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3番目の役員

 忍者装束の女の子が部屋に入ってきたとき、ちょうど、咲楽が、初瀬に向かって、

「殿様、こちらは自信作でございます。」

とばかり、新しく出した箸で大根の煮物を取り、初瀬の口に勧めるところであった。

 見方によっては、リア充の象徴とも言うべき「あーん」をしているように見えなくもない。というか、それ以外の何物でもないのであるが。


「か、会長‼ この不届者は一体何者ですか?!」

 黒目を三角にしかねない勢いで怒った女子が、咲楽と初瀬に詰め寄る。右手には手裏剣、左手には小型の錐状の刃物を取り出し、初瀬に向かって構えながら。

 初瀬はその女の子を見たまま、完全に固まってしまっていたが、咲楽はさすがに落ち着いたもので、箸でつかんだ煮物をゆっくり初瀬の口に運ぶと、箸を置く。

「メイ君、食事中だ。少し落ち着きたまえ。」

「あ、す、すみません……」

「その物騒な手裏剣と飛苦無とびくないも仕舞うように。」

 咲楽の言葉でしゅんとなった女の子。しかし、またすぐに、初瀬を睨みつける。

「でも、会長。この男は何者ですか? 私たちの生徒会室に、部外者がいる、というのは……」

「何を言っている。新しい生徒会役員の、初瀬颪どのではないか。」

「あ、新しい役員?! どういうことですか、私は初耳ですよ!」

 その女子の言葉で、咲楽は、はたと動きを止め、左手の人差し指でほほを触った。さらに、おもむろに卵焼きを一切れほおばる。ゆっくり咀嚼してから、やっと一声を発した。

「失礼、説明していなかったか。」

「……」

 気まずい沈黙が生徒会室を支配した。

 しかし、最も気まずい思いをしていたのは、初瀬であった。だいたい、初瀬は、忍者装束の女子を知らないのである。意を決して、おずおずと咲楽に問いかけた。

「会長、この人は……?」

「失礼しました。紹介が遅くなりましたが、生徒会役員の春藤しゅんどう明弧めいこです。学年は、殿様……初瀬殿と同じ1年生です。」

「ええっ? そうなのですか?」

「はい。生徒会にすっかり馴染んでいますが、メイ君は1年生なのです。」

「いや、そういうことではなく。そもそも、生徒会役員って、会長と副会長だけじゃなかったんですね。」

「な、何ですと? 会長、この無礼なやからを成敗してもいいですか?」

 咲楽は、春藤と呼ばれた女子に困惑した顔を向けた。

「いや、成敗されても困るが……。メイ君、こちらの初瀬殿は、我が家に大恩ある御方なのだ。どうかよろしくお願いしたい。」

「しかし――」

 頭を下げた咲楽に、今度は、春藤が困る番であった。とりあえず、と勧められた椅子に腰かけ、春藤は、ふう、と息をついた。

「メイ君も、外回りは疲れたであろう。弁当はたっぷり作ってきたから、よかったら一緒にどうだ。」

「いや、そんなリア充の象徴のような弁当は、ですね……。あっ、おいしい……。」

 咲楽が取り分けた煮物と唐揚げを口にして、春藤は険しい表情を緩めた。

 そのまま数分、特に会話なく食事が進んだ。しかし、根本的な問題は何も解決していない。初瀬も、もちろん気づいていた。ただ、少し嵐が収まったので、自分がその小康状態を破っていいのか、踏ん切りがつかなったのである。

 と、初瀬に水筒のお茶を渡すのに合わせて、咲楽は、初瀬に声をかけた。

 果たして、咲楽のフリは地雷か、安全地帯か――

「初瀬殿。確かに、このメイ君は、このところ渉外任務で外回りが多かったのです。そのため、本日が初顔合わせとなったものかと。以後、同じ生徒会役員として、何とぞよろしくお引き立ていただければ。」

「ちょっと会長! 私は、このような男を、生徒会役員として、承認した覚えはございません!」

(地雷の方だったーー‼)

 初瀬は小さく頭を抱えたが、破れてしまった均衡は元には戻らない。

 その後もぷりぷり怒る春藤を、咲楽が何度かなだめて、またしばらくすると噴火するというのを繰り返し、昼休みが終わった。ただ、怒りながらも、最後まで食事を続けた春藤は大物なのか、ただ食い意地が張っているというべきなのか、それともその両方なのか。初瀬には評価が付きかねた。


(疲れた……)

 ようやく咲楽と絡む生活に慣れてきたと思ったら、新しい刺激が入り、どっと疲れた初瀬は、午後からの授業もそこそこに――半分寝ながら――何とか放課後を迎えていた。

 遊びに行く生徒、クラブ活動に行く生徒、帰宅する生徒などなど、様々な行先の生徒の声が、喧騒を伴って、教室から去っていく。初瀬は、生徒会室に行かなければと思いながら、まだ机に突っ伏したまま、動けないでいた。

「お疲れ。何かあったの?」

 帰り支度をした忠空が近付いてきた。藤原も一緒だ。

「カラオケとか行くか、と思ったけど。疲れてるんかな。」

「うん、すまんが。今日はパスで。」

 初瀬は、春藤と呼ばれていた女子が同級生であったことを思い出す。

「そういえば二人とも、同級生で春藤っていう女子、知らない?」

 初瀬の言葉に、藤原と忠空は、顔を見合わせる。

「C組の明弧ちゃんね。私たちと同じ小学校だったわ。何ていうか、個性的、というか。」

 忠空は少し言葉を選びながら、という感じで口を開いた。

「昔から変わった趣味だったと思うけど、最近じゃ、忍者部やってるんだろ。」

(忍者部、ってなんやねん……)

 変わった趣味という部分には納得できたものの、藤原の言葉に、心の中で突っ込みをせざるを得ない初瀬であった。

ようやく、3人目のヒロインの名前まで出せました。まだまだ謎が多いキャラですが、これからよく出てくると思います。

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