↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/97

第十八話 激闘

 雲の上まで一気に高度を上げたカムイ。

 ここなら、誰の目にも触れない。

 彼は今使える限りの神聖力を最大限に解放した。

 身体がふわりと浮き、重力から解放される。

 なんとか宙に浮いていられる力は持っていた。

「よし。離れて!」

 グリフォンに短く指示を出すと、理解したように距離を取る。

 カムイは腰のあたりから、リーラにもらった槍を取り出した。

 伸縮性の高い、特別な槍。

 普段はポケットに収まるほど限界まで縮めて持ち歩いている。

 彼が魔力を込めると、槍は「シュパッ」と音を立てて一気に伸び、戦闘に適した長さへと変わった。

 カムイは槍を構え、禍々しいオーラを纏った鱗を見つめる。

「さあ……いくぜ!」

 彼は子供の雰囲気をやめ、神としての雰囲気に切り替えた。



 カムイは全力で戦った。

 槍を振るい、神聖力を込めた一撃を繰り返す。

 最初こそ互角に渡り合っていたが、徐々に力の減りが顕著になってきた。

「くそぉ!ルミエルの力があれば、こんなやつ!」

 やがて鱗が完全に優勢に立ち、容赦ない攻撃を浴びせる。

 鱗から放たれる魔法、直接的な攻撃をくらい、最後には神聖力が完全に尽き果てた。

 意識が遠のき、カムイの体が雲の下へと落ちていく。



 その瞬間——。

 何者かの魔法が彼を捉え、優しく宙に浮かせた。

 意識を失っているため、誰が助けてくれたのかはわからない。

「ほほほ!こりゃ驚いたわい!

 まさか神聖力を使う奴がいるとは!」

 現れたのは、仙人のような風貌をした男だった。

 長い髪と髭、奇妙な杖を携えている。

 彼は楽しげに笑いながら、持っていた杖を鱗に向ける。

「ほい!」

 次の瞬間、鱗を包んでいた禍々しい邪気が、まるで嘘のように祓い去られる。

 黒いオーラが散り、鱗はただの無機質な破片となった。

 仙人は浮遊するカムイを見て、興味深そうに目を細めた。



 老人は満足そうに笑い、

「ほほほ!こやつが鱗と戦ってくれたおかげで、楽に祓えたのぉ〜」

 鱗をひょいと魔法で拾い上げ、掌の上で転がしてみる。

「こいつはもらっておこう。

 研究材料として必要じゃからな。」

 そう言うと、杖を軽く振ってカムイをグリフォンの背中へ優しく降ろした。

「さて次は……

 ちゃんと送り届けるんじゃぞ!」

 老人が短く命じると、グリフォンは理解したように首を縦に振る。

 老人は満足げに頷き、雲の中へと消えていった。

 残されたグリフォンは、慎重に翼を羽ばたかせ、意識のないカムイを乗せたまま学校の方へと飛び立つ。



 目を覚ましたカムイは、白い天井を見上げていた。

 どうやら騎士学校の医務室のベッドらしい。

 体を起こそうとした瞬間、激しい痛みが全身を走った。

「いって!!!」

 激しい戦いと、神聖力を使いすぎた反動なのだろう。

 まさかここまで痛いとは思わなかった。

 カムイが大きな声を出したからか、扉が勢いよく開いた。

「カムイ!!」

 リディアが叫びながら駆け寄ってくる。

 涙をボロボロ流した顔で、彼に抱きついた。

「よかった!!もーー!心配したんだから!」

「リディア!ちょ!ちょっと待って!痛いぃぃ!!」

 抱きしめられた箇所が激しく痛み、カムイは悲鳴を上げる。

 リディアは慌てて体を離した。

「ごめんなさい!」



 すぐに複数の先生と、ギルバート学校長までが医務室に駆けつけてきた。

 皆は安堵の表情を浮かべる。

 カムイはベッドに半身を起こしたまま、苦笑するしかなかった。

 ギルバート学校長がベッドの傍らに立ち、真剣な顔で尋ねた。

「しかし、一体何があったんだ?

 君がグリフォンで空高く飛んだあと、何があった?」

 カムイは少し考え、話せる範囲で正直に答えた。

 神聖力の件は完全に伏せ、雲の上で鱗と戦ったこと、すぐに力及ばず負けたこと、そのあとの記憶はないことを説明する。

「……なるほど。」



 先生たちが腕を組み、考え込む。

「うーん。鱗がいなくなったところからすると、誰かが助けてくれたのか?」

 いくつかの仮説が上がるが、物証は何もない。

 結局、真相は闇の中だった。

 ギルバート学校長は深く息を吐き、カムイの肩に手を置いた。

「だが、生徒が無事で良かった。

 それだけで十分だ。」

 安堵の声に、他の先生たちも小さく頷く。



 学校が終わるまでの間、カムイは医務室で治療を受けていた。

 下校の時間が近づくと、カムイを迎えに来たリーラが先生から事情を聞かされ、血相を変えて医務室に飛び込んできた。

「カムイおぼっちゃま!!!」

「あ!リーラ!」

 彼は元気そうに手を振る。

 医務室の先生がリーラに説明した。

「保護者の方ですね?」

「は、はい。侍女のリーラ・アルフェントと申します。」

「いや〜、カムイ君。凄まじい回復力ですよ。

 あんな怪我をしてたのにもう傷口も塞がっちゃって。

 今日はもう帰って大丈夫です。」

 その言葉に、リーラは深く安堵のため息をついた。



 帰りの馬車の中で、リーラは厳しい声で注意した。

「カムイおぼっちゃま!本当に気をつけてください!」

「ごめんリーラ。

 でも僕がやらなきゃ、リディアや他の生徒たちが危なかったんだ……」

 その真っ直ぐな言葉に、リーラは何も言い返せなかった。

 彼の正義感を、否定するわけにはいかない。

「ですが...アリア様も心配なさいます。

 今後は、気をつけてくださいね。」

「うん。」



 カムイはリーラに寄り添い、甘い声で囁いた。

「ねぇリーラ♡

 今日の夜さ〜癒してよ〜♡」

 リーラは静かにため息をつき、きっぱりと首を横に振った。

「今日はダメです!

