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第十話 機転

 一方その頃。

 シルバレイン家の前には、騎士部隊が集まっていた。

 第一部隊と第二部隊の隊員。

 レオンハルトとグリルも剣を握り、先頭に立ち馬に乗る。

「すぐに出発する!いくぞ!」

 グリルの号令で隊員たちが動き始めた。

 すると、一人の騎士が地面を指差し、声を上げる。

「グリル隊長!これを!」

 地面に淡く蛍光に光る液体が点々と落ちていた。

 等間隔に続いている。

「これは……」

 グリルがしゃがみ込み確認する。

 意図的に発光させられた魔法の痕跡だ。

 レオンハルトが隣に立ち、先を見据えた。

「この先に、カムイたちがいるのか?」

 グリルは頷き、立ち上がる。

「よし!これを辿るぞ!」

 光る水滴を頼りに、騎士たちの列が夜の道を進み始めた。



 カムイとリディアは、林の中を走り続けていた。

 地面に残る蛍光液を確認しながら進む。

 木々が途切れた先に、広い平野が広がっていた。

「……ここ、墓場?」

 リディアが小さく呟き、怖がってカムイの腕に強くしがみつく。

「大丈夫だよ。」

 カムイは彼女を安心させるように腕を軽く握り返す。

 二人は石碑の陰を伝いながら、慎重に中へ入っていった。

 だが、すぐに後ろから複数の足音が迫ってくる。

 盗賊たちが同じ平野に到着してしまったのだ。

 まだこちらには気づいていないが、距離は近い。

「この辺に隠れてるかもしれないぞ!探せ!」

 リーダーの声が夜の墓場に響く。

 手下たちが左右に散り、明かりで照らし始める。

 カムイはリディアを連れて、大きな墓石の後ろに身を隠した。

(さて……どうしたものか?)

 次の策を、静かに考え始めていた。



 カムイは墓石の陰で、ふと何かを思いついたように目を輝かせた。

「そうだ!」

 彼は左手を地面に置く。

 リディアが不安そうに彼の顔を覗き込む。

「カムイ?」

「しーっ!」

 カムイは短く制止し、目を閉じた。

 掌から、神聖力を地中へ送り込む。

 ここは墓場だ。

 当然、多くの死体が眠っているはず。

(よし……思ったとおりだ。)

 地中から、断片的な記憶と感情が流れ込んできた。

 ここに埋葬されているのは、盗賊団に殺された人々。戦士、魔法使い、旅人たち。

 皆、無念を残して死んでいる。

 当然、魂は成仏せずに辺りを彷徨ったり、地の底で渦巻いたりしている。

(こいつら...深い恨みを抱いているはずだ。)

 カムイは心の中で、静かに語りかける。

(お前たち……その恨み、この俺が叶えてやろう)

 人間の身体でも、わずかな会話なら可能だった。



 さらに彼は右手も地面に置き、別の魔法を発動させる。

 死体を動かす、アンデッド化の魔法。

 魔法が完了すると、カムイはリディアに顔を向けた。

「リディア。ちょっとだけ待ってて!」

「えっ!?待ってよカムイ。行かないでよ……」

 寂しそうに裾を掴むリディアに、彼は短く笑って見せる。

「大丈夫。すぐに、守ってくれる人が来るから!」

 リディアには、その意味がわからなかった。

 ただ、カムイの目が妙に真剣なことだけは伝わってくる。



 盗賊団は墓場の中央に集まり、焦った声を上げていた。

「見つかりません!」

「んなわけねぇだろ!そんな遠くに行けるはずない!」

 リーダーが苛立ちを隠せずに怒鳴る。

 そのとき、墓石の影からゆっくりと人影が現れた。

「イラついてますね〜」

 出てきたのはカムイだった。

「あ!てめぇ!!」

 リーダーがすぐに発見したとばかりに指を突きつける。



 カムイは動じず、首を傾げて言った。

「でも、ここに眠ってる人たちの方が……

 イラついてると思うよ〜」

 その声音に、盗賊たちがわずかにたじろぐ。

 リーダーは強引に声を張り上げた。

「はぁ?何言ってんだ、テメェ!」

 すると、地中から低いどよめきのような音が聞こえてきた。

 ざわつく盗賊たち。

 カムイはゆっくりと手を広げて見せる。

「ほら?聞こえないかな?さまよう魂の声がさ。

 おじさんたちに復讐したくてたまらないみたいだよ。」

 だんだんと顔色を変える手下たち。

 リーダーはそれでもハッタリだと否定する。

「て、てめぇら!うろたえるんじゃねぇ!

