第二十四話 感謝
レオナの指導のもと、カムイとリディアは舞踏会の練習に明け暮れた。
そして舞踏会当日。
騎士学校の近くに建つ大きな会場へと向かう。
パーティにも使用される格式高い施設だ。
カムイはアリアとリーラと共に会場へ到着した。
中に入ると、すぐにレオナとリディアの姿を見つける。
レオナが三人に気づき、大きく手を振った。
舞踏会のため、珍しく着飾っているレオナ。
豪快なドレス。彼女の雰囲気にきちんと合っているとカムイは思う。
アリアが進み出て、丁寧に挨拶をする。
「お久しぶりです。レオナさん。」
「アリアさーん!久しぶり!
この間のパーティでは出席できなくてごめんね!
第四部隊の仕事が忙しくてさー!」
「いえいえ。いつもご苦労様です。」
アリアは続けて、踊りの稽古のお礼を述べた。
レオナは手を振りながら、
「いやいや!カムイはすごいですよ!
たった数日で動きが完璧になったんですから!」
そう言ってカムイの方を向き、気さくに尋ねた。
「どうだ?調子は?」
「うん!完璧!」
カムイが自信を持って答えると、レオナは豪快に笑った。
「さっすがー!レオンハルトとは違うな!」
その一言で、アリアがわずかに苦笑いを浮かべる。
事情を知らないレオナは、全く気づかずに笑顔のままだった。
騎士学校の生徒たちが、次々と会場に集まってくる。
カムイとリディアも、着替えのためにクラスの控え室へ向かうことにした。
リーラは二人の着替えを手伝うため、一緒についていく。
リディアが母親に向かって手を振る。
レオナが力強く応える。
カムイもアリアの方を向き、笑顔で声をかけた。
アリアが優しく手を振って見送る。
リーラは静かに一礼し、二人の後ろに続いた。
控え室への廊下を、三人で歩き出す。
二人きりになったアリアとレオナ。
レオナは満足そうに笑みを浮かべて切り出した。
「いや〜!カムイは本当に素直でいい子だね!
教えてるこっちも気分が良かったですよ!」
「いえいえ。本当、無茶ばかりする子で……」
アリアも柔らかく応じ、母親同士の穏やかな会話が続く。
しばらく話をしたあと、アリアの表情がふと真剣になった。
(レオナさん...今なら...)と何かを考えていた。
アリアは「あの!レオナさん!」と。
声のトーンに、レオナはいつもとは違う重みを感じ取る。
ただ事ではない空気を察して、彼女も表情を引き締めた。
会場の片隅で、二人の間に静かな緊張が走る。
華やかな舞踏会の準備が進む中、母親同士の真剣な会話が始まろうとしていた。
カムイとリディアは着替えるために、リーラと共に控え室へと向かっていた。
広い廊下を歩いていると、途中で人だかりができているのが見えた。
「?」
カムイが首を傾げた瞬間、一人の上級生が声を荒げる。
「おい!お前たち!廊下の端に寄れ!」
慌てて端に寄る三人。
(なんだなんだ?)
そう思っていると、人だかりの中心から一人の女性が歩いてきた。
後ろに何人か生徒を従えている。
周囲の生徒たちの会話が、自然と耳に入る。
「あ〜。シリア様……今日も素敵ね!」
「本当。さすがは生徒会長様だ。」
カムイたちも、その女性を見た。
凛とした足取りで廊下を進む彼女。
長い紺の髪に、落ち着いた金色の瞳。
騎士学校上等部の最上級生にして生徒会長のシリア・キャメロット。
大人の雰囲気を纏った才色兼備の生徒だ。
時折、生徒たちに軽く手を振る姿は、まるで女神のようだと噂されるほどだった。
カムイは「うーん」と小さく唸り、心の中で評価する。
(確かに美人だな〜。女神と言われるだけのことはある。)
シリアはふと床に落ちているハンカチに気づき、優雅に拾い上げた。
近くにいた女子生徒に差し出す。
女子生徒は感激のあまり、その場で気絶した。
シリアは「おや。」と小さく笑い、役員に倒れた生徒を任せる。そして再び歩き出す。
人だかりの中から、期待の声が上がる。
「今日の舞踏会にも出場なさるのよね!」
シリアの出場を、生徒たちが心待ちにしているのがわかった。
シリアたちが通り過ぎていく。
カムイは彼女の後ろ姿を見送りながら、心の中で素直に感想を漏らす。
(目の前で見るとより美人だったな!
