
リディアは少し考えてから、小さく頷いた。
「……うん。わかった!二人だけの秘密ね!」
二人は顔を見合わせ、静かに約束を交わす。
木の下に戻ると、アリアがすぐに気づいて駆け寄ってきた。
「二人とも!どこまで行ってたの?心配したわよ」
優しく、しかし本気で心配した声音だった。
カムイはすぐに頭を下げる。
「ごめんなさい。ちょっと遠くまで行きすぎちゃった!」
「もう……無事でよかった」
アリアが安堵の息を吐くと、レオンハルト、グリル、レオナも集まってきた。
「無事だったか!」
グリルが大きな声で言い、レオナも腕を組んで頷く。
「あまり遠くに行くなよ〜」
「はい……」
二人は素直に返事をする。
大人たちは特に深く追及せず、再びピクニックの輪に戻っていった。
大きな木の下に、再び穏やかな空気が戻る。
家族たちが安堵していると、レオナの通信機が突然鳴った。
彼女がすぐに応答すると、険しい顔になる。
「……わかった。すぐに向かう」
通信は騎士団からで、どうやら付近で密猟者同士の争いが起こっているという報告。
その言葉に、カムイは心の中で即座に確信した。
(シュバインだ!)
グリルがすぐに立ち上がる。
一応用意していた剣を取り出し、もう一本をレオンハルトに渡す。
レオナも念のため持ってきていた自身の双剣を取り出した。
「持って来といてよかった〜!」
レオンハルトはアリアに歩み寄り、カムイとリーラのことを頼む。
「アリア……2人を頼む」
「ええ。気をつけて!」
アリアが強く頷くと、三人の隊長は丘を下り、一斉に走り出した。
アリアとカムイ、リディアは、その後ろ姿を見送る。
三人の姿が見えなくなったとき、カムイは強く思った。
(このままだと、シュバインも密猟者扱いにならないか?)
居ても立ってもいられなくなり、彼は突然走り出した。
「カムイ!どこへ行くの!」
アリアが驚いて叫ぶ。
リディアも慌てた声を上げる。
だが彼は振り向かず、三人の隊長を追うように丘を下っていく。
丘の下の森の中。
シュバインはあの後、密猟者に見つかってしまい、必死に逃げていた。
後ろから怒号が浴びせられる。
森の外に出て、開けた場所に出た瞬間、彼は隠れる場所がなくなった。
密猟者たちに追いつかれ、囲まれた。
「手間取らせやがって!」
(くっ!)
シュバインが卵を抱きしめて覚悟を決めた、その瞬間だった。
「カンッ!」
斬りかかってきた剣を、別の剣が鮮やかに受け止める。
グリルが前に出ていた。
「密猟者共め!見つけたぞ!」
「なっ!?」
密猟者たちが驚く中、レオンハルトも別の敵と切り結ぶ。
他の密猟者の悲鳴が上がる。
レオナが双剣を構え、超高速で攻撃を仕掛けていた。
「全く!ピクニックが台無しだよ!」
彼女の戦闘スタイルは双剣による超高速攻撃。
体を柔軟に動かし、人間離れした動きで鮮やかに敵をなぎ倒していく。
密猟者たちは次第に顔を青くしていく。
「こいつら!つえー!」
「き、騎士団だ!こいつら騎士団の隊長達だ!」
おののく声が上がる中、三人の隊長が密猟者たちを圧倒し始めていた。
シュバインは心の中で素早く判断した。
(騎士団...よし!今がチャンスだ!)
三人の隊長が密猟者たちと交戦している隙を突き、彼は卵を抱えて逃げ出す。
レオナがその姿に気づき、声を上げた。
「おいおい!お前!待て!」
だが、目の前の密猟者との戦いで、それどころではない。
追う余裕はなかった。
シュバインは森の中へと滑り込もうとする。
しかし、別の方向から現れた他の密猟者たちに、道を塞がれてしまった。
彼は足を止め、卵を抱き直す。
逃げ場がなくなっていた。
森の入り口近くで、新たな緊張が走る。
騎士団の隊長たちがまだ交戦中の中、シュバインの危機は続いていた。
その時、カムイはレオンハルトたちに追いついていた。
崖の上から見下ろすと、父親たちが密猟者たちと激しく戦っているのがわかる。
少し離れた場所では、シュバインが追い詰められていた。
「シュバイン!」
ここからでは間に合わない。
彼は強く歯を食いしばる。
(くそ!ここからじゃ間に合わない!どうする!?)
次の瞬間、彼は決断した。
(一か八か!この体を信じて!)
ためらうことなく、崖から飛び降りる。
下で戦っていたレオンハルトが、息子の姿を見つけて声を上げる。
「カムイ!!!」
グリルも目を見開いた。
「な、なんだと!!」
「危ない!」
レオナの声も重なる。
落下しながら、カムイは自身の神聖力を全開に解放した。
体中から淡い光が溢れ、さらに炎魔法の準備を整える。
以前書物で見た、超強力な炎魔法。
炎が適しているこの体なら使えるかもしれない。
神聖力の解放で、パワーも増すはず。
体への負担は計り知れないだろうが、そんなことを言っている暇はない。
「くらえええ!」
落下しながら両手から、特大の炎魔法を発動させる。
シュバインの目の前にいた密猟者たちを含む、森の広範囲が一瞬で爆発のように焼き払われた。
凄まじい爆風が吹き荒れる。
シュバインは卵を抱きしめたまま、踏ん張って耐える。
戦っていたレオンハルトたちも、爆風に体を低くして耐えていた。
カムイは地面に落ちた。
爆風で落下の衝撃は少し弱まっていたが、魔力の使いすぎで体に力が入らない。
(や、やべぇ……やりすぎた……)
意識が遠のいていく。
彼はその場に力なく倒れ、気絶した。
爆風が治まると、レオンハルトがすぐに声を上げた。
息子が落下したであろう方向へ、全速力で走り出す。
グリルは残った密猟者たちに向かって、剣を構えたまま大声で命じた。
「全員!武器を下ろして降伏しろ!」
密猟者たちは、あまりの光景に絶句していた。
少年の放った凄まじい炎魔法に戦意を完全に失い、次々に武器を捨てて降参する。
一方、シュバインは離れた場所で倒れているカムイを見て、大きく目を見開いた。
(あ、あの小僧……なんなんだ!今の魔法は!?!?)
ただの子供が放つとは思えない威力と規模。
彼は呆然とその場に立ち尽くしていた。