 こんなのハッタリだ!」

「ハッタリ?これでもそう言えるのかな?」



 カムイが右手を静かに上げた。

 次の瞬間、地面がボコッと割れ、白骨の手が突き出す。

 無数の骸骨が、土を押しのけて次々と地上へと這い出してきた。

「ひっ……!」

 盗賊たちが怯え、一人、また一人と後ろへ下がる。

 逃げようとした者の足首を、骸骨の手が正確に掴む。

 大量の骸骨が盗賊たちを取り囲んでいった。

 カムイはどこか楽しげに宣告する。

「さあ!みんな!

 念願だった復讐の時間だよ!」

 骸骨たちは盗賊団に向かう。逃げ出す盗賊団達。

 骸骨達はカムイの命令で殺しはしない。

 ただ捕まえ、締め上げ、恐怖を与えるだけだった。

 逃げ惑う盗賊たちの悲鳴が、夜の墓場に響き渡る。



 リディアは墓場の後ろから、その光景を固唾を呑んで見ていた。

 カムイが骸骨たちを操っている様子に、ただ驚くしかない。

「カムイ……あんなことまで!」

 小さく呟いた直後、背中をトントンと叩かれた。

「きゃあああああ!!!」

 振り返ると、そこには一体の骸骨が立っていた。

 リディアが腰を抜かしそうになった瞬間、骸骨が流暢に口を開く。

「あ〜!ごめんなさい!

 驚かせるつもりはなかったんです!」

「えっ……!?」

 あまりの丁寧な口調に、リディアは悲鳴を止めた。

 すると、さらに二体の骸骨が側に現れる。



「いや...我々はあなたを守るよう、お願いされましたので。」

 とても愛嬌のある、人間のような話し方だった。

 三体の骸骨は、互いに顔(骨)を見合わせ、会話を始める。

「それにしても不思議ですな。

 こんな姿になっても、人間の感情が残っているなんて。」

「はい。こんなアンデッド化魔法は聞いたことがないですよ。」

「彼に話しかけられた時、なんですかな...こう...神のような暖かさを感じましたな。」

「ああ!私もそれを感じました!アンデッドでも感情があるのと何か関係があるのですかね?」

 骸骨同士が何やら納得したように頷き合っている。

 リディアには、その話の意味がさっぱりわからなかった。

 ただ、この骸骨たちが自分を襲う気配がないことだけは、はっきりと伝わってきた。



 骸骨たちは盗賊たちに、十分な恐怖を与えていた。

 逃げ場を失った盗賊は次々と気を失い、地面に倒れ込む。

 骸骨たちは器用にロープを手に取り、気絶した男たちを一人残らず縛り上げていった。

「よ〜し!そんな感じ!ありがとう!」

 カムイが声をかけると、骸骨たちは一斉に彼の前にひざまずいた。

 どうやら、はるか昔に国のために尽くした騎士たちの骸骨らしい。

「この度は、恨みを晴らさせていただき、誠にありがとうございます。」

「なんとお礼を言っていいか……」

 骸骨たちに慕われる、異様な光景だった。

 カムイは手を振る。

「別にいいって!」

 そのとき、後ろから足音がした。

「カムイ……」

 骸骨たちと一緒に、リディアが近づいてくる。

 彼女は無事だった。

 だが、目の前の光景にはやはり驚いているようだ。

「リディア!無事でよかった!」

 カムイが安堵の声を上げると、彼女はこくりと頷いた。



 カムイは改めて骸骨たちに向き直った。

「さあみんな!恨みは晴らせたんだ。

 これで心置きなくあの世に行けるね!」

「はい!」

 多くの骸骨が揃って返事をする。

 一体、また一体と術が解け、白い光となって魂が天へと召されていく。

 夜空に、淡い光の筋が幾筋も伸びて消えていった。

(あっちに戻ったら...ちゃんと礼を言わないとな!)