 激しい動きは厳禁なのですから!」

「え〜!」

 不満そうに嘆くカムイだが、リーラは真剣な顔を貫く。

 しかし、すぐに優しい顔になり、

「安静にしていれば、すぐに元気になりますから。

 ……我慢してください。」



 その日の夜。

 リーラとアリアは、居間で二人きりで話していた。

 リーラから今日の学校での事態を報告されるアリア。気絶しそうな顔になる。

 両耳を塞ぎ、悲鳴のような声を上げた。

「リーラ、やめてぇ〜〜!

 あ〜。で、でも聞かないと〜!」

「ア、アリア様……」

 2人の話が終了。カムイの無事に安堵した。

 そのとき、扉が小さくノックされ、一人のヴァルハート家の若い侍女が気まずそうに入ってきた。

「あの……奥様……リーラ様……」

 アリアとリーラは揃って「?」という表情を浮かべる。

 若い侍女はさらに視線を泳がせ、何か言いにくそうに口を開こうとしていた。



 一方、カムイはレオンハルトに呼び出され、父の私室へ向かっていた。

 中に入ると、レオンハルトはいつになく厳しい表情で息子を待っていた。

「カムイ……学校での出来事。

 騎士団にも通達が来た。

 ロメルライ家のご子息が、魔炎竜の鱗を勝手に持ち出して、授業で使用したと。」

 カムイは心の中で舌打ちした。

(あいつ!勝手に持ち出してたのか!)

 レオンハルトは続けて声を強める。

「魔炎竜はな!父さんでもかなり苦戦したんだ!

 鱗と言っても、実力は本体に近い!

 まったく……子供のくせに、なんて無茶をしたんだ!」

「すみません...」

 カムイが素直に頭を下げると、レオンハルトの表情がわずかに和らいだ。

 実のところ、彼は誇らしくもあった。

 冒険者時代。自分が倒した魔炎竜の意思を宿した鱗に、息子が立ち向かってくれた。

 今すぐでなくてもいい。

 ゆくゆくは、あの鱗を確実に倒せるほどの実力を持ってほしいと願うレオンハルト。

 レオンハルトは息子を褒めた。

「……だが、生徒たちを守ろうとしたことは...認めてやる。」



 レオンハルトはさらに、少し声を落として話を続けた。

「マールロイド君の父親には、しばらく謹慎してもらった。息子のしでかしたことの責任を十分に感じてもらう。もともと、少し厄介な男だ。これを機に自分を見つめ直してもらおう。」

 カムイは思い出す。

(そっか……確かロイヤルフォース騎士団の第一部隊の騎士で、元隊長候補だったんだっけ?あいつの父親。)

 話し方から察するに、やはりレオンハルトはマールロイドの父親を厄介に思っていそうだった。

 普段は厳格で、騎士としての誇りを前面に押し出す男が、こんな子供じみた、しかし人間らしい嫌悪感を見せる。

 レオンハルトはすぐに咳払いをして、いつもの厳しい表情に戻る。

「……まあ、そんなことより、無理をするなよ。」

「はい。」



 さらに話は続き、

 レオンハルトは少し怒った口調で切り出した。

「ところでカムイ。

 お前……騎士学校では槍の登録で希望したようだな。」

 事件の影響で、すべてがバレてしまっていた。

 レオンハルトは深くため息をつく。

「わかっている。リーラだろ?

 あいつが書き換えた。お前は知っていたのか?」

「は、はい。すみません。」

 カムイが素直に認めると、レオンハルトはさらに続けた。

「全くあいつは……何を考えているんだ。

 自分が槍を使うからって、カムイにまで……

 自分が育てたとでも言いたいのか?」

 その言葉に、カムイは心の中で強く反発した。

(違う!リーラは俺を尊重してくれただけだ!)

 カムイはリーラを庇いたかったが、何を言ってもこの父親には届かないだろうと思い、諦めてしまった。

 レオンハルトは腕を組み、最終的に結論を出した。

「まあ、もう仕方ない!今更変更はできん!

 やるからには、しっかりやるんだぞ!」

「……はい」

 カムイは短く答え、静かに頭を下げた。

 夜の私室に、複雑な親子の空気が残る。

 槍を選んだこと自体は認めてもらえたが、リーラへの文句だけは、どうしても引っかかるものがあった。



 カムイはレオンハルトの私室を出て、自分の部屋へと戻っていった。

 一人残されたレオンハルトは、椅子に深く座り込み、小さく息を吐く。

「全く...カムイには剣の強い男になって欲しかったのだが……」

 まだ未練が残っているようだ。

 そのとき、扉が軽くノックされた。

「入れ。」

 入ってきたのは、妻のアリアだった。

 だが、その表情は普段の優しさとは違う。

 冷たく、どこか沈んだような目をしていた。

「どうした?」

 レオンハルトが尋ねると、アリアは静かに口を開く。

「あなた……少し、お話が。」

「?」

 レオンハルトが首を傾げる中、部屋に不穏な空気がゆっくりと広がっていく。

 アリアの視線は、明らかにただ事ではない何かを含んでいた。

 夜の私室で、夫婦の間に張り詰めた沈黙が落ちる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。