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映画のような何か

「映画館ですか?」

 咲楽は不思議そうに尋ねた。

 確かに、初瀬が指さしたのは街中にある大きな映画館であり、それ以外の何物でもない。

「です。」

「今日はお買い物と伺っておりましたので、映画は全くチェックしておりませんでした。申し訳ございません。」

 咲楽は、生真面目に一礼した。そして、映画館の入口にある、上映作品の一覧を眺め、左手の人差し指で首筋を撫でる。

「どれ、殿様のお気に召す作品がありますでしょうか。……殿様、ちょうど、面白そうなダイオウグソクムシのドキュメンタリー映画がございます。」

(そういえば、この人、センスが微妙だったっけ……)

 咲楽がそれでいいなら、と言おうとしたところで、先に咲楽が言葉を口にする。

「終了時間は12時半ころですね。それでは、私は外でお待ちしておりますので、ごゆっくり――」

「へ?」

 予想外の話を耳にして、初瀬は間抜けな声を上げた。

「もしかして、僕が一人で映画を見るんですか?」

「もちろんです。家臣が殿様のお楽しみに同席していいはずがありません。」

 何をいまさら、という顔をして、咲楽は真面目にうなずく。

「いやいや、せっかく来たんですし、一緒に見ましょうよ。でないと、そもそも映画なんて提案しませんって。」

 初瀬は、咲楽の背を押すように、映画館の入口に誘導する。ところが、咲楽は、2,3歩進んだところで、

「し、しかし、それではまるでデート……」

そう言ったきり、立ち止まってしまった。

 初瀬が様子をうかがうと、うつむいた顔が赤くなっている。

 どうやら、咲楽は、自分から積極的にアプローチをかけるクセに、受け身には弱いらしい。

「って、家でも学校でも、いつも一緒にいるじゃないですか。デートなのかは置いといて。」

「そ、それとこれとは違うのです‼」

「じゃあ、やめときます?」

 そんな初瀬の提案に、顔を赤らめながらも、

「いえ、お供させていただきます。物騒な時代です。いかなる時も、要人の警護は必要でありますゆえ。」

 決然とした表情で、映画館の入口に向かって、ずんずん進み始めた。初瀬も慌ててあとを追う。

(俺のどこが要人なんだか……)

 口には出せずに、心の声で突っ込みながら。


「感動的でしたねえ、ダイオウグソクムシが動くシーンは。それに、動物園のスタッフとの友情も。」

 咲楽は、両側から顔を手の平で挟んで、うっとりとした表情を浮かべた。

「ソ、ソウデシタネ……」

 初瀬は片言の日本語のようなアクセントで答えた。確かに、生物学的には興味深い映像だったのかもしれないが、大画面で見るではないというか、何というか。一言でいうと、グロい。当然ながら、観客も、初瀬たちの他には数えるほどしかいなかった。というか、これは、映画だったのか。企画した制作会社、上映した映画館には言いたいことが山のようにあったが、とりあえず見終わったという満足感だけは残った。

 とりあえず、カフェなどで映画が終わった後の感想を言い合う、というのも、映画のもう一つの醍醐味である。

「さ、それでは、気を取り直して、お昼ご飯にしましょうか。」

「は、殿様がお腹を空かせていらっしゃるにも関わらず、これは失礼をば。」

 咲楽は、すぐにまじめな表情に戻ると、きょろきょろとあたりを見回す。

「本日は、お食事の用意をしておりませんゆえ、この辺りでお店を探す必要がございます。」

「ですね。何がいいかなー」

 つられて、初瀬も辺りを見回す。この映画館は、アーケードのある商店街の中に位置している。周囲には、お土産屋も多いが、チェーンのカフェ、ファストフード、お肉の専門店、お好み焼き屋、ラーメン屋など、若者が好みそうな店が密集している。

「この近くに、確か、美味しいウナギを食べさせる店があったはず。殿様のお口に合うかどうか分かりませんが、そこにいたしましょうか。」

 さっさと歩き始める咲楽を、初瀬は追いかけた。

「鰻は別にいいんですけど、果てしなく高そうな気が……」

「なに、一人せいぜい1万円くらいで済みますので、たいへんお手頃なお店でございます。むしろ、殿様のお口には、もっと高級店の方がよろしいでしょうか?」

「いやいやいや、絶対に、高校生が二人で行く店の値段じゃないですって!」

「何をおっしゃいます! その程度のお金。この桜間家が、主君に恥をかかせることはいたしませぬゆえ。」

「いいから、ここは学生らしく、マクドに行きましょう! ぜひに。」

(金銭感覚が庶民と絶望的に違いすぎる……)

 咲楽は、どこまで行っても、お嬢様であった。初瀬は、先ほどの映画館に続いて咲楽の背を押して、近場のファストフード店に案内した。

ということで、はじめてのデート回でした。もう1回、2回は続く予定です!

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