 神のルミエルとして思う。



 だが、数体だけが残った。

「あの〜」

 一体が恐る恐るカムイに声をかける。

「我々は、もう少し下界にいても構わないでしょうか?」

 カムイは意外な表情をする。

「えっ?いいの?

 あの世で家族が待ってたりしないの?」

 数体の骸骨が、ほぼ同時に首を横に振った。

「ええ。私は天涯孤独でしたので。」

「自分も、結婚できずに命を落としたので。」

「俺も騎士一筋で生きてきたからな!」

 まだまだこの世を謳歌したい者たちもいたらしい。

 カムイは少し笑い、肩をすくめた。

「まあ、いいけどさ!

 ただし!ここら辺一帯で過ごしてよ!

 人に迷惑をかけないように!」

「はい!」

 残った骸骨たちは、元気よく返事をした。

 そして、

「では我々はそろそろ。久しぶりに動いて疲れましたので。」

「少し寝ますかね。」

 そう言って、地面にゆっくりと潜って消えていく。

 夜の墓場に再び静けさが戻った。



 カムイとリディアは座り込み、夜空を見上げる。

 カムイはリディアに話す。

「お疲れ様。もう少ししたら、印を辿ってお父様たちが来るかもしれないね。」

「う、うん……」

 リディアは小さく頷いたあと、勇気を出して彼の顔を覗き込んだ。

「ねぇ、カムイ。

 あの骸骨さんたちはなんなの?人の感情があったよね?

 アンデッド化の魔法で普通そんなこと……。

 それに...そもそもあの魔法って危ないんじゃないの?」

 至極真っ当な意見だった。

 カムイは一瞬、言葉に詰まる。

「ええっと……」

 気まずい。

 アンデッドに感情を与えた神聖力のことなど、話せるわけがない。

 ましてや、アンデッド化魔法をどうやって習得したかなど、さらに言いにくい。



 数ヶ月前のある日のこと。

 屋敷での魔法の授業は、いつものように形ばかりのものだった。

 派遣されてきた女性魔法使いたちがカムイを囲み、戯れ混じりに基礎を教える。

 その中で、カムイの視線がある一冊の魔導書に止まった。

 アンデッド化魔法について書かれた本。

 習得も難しいとされ、普通、子供には教えない。

 授業が終わり皆が退室したあと、1人の女性魔法使いと二人きりになった。

 カムイは自然な様子で、その女性に近づいた。

 その女性の名はラルアと言う。歳上の魅力が満載な綺麗な女性。

「ラルアさん。この魔法、教えてくれない?」

 魔導書を指差しながら、穏やかに、しかしはっきりと頼む。

 ラルアはすぐに首を横に振った。

「いけません、カムイ様。この魔法は危険です。

 子供に教えるわけには……」

 当然の拒絶。

 だが、カムイは引き下がらなかった。



 卓越した交渉。

 カムイはラルアの不安を一つひとつ聞きながら、言葉を重ねていった。

「……でも、本当に危険なんですよ」

「わかってるよ。だからこそ、ラルアさんにいてほしいな〜。」

 カムイはその後も言葉巧みにラルアを説得。

 ラルアはしばらく黙り込んだ。

(なんなの、この子……。

 こんなに真っ直ぐ頼られたら...)

 やがて、ラルアは小さく息を吐いた。

「……わかりました。カムイ様がそこまで言うなら...」

「本当?」

 カムイの顔がぱっと明るくなる。

「ありがとうございます、ラルアさん♡」

「もう……調子がいいんですから。」

 ラルアは苦笑しながらも、その表情はどこか嬉しそうだった。

 こうしてカムイは、巧みな話術によって、見事にラルアの協力を取りつけた。

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