生徒会役員たち
市歌は、今度は春藤に顔を向けた。
「だいたい、勢いで飛び出すのは、メイちゃんがすでに実践済みじゃない。」
春藤は気まずそうに、言い訳めいたことを言い始める。
「い、いやしかし、あれは会長の許可を得て……」
「うむ。発端はどうあれ、私が許可したのだ。春藤君が外部工作を行うことを認める、と。だが、メイ君。私は、あまり過激なことを……」
今度は、咲楽が春藤に、説教じみた口調で何やら言い始めた。放っておくと長くなりそうだ。
(だめだ、また場が混乱してきた。)
初瀬は、少し息を吐いた。先ほどは自分まで頭に血が上ってしまったが、気を引き締めて、何とか場の主導権を握らなければいけない。
「みなさん。それは後にしましょう。先ほど俺が聞いた質問に答えは出たんでしょうか?」
疑問形で聞かれれば、言われた方の反応は、反発するか、答えを探すかのどちらかとなることが多い。
「そうね。さっきまでで、大体話に出ていたと思うけど、私から言うわね。」
幸い、市歌が、答えを探す方向に向いてくれた。いや、初めから、自分でまとめるつもりだったのかもしれないが。
「まず、メイちゃんが外出してた件だけど。先週、生徒会役員で会議をしたの。理事会の最近の動きが会長から報告されてね。そうしたら、メイちゃんが憤慨しちゃって。早速、理事会に働きかけて来ます! って言って、聞かなくなっちゃって。」
「それで、君がそうしたいのなら、任せる、ということにしたのです。」
(なるほど、それで。)
春藤が恥ずかしそうにしているわけだ。
だが、咲楽のこれまでの話を総合すると、理事会の動きは、今年度に入る前から始まっていたはずである。9月にその話を始めて聞いた春藤がいくら理事会に働きかけたところで、流れが変わることはありえないだろう。
初瀬は、意味がないというよりもむしろ、今後の生徒会の活動に損失を与えそうな春藤の行動を許容する、咲楽の度量の広さに少し感心した。
「なるほど。春藤さんの任務の件は大体承知しました。それで、次にお聞きしたいことですが……分かりますか?」
あまり疑問形を多用すると、聴衆に反発を招きかねない。だが、もう1回くらいなら大丈夫だろうと踏んで、初瀬は尋ねた。今度は、ターゲットを絞って、市歌に65%くらいの意識を向けている。
「どうして、私がハツセ君に頼んで理事会に文書を出そうとしたか、でしょ?」
苦笑しながらも期待通りの答えを出す市歌。初瀬も、ことさら満足げに頷いた。
「ご名答です。」
「そうね……。じゃあ、あの文書の内容の前に、少しだけ。会長と私の話をしましょうか。」
市歌は、少し間を置く。沈黙が生徒会室を支配する。窓の外からは、未だに強い雨の音が部屋に響いていた。
「私と会長は、5月の役員選挙で生徒会役員に選ばれる前から、調査をしていたの。理事会や教職員とも非公式に接触してね。その結果、さっき会長が説明したようなことが徐々に分かってきた。」
市歌に続けて、今度は咲楽が後を引き取る。
「最初は、もっと簡単な話だと思っていました。生徒活動の意義を理解してもらえば、誤解は解ける、と。しかし、この件は、数年前から周到に準備されてきた動きでした。思えば、先代までの生徒会役員があまりに鈍感すぎたのかもしれません。もっとも、生徒会にそこまでの期待をされても、それはそれで困るのですが。――そこで、私と市歌は、生徒会役員になって、何とか解決しようと考えたのです。」
「サクラは謙遜してあんまり言わないけど、サクラのお父さん、大手の建設会社の社長だからね。うちの学校の理事会にも顔が利くの。だからサクラは、自分が生徒会長になることで、少しでも、理事会をけん制できれば、と考えたの。」
咲楽は、特に否定もしなかった。初瀬は、先ほどより、咲楽と市歌の口調が柔らかくなっていることに、気づいた。場の雰囲気も、当初よりはずいぶん穏やかになっている。市歌も、いつの間にか、「会長」ではなく「サクラ」と呼んでいる。
しかし、結局、話を進めるためには、例の文書に踏み込まざるをえない。
「それでは、本題に戻ってもらって、先ほど俺が渡された文書の趣旨を教えてもらえないでしょうか。」
生徒会役員の話が続きます。もう少し続けて、場面転換する予定です。




