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激突

 先刻の文書―理事会にあからさまに喧嘩を売ったような回答書―の話を出しても、咲楽は特に表情を変えなかった。ただ、初瀬には、咲楽が少し息をのんだように感じた。

「先ほど俺が理事会に持って行こうとした、何かの回答書について、何でそういう文書を出すことになったのか。それを教えてもらえないでしょうか。」

 これまでのやり取りで、少なくとも、咲楽と春藤が書類の内容を把握していなかったことが分かっている。それもあって、初瀬は、はっきりと市歌を向いて尋ねた。

「正確には、「生徒会予算要求に関する質問に対する回答」ね。」

 マイペースに髪をかき上げる市歌。咲楽の視線が少し強くなったように感じ、初瀬は慌てて市歌に先を促した。

「いや、タイトルよりも、何でその文書を出すことになったのかを。」

「はーい。さっき説明したように、理事会が緊縮財政を考えているのね。でも、緊縮財政って、具体的にいつからか知ってる?」

「……いえ、全く。聞いたこともないです。」

 突然質問で返され、初瀬も答えらえない。

「そのとおり。今期までの予算は、ほぼ従来どおりだったの。そして、次年度の予算は、まさに、現在審議中。今が9月だけど、9月あたまに、関係部署から予算要求することになっていてね。生徒会も、生徒活動全般について予算要求を出して、ヒアリングを受けることになっているのだけど。実は、今年度の生徒会設立以来ずっと、理事会から圧力を受けていてね。」

「そ、そんな……」

 理事会がそんな強硬なことをしていた、ということは初耳だった。これまで、平和な学校生活を送ってきただけに、初瀬にはショックな話であったのだ。

 さらに、春藤までもが顔面蒼白だった。理由は一応理解できる。彼女は、生徒会役員になったにもかかわらず、そんな状況をほとんど知らされていなかったのだろう。

「サクラ……会長の立場はずっと、理事会とは是々非々で行くというものだった。無用な対立を避け、協力者を増やし、お父さんの力も借りながら、理事会に根回しをしていく、という作戦で行こうとしたのよ。」

「その成果は出たのでしょうか?」

 咲楽や市歌の表情からすれば、あまり芳しいものではなかったことが容易に予想されたが、それでも聞かざるを得ない。

「出ませんでした。そんな中で、9月を迎えることになりました。やむなく、予算要求は、既に出したのです。ほぼ前年並みの予算規模で。」

 苦虫を嚙み潰したような表情で、咲楽が続ける。

「そう。サクラ……会長の判断で、去年までと同じ予算を出したんだけど、当然、理事会で紛糾してね

。理事会が、質問をしてきたの。」

「もしかして、その質問が……」

「そ。生徒会として、無駄な活動をしているとか、予算適正化に向けた活動をしていないのではないかとか、そんなことばっかり、厭味ったらしくね。」

 市歌は、静かにカップを手に取って、口に運ぶ。少し間を置いてから、咲楽を見すえた。

「それで、あの回答ってわけよ。」

「副会長。理事会からの質問と、先ほどの回答、どうつながっているのか、ご説明願おう。」

 咲楽は、先ほどとは異なり、落ち着いていた。初瀬がしようとしていた質問を、自ら発している。

 しかし、一見静かなやりとりの中にも、咲楽と市歌の視線が交錯して火花を散らしており、一触即発、抜き差しならぬ状況であることは初瀬にも分かった。

「簡単よ。理事会と協力的にやろうだなんて、もう無理だと思ってね。あの回答書を出せば、いくら頭の固い理事会の役員様でも、こちらのスタンスが分かるだろうと思って。」

「そんなことをしたら、完全に理事会と対立してしまうだけではないか!!」

 いきなり咲楽が爆発したことで、保たれていた均衡が破れてしまう。初瀬は止めようとしたが、咲楽は続けた。

「それに、理事会とむやみに対立しないという年度方針を覆すことになる。そんな重大な決議を会長に無断で――」

「じゃあ、サクラ。その方針を続けて、理事会の嫌がらせが止まるの?」

「それは……」

 咲楽は答えることができない。

「この際、理事会にはっきりと、私たちの考えを分からせてやった方がいいじゃない。生徒はあんたらのいいなりじゃない、ってね。それから、理事会の不条理さを表ざたにしたら、どうかな。」

 あくまで気楽な口調で、非常に重大なことを口走る市歌。咲楽は少し口調を弱めて、

「しかしそんなことをしたら、本件が、一般の生徒にまで分かってしまうではないか。」

「いいじゃない。分かっても。生徒にもよく考えてもらいましょうよ。……ねえ、サクラ。生徒に迷惑がかからないようにしたいっていうのは、とてもよく分かる。あなたが優しいのも、よく分かってる。でもね、下手な優しさは、かえってかえって人を迷わすの。」

(ああ、そうか――)

 二人のやり取りをここまで聞いて、初瀬にも、ようやく分かった。優しいのは、咲楽だけではない。市歌も、とても優しいのだ。だからこそ、理事会への最後通告という、咲楽ではできないことを、市歌が代わりにやろうとしたのであろう。

(もしかして、この人、最初から、職員室に会長がいると分かっていて、俺を行かせた?)

 市歌は、どこまでを予測して行動していたのか。微笑をたたえた市歌の横顔からは、彼女の真意は全く読めなかった。ただ、市歌は、初瀬をちらりと流し見て、軽く右目でウインクした。

生徒会室での対話篇、ほぼ終了です。

どこまでニーズがあるのかはともかく、ずいぶん時間が空きまして、まことに恐縮です。

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