週明けの曇天
9月11日、月曜日。
ここ数日、快晴だったのに比べると、曇り気味の空模様である。そんなことが影響してか、初瀬は週明けであるにもかかわらず、なんとなく憂鬱な気分で登校した。否、週明けだから憂鬱、とも考えられるが。
もちろん、今日の朝も、咲楽の目覚まし、朝食、同伴登校と、朝の行事が目白押しであった。
教室に入ると、今朝も藤原俊と平忠空の二人が近付いてきた。家が近いのか、いつも一緒に登校している。以前、初瀬は二人に、お熱いねえ、と冷やかしたことがある。が、自分にもブーメランで返ってくるので、そうした冷やかしもできなくなってしまった。
「初瀬よ、つかぬことだが。お前、昨日、生徒会長と一緒に歩いてなかった?」
「俊と一緒に遊んでいたら、偶然、見かけたのよ。」
「うっ……、見てたのか。まあ、確かにそうだが。」
初瀬は嫌そうに答えた。
「やっぱり、付き合ってるっていう噂は本当だったの?」
忠空は、初瀬の机に両手をついて、身を乗り出した。
「いやいや、そんなんじゃないから。」
「じゃあ、何で日曜日に二人で買い物してたりするんだよ。」
「いやいや、たまたま休みの日に、時間が空いたのでな。」
口が裂けても、同じ家に住んでいます、などと言える雰囲気ではなかった。
「ま、なんでもいいがな。すまんかったな、からかって。」
藤原は、両手を上げた。こうしておけば、注目している他のクラスメートが重ねて聞きにくくなるだろうという、彼なりの気遣いかもしれない。
「えー、私は教えてほしいなー」
忠空は、藤原の配慮に気づいていないらしかった。
「いずれにしても、人の噂も七十五日と言うからな。生徒会長は、あれだけの有名人やから。しばらくはみんなから注目されるだろうが、あまり気にしなさんな。」
そう言ってから、藤原は、忠空と、昨日二人で見た映画の講評を始めた。
(すまん、気を遣わせてしまって。)
初瀬は、心の中で藤原に手を合わせた。ただ、咲楽との関係を、これから人にどう説明しようかと思うと、今ひとつ気は晴れなかった。
「だから、あんな映画やめとこうって言ったのよ。」
「そう? 下手なホラー映画より、グロかったやないか。」
「ただグロいだけの映画と、ホラー映画を一緒にしないで!」
そして、二人でプチ喧嘩を始める。どうやら昨日、藤原と忠空も、ダイオウグソクムシの映画を見たらしい、ということは分かった。
昼休みも、咲楽の作ったお弁当を二人で味わう、はずだった。ただ――
「雨、ですね。」
「こればかりは、どうしようもありませんが……」
屋上に出る踊り場から、咲楽は恨めしそうに空を仰いだ。
「やむをえません、本日は屋内で召し上がっていただくことしましょう。」
「もしかして、教室ですか?」
せっかく、教室のクラスメートの興味も少し薄れてきたところである。なのに、咲楽のお手製の弁当なんか食べていたら、注目度マックスに逆戻りとなるのは、間違いない。
「それでもいいのですが、生徒会室に参りましょうか。」
「いいですね。そうしましょうか。」
生徒会室なら、副会長の春日市歌がいるかいないか、だろう。教室よりも、よほど落ち着いて食事できるに違いない。初瀬は、そのように踏んでいたのである。
その見通しがいかに甘いものだったか、初瀬は、直後に思い知ることになる。
屋上への階段から生徒会室は、東西に長い校舎の東から西に歩いていくだけであったので、さほどかからずに到着した。
「昼休みは、副会長も不在かもしれません。練習もあり、忙しいのです。」
春日市歌という人物は、悪い人間にも見えないが、とらえどころのない印象がある。
(そういえば、副会長は、何か部活をやってるのか、聞いてなかったな。)
「練習、ですか?」
「申し上げておりませんでしたか。副会長は、演劇部の部長を兼務しております。舞台が近い、とのことで。」
咲楽は、話しながら生徒会室の中に入り、部屋の中が無人であることを確認した。それから、机の上にランチマットを敷いて、手早く弁当を広げ始めた。
「しばし、お待ちください。すぐに、昼餉の準備をいたします。」
「あ、ありがとうございます。」
そうこうしているうちに食事の準備が整い、二人で仲良く箸を手に取った。
「いただきます。」
「あ、殿様。こちらの卵焼きから、まずはお召し上がりください。」
「殿様、ナフキンをお持ちくださいませ。」
「殿様、お茶をおつぎしましょう。」
「殿様……」
いつもながら、咲楽のお世話は非常にまめであった。
(まるで世話女房みたいに……)
と考えたところで、初瀬は、一人で気恥ずかしくなった。
「殿様?」
「あ、いや、美味しいので、つい。」
不思議そうに顔を見上げてきた咲楽に、初瀬は、何とか答える。
「もう、殿様はお上手ですね。」
そう言いながらも、まんざらでもなさそうな咲楽。
そんなとき、なごやかな雰囲気をぶち壊すように、生徒会室のドアが、文字通り、どかん、と大音量を響かせながら開いた。
「会長、久しぶりでござった! 実は、会計の件で……」
副会長かと思いきや、聞きなれない女子の声であった。初瀬は、その女の子の姿を見て……三度見くらいした。なぜなら、その女の子は、何故か、忍者装束だったからである。
2歩、3歩と部屋の中に歩みを進めたところで、その女子は、初瀬に気づいた。
「ぬぬ、くせ者‼ 会長から離れろ‼」
(また変なのがキターー!!)
徐々に、自分が、変なキャラの登場に慣れてきているような気がして、初瀬は微妙な気持ちになった。
ここで、またまた新キャラの登場です。これで、予告していたキャラは大体出てきたかな、と思います。




