第二十七話 比較
屋敷に帰宅する三人。
アリアはカムイを手を繋ぎながら玄関を入り、リーラもその後ろを静かに歩く。
リビングには、すでにレオンハルトがいた。
カムイは、すっかり忘れていた。
夫婦間が複雑だということに。
あんなに笑顔だったアリアの顔が、リビングに入った瞬間に真面目になる。
「ただいま戻りました。」
「ああ。」
レオンハルトも短く応じるだけだった。
空気が一気に重くなる。
アリアはリーラに向かって、静かに告げた。
「リーラ。お祝いはやめましょうか。」
「えっ……」
リーラは一瞬きょとんとするが、すぐに状況を理解する。
こんな中で流石に派手な祝い事はできない。
彼女は一礼する。
アリアはカムイと共に着替えのために二階へ上がり始めた。
心の中で、小さく呟く。
(そうだった……まだ色々と解決してないんだったっけ……)
舞踏会の余韻が、急に遠く感じられた。
その日の夜。
ベッドに一人横になったカムイは、天井を見つめて静かに悩んでいた。
どうすれば、レオンハルトとアリアの仲が戻るだろうか。
いまだに寝室も別々で、簡単な会話しかしない。
屋敷の空気は重く、母親の笑顔もどこか無理をしているように見える。
(そもそもなんで俺が、ここまで考えてるんだよ!)
心の中で自分にツッコミを入れる。
ルミエルの時でも、仲裁などしたことはなかった。
美の神として、ただ自由奔放に生きていただけだ。
彼は大きく息を吐き、体の力を抜いた。
(まあ……なんとかなるだろ!)
いつもの楽観的な結論に落ち着く。
すると、部屋をノックする音がした。
「お! きたきた!」
期待に満ちた表情で、カムイは扉の方を見る。
入ってきたのは、リーラだった。
彼女は小さく頭を下げる。
「お、お待たせしました。」
今日の舞踏会を頑張ったカムイからのお願い。
それは、今夜はリーラに一緒に寝てもらうことだった。
一緒に眠ること自体は、いつものこと。
けれど、今日は舞踏会を頑張ったご褒美ということ。
嬉しそうに笑うカムイ。
リーラも思わず微笑みながら、ベッドへ向かう。
二人は並んでベッドに横になる。
「やっぱりリーラと一緒だと落ち着くなぁ」
「ふふ。」
カムイは相変わらずリーラにべったり。
二人はまた邪魔されない時間を共に過ごした。
そして、ふと彼女の頭の中に、ある比較がよぎった。
(やっぱり……全然違う)
思っていたのは、レオンハルトのことだった。
アリアと彼が不仲になってから、共に過ごす時間が増えた。
リーラ自身も、かつて好意を抱いていた男性だったため、拒めなかった。
嬉しくないと言えば嘘になる。
でも、どうしてもカムイと比べてしまう。
カムイといる時の方が心が温まる。
ちょっと年相応とは思えない変なところもあるが、彼の優しさは本物だ。
親子でこんなにも違うのかと、リーラは感じずにはいられなかった。
二人ともきちんと準備をしていた。
これはリーラからのお願いだった。
流石に今のヴァルハート家の状況で過ちは防ぎたい。
アリアがどれほど傷つくか、想像するだけで胸が痛む。
「……ごめんね。気をつけるよ。」
「い、いえ。ありがとうございます。」
少し時間が経って、リーラは思った。
(やっぱり...おぼっちゃまはお優しい。)
彼の優しさに改めて喜びを感じる。
「おぼっちゃま……少し、休みませんか?」
カムイは見抜いたかのようにニヤリと笑う。
リーラは顔を真っ赤にする。
素直な反応に彼は満足そうに笑う。
「じゃあ、少し休もうか。」
二人は並んで腰を下ろし、しばらく静かに過ごした。