にしてもこの世界は美人が多いなぁ)
カムイがシリアに見惚れていることに気づいたリディア。カムイの腕をグイッと掴み、「カムイ!」
慌てふためくカムイ。
「ど、どうしたの!?!?」
膨れているリディア。
微笑ましい二人のやり取りを、リーラは静かに見守っている。
彼女は一人、気づいていた。
リディアのカムイへの気持ちを。
カムイのクラスの控え室。
クラスメイトたちが、二人の着替えを待っている。
着替え室では、リーラがカムイとリディアの部屋を行き来しながら、手際よく手伝っていた。
やがてリーラがそれぞれに声をかける。
着替えを終えたカムイとリディアが、皆の元へ出てくる。完璧な格好とセットされた髪型。
その瞬間、男子生徒の親衛隊たちが大喜びで声を上げた。
まるで神を崇めるような熱狂ぶりだ。
女子生徒たちも色めき立つ。
リディアの方にも、すぐに女子たちが群がる。
「リディアちゃん、かわいい!」
「そのドレス、本当に素敵!」
ルーナ先生は両手を合わせて、嬉しそうに目を細めた。
彼女はリーラのもとへ歩み寄り、丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみません。」
リーラは静かに微笑み、落ち着いた声で答えた。
「いえ。おぼっちゃまの晴れ舞台ですので、侍女として当然です。」
控え室に、華やかで明るい空気が満ちている。
「では、私はこれで。」
リーラが静かにそう言い残し、控え室を出る。
その背中を見て、カムイが「あっ!」と思い出したように声を上げた。
クラスメイトたちに短く断り、彼は廊下へ飛び出す。
アリアのもとへ戻ろうと歩いていたリーラに走っていく。
気配を感じて振り返ったリーラ。
カムイは何のためらいもなく足元のスカートに抱きついた。
「リーラ!ありがとう!」
突然の行動に、リーラは優しく微笑む。
「ふふ。おぼっちゃま。こんなところでどうされたのですか?クラスの誰かに見られたら、笑われますよ。」
カムイは体を離すと、彼女の手をそっと握った。
真っ直ぐな目で、静かに告げる。
「リーラ。最近……屋敷の空気があまりよくないけど、
僕はいつでもリーラやお母様の味方だからね!」
その言葉に、リーラはわずかに目を見開いた。
カムイは明るく笑い、手を離す。
「それじゃ!楽しんでね!」
そう言い残して、彼は控え室の方へ戻っていった。
リーラは立ち止まったまま、その小さな背中を見送る。
(本当に……おぼっちゃまは優しいですね。)
これまでいろいろあった。
それでも今、彼から伝わってきたのは、純粋な優しさだけだった。
舞踏会場へと向かうカムイとリディア。
騎士学校の上等部と下等部。全学年のクラス代表。
数十組にまで及ぶ大人数に、凄まじい緊張感が会場を包み込む。
大勢の来賓や保護者たちが、静かに見守っている。
司会進行が始まり、ルールの説明が入った。
まずはこの広いステージで、全員が一斉に踊りを披露する。
その中から五組が選ばれ、最終ステージへ進む。
最終ステージでは一組ずつ、個別に審査を受けるという形式だ。
モニターに映る説明を見ながら、リディアが小さく呟く。
「たった五組しか残れないんだ……」
自信のなさそうな声音だった。
この舞踏会では上等部のペアが主に注目される。
下級生の舞踏など、ほとんど飾りのような扱いだというのが通例だった。
だが、カムイは全く動じていない。
自信に満ちた声でリディアに言う。
「大丈夫だって!
僕とリディアなら、優勝だっていけるさ!」
その言葉に、リディアはわずかに肩の力が抜けた。
不思議と彼が隣にいると心が落ち着く。
ステージの照明が徐々に明るくなり、開演の気配が濃くなっていく。
二人の初めての晴れ舞台が、今始まろうとしていた。